2013年8月27日火曜日

法解釈とは何か

司法書士の岡川です。

憲法でも法律でも条例でも、あるいは、刑法でも民法でも会社法でも、およそ法規範の内容を理解するには、書かれてある条文をそのまま読むだけでは足りません。
広辞苑で日本語の意味をひとつひとつ調べながら読んだとしても、まだまだ足りません。

例えば、典型的な刑法の条文を例に挙げてみると、刑法199条には、次のように書かれています。

「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する」

おそらく、日本語を習得している人であれば、この条文を読むだけで「漠然と」「何となく」意味内容はイメージできるでしょう。
「ああ、バールのような物で通行人の後頭部を殴って、脳挫傷で死なせたら、死刑になるか5年以上刑務所に入るんだな」・・・と。

しかし、法の内容を正確に確定するには至っていないはずです。
例えば、こういう問いに、正確に答えられますか?

(問1)刑法199条でいうところの、「人」とは何でしょうか?
胎児は「人」に含まれるでしょうか?
陣痛が始まってから、まだ母体から出てきていない状態ではどうでしょう?
出産途中で、母体から半分だけ出てきた段階のの嬰児は「人」ですか?
植物状態の人はどうですか?
心臓は動いているけど既に脳死状態の人「人」ですか?「死体」ですか?

(問2)刑法199条でいうところの、「殺した」とは何でしょうか?
丑の刻参りをしたら、相手が死んだとして、殺したことになりますか?
自分の子供にナイフを持たせて、寝ている人の心臓をめった刺しにさせたら、殺したことになりますか?
自分の子供に食事を与えず餓死させたら「殺した」ことになりますか?

このように、「日本語」としての意味はだいたい理解できる単純な条文でも、具体的な場面を考えると、その条文が「法律上どういう意味を持っているのか」について、必ずしも明快な答えは用意されていないことがわかります。
法律というのは、限定された特殊な状況でのみ適用されるのではなく、広く一般的に適用されるものなので、どの法律も、程度の差はあれ、ある程度幅を持たせて抽象的に書かざるをえません。
刑法199条は、比較的抽象度の低い規定ではありますが、それでも、細かくみていくと、「幅」があることが、上記の問いを見るだけでもお分かりいただけると思います。

抽象的に書かれた法律ですが、個別具体的な事案に応じて、その条文を適用して結論を出さなければなりませんので、必ず意味内容を確定させなければなりません。
その作業を「法解釈」あるいは単に「解釈」といいます。
最近、憲法9条の規定から、集団的自衛権が認められるかどうか、という論争が世間を賑わしていますが、これも、日本国憲法第9条の条文を単純に「日本語知識」だけで読んでいても、答えは出ません。
だから、「解釈」で確定させようとしているのですが、「解釈」は、人によって異なってきますので、そこに論争が起こったり、裁判で争われたり、政治問題になったりするわけですね。

法律の意味を把握するには、「解釈」という作業が必須であり、また、法律は解釈されることを予定して作られます。
そして、この法解釈には、「日本語の知識」が必要条件ではありますが、それは十分条件ではありません。
だから、以前「日本国憲法の条文だけを読む意義」でも書きましたが、条文を日本語の知識だけに頼って、ただ単純に読み進めることは、はっきりいって「憲法の理解」のためには、はっきりいって無意味であり無益です。

法解釈の手法や種類にはいろいろあり、どの場面でどのような解釈手法を用いてどのような結論を出すか、というのは、法律を学ぶことによって習得できる技術です。
法解釈について学ぶ学問を法解釈学といい、「法律を学ぶ」という場合、一般的には主に法解釈学を指しています。
法解釈の種類については、また後日、このブログで紹介しようと思います。


我々実務家は、法解釈ができないと話になりませんが、法律というのは、一般の国民に対して向けられたルールです。
そうである以上、皆さんも、ある程度の法解釈の素養は身につけておくことが大切です。
法を知らずに「損をしない」ため(→「法の不知は害する」参照)にも、あるいは、ネット上の変な言説(誤った法律論)に惑わされないためにも。

では、今日はこの辺で。

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