2013年11月27日水曜日

猪瀬氏のアレは法的にどうなのか

司法書士の岡川です。

徳洲会による、公職選挙法違反事件に絡んで、猪瀬知事が、徳洲会から5000万円を受け取っていたことから、政治資金規正法違反や贈収賄の疑惑が出ています。
そこで、その金は選挙資金として受け取ったものではないということを示すために「借用証」という表題の書面を記者会見で提示し、「5000万円は借りた金だった。そして、もう返した」と主張しました。

そしてその「借用証」と称するソレが、実に、こう、何といいますか、世の中を舐めきった感じの粗末なものでありまして、マスコミやネット上で総ツッコミをくらっている状況で、ネット上では早くもコラ画像祭りが大盛況であります。
文面を再現すると、こんな感じ。

           借用証

徳田毅殿
              平成24年11月20日

        金 5000万円 也

               港区(以下略)
                 猪瀬直樹

…いやぁ、画像見ただけで手打ちで全文再現できる書類って、引用が楽で助かります。

さて、政治資金規正法違反の件はひとまず置いておいて、猪瀬知事が作った「借用証」と称するアレに法的な問題はないのか、ネット上でもいろいろ書かれていますので、検証してみましょう。

1.私文書偽造罪じゃないか?

仮に、「借用証」と称するアレが、記者会見の前に慌てて作ったものだったとしましょう。
ありもしない「借入れ」があったという内容の書面を作ったのだとすれば、虚偽の書面ですよね。

ただし、仮にそうだとしても、私文書偽造には当たりません。

文書偽造罪というのは、「自分に作成権限がない文書を作成する」という犯罪です。
言い換えれば、「他人の名前を使って、他人名義の文書を作る」ということです。
これを、「有形偽造」といいます。

作成した文書が公文書なら公文書偽造罪(刑法155条)、私文書なら私文書偽造罪(刑法159条)になります。

他方、「作成権限がある人が、内容虚偽の文書を作成する」場合を「無形偽造」というのですが、公文書に関しては虚偽公文書作成罪(刑法156条)という罪が成立することになります。
しかし、内容虚偽の私文書を作成すること自体は、刑法上犯罪とされていません。
「虚偽私文書作成罪」という犯罪類型は、刑法のどこを見ても書いていないのです。
例外的に、私文書でも虚偽の内容を書くと犯罪になるのが診断書で、虚偽の診断書の作成は、虚偽診断書作成罪(刑法160条)になります。

そうすると、「借用証」と称するアレは、「猪瀬直樹」名義の私文書ですから、文書偽造には該当しないということです。
もし、徳田毅氏の署名まで(猪瀬氏が)書いたりしていれば、それは私文書偽造ということになります。

2.猪瀬氏の印鑑がないから無効じゃないの?

文書に印鑑がなくても、法的には何ら問題なく有効に成立します。
ただ、一般的には、印鑑のない文書は、証拠としての価値が下がるので、重要な文書にはふつう印鑑が押されているものです。

なお、一部誤解があるようですが、「印鑑がないから有印私文書偽造には当たらない」というわけではありません。
有印私文書偽造罪の「有印」とは、署名がある場合も含み、なんなら、自署でなくパソコンによる記名であっても構いません。

3.徳田毅氏の署名押印がないから無効じゃないの?

「借用証」と称するアレは、借りた側から貸した側へ一方的に差し入れる形式の書面です。
金銭の貸し借りにおいて、証拠として残しておきたいのは、主に「貸した金返せ」という貸した側です。
したがって、借りた側が署名した文書を残しておけば、貸した側は「ほれ、お前が『借りました』って書いた文書があるやないか!」と言えるのです。

まあ、5000万もの貸し借りを、ぺらっと借用証1枚で済ませるなんて、普通あり得ないですけどね。
普通は、支払期限や支払方法、利息の有無、利率、担保の有無等を記し、双方が署名押印する「金銭消費貸借契約書」を作って、双方が保管するものです。
それに、仮にゼロがひとつ少ない借金であっても、不動産に抵当権を設定したり、連帯保証人を付けたりしないと、貸してくれないものです。

普通はそうですけど、そうじゃないといけないというわけでもないので、法的には問題ありません。
どんな契約をどんな方式で締結しても(仮に書面で残さなくても)契約は成立するのが民法の原則なのです(契約自由の原則。参照→私法の三大原則)。

4.収入印紙が貼ってないから無効じゃないの?

契約書の類には、収入印紙を貼らなければいけません。
借用書も同様です。
ただ、それは、印紙税という税金を納める義務があるという意味であって、収入印紙が貼られていないからといって契約が成立しないとか、文書が無効になるという意味ではありません。

もっとも、収入印紙が貼られていないことは問題でして、5000万円の借入なら、2万円の印紙を貼らなければいけません。
貼られていないアレがもし原本だというのなら、印紙税法違反ですね。
まあ大した制裁は無いのですが。


とまあ、こういうふうに、「借用証」という表題の怪しげなアレについては、印紙税が払われていないという点を除けば、文書としては何ら問題はないということです。
ただし、その文書によって猪瀬氏が主張している内容について誰がどこまで納得するかというのは、全く別問題でして、私には猪瀬氏が自らの傷口を全力でぐりぐりと広げているようにしか見えないわけであります。

