2013年12月26日木曜日

一足先に年末のご挨拶

司法書士の岡川です。

いつの間にやらクリスマスも終わり、お正月モードに突入です。

昨日までシャンデリア的なものがぶら下がって、無駄にキラキラ していた梅田の阪急百貨店の前の通路(阪急線から地下鉄へ向かうところです)も、今日は一転して純和風なBGMが流れています。
ショーウインドウ(?)の中身も、一夜にしてクリスマス仕様から正月仕様に変わっていました。
余韻も何もありませんね。

毎年のことながら、1週間のうちに2種類の全く方向性の異なるイベントを行わなければならない日本の年末は、やたらと忙しくて大変です。

そんなわけで、私の今年の業務も一応27日で終わります。
まあ、28日にも用事が入ってるんですけどね。


さて、このブログは5月から始めたので、もう半年以上になります。
ちょっと執筆ペースを早くし過ぎて、常にネタ切れとの戦いでしたが、なんとか、平均して2日に1回程度の更新でやってこれました。

読んでいただいた皆さん、ありがとうございます。
コメントまでしていただいた方、本当にありがとうございます。
直にコメントくれた同業者の皆さん、よかったらひとつ相互リンクでもどうですか?


というわけで、来年も、同じくらいのペースでやっていければなあと思います。
年末年始は、ブログのネタを考えるのも休みますので、しばらく更新はしないと思いますが、読者諸兄は、この正月を利用して、過去記事でも読み返してみてください。

きっと、役に立ったり立たなかったりすること間違いなしです。


では、今日はこの辺で。
ちょっと早いですが、皆さん良いお年を!


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2013年12月24日火曜日

法律一発ネタ(その6)

司法書士の岡川です。

「封印執行」って、必殺技名っぽいよね。

【解説】
破産財団に属する財産に封印をさせる執行手続です。

では、今日はこれだけ。

2013年12月21日土曜日

自動車事故と自転車事故の違い

司法書士の岡川です

自転車事故も、一種の交通事故です。
自転車で歩行者にぶつかって相手に怪我をさせるのも、自動車で歩行者にぶつかって相手に怪我をさせるのも、程度の差はありますが同じ交通事故であり、同じ過失による不法行為です。

ちなみに、道路交通法では、自転車は「軽車両」として、同法の対象になっているのは有名な話。
同じく軽車両の一種である馬に乗って道路を走行中に歩行者にぶつかった場合も、交通事故といえるかもしれません。

ただ、自転車や馬がで走行中に歩行者に怪我をさせた場合と、自動車で走行中に歩行者に怪我をさせた場合で、大きく違う点があります。
それは、前者は自賠法が適用されないという点です。

自賠法というのは、 自動車損害賠償保障法の略。
自動車の危険性に鑑み、自動車事故による損害を確実に填補するために用意されている法律です。

自賠法は、「自賠責保険について定めた法律」というイメージが強いかもしれませんが、それは確かに正しいのですが、もうひとつ大きな内容は、加害者の責任を(民法より)加重した法律だという点です。

民法には、不法行為について次のように規定されており、これが不法行為による損害賠償を請求する場合の原則です。
(不法行為による損害賠償)
第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
これに対し、自賠法3条には、このように規定されています。
(自動車損害賠償責任)
第3条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
民法709条に基づいて損害賠償を請求しようと思えば、「加害者の行為は、709条に規定された要件を満たす」と主張するわけなので、「故意または過失」「因果関係」「権利侵害」「損害額」を全て被害者が証明すれば賠償が認められることになります。

ところが、自賠法によれば、「生命又は身体を害された」とだけ証明すれば、加害者の故意・過失を証明する必要はありません。
逆に、加害者側が「自己の無過失」「第三者の故意・過失」「自動車の欠陥等の不存在」を全て証明すれば賠償責任を免れる、という構造になっています。

民法の原則によれば、「被害者がいろいろ証明すれば賠償が認められる」のに対し、自賠法によれば「加害者がいろいろ証明すれば賠償が免れる」のです。

どっちが被害者に有利かは、明らかですね。


で、この被害者に極めて有利な自賠法の規定は、「自動車」が対象であり、この「自動車」には自転車も馬も含まれません。
したがって、自転車とか馬に追突された人は、損害賠償を請求しようと思えば、民法の原則どおり、自ら「いろいろ証明」する必要があるわけです。

しかも、自賠法が適用されない以上、自転車は自賠責保険に加入していませんから、賠償金を確実に支払ってもらえるとは限らないことになります。


自転車事故は、立証の面では加害者に有利ではありますけど、いざ損害賠償が認められたときが大変です。
自動車みたいに自動車保険に加入していないことも多いですから、全額自分で賠償しなければならないわけですね。

自転車事故でも、他人に重大な損害を与える可能性はありますので(それこそ9500万円の損害が発生する場合も)、自転車保険というのも検討する価値はあるのかなと思います。


