2013年6月6日木曜日

任意後見契約について

司法書士の岡川です。

成年後見シリーズ第3回目です(第2回目は、「法定後見の類型」をご覧ください)

今回は任意後見制度についてご紹介します。
任意後見契約とは、「将来判断能力が低下したときに財産管理を委任する」という内容の契約です。
法定後見とは異なり、家庭裁判所に申し立てるのではなく、当事者同士が契約をすることによって成立します。
ただし、契約締結時にすぐ契約が発効するわけではありません。
将来、判断能力が衰えた段階で、「任意後見監督人」の選任を申し立て、後見監督が開始された段階で発効します。

法定後見と違って、後見・保佐・補助といった区別はなく、後見人にどこまで委任するかは、契約(当事者同士の合意)次第できまります。
もっとも、法定後見人や保佐人のように、任意後見人には同意権や取消権を付与することはできません。

したがって、契約が発効した後の支援の仕方としては、補助類型に近いと考えていただければよいと思います。
ただし、補助人のように同意権を付与することはできませんし、絶対に監督人がつきます(補助人に監督人がつくかどうかはケースバイケースです)。


任意後見契約の内容は、法律で定められた一定の枠内であれば、比較的自由に決めることができます。
委任者の希望に基づき、何を委任し、何を委任しないのか、当事者同士で細かく決めていくことに法定後見との違いです(この点も補助と類似しますが、補助より自由に決めることができます)。

このように、任意後見契約自体は、代理権の範囲が千差万別であり、法定後見のように類型化されるものではありませんが、特に専門職を後見人(予定者)として契約する場合、任意後見契約だけを単独で契約することはなく、同時に複数の契約を締結することが一般的です。
そして、「同時にどのような契約を締結するか」によって、任意後見にも4つの型が考えられます。
それが、「将来型」「段階型」「移行型」「即効型」です。


1.将来型

将来型任意後見契約は、本体の任意後見契約と同時に「見守り契約」を締結するパターンです。
先に述べた通り、任意後見契約は、判断能力が低下した後に後見監督人が選任されて、初めて発効するものなので、それまでは、任意後見契約の受任者は基本的にやることがありません。
そこで、定期的に電話や面談で安否確認をし、委任者の生活状況を確認する「見守り契約」を同時に締結することになります。
これを締結しておけば、委任者が元気な間は、定期的な見守りによって支援し、もし、判断能力に低下がみられると、その段階ですぐに任意後見監督人選任申立をすることで、速やかに任意後見契約を発効させることができます。
任意後見契約が発効した後は、受任者は後見人として財産管理を行うことになります。


2.段階型

段階型任意後見契約は、本体の任意後見契約と同時に、「見守り契約」と「任意代理契約(財産管理等委任契約)」を締結するパターンです
まず、契約成立した段階では、見守り契約が発効します。この段階は、「将来型」と同じです。
その後、例えば、委任者が病気などで、身体が不自由になった場合、「任意代理契約(財産管理等委任契約)」を発効させます。
任意後見契約は、判断能力が低下しなければ発効させることはできませんので、「任意代理契約(財産管理等委任契約)」は、判断能力の低下がない段階で、財産管理を任せるための契約です。

その後、委任者に判断能力の低下がみられると、任意後見監督人の選任を申し立てれば任意後見契約が発効します。


3.移行型

移行型任意後見契約は、本体の任意後見契約と同時に、「任意代理契約(財産管理等委任契約)」を締結するパターンです。
段階型と違い、見守り契約を締結することなく、契約成立段階からすぐに財産管理を発効させるるものです。
契約締結時に、既に委任者の身体が不自由な場合などは、最初から財産管理を任せてしまうことができます。
その後、委任者の判断能力が低下した場合に任意後見契約を発効させる手続きは、将来型や段階型と同じです。


4.即効型

即効型任意後見契約は、任意後見契約を単独で契約し、さらに間を空けずに任意後見監督人の選任申立をするというパターンです。
契約締結時に既に判断能力の低下が認められる場合に、契約成立と発効を連続して行うものです(手続きのために多少の間はあります)。

ただ、即効型というのは、既に判断能力が低下しているのですから、契約が有効に成立するかという点に疑義が生じる可能性がありますし、法定後見と任意後見の違いの説明で書いたとおり、任意後見は基本的に判断能力が低下する前の段階で、将来のために契約するものです。
既に判断能力が低下しているのであれば、法定後見を申し立てるべきですし、契約をできる程度の判断能力があるのであれば、「補助」を申し立てることになるかと思います。
したがって、即効型は、何らかの特別な事情がある場合にのみ利用すべき類型だと考えておくべきでしょう。

逆にいえば、特別な事情がある場合にも、臨機応変に対応できるのが任意後見契約だともいえます。


このように、任意後見契約には4つのパターンがありますが、その契約内容としては、状況に応じて多種多様なことを決めることになりますので、当事者や関係者でよく話し合って決めなければなりません。


さて、任意後見契約と同時に締結する契約としては、もうひとつ「死後事務委任契約」というものがあります。
これは、上記の4つのどの型にも追加することができる契約で、いわば「オプション」の契約です。

これについては、次回「死後の問題」で取り上げます。

では、今日はこの辺で。


成年後見シリーズ

第1回「成年後見制度入門
第2回「法定後見の類型
第3回「任意後見契約について」 ← いまここ
第4回「後見終了後の問題
第5回「後見人には誰がなるか?
第6回「成年後見制度を利用するには?
番外編「成年後見の申立てにかかる費用」 
番外編2「成年後見の申立てにかかる時間
(このほかにも、成年後見についての記事はありますので、右上の検索窓で検索してみてください)  

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