仮に、この一連の事件において、猪瀬氏の関与が法的に何の問題もなかったとしても、知事としての危機管理能力の低さが露呈した結果になったんじゃないでしょうか。

では、今日はこの辺で。

2013年11月26日火曜日

自動車保険の仕組み(被害者側の保険)

司法書士の岡川です。

前回、加害者側の保険について書きましたので、次は被害者側の保険です。
被害者視点でいえば、いわゆる「自分の保険」ですね。

自分の保険の構造は簡単です。
例えば、交通事故で怪我をして、治療費を払えば、自分が契約している保険会社がその治療費の額を保険金として支払ってくれる。
あるいは、交通事故で車の修理が必要になったら、その修理費を自分が契約している保険会社が保険金として支払ってくれる。
賠償責任保険と違って、自分が契約している保険会社が自分の損害を補填してくれる…というだけの話なので、わかり易いですね。

自賠責保険は、その名の通り賠償責任保険なので、自分が被害者になっても自分が加入している自賠責の保険会社は何も補償されません。
自賠責は、完全に加害者側の保険です。
ということで、被害者側の保険になるのは、全て任意保険です。
任意保険の内容は商品によって様々なので、人的損害について補償してくれる「人身傷害補償保険」やら、車の修理費を保障してくれる「車両保険」やら、この前出てきた「無保険車傷害保険」やら、いろんな保険が組み合わされています。

基本的に交通事故も不法行為(民法709条)の一種ですので、誰かに損害が発生したら、それを補填する責任を負うのは、加害者です。
よって、加害者が損害賠償金の全額を支払ってきたり、加害者側の賠償責任保険で完全な補償がされた場合は、基本的には被害者側の保険は出る幕がありません。

ただ、加害者側の賠償が十分でなかったり、加害者側の保険で補償されない部分(損害の種類や額などによる)があったら、それは、被害者側の保険で補填することになります。
ちなみに、被害者側の保険会社は、被害者に保険金を支払ったら、その分を加害者に対して請求することができます。
本来、加害者が支払うべきものを、保険会社が(被害者救済を優先して)加害者に代わって支払ったわけですから、それを取り戻すわけですね。
これを「保険代位」といいます。
もちろん、加害者がいなかったり(自損事故)、加害者がいても支払能力がなければ、保険会社は誰にも請求できません。
そのリスクを、被害者自身ではなく被害者の保険会社が負うところに、被害者側の保険の存在意義があります。
そのために、被害者は、自分の保険をかけておくのです。
この辺の話は、以前も書きましたので「自転車事故で保険会社に損害賠償?」を参照です。


一般的には、任意保険というのは、自分が加害者になった時の補償と自分が被害者になった時の補償が組み合わされた商品となっています。
どこまで補償されるのかによって、保険料も変わってきますので、自分に合った保険を選びましょう。

あ、繰り返しますが、べつに保険会社の回し者ではありません


では、今日はこの辺で。

「自動車保険の仕組み」シリーズ
自賠責保険と任意保険
加害者側の保険
・被害者側の保険 ← いまここ

2013年11月25日月曜日

自動車保険の仕組み(加害者側の保険)

司法書士の岡川です。

自動車保険の分類は色々ありますが、「誰の損害を補償するのか」という観点から分類すれば、「加害者側」の保険と「被害者側」の保険に分けることができます。

加害者側の保険は、「(賠償)責任保険」というものです。

他人に損害を与えた場合、損害賠償責任を負います(民法709条)。
これは、交通事故の場合も例外ではなく、むしろ、自賠法によって交通事故の場合の責任は民法より加重されています。
そして、損害賠償として相手に支払う金額は、加害者にとっては「損害」といえます。
損害賠償として1億円を被害者に支払ったら、加害者は1億円の損害が出ていますね。
この損害は、自分が引き起こした事故が原因ですので、ある意味自業自得ではありますが、そうであっても、損害は損害です。

この「他人に賠償したことで生じた損害」を補償する保険が賠償責任保険(保険法の用語でいうと、「損害保険」の一種である「責任保険」という類型)です。
前回書いた自賠責保険も、加害者側の賠償責任保険ですし、どの任意保険の商品も、賠償責任保険が中心になっています。

「損害賠償として支払った金を保険会社に出してもらう」ので、お金の流れは、

加害者 → 被害者

保険会社

なのですが、保険会社から被害者に直接支払うこともできるようになっています。


賠償責任保険の中でも、補償対象に着目すれば、大きく分けて2種類あります。

まずは、対人賠償責任保険。
これは、傷害、後遺障害、死亡による損害について、賠償金を支払った際に補償されます。
前回も書いた通り、自賠責からも支払われますが、自賠責には支払限度額が低く設定されています。
そこで、任意保険の対人賠償保険は、自賠責で補償される額の上限に上乗せして、自賠責保険では補償されない部分について支払われるものだということになります。
例えば、死亡に対する損害が1億なら、3000万円は自賠責から支払われますが、残りの7000万円を任意保険の対人賠償責任保険が補償してくれることになります。

それから、対物賠償責任保険。
これは、自賠責の対象外になっている物損について支払われます。
被害車両の修理代などですね。
被害者の自動車の修理代100万円の賠償責任を負ったら、その分は自賠責では1円も補償されず、任意保険で保障されるわけです。