ついでなので刑法上の話も書いておくと、自転車事故の場合、自動車運転過失致死傷罪は適用されず、過失致死傷罪又は重過失致死傷罪が適用されます。
つまり、一段階軽い犯罪が成立することになります。

この点も、自動車事故と自転車事故では異なりますね。


では、今日はこの辺で。

2013年12月18日水曜日

年齢計算の仕方

司法書士の岡川です。

期間に関する話題が続いたので、ついでに年齢の計算について取り上げてみましょう。
年齢に関して直接規定した法律は2つあり、「年齢のとなえ方に関する法律」と「年齢計算ニ関スル法律」です。
前者は、「数え年」をではなく「満年齢」を使うように定めた法律です。
同法によると、国の機関は、原則として満年齢を使わなければならず、他方、国民は満年齢を使うよう「心がけ」なければなりません。

後者は、年齢計算については、出生日から計算する(初日不算入の原則を適用しない)旨を定めた法律です。
つまり、12月20日0時00分に生まれた人も、23時59分に生まれた人も、12月20日を初日として年齢計算するということになります。
初日不算入の原則が年齢計算にも適用されると、12月21日から0歳が始まってしまい、じゃあ12月20日は何歳やねん??ってことになりますが、そういう扱いはしないということです。

また、同法では民法143条を準用することが定められています。
民法143条とは、次のような規定です。
民法143条 週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。
2  週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。

というわけで、平成25年12月20日に出生した人は、平成26年12月19日(正確にはその日の終了時点、すなわち午後12時00分ジャスト)をもって、満1歳となります。
つまり、12月20日生まれの人は、12月20日ではなく、前日の12月19日午後12時00分ジャストに歳をとるということです。
「12月20日午前0時00分」ではなく、「12月19日午後12時00分」というところがミソです。

小学校で習ったとおり、12月20日午前0時00分と12月19日午後12時00分は、時刻としては全く同じです。
しかし、どっちと定めるかにより、「満1歳になる日付」が「12月20日」なのか「12月19日」なのかという違いが出てきます。
それによって、法律の適用についても変わってくるので、この違いは重要なのです。

要するに、条文に出てくる「満○歳に達した日(達する日)」とは誕生日の前日のことで、「満○歳に達した日の翌日」というのが誕生日だということになります。
なお、満○歳に達する「日」は誕生日の前日ですが、満○歳に達する「時刻」は午後12時00分です。
したがって、例えば平成25年12月20日で18歳の誕生日を迎える人にとって、「18歳に達する日」は同年12月19日なのですが、12月19日の午後12時00になるまでは、まだ「18歳に満たない者」ということになります。

ややこしいですね。

あ、ちなみに12月20日は、私の誕生日です。よろしくお願いします。

では、今日はこの辺で。

2013年12月16日月曜日

初日不算入の原則

司法書士の岡川です。

細かいことですが、重要な原則として、「初日不算入の原則」というものがあります。

法律の世界は、「期間」というものがしばしば重大な意味を持ちます。

例えば、控訴期間を1日でも過ぎれば控訴できないし、時効完成まであと1日であっても、時効中断事由が発生すればその時点で時効完成が妨げられます(→参照「時効の完成に気を付けよう」)。

「何日」とか「何年」とかいう期間が定められていた場合、1日でもずれると結論が変わってきますので、「いつからいつまでか」を、きちんと厳密に確定する必要があります。
弁済期を1日でも過ぎれば遅延損害金が発生しますが、例えば「1か月後」と決めた場合、いつから遅延損害金が発生するかは、1日単位で細かく期間を計算しなければなりません。

そんなわけで、厳密な期間計算のためには、ルールが必要です。
そのルールのひとつが、「初日不算入の原則」です。
読んで字のごとく、期間計算に「初日は参入しない」という決まりです。

民法140条には、「日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。」と規定されており、これが基本的な期間計算のルールとなっています。

改めて確認するまでもないですが、1週間は7日間のことをいいます。
では、「1週間」という期間を設定したとき、「いつから7日間か」ということは、ハッキリさせておかなければなりません。

例えば、民事訴訟において控訴ができる期間は、「判決書の送達を受けた日から2週間」です。

平成25年12月3日の昼3時ごろに、判決書の送達を受けた(郵便屋さんから受け取った)としましょう。

ここで、「送達を受けた12月3日から2週間(14日間)だから、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16日まで」と数えて、16日が経過したらもう控訴ができない!と考えてはいけません。
初日不算入の原則がありますので、3日は除いて、「4、5、6、・・・(略)・・・15、16、17日」と14日数え、17日までは控訴することができます。


まあ、わかり易くいうと、週単位で決めた場合、初日と同じ曜日の日が終期になります。
月単位でも同じですね。
「12月3日から1か月」と決めたら、終期は1月2日ではなく、1月3日になります(カレンダーで数えてみてください)。


