2013年6月5日水曜日

法定後見の類型

司法書士の岡川です。

成年後見シリーズ第2回目です(第1回目は、「成年後見制度入門」をご覧ください)

前回、法定後見には、「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があると紹介しました。
今回はそれぞれの違いについてもう少し詳しくご紹介します。

1.後見

後見とは、「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある」場合に該当します。
目安としては、難しい契約などだけでなく、日常生活での買い物等も自分一人では難しいような場合が後見と判断されます。
3つの類型の中で、判断能力の低下が最も著しい場合の類型ですので、本人の行為が最も制限され、逆に支援者の権限が最も広範になっています。

後見が開始されると、本人は「成年被後見人」とよばれ、被後見人につく支援者は「成年後見人」といいます。

成年被後見人は、原則として、あらゆる取引が自分ではできなくなります。
銀行取引(預金を引き出したり、振り込んだりといったこと)も一切できません。
(例外的に、日用品の購入などに限って可能となっています)

「自分ではできない」というのは、仮に取引をしたとしても、それを取り消すことができるということです。
例えば、成年被後見人が何か高価なものを買ったとしても、成年後見人が取消権を行使すれば、その取引をなかったことにできます(詳しくは「行為能力の話」参照)。

その一方で、成年後見人には必ず包括的な財産管理権が付与され、あらゆる取引を成年後見人が本人に代わってすることができます。

成年後見人のように、法律で代理権が決められている人を「法定代理人」といいます。

このように、財産管理を全面的に支援者に任せるのが後見類型です。


2.保佐

保佐とは、「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である」場合に該当します。
目安としては、日常的な買い物などは自分でできるが、重要な財産の管理・処分については、1人では難しい場合が保佐と判断されます。

保佐が開始されると、本人は「被保佐人」とよばれ、被保佐人につく支援者は「保佐人」といいます。

保佐類型は(次の補助も同じですが)、原則として本人は自分で取引をすることができます。
ただし、法律に定められた重要な財産管理行為については、保佐人の同意がなければ自分で行うことができません。
同意が必要な行為は、借金をしたり人に財産を贈与したりするような、本人の不利益になる可能性が高い取引や、家を建てるような高額な取引などです。

これらの行為は、保佐人の同意を得ずに自分でした場合、取り消すことができます。
後見との違いは、「保佐人が同意を与えればやってもいい」という点で、そのため、より本人の意思を尊重できる制度になっています。

本人が取引できるので、原則として、保佐人は代理権を有していません。
とはいえ、被保佐人も判断能力が不十分な場合なので、「同意するからあとは全て自分でしなさい」というのでは、逆に本人にとって不利益が生じることがあります。

そこで、保佐人に一定の取引に関して代理権を付与するよう申し立てることが可能です。
代理権を付与された保佐人は、一定の範囲の行為に関して法定代理人になります。

保佐人には、後見人のように「あらゆる行為を代理する権限」はありませんが、申立てと裁判所の判断次第では、それに近い代理権を付与されることもあります。
ただし、家庭裁判所は、なるべく「必要最低限」の代理権だけを付与する傾向にあります。

実務上、保佐の開始を申し立てるときに、保佐人に代理権を付与するよう同時に申し立てるのが一般的ですが、もちろん、代理権のない保佐という場合もあります。
どの範囲の代理権を付与するかはケースバイケースで、本人の意思が尊重されるように、代理権の範囲を選択することになります。


3.補助

補助とは、「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である」場合に該当します。
後見や保佐と異なり、重要な財産の管理についても自分ではできるかもしれないが、適切にできないおそれがあり、援助が必要なことがある場合が補助になります。

補助が開始されると、本人は「被補助人」とよばれ、被補助人につく支援者は「補助人」といいます。

保佐より緩やかな類型で、基本的には、被補助人の行為は一切制限されませんし、補助人には代理権もありません。
もちろん、それでは何の意味もないので、必ず補助開始と同時に、一定の同意権や代理権を補助人に付与するよう申し立てます。
つまり、補助人には、法律上当然に付与される権限は何もないので、必要な同意権や代理権だけをピンポイントで付与することになるのです。

なので、同意権と代理権の両方を有している補助人もいれば、同意権だけ、あるいは代理権だけ有する補助人もいます。
また、何に関して同意権・代理権が付与されているかは、千差万別です。

一定の条件(例えば、日用品の購入について同意権を付与したりはできません)はありますが、ほぼオーダーメイドで決められるのが補助類型なのです。

判断能力が不十分とはいえ、まだまだ本人にできることはたくさんあるような人のため、本人の意思を最大限に尊重することが可能となる制度になっています。


では、今日はだいぶ長くなったのでこの辺で。
次回は、任意後見契約についてご紹介します。


成年後見シリーズ

第1回「成年後見制度入門
第2回「法定後見の類型」 ← いまここ
第3回「任意後見契約について
第4回「後見終了後の問題
第5回「後見人には誰がなるか?
第6回「成年後見制度を利用するには?
番外編「成年後見の申立てにかかる費用」 
番外編2「成年後見の申立てにかかる時間
(このほかにも、成年後見についての記事はありますので、右上の検索窓で検索してみてください)  

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