ここまでが、加害者側の保険です。
加害者視点でいえば、「相手に支払う賠償金を補償してもらう保険」であり、被害者視点でいえば、「相手から支払ってもらう保険」です。


次に、被害者側の保険…といきたいところですが、長くなったので続きは次回。

では、今日はこの辺で。

「自動車保険の仕組み」シリーズ
自賠責保険と任意保険
・加害者側の保険 ← いまここ
被害者側の保険

2013年11月21日木曜日

自動車保険の仕組み(自賠責保険と任意保険)

司法書士の岡川です。

今日は、いわゆる「自動車保険」の仕組みについて書いていこうと思います。

自動車保険には、「自動車損害賠償責任保険」(自賠責保険)と「任意保険」があります。

自賠責保険は、「強制保険」ともいわれ、自動車損害賠償保障法(自賠法)に基づき、自動車を運転する場合は、強制的に加入が義務付けられている保険です。
これに対し、加入が強制されておらず、各人が自分の判断で任意に保険会社と契約するのが任意保険です。


自動車の運転というのは、大きな危険を伴うものです。
そのため、もし事故で他人に損害を与えたとしても、被害者に対する最低限の賠償が保障されるようにするための制度が必要になります。
自賠責保険は、その名の通り、他人に損害賠償をした場合に、(原則的には加害者に対して)保険金が支払われるというものです。
そして、この保険は、自動車を運転する以上は必ず加入しなければならないことにして、賠償金が1円も支払われないという事態を防止しています。
したがって、加害者が暴力団であったとしても、少なくとも自賠責保険の補償額については確保できることになります(前回の記事参照)。


お金の流れとしては、

加害者 →(賠償金)→ 被害者
  ↑

(保険金)
  ↑
保険会社

のような感じです。
ただし、被害者救済ということで、被害者が保険会社に直接請求することも可能です(これを被害者請求といいます)。
保険法における保険の分類でいえば、「損害保険」のうちの「責任保険」に該当します。


自賠責の加入義務があるのは、「自動車」です。
ここには、バイクや原付も含まれるのですが、エンジンを積んでいない乗り物は含まれません。

なので、自転車、三輪車、一輪車、人力車、馬車、牛車、籠、肩車、ベビーカー、馬、ロバ、牛、象、ダチョウ、etc...なんかに乗って公道を走る場合、自賠責保険に加入する必要はありません。


自賠責保険は、最低限の保障なので、保険金が支払われる範囲も限定的です。

被害者が怪我をした場合、後遺障害が認定されなければ、保険金の上限は120万円です。
後遺障害が認定されると、等級に応じて上限が上乗せされます。
例えば、後遺障害等級14級であれば、上乗せ分は75万円です。

死亡事故の場合であっても、死亡による損害に対する支払限度額は3000万円です。

死亡事故などでは、損害賠償額は1億を超えることもあることからすれば、自賠責で保障されるのは、損害のごく一部であることがわかります。
自賠責で支払われる以上の損害を相手に与えた場合、加害者自身はもちろんその賠償責任を負います。
相手に1億の損害を与えて、自賠責から3000万円が支払われたら、残りの7000万円は加害者が自分でどうにかするしかないわけです。

また、自賠責には「対物賠償」というものはありません。
自賠責で保障されるのは、傷害、後遺障害、死亡に対するものに限られ、例えば、自動車の修理費用などは自賠責からは支払われません。
この場合も、被害者の修理費用は、加害者が自腹で支払う必要があります。


そこで、自賠責で支払われない部分(物損の賠償や、自賠責の支払限度額を超える賠償額)についても、保険で補償しようというのが、各人が任意に加入する「任意保険」です。
任意保険には、いろんな会社(損害保険会社)から色んな商品が出ているので、その補償内容も多種多様です。

任意保険に加入されているのであれば、約款に詳しく書いてありますので、「どこまで補償されるのか」は、きちんと把握しておきましょう。

では、今日はこの辺で。

「自動車保険の仕組み」シリーズ
・自賠責保険と任意保険 ← いまここ
加害者側の保険
被害者側の保険

2013年11月20日水曜日

暴力団と自動車保険

司法書士の岡川です。

3大メガバンクが揃って反社会的勢力(暴力団)へ融資をしていたことで大きな問題になっていますが、銀行だけでなく、あらゆる企業と反社会的勢力(暴力団)との関係は厳しい目で見られるようになっています。

この流れは自動車保険業界にも及んでおり、契約者が暴力団の組員であることがわかれば、契約を解除できるような条項を約款に盛り込むようになってきているようです。
契約段階で、相手が暴力団であることがわかれば契約締結を拒否すればよいのですが、契約締結時に判明せず契約してしまえば契約は有効に成立します。
その後、契約者が事故を起こせば、保険会社は暴力団に保険金を支払わなければなりません。
そこで、事後的にわかっても、それを理由に契約を解除できる仕組みに変えるようです。

反社会的勢力への利益供与を防ぐという趣旨からすれば当然のようにも思いますが、問題は、自動車保険は必ずしも「契約者の利益」に尽きるものではないということです。

自動車保険のうち、人身傷害補償保険や車両保険など、被害者側の「自分の保険」については、交通事故被害に遭った人が、治療費や車の修理費を自分が契約している保険会社から支払ってもらうものです。
被保険者が自動車事故で受けた被害を補填するものなので、これは専ら契約者側の利益に繋がるといえます。