ただし、午前0時ちょうどから始まる場合は、初日も算入します。
「平成25年1月1日午前0時から1年間」という期間は、平成25年12月31日で終わりです。


原則に例外はつきもので、この初日不算入の原則にも個別にはいくつか例外がありますので気を付けましょう(例えば、年齢の計算は初日算入です)。

では、今日はこの辺で。

2013年12月15日日曜日

時効の完成に気を付けよう

司法書士の岡川です。

前回前々回に続き、時効の話です。
このうち、刑法と刑事訴訟法に規定された刑事法上の時効(刑の時効と公訴時効)については、基本的には気を付けるのは検察官や警察官なので、一般の人が気を付けることはあまりありません。
被害届を早く出すとか、特に親告罪なら早く告訴するとか、そういう点で気を付けることはありますけど。

一般の人が注意すべきは、どちらかというと民法等に規定されている民事の時効(取得時効と消滅時効)です。
なので、主にこちらの制度について注意喚起です。

まず、取得時効。
取得時効は、長期間の占有者が権利を取得する反面として、元々の権利者が権利を失うことになります。
もちろん、占有者側が元々正当な権利者だという場合もあります(むしろ、そういう場合に真の権利者を保護するために存在する制度なのです)が、実際は占有者に何ら権利がないという場合もあります。
そんな場合であっても、長期間の占有によって、完全に正当な権利が付与されることになるのが取得時効の制度です。
もし自分が真の権利者である物を、他者に(正当な権原なく)占有されている場合、占有者に時効取得される前に、きちんと争っておく必要があります。
争わずに、他人が占有するのを放置していれば、「権利の上に眠る者」として保護されなくなります。


さらに、直接的に権利を失うのが消滅時効という制度です。

所有権だけは消滅時効にかかることはないのですが(民法167条)、それ以外の権利は、一定期間行使しなければ時効によって消滅してしまいます。
原則として、債権なら10年、それ以外の権利(所有権除く)なら20年です。
個別の権利については、もっと短い期間が規定されているもの(短期消滅時効)もありますので、中途半端な知識で「時効は10年」と思い込むのは危険です。
例えば、不法行為に基づく損害賠償請求権は、不法行為を知った時から3年で時効になってしまいます。

というわけで、支払期がきた債権など、いつでも請求できる状態になっているのに、「いつか請求しよう」と思って放置すると、忘れたころに時効によって消滅してしまう可能性があるので注意が必要です。
また、関連する手続きが進行中であったり関連する他の権利関係に争いがある場合であっても、それ以外の債権については、個別に時効期間が進行することもあります。
なので、安易に「こっちの手続きをやってるところだから、これが終わっときにまとめて請求しよう」と考えてはいけません。

借用書などの証拠があっても、時効期間が経過した瞬間、その「借用書」という書面は、ただの紙切れと化し、もはや裁判所も助けてくれません。
これは、たとえ裁判所の判決であっても同様です。
勝訴判決が確定し、「これで一安心」と思って10年間放っておいたら、やはりその判決書は、ただの紙切れと化します
もうメモ用紙にでも使うしかありません(判決書の紙は質があまりよくないので、残念ながらメモ用紙としても使いにくいです)。

なお、気を付けなければいけないのは、「定期的に請求書を送りつけていれば安心」かというとそうでもありません。
時効完成を妨げるための「請求」は、裁判所を通したものでなければなりません。
いくら個人的に請求書を出しても(たとえ内容証明であっても)、6か月以内に裁判上の手続きを取らなければ、時効は中断しません(民法153条)。
6か月だけ時間稼ぎができるというだけなのです。
その間に訴えを提起するとか、既に債務名義があるなら差押えをするとか、確実な証拠があるなら支払督促を申し立てるとか、何らかの強力な請求をして初めて時効が中断します。


時効を中断させるために、どのような手続きが適切かは、お近くの司法書士にご相談ください(宣伝)。

では、今日はこの辺で。

2013年12月13日金曜日

時効の存在理由

司法書士の岡川です。

昨日の続きで、今日も時効の話。
時効は、本当は他人の物が自分の物になったり、自分の有する権利が消滅したり、ある意味「不自然」な制度だといえます。

そんな時効制度の存在意義は、いろいろな考え方があります。

ひとつは、「永続した事実状態の尊重」という点。

長い間、刑が執行されなかったり、公訴されなかったり、権利が行使されなかったり、自分の物として占有していたり、そういう状態が続いていたから、それを前提にして、様々な法律関係が積み重なっていることになります。
その場合、今更「本来あるべき法律関係はどうなんだ」とか問い直して、場合によっては現状をガラッとひっくり返したりするよりは、今の状態を尊重して確定することが望ましい、という考えです。

特に、真の権利者じゃない人や、義務者などの利益を保護する根拠になります。


それから、「立証困難の救済」という点。

例えば公訴時効の場合、被告人は、10年も20年も前の犯行についてアリバイを証明しろといわれても酷な話です。
起訴する側は、犯行直後から捜査資料を保管しているでしょうが、被告人は、特に本当に犯行と無関係な場合など、自分に有利な証拠をそんな長い間持っているとは限りません。
したがって、何年も経った後から起訴するのは、避けるべきという考えですね。

これは、民事上の時効でも同じことがいえます。
消滅時効だと、例えば「30年前に弁済した」ということを証明しようにも、証拠が残っているとは限りません
二重に弁済する危険を負わすのではなく、大昔のことを立証困難なのは仕方ないから、それは救済しようという考えです。

これは、特に真の権利者の利益を保護する根拠になりますね。


もうひとつは、「権利の上に眠る者は保護しない」という点。
特に民事上の時効の話になりますが、「10年も20年も請求せずに放っておいたくせに、今更請求するなよ」という考えです。
権利を有しているのに、あえて行使しないのなら、それを保護する必要はないということです。


こういった考え方のうち「どれが根拠」と決めることはできませんので、最近では、いくつかの根拠を組み合わせたりして、存在意義が説かれています。

時効に対する考え方も様々なので、ある種の時効についてはもっと長くてよいのではないか、あるいは逆に短くすべきではないか、という議論はずっと続いています。
今進められている民法改正においても、議論の対象となっています。

そんなわけで、いろんな理由があるけど、結局のところ政策的に設けられている制度といったところでしょうかね。

では、今日はこの辺で。

2013年12月12日木曜日

いろんな「時効」

司法書士の岡川です。

「時効」というのは、一般的にもよく知られた法律用語のひとつだと思います。
その意味するところもなんとなく、「一定の時間が経過したら、何らかの効果が生じる制度」くらいには理解されていることでしょう。
その理解で、概ね間違っていないのですが、勿論、法律で定められた時効制度は漠然としたものではなく、もう少し詳細に決められています。


一口に「時効」といっても、大きく分けて、刑事法上のものと民事法上のものがあります。

さらに、刑事法上の時効には「刑の時効」と「公訴時効」があり、民事法上の時効には「取得時効」と「消滅時効」があります。
(→参照「民事と刑事」)

まずは、刑事法上の時効。
「刑事」なので、犯罪に関わる時効ですね。

1.刑の時効

刑の言渡しが確定してから一定期間の経過しても刑が執行されない場合に、刑の執行を免れる制度です。
これは、刑法31条以下に規定されています。

被告人として裁判にかけられていても、刑が確定するまでは犯罪者ではないので、その段階では牢屋に捕まっているわけではありません。
したがって、刑の言渡しがあったとしても、その人の身柄を確保できていない場合もあるのです。
刑の言渡しを受けた者が、所在不明になったりして、刑法に定められた期間、刑を執行されなかったら、その後は執行することができなくなります。

この制度は、犯罪の「時効」として一般的に知られている制度(何年間逃げれば、もう起訴されなくなるというやつ)とは違い、起訴されて、刑も確定した後の話です。
あまり馴染みのない制度ですが、どうやら年間数件はあるみたいですね。

2.公訴時効

犯罪について、「時効」といえば、一般的には公訴時効を指します。
これは、犯罪が行われてから、一定の期間が経過すれば、公訴を提起(起訴)することができなくなるという制度で、刑法ではなく刑事訴訟法に規定されています。

犯罪者は、起訴されて刑事訴訟法上の手続きを経た後でなければ処罰されませんから、起訴できないということは、無罪放免とほぼ同義です。
もっとも、公訴時効完成後に出頭してきた人に対して、民事上の損害賠償請求が認められることもあります。
また、現行刑事訴訟法では、死刑に相当する罪などには公訴時効が存在しませんので、殺人犯はいくら逃げても時効が完成することはありません。


次に、民事法上の時効です。
こちらは、犯罪ではなくて、私法上の法律関係に関する時効です。

3.取得時効

取得時効とは、文字通り、時効完成により物を取得することができる制度です。
民法162条以下に規定されています。

他人の物を一定期間占有したらそれが自分の物になるという、何ともお得な制度ですね。
まあ、元の所有者からすれば、損する制度なんですけど。

もちろん、他人の物を勝手に盗んできたような場合や、借りた物をいつまでも返さない場合(いわゆる借りパク)は、いくら占有し続けても時効は完成しません。
他人の物を占有するに至った経緯が、客観的に自分の物として占有し始めたといえるような状況でなければいけないのです。
例えば、物を借りたのではなく貰った場合ですね。