ところが、自動車保険で重要なのは、むしろ賠償責任保険のほうです。
これは、加害者側の保険です。

賠償責任保険は、保険の仕組みからいうと、加害者が被害者に損害賠償金を支払った(あるいは、支払うことになった)場合に、保険会社が加害者に保険金を支払うものです。
保険の建前でいえば、被害者に対して損害賠償責任を負うのは加害者であり、保険会社は、加害者の支出(賠償金)を補填するために、“加害者に対して”支払いをするものです。
逆にいえば、自動車保険に入っていなければ、加害者は、自腹で損害賠償金を支払わなければならないことになります。

ということは、損害賠償責任保険であっても、「契約者の利益」という側面があることは確かです。

しかし、何千万という損害賠償金を支払う責任があるといっても、そんな大金、持っていない人の方が多い。
いくら賠償責任があっても「無い袖は振れない」のであって、そうなれば被害者が有する多額の損害賠償請求権も絵に描いた餅です。

そこで、加害者が賠償責任保険に加入していれば、それを原資に、加害者は賠償金を支払えますから、被害者も助かるのです。
というより、事故によって直接的な損害を受けているのは被害者なのですから、加害者の賠償責任保険によって一番助かるのは、むしろ被害者だといえます。

この賠償責任保険の「被害者の救済」という側面を重視して、「保険会社→加害者→被害者」という金の流れを省略して、被害者が直接保険会社に対して保険金を支払うよう請求することも可能な仕組みになっています。


そう考えると、いくら暴力団といえども、自動車保険に入ることができない(あるいは、契約解除される)というのは問題があります。

そういう場合に備えた「無保険車傷害保険」という被害者側の保険はあるのですが、これは、後遺障害が残った場合又は死亡事故でしか保険金が出ません。
仮に保険金が支払われたとしても、そもそも何でわざわざ「加害者が暴力団だから保険に入れない」というリスクを、被害者側に押し付ける(被害者が無保険車傷害保険に加入して、保険料を支払らう必要がある)のか、釈然としないものがありますね。

まあ、(被害者側の)保険会社は、被害者に支払った額を加害者に請求できるので(参照→「自転車事故で保険会社に損害賠償?」)、加害者が丸儲けというわけではないのですが…。

この辺、被害者の救済に資するような制度設計をうまいこと考えるべきだと思います。


では、今日はこの辺で。

2013年11月19日火曜日

本籍の表し方

司法書士の岡川です。

日本人には皆、住所とは別に「本籍」があります。

「住所」と「本籍」が別物であることは、多くの方がご存じだと思いますが、「本籍」は、住んでいる場所と一致する必要はなく、自分の好きなところに定めることができるものです。
つまり、現行法においては、自分が本籍と定めた場所(生まれた時は、親の本籍)が本籍なので、「本籍がどこにあるのか」というのは全く重要ではありません。
どこでもいいので、とにかく1箇所定まっていればそれで十分なのです。

ただ、昔は本籍と住所とは同じだったので、自分や親や祖父母の転籍の履歴を辿っていけば、ご先祖様の住んでいた場所を知ることができたりします。

本籍は、皇居の場所だろうが、首相官邸の場所だろうが、沖ノ鳥島だろうが、日本国内ならどこでも任意に定めることができます。
もっとも、どの市町村に属するか確定していないような場所(有名なところでいえば、富士山の頂上など)に本籍を置くことはできません。
「その場所」を表す方法がないからですね。


任意に決められる以上、もちろん「自分が今住んでいる場所」を本籍にすることも構いません。
ただし、自分の住所と本籍を一致させる場合、少し注意しなければなりません。

本籍の表示の仕方には決まりがあります。

例えばあなたの住んでいる家の住居表示が「ほげほげ町三丁目4番5号」だったとします。
そして、この家の建っている土地の地番は、ほげほげ町三丁目の「395番」であったとします。

では、本籍を住所地にするには、どう定めるべきでしょうか。

正解は「ほげほげ町三丁目395番地」か「ほげほげ町4番」のどちらかです。


本籍は、地番で表示するか、住居表示の「○番」という部分(街区符号)までで表示しなければなりません。
住居表示で場所を特定する場合、街区符号より細かい「○号」(住居番号)をつけることはできません。

したがって、「ほげほげ町三丁目4番5号」では受け付けてくれないのです。

「ほげほげ町三丁目4番地5」なら受け付けてくれますが、それは地番が「4番5」の土地の場所なので、赤の他人の家だと思われます。
地番と住居表示の数字は基本的に全く別物だからです(詳しくはこちら→「地番と住所表示が別々にある理由」)。


もちろん、地番がそのまま住所として使われている地域に住んでいる場合、例えばあなたの住所が「ふがふが町四丁目5番地6」であるなら、本籍もそのまま「ふがふが町四丁目5番地6」にしておけば、住所と本籍が一致します。


ちなみに、自分の本籍を知りたい方は、住民票に書いてあります。
ただ、普通に住民票を取ると省略される場合もあるので、市役所で住民票の請求書を書くときは注意しましょう。

では、今日はこの辺で。

2013年11月17日日曜日

マウス買い換え

司法書士の岡川です。

パソコンのマウスを買い換えました。
今まで使っていた物は、特に壊れてはいないのですが、いろいろと気に入らなかったので。

気に入らないポイント
・DPI調整するボタンが付いているが、起動するたびに変更される(設定でどうにかなるかもしれないが・・・)。
・ラバー部分の接着剤が溶け出して手がベトベトになる(特に夏)。

というわけで、某家電量販店に行ってきました。

売り場を見ていると、どうやらサイドボタンが付いているのが主流になってきているようです。
ブラウジングの「戻る」「進む」の操作が、ボタンを押すだけで簡単にできるというアレです。

あれはあれで便利なので、以前は使っていたこともあるのですが、「間違って親指が当たってページが移動してしまう」というリスクがあり、最近、なるべくサイドボタン付きは避けるようにしています。
そもそも、マウスジェスチャを使えば、「戻る」「進む」のボタンとか必要ないですし。
また、ホイールに横スクロール機能が付いたもの(ホイールを横に倒せば横にスクロールする)もかなり普及しているようです。
横スクロールなんて、横に長いエクセル文書を見るときくらいしか役に立たない割に、「中クリックしようと思ったのに横スクロールしてしまう」というリスクがあります。

はっきり言って、どちらもストレス要因なのですが、使いやすそうな形状のマウスには、必ずどっちかが付いているんですよねぇ・・・。
とりあえず、「サイドボタンがついてないもの」を最優先にして、ホイールが横に倒れにくいやつ(横スクロールになりにくい)を選びました。

ちなみに、ワイヤレスマウスも普及していますが、私は有線派です。
ワイヤレスは、重いし、反応しないこともあるし、電池切れがあるし・・・。

では、今日はこの辺で。

2013年11月14日木曜日

法律一発ネタ(その5)

司法書士の岡川です。

「乙女」と書いて「おとめ」と読むのが一般人。
「おつおんな」と読むのは、法律家の可能性あり(あるいは、ただの漢字が苦手な人)。

【解説】
架空の事例の登場人物や、実際の事例の名前を伏せる場合、「甲乙丙」が使われます。
さらに、男女の別を明示するときは、その後に「男」「女」をつけ、「甲男」とか「乙女」という表現が出てくるわけです。

では、今日はこれだけ。

2013年11月12日火曜日

一般法と特別法

司法書士の岡川です。

明らかにネタにする順番としては逆なのですが、一般刑法と特別刑法の話をしたので、もっと大きな概念として、「一般法」と「特別法」のお話。

一般法というのは、ある法律と他の法律と比べたときに、より適用範囲が広いものをいいます。
それに対し、特別法は、他の法律と比べて適用範囲が限定されているものをいいます。

両者は相対的な概念であり、「ほげほげ法は、一般法である」とか「ふがふが法は特別法である」といったように絶対的に決まっているものではなく、「ほげほげ法は、ふがふが法の特別法である」のように、相対的に決まるものです。

例えば、前回までに書いていたとおり、今度制定される「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」というのは、刑法の特別法です。
逆にいえば、刑法(刑法典)というのは、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」に対する関係で一般法ということになります。
刑法は、およそ犯罪に関する場面で「一般」的に適用されるのに対し、「自動車(略)法律」は、自動車の運転という「特別」の場面でのみ適用されるものです。


他の例を挙げると、商法というのは、会社法の一般法です。
会社法は、「会社」にのみ適用される法律ですが、商法はもっと広く会社以外の商人とか商行為に適用されます。

ただその一方で、商法は、民法の特別法でもあります。
商法が商行為や商人に関する私法上の関係を定めるのに対し、民法は、商人や商行為に限らず、もっと広く一般に私法上の関係について規定したものだからです。
この民法より広い範囲で適用される私法は存在しないので、そのことをもって、「民法は私法の一般法である」というようにいわれています。


特別法というのは、限定的な場面に応じて、一般法を修正するものです。
したがって、特別法と一般法で異なる内容のことが書かれていれば、それは特別法が優先されます。

これを「特別法優先の原則」といいます。

例えば、民法によると、法定利率は年5%とされています(民法404条)。
これに対し、商法541条には、「商行為によって生じた債務」の法定利率は年6%と規定されています。

この場合、「商行為によって生じた債務」という限定された範囲では、特別法である商法の規定が優先することになります。

規定レベルでいえば、「特則」といういい方もします。
「商法541条は、民法404条の特則」のように。


法律には、いちいち、「この法律(規定)は、この法律(規定)の特別法である」とは書いていませんから、法律を適用する際は、特別法(特則)がないかを調べることが大切なのです。

では、今日はこの辺で。

2013年11月11日月曜日

「刑法」いろいろ

司法書士の岡川です。

「刑法」という単語には、実は2つの意味があります。

ひとつは、「刑法」という名の法律のことを指します。
この意味での刑法は、日本にはひとつしかありません。
これを、形式的意義の刑法といいます。

もうひとつは、法律の名前にかかわらず、犯罪と刑罰について規定した法(刑罰法規)の意味。
上記の「刑法」という名の法律は、もちろんこの意味でも刑法ですが、「刑法」以外の刑法もあるのです。