「貰ったんなら時効とか関係ないじゃん」と思われるかもしれませんが、例えば、何十年も経ってから「あげた覚えはない。返せ」と言われた場合を考えてください。
貰った側としては、時効だろうが贈与だろうが、とにかく自分に所有権があるといえればいいわけですから、「貰った」という証明ができなくても「時効」を証明すれば済むということになります。

4.消滅時効

取得時効とは、取得時効とは逆に、一定期間の経過により、自分の権利が消滅してしまうという制度です。
民法166条以下に規定されています。

権利者からすれば損するのですが、義務者からすれば、義務を免れるので、とってもお得な制度です。

基本的には、10年で時効と考えていただければいいのですが、権利によっては20年という長期の経過で完成することもあり、逆に1年で時効にかかるものもあります。



どの制度も、「時間の経過によって何らかの効果が生じる」という点で共通します。
しかし、細かい要件はいろいろあるので、「とにかく長い時間が経てばよい」というものでもありません。

損しないためにも、時効については、正しく理解しておきましょう。
というわけで、時効についてあと何回か続きます。

では、今日はこの辺で。

2013年12月11日水曜日

「共謀罪」と現行法の違い

司法書士の岡川です

ここにきて急にまた共謀罪の話が出てきました。
正確には、組織犯罪処罰法の改正案なのですが、今まで何度も国会に提出されては廃案になってきたものが、次期通常国会にまた法案が出されるとか出されないとか。
特定秘密保護法が成立したところなので、不穏な空気が漂っていますね。

これまた政治的な話題になりますので、例によって法案の是非はひとまず置いて、今日は普通に刑法のお話をします。

現行刑法や特別刑法には、いろんな犯罪類型が存在しますが、それらは通常、他人の法益(法によって保護すべき利益)に対する侵害となるような行為です。
刑法というのは、法益侵害を防ぐためのものですから、法益と無関係なものを犯罪を規定しても意味がないからです。
無意味な犯罪類型を設けて、それによって犯罪者を処罰すれば、国家による不当な人権侵害ということになってしまいます。

そういうわけで、犯罪は、何らかの意味で法益に関係するのですが、必ずしも「現実的に法益が侵害された場合」のみが犯罪になるわけれはありません。
法益侵害という結果との「距離」によって、いくつかのパターンが存在します。

まず、実際に法益侵害結果をもたらした場合、これは「既遂犯」といいます。
犯罪の基本類型ですね。
殺人既遂罪は、人を刺して相手が死んだ段階で成立します。

法益侵害結果から少し離れて、犯罪に着手したけれど、結果の発生に至らなかった場合は、「未遂犯」といいます。
殺人未遂罪は、人を刺したけど相手が死ななかった場合ですね。
未遂罪は、個別の規定において、未遂を罰するとされている場合にのみ成立します。

さらに法益侵害結果から離れて、犯罪に着手する前、準備をした段階で成立する犯罪を「予備罪」といいます。
殺人予備罪なら、人を刺すためのナイフを準備して待ち構えている段階ですね。
予備が処罰対象となっているのは、一定の重大な犯罪に限られます。

もっと法益侵害結果から離れて、犯罪の謀議をした段階で成立する犯罪を「陰謀罪」といいます。
陰謀罪は、殺人にすら規定されておらず、刑法典には「内乱陰謀罪」「外患誘致陰謀罪」「外患援助陰謀罪」「私戦陰謀罪」のみ存在します。
要するに、陰謀罪があるのは、武力革命とか戦争を起こす場合に限られています。


さて、共謀罪というのは、現行法においては、極めて限定された特殊な犯罪類型においてのみ「陰謀罪」として個別に規定されている「謀議のみで犯罪成立」という規定を、組織犯罪については、もっと一般的に(一定以上の重い犯罪に)適用しようとするものです。


何度も廃案になったことからも分かるとおり、これは極めて批判の強い法案です。
その一方で、テロ対策のために必要性が訴えられて、何度も議題に挙がっています。

極論、暴論、陰謀論、感情論、その他しょうもない主張に振り回されることなく、冷静に議論が行われることを望みます。

では、今日はこの辺で。

2013年12月10日火曜日

乃至

司法書士の岡川です。

突然ですが問題です。
これ↓は何と読むでしょう。

乃至








正解は、「のし」ではなく、「ないし」です。

例えば

AないしB

というと、一般的には、「AかB」という意味ですね。
法律の世界でも、「AかB」という意味で「AないしB」と使うことはありますが、法律の条文では、「AかB」の意味で「A乃至B」とは出てきません。
「AかB」は「A又はB」と書くからです(「特定秘密保護法案におけるテロリズムの定義」も参照)。