違反行為に罰則が規定してあるのは全部刑法なので、例えば、道路交通法、覚せい剤取締法、軽犯罪法、爆発物取締罰則、破壊活動防止法、などなど、上げていけばキリがないほどたくさんあります。
今度新設される「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」も、もちろん刑法です(参照→「悪質運転の厳罰化」)。
これを、実質的意義の刑法といいます。

刑法はいっぱいあるので、前者の「刑法という名の刑法」のことを特に「刑法典」といいます。
刑法(criminal law)の法典だから刑法典(Criminal Code)ですね。

刑法典には、基本的な犯罪類型(殺人、傷害、強姦、窃盗、詐欺、などなど)が規定されているとともに、(刑法典だけでなく)刑法全体に適用される総則的な規定が存在します。
刑罰の種類だとか、故意犯処罰の原則だとか、正当防衛だとか、そういう規定です。

このように、刑法典は、刑法の一般法として存在していますので、これを「一般刑法」といいます。
逆に、刑法のうち刑法典を除いたもの、つまり、一般刑法以外の刑罰法規を「特別刑法」といいます(一般法と特別法の話はこちら→「一般法と特別法」)。


前回までの話でいえば、危険運転致死傷罪は、刑法典=一般刑法に規定されていたのが、特別刑法に移されたということになりますね。
「基本的な犯罪類型としてはちょっと異質」ということでしょう(これは、制定当初からいわれていたことですが)。


実は、形式的意義・実質的意義の区別は、刑法だけの話ではありません。
民法でも、形式的意義の民法(「民法」という名の民法。民法典。Civil Code)と、実質的意義の民法(civil law)があります。
商法でも民事訴訟法でも、刑事訴訟法でも同じことがいえます。

形式的意義の「会社法」のことを、あえて「会社法典」と言ったりすれば、なんか法律知ってる人っぽく聞こえますので、どこかでお試しください。
ただし、法典として存在しない法律に「~典」を付けちゃって(「失火責任法典」とか)恥をかいても責任は持てませんので悪しからず。


では、今日はこの辺で。

2013年11月9日土曜日

無免許運転が「危険運転」でない理由

司法書士の岡川です。

悪質運転の厳罰化のきっかけとなった亀岡市の事故において、「無免許運転」が危険運転致死傷罪の構成要件として規定されていないことに、一部から批判がありました。

しかし、「無免許運転」が「危険運転」でないことは合理的な理由があり、それは立法ミス等ではなく当然のことだといえます。
また、今回の改正においても、無免許運転自体が危険運転行為とは規定されませんでしたが、これも極めて妥当な結論です。
今日は、この点について書いてみます。

運転免許を取得するには、前提として一定の運転技量が必要ですので、「一定の運転技量がないこと」と「無免許であること」は原因と結果の関係にあります。
しかし、「無免許であること」と「死傷」の結果には直接の因果関係はありません。
無免許の人間が自動車を運転して事故を起こしたとしても、それは、「免許がなかったから」ではありません。
他に何か直接的な原因があったはずです。
例えば、亀岡市の事故についても、直接の原因は居眠り運転でした。

形式的に免許を持っていなくても、十分な運転技能を有している場合があります(例えば、海外の免許を持っている場合や、更新を失念していた場合などが考えられる)。
逆に、形式的に免許を持っていても、具体的な場面に対処する運転技量が無くて事故を起こすこともあります。

無免許運転で過失により交通事故を起こした人間が、「仮に免許を持っていたら」被害者の「死傷」という結果が防げたかというと、当然ながらそんなわけがありません。

もちろん「無免許運転」というのは、運転技能を担保するものが無いわけですから、確かに危険な運転であることが「推認」できるでしょう。
危険な運転である可能性も高い。
しかし、「無免許運転それ自体」が危険な運転というわけではありません。

したがって、今回の法改正においても、「無免許運転それ自体」が危険運転致死傷罪における危険運転行為にはされていないのです。

「だったら免許制度が存在する意味がない」などと批判するのは、典型的な「論理の飛躍」というものです。
免許制度には免許制度の存在意義があります。
それは、事故を起こしたかどうか(人を死傷させたかどうか)に関わらず、そもそも「一定の基準に達していない人物の運転を禁止する」ことです。
したがって、無免許運転は、実際にその運転が危険かどうかに関わらず「それ自体」が犯罪なのです。
事故を起こしたかどうか、人を死傷させたかどうかに拘らず、「無免許運転」というだけで取締り対象とするものです。
この制度により、「事前に危険の芽を摘む」ことが可能になります。
無免許運転が「危険運転」の類型に入っていないからといって、それ自体の存在意義は決して小さいものではありません。

亀岡の事故のとき、「無免許だけど運転の技量があった」というフレーズをもって、「そんな馬鹿なことがあるか」と、やたらとテレビのコメンテーターが感情論を展開して煽っていましたが、少し考えれば、何も馬鹿なことはないのです。
無免許運転はそれ自体が犯罪であって取り締まりの対象だけど、死傷との因果関係がない、というただそれだけの話です。

問題があったとすれば、「無免許運転それ自体」の罰則が軽すぎたという点でしょう。
今回の改正では、「無免許であること」は、その規範違反の程度が大きいということで、危険運転致死傷罪や過失運転致死傷罪等の法定刑を加重する要素として規定されました。
これはこれで、「あり得る改正」のひとつであったと思います。
他に「あり得る改正」としては、「事故を起こしていなくても、無免許運転それ自体の法定刑を大幅に引き上げる」という方法も考えられました。