では、どういうときに使うか。

第1項乃至第3項

といったふうに使います。

くどいようですが、これは「第1項か第3項」という意味ではありません。
「第1項か第3項」なら「第1項又は第3項」と書きます。

正しくは、「第1項~第3項」という意味です。

「A乃至B」は「A~B」という意味なのです。

実は、国語辞典にも載っている用法なので確認しておきましょう。

ちなみに、「乃至」は、主に古い法律で使われるもので、最近の法律では、ふつうに「から」と書いてあります。

では、今日はこの辺で。

2013年12月9日月曜日

「及び」と「並びに」

司法書士の岡川です。

前回、法律の条文に出てくる「又は」の使い方を説明したので、ついでなので「及び」と「並びに」の使い方も説明しておきましょう。

2つの事項があって、その両方を対象としたい場合は、

A及びB

と書きます。
事項が3つ上ある場合は、「A及びB及びC」ではなく、

AB及びC

のように、最後の1回だけ「及び」を使い、それ以外は、「、」(読点)で区切ります。

「又は」の場合と同様、ABCが動詞である場合は、

Aし、Bし、及びCする

のように書きます。


また、「AとB」という事項と、Cという事項を並列にしたい場合は、

A及びB並びにC

と書きます。これは、「『AとB』とC」という意味です。
応用として、「『AとB』と『CとD』」という意味にしたければ、「A及びB並びにC及びD」となります。


具体例を民法から引っ張ってきましょう。

民法729条は、「養子及びその配偶者並びに養子の直系卑属及びその配偶者と養親及びその血族との親族関係は、離縁によって終了する。」と規定しています。

「及び」と「並びに」がたくさん出てきて、パッと見ややこしくなっていますが、条文の読み方のルールさえわかっていれば、難しいことはありません。

「養子及びその配偶者」並びに「養子の直系卑属及びその配偶者」

「養親及びその血族」
との親族関係は、離縁によって終了する。

というふうに読めるわけです。


さらに、階層が3段階以上となれば、「及び」「並びに」の上位の語が存在しませんので、後は全部「並びに」を使います。
つまり、「『(AとB)とC』とD」を表したければ、

A及びB並びにC並びにD

というふうになります。
「並びに」が2回出てくるのは、階層が3段階以上であるからであって、「AとB」とCとDが並列になっているわけれはありません。
「AとB」とCとDが並列なら、

A及びBC並びにD



となります。


ところで、一般的な日本語では、AとBのように事項が2つしかない場合であっても、

A並びにB

とか

A若しくはB

のようにいうことはあります。
しかし、法律の条文ではこれらの用語には優先順位があり、「又は」が使われていないところに「若しくは」は使えませんし、「及び」が使われていないところに「並びに」は使えません。

したがって、パッと見で

A並びにB

という文言が目に入ったら、必ずその前後を見て「A1及びA2」とか「B1及びB2」というふうになっていないかを探さなければいけません。


法律の条文は、ルールを知らないと正確に読めませんが、逆に、ルールさえ知っていれば、複雑な条文もある程度は内容を把握することが可能なのです。
まあ、ルールを知っていても、条文が複雑すぎるものを読むのは非常に苦労しますが。


では、今日はこの辺で。

2013年12月6日金曜日

特定秘密保護法案におけるテロリズムの定義

司法書士の岡川です。

国会では、特定秘密保護法案の審議が大詰めになってきました。
同法案の問題は、あまりにも政治的すぎるので、真正面からこのブログで取り上げることはありませんでしたし、今後もおそらくないと思うのですが、少し本論から外れたところで、法解釈の題材として面白いことがあったので、取り上げてみたいと思います。

毎日新聞で、こういう社説がありました

社説:秘密保護法案 参院審議を問う テロの定義

法案は12条でテロを定義した。全文を紹介する。

「政治上その他の主義主張に基づき、国家若(も)しくは他人にこれを強要し、又(また)は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう」だ。

テロ活動の防止は、防衛、外交、スパイ活動の防止と並ぶ特定秘密の対象で、法案の核心部分だ。本来、法案の前段でしっかり定義すべきだが、なぜか半ばの章に条文を忍ばせている。それはおくとしても、規定のあいまいさが問題だ。
二つの「又は」で分けられた文章を分解すると、「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要」「社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷」「重要な施設その他の物を破壊するための活動」の三つがテロに当たると読める。衆院国家安全保障特別委員会で、民主党議員が指摘し、最初の主義主張の強要をテロとすることは拡大解釈だと疑問を投げかけた。
これに対する森雅子特定秘密保護法案担当相の答弁は、「目的が二つ挙げてある」というものだった。つまり、「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し」「又は社会に不安若しくは恐怖を与える」がともに「目的で」にかかるというのだ。
ならば、そう分かるように条文を書き改めるべきだ。法律は、条文が全てだ。読み方によって解釈が分かれる余地を残せば、恣意(しい)的な運用を招く。だが、委員会では、それ以上の追及はなかった。

また、同じ趣旨で、福島瑞穂議員がこんなことを言っています。

特定秘密保護法案 徹底批判(佐藤優×福島みずほ)その1

主義主張に基づいて他人になにかを強要するのがテロリズムなら、なんでもテロリズムになります。官邸前の原発再稼働反対行動どころか、男女平等だからと「主張」して家族に家事の分担を「強要」することも、法解釈上はテロリズムにできるのです。

本当にそんな解釈になるのでしょうか。
同法案のテロリズムの定義は、

政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動

です。
これを、毎日新聞の論説委員や、民主党議員、福島議員は、

1.政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要
2.社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷
3.重要な施設その他の物を破壊するための活動

の3つであると読める…というふうに述べています。
そのうえで、福島議員は、「家族に家事の分担を『強要』することも、法解釈上はテロリズムにできる」と主張しています。


法案の是非は置いておいて、もう少し常識的な議論をできないものか…。

家事の強要がテロになるわけがないのは常識で考えたらわかることです。
仮にそんな条文になっているとしても、確実に裁判所ではそんなものが含まれないよう解釈されます。
・・・が、それでは納得しないのでしょうから、さらにいうならば、そもそも条文の文言上、上記のような解釈にはなりません。


法解釈の基本的な技法から解説しましょう。

まず選択的な2つの事項(AかB)を並べる場合、条文では、

A又はB

と書きます。
Bの中に、さらに選択的な2つの事項(B1かB2)が含まれている場合、条文では、

A又はB1若しくはB2

と書きます。
この場合、「『A』か『B1かB2のどちらか』のどちらか」というふう意味です。


そして、事項が3つ以上ある場合は、

AB又はC

というふうに書きます。
これは、英語の「A, B or C」と同じで、「A又はB又はC」のように、「又は」を連続して使うことはありません。
「又は」は最後の一回のみで、それまでに並列するものは、「、」(読点)で区切ります。

さらに細かいことをいえば、AやBやCが動詞の場合、

Aし、Bし、又はCする

といった書き方をします。


さて、この「法学部では1年生の最初に習う基礎中の基礎知識」を前提に、もう一度特定秘密保護法案のテロリズムの定義に目を通してみると、

国家・・・強要し、又は社会に・・・殺傷し、又は重要な・・・活動

となっています。
もしこれが「3つ並列」であるならば、「又は」が2回出てくるわけがなく、

国家・・・強要し社会に・・・殺傷し、又は重要な・・・活動

となっていなければいけません(最後の一回を除き、「、」で区切る)。
つまり、「又は」が2回でてきている以上、条文上「3つ並列」とは読めないわけです。

そして、「強要し、」の後に「又は」があるということは、「強要し」と対になる「動詞」が「ひとつだけ」ある、ということが読み取れます。
そこで、読み進めると、「又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、」とあります。

ここで、「殺傷し」は、その後に「又は」があるので、最後の「破壊する」と対になっていることがわかります。
そうすると、「3つ並列」でない以上、「強要し」と「殺傷し」が対でないことがこの時点でわかります。

したがって、残る「与える」が「強要し」と対になる動詞であることがわかります。

となれば、

〔「『政治上・・・強要し、又は社会に・・・与える』→目的」で人を殺傷し、又は重要な・・・破壊する〕→ための活動

と読むことになります。
これは森大臣が示した解釈に一致しますが、条文の文言上、正にその通りにしか読めません。

つまり、テロリズムは「殺傷」か「破壊」のどちらかでなければ定義に含まれないことになります。
ただ単に強要するだけでは、テロリズムの定義に該当しません。

毎日新聞の社説に出てきた「民主党議員」が誰なのかはわかりませんが、東大法学部卒の弁護士である福島議員が、(法学部1年生でも知っている)基本的な解釈技法を知らないわけがなく、あえて曲解して極論を展開しているとしか考えられません。
はっきりいって、「日本語を知らないアメリカ人が読んだら、こう読む可能性がある!」というのと同レベルの難癖です。


もちろん条文を正しく読んだ場合であっても、テロリズムの定義が不当であるという意見はあり得るでしょう。
その辺は、十分議論していただきたいところです(まあ、審議は打ち切られましたが・・・)。

しかし、「わかっていながらあえて曲解する」という非建設的な議論はやめるべきです。

こういうのを「藁人形論法」といいます。


毎日新聞社説は、「法律は、条文が全てだ。」と断言しています。
そもそも、その認識からしてどうかと思うのですが、100歩(1万歩くらいでも)譲って、条文が全てだとしましょう。
そこまでいうなら、条文の読み方のルールに沿って読むべきです。


では、今日はこの辺で。

2013年12月5日木曜日

民法改正(非嫡出子の相続分規定削除)について

司法書士の岡川です。

以前話題になった、非嫡出子(婚外子)の法定相続分を嫡出子の2分の1とする民法の規定が、最高裁で違憲とされた件で、当該規定を削除する民法改正が成立しました。

法案を見ると、 民法900条の「嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1とし」という部分が削除されるようです。