とまあ、こういうわけで、無免許運転「それ自体」は、「危険運転」ではないということです。

では、今日はこの辺で。

2013年11月6日水曜日

悪質運転の厳罰化

司法書士の岡川です。

昨日、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律案」が衆議院を通過しました。
法律が成立するには、参議院を通過しなければなりませんが、ほぼ確実に成立することになります。

現行刑法208条の2に規定されている「危険運転致死傷罪」と「自動車運転過失致死傷罪」という犯罪類型が刑法典から分離され、今回可決された「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」の中で規定されることになりました。
危険運転致死傷罪は、創設されたときから、刑法典の中では若干異質な犯罪類型であるという指摘はあったので、この機に特別刑法として扱うことになったようです(テクニカルなことをいえば、一部が政令に委任されているので、刑法典になじまなかったという理由もあるようです。刑法典と特別刑法については、こちらの記事参照)。
自動車運転過失致死傷罪についても「自動車運転」という限定された場面を想定した犯罪なので、こちらもまとめて移動させてしまったようです(ついでに、罪名も「過失運転致死傷罪」になりました。「過失運転」ってネーミングはおかしいやろ)。

全体的に、現行法に比して、処罰対象の範囲拡大と重罰化が図られています。
特に、規範意識の鈍磨していらっしゃる悪質ドライバーの方々にはこの機に心を入れ替えていただきたく、また、一部の持病をお持ちの方にも影響がありますので、この法律が施行された場合、現行法とどう変わるのかについて解説しようと思います。

1.「危険運転」の類型追加

危険運転致死傷罪については、規定される法律が変わっただけでなく、危険運転行為とされる類型について整理されています。
基本的には、条文の規定の仕方が少し変わっただけで、現行法で犯罪とされているものについてはそのまま犯罪となっています。

それに加えて、「通行禁止道路」での暴走が新たに危険運転行為として追加されています。
元々、殊更に信号無視をして暴走したような場合も危険運転行為とされていたので、同じような理由でこちらも処罰対象となったものと考えられます。

2.中間類型の新設

現行の自動車運転過失致死傷罪と危険運転致死傷罪との中間に、新たな犯罪類型が新設されることになりました。
新設された犯罪は、「アルコール又は薬物」あるいは「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気」の影響により、「走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転」した場合に、それらの影響により「正常な運転が困難な状態に陥り」、結果として人を死傷させた場合に成立するものです。


危険運転致死傷罪は、例えば「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行」して、人を死傷させた場合に成立します。
つまり、最初から正常な運転が困難な状態で運転した場合は、危険運転致死傷罪です。

他方、運転を始めた時点では「正常な運転が困難な状態」に至らない程度に酔っぱらっていたり、あるいは、一定の病気(一時期話題になった「てんかん」等が想定されています)に罹っている場合であっても、運転している途中に酔いが回ったり病気の発作が起こったりして、「正常な運転が困難な状態」になってしまうことが考えられます。

その場合、従来の危険運転致死傷罪では、犯罪として捕捉しきれていませんでした。
そこで、最初から「正常な運転が困難な状態」で運転を始めた場合だけでなく、「正常な運転が困難な状態になるおそれがある状態」で運転を始めた場合であっても、危険なことには変わりないのだから、その危険が顕在化して人を死傷させた場合は、単なる過失犯として処理するのではなく、過失犯よりは重い(しかし、危険運転致死傷罪よりは軽い)犯罪として処理しようというのがこの犯罪類型です。

3.無免許運転の場合の加重

危険運転致死傷罪、中間犯罪(名称不明)、自動車運転過失致死傷罪のほとんどの場合で、運転していた人が無免許であった場合、犯情が重いということで、刑が加重されます。

「無免許それ自体」が事故の原因ではないとはいえ、無免許で事故を起こすような行為は違法性が大きいということです。

4.逃げ得の防止

アルコールや薬物が原因で事故を起こした場合に、その場から逃げて酔いを醒ます不届き者もいれば、事故後に重ねて飲酒することで事故時のアルコール濃度をごまかすような手法もあります。

こういう行為には、「12年以下の懲役」という、やたらと重い法定刑が用意されています。

実は、現行の道路交通法の救護義務違反が10年以下の懲役なのですが、この法定刑が定められたときも「これだけ異常に厳しい」という指摘がされていました。
今回新設された「過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪」は、それをさらに1段階上回る懲役12年です。
さらに、これが無免許運転なら、もひとつ上乗せして、最高懲役15年です。

これは、文句なしに重い。


例えば、刑法204条に規定された傷害罪(いうまでもなく、故意に人を傷つける犯罪)の最高刑が懲役15年です。
傷害罪には罰金刑も用意されていることから、「無免許かつ飲酒運転のひき逃げは、単なる傷害罪より罪が重い」ということです。

この罪が適用されるのは、過失運転致死傷罪の場合だけで、危険運転致死傷罪が成立する場合には適用されません。
想定しているのは、「本来なら危険運転致死傷罪が適用される場面なのに、アルコール濃度のごまかしによって立件が難しくなり、過失運転致死傷罪での立件となった」という場合だからです。
危険運転から過失運転に「格下げ」になった分、もうひとつ重い犯罪を成立させるというわけですね。



このように、基本的には、善良な市民である皆様にはあまり関係のない法改正ではあります。

ただ一点だけ、中間類型のうち、持病を持っていながら運転して、結果的にそれが事故につながったという場合だけは善良な市民も気を付ける必要があるかもしれません。
事故につながるような病気を知っていながら運転し、結果的にそれが事故につながった場合、単なる過失ではなくて、より違法性が高い故意犯(結果的加重犯)であるということになります。

一定の持病がある皆さん、犯罪にならないよう気を付けましょう。

では、今日はこの辺で。

2013年11月2日土曜日

住居表示の方法

司法書士の岡川です。

前々回前回と、地番と住居表示の話を書いてきましたが、今日は住居表示の方法について。
一般的には、次のように決められています。

まず、ある町いくつかに区切って、その区画を「街区」として定めます。
それぞれの区画につけられるのが「街区符号」で、「ほげほげ町○番○号」の「○番」が街区符号です。

次に、その街区のひとつの角を起点として、ここから順番に、1号、2号、3号…と番号を振ります。
これを「住居番号」といいます。

こういった「町名+街区符号+住居番号」でつける住居表示の方法を「街区方式」といいます。

住居番号は、土地の境界や1軒1軒の建物ごとに番号を振るのではなく、起点から何メートルか毎に(例えば10m毎に)区切ります。

例えば、ほげほげ町1番という街区の角(起点)から10m以内に玄関がある家の住居表示は「ほげほげ町1番1号」で、10m~20mの間に玄関がある家は「ほげほげ町1番2号」といった具合です。
そう決めておくと、どんなに土地が分筆合筆されても、建物が建て替えられても、必ず、数字の順番が前後することがなくなります。
そして、1番4号の家は、1番3号の家の隣にあるとだいたい推測できます。

お気づきかと思いますが、この方法で住居番号を付けていくと、例えばAさんの家の玄関が起点から11mのところにあり、その隣のBさんの家の玄関が起点から16mのところにある場合、AさんとBさんの家の住所は、どちらも「ほげほげ町1番2号」になります。
「自分の家は隣の家と住所が同じ」という人も少なくないと思いますが、これが原因ですね。
この場合、地域によっては、「1番2-2号」みたいな枝番が付けられることもあります。
「隣の家と住所が被っているので郵便物の誤配があって困る!」という人は、市役所に相談してみると、枝番をつけてもらえるかもしれません。

また逆に、Cさんの家の玄関が起点から28mのところにあり、その隣のDさんの家の玄関が起点から42mのところにあれば、Cさんの家は「1番3号」で、Dさんの家は「1番5号」となるので、「1番4号」という住所の家が存在しないこともあるのです。

ちなみに、団地などの集合住宅の場合、住居番号は「棟番号+各戸の番号」というふうに決めてもよいことになっています。
その方が分かりやすいですからね。

では、今日はこの辺で。

2013年11月1日金曜日

地番と住所表示が別々にある理由

司法書士の岡川です。

前回の続きで、地番と住居表示の話です。
土地の情報を記録している登記簿では、地番で全ての土地を特定し、管理しています。
したがって、「どこの場所にあるどの土地か」を示しているものは地番です。

他方、住所というのは、人や事務所の所在場所を表すものです。
なので、普通はどこかの土地上の建物の中にあるものですから、地番をそのまま住所として表すことは可能です。
元々はそうなっていましたし、今でもそうなっている地域は少なくありません。


しかし、地番をそのまま住所として使うといろいろ不便なことが出てきます。

地番は、土地を特定するためのものですから、「それぞれの土地」に個別の番号が割り当てられます。
そして、とにかく個々の土地を特定するだけのものなので、ひとつの土地の上に建物が複数あったり、複数の土地の上に家が建っていたりしても不都合は生じません。

土地の真ん中を道路が通っていたり、一筆の土地の中が塀で区分されていることもあります。

また、土地を分筆したり合筆したりしていると、地番が複雑になることがあります。
例えば、「2番3」という土地の隣に「2番10」という土地が存在し、さらにその隣に「30番」の土地がある、なんてこともあり得ます。


このように、その区域の実際の利用のされ方(目に見える土地と土地の境)と土地の境界は一致していないし、地番の順番もバラバラだったりするわけです。

その場合に、地番と住所が常に一致していると、郵便配達のおじさんが困るわけですね。

「2番4」の住民に配達しようと思って、「2番3」を見つけても、その隣にはなぜか「2番10」があったりするのでは、お目当ての土地がなかなか簡単には見つけられないですね。
「1192番の土地がどこにあるか」など推測することもできません。


そのために、市街地では地番とは別に住居表示というものが作られました。
住居表示は、土地を特定するためのものではなく住所を示すものなので、土地ではなく建物に付けられるものです。

土地の境界がどうなっていようが、どういう順番で地番がふられていようが、並んでいる建物の端から順番に1番、2番、3番…とつけていけば、わかり易い。
これが住居表示です。


佐川男子も大助かりですね。


そんなわけで、土地の識別とは別の住所の表記である住居表示が存在するわけです。

次回、具体的な住居表示の表記の仕方をご紹介。

では、今日はこの辺で。