そして、改正法は「公布の日から施行」とあるので、近日中に施行されることになります。

問題は、改正後の規定はいつから適用されるかという点ですが、「平成25年9月5日以後に開始した相続について適用する」とあります。
今年の9月4日以前に亡くなった人の相続に関しては、旧規定が適用されるということです。

ちなみに、施行前の相続についても適用があるということで、「法の不遡及の原則」の例外ということになりますが、刑法と違って、民法はこの例外も許されている・・・という話は、以前書きましたね(→参照「遡及処罰の禁止」)。

それはさておき、最高裁決定は、平成13年7月以降の相続について、この規定が違憲となったと指摘しています。
つまり、平成13年7月1日~平成25年9月4日までに開始した相続については、改正後の民法の規定は適用されないけども、まだ未確定の事件について裁判で争えば、裁判所は、ほぼ確実に当該規定は無効であることを前提に判断しますから、事実上旧規定の適用は排除されることになります。
まあ、最高裁判例に真っ向から反対するアグレッシブな下級裁判所裁判官がいないとも限りませんので、ゼロとはいえませんが・・・。

そして、登記供託実務では、最高裁決定が出た日に法務省から法務局宛に事務連絡が出ており、平成13年7月1日以降に開始した相続で婚外子がいる場合の法定相続分による相続登記については、申請があったら「法務省に照会する」という取扱いになっているのですが、照会したあと、どういう処理がされるんでしょうね。
正式な通達は追って出されるということだったんですが、まだ通達は出ていないようです。

なお、既に旧規定に基づいて遺産分割協議が確定していたようなものについては、基本的にやり直しは認められないので、ご注意ください。

では、今日はこの辺で。

2013年12月2日月曜日

「後見人」とは

司法書士の岡川です。

「後見人」という言葉は、さすがに「日常生活」ではあまり使わないかもしれませんが、一般的な日本語としてもよく知られています。
幼少の人や未熟な人を背後で支える実力者といった意味で使われますね。

歴史上の話題や、政治家なんかの話であればそれでいいのですが、法的な制度としての「後見人」というのは、少し意味が異なります。
法的な意味での「後見人」は、必ずしも、 一族の長でもなければ、地元の名士でもないし、大物政治家でもありません。

現在の日本の法律で「後見人」とされるのは、民法に規定された成年後見人と未成年後見人、「任意後見契約に関する法律」に規定された任意後見人を指します。
これらは、判断能力が低下した人や未成年者につく支援者(代理人)であって、判断能力がしっかりした大人に対して、法的な意味での後見人がつくことはありません。


「成年後見制度についてよくわかっていないけど、何らかの支援の利用を考えている」という方は、「判断能力の低下」というのをひとつのポイントとして考えるとよいと思います。

すなわち、支援対象者(自分や自分の家族)が、現時点で判断能力の低下がある場合、法定後見制度の利用を検討するとよいでしょう。
また、今はまだ判断能力もしっかりしているけど、将来、判断能力が低下した場合に備えておきたいという場合は、現時点での任意後見契約の利用を検討することになります。

他方で、「息子は既に成人しているんだけど、頼りないから、誰かにその補佐役をしてほしい」というような場合、これは、法的な意味での後見の対象にはなりません。
もちろん、個人的に何らかの契約をして、財産管理や契約手続等の包括的なサポートを受けるということは可能ですが、それは個別の契約の話になります。


それから、当然ながら、法定後見も任意後見も、本人が生存中の支援をする制度です。
死後のことを頼みたいという場合は、依頼する内容によって、色んな制度を使い分ける必要があります。
死後事務委任契約を締結したり、遺言執行者を指定したり、あるいは、やや特殊な場面ですが、幼い子供を残して亡くなる可能性があるときは遺言によって未成年後見人を指定することも可能です(民法839条)。

遺言による未成年後見人の指定というのは、法的な意味から外れた「後見人」のイメージに近いかもしれませんね。


では、今日はこの辺で。

(成年後見制度については、「成年後見制度入門」以下のシリーズ記事参照)

2013年12月1日日曜日

司法書士による犯罪被害者支援

司法書士の岡川です。

平成16年12月1日、犯罪被害者等基本法が成立しました(12月8日公布、翌年の4月1日に施行)。
そこで、11月25日から12月1日までの1週間が、内閣府により「犯罪被害者週間」と定められています。

今日は、その成立日であり、犯罪被害者週間の最終日です。

司法書士は、法務局における手続き(登記供託)や、裁判所提出書類作成、簡易裁判所による民事訴訟手続きなど、基本的には、民事事件に関する司法手続きに関与する資格です。
ただし、「裁判所に提出する書類」というのは、別に民事訴訟手続上の書類に限定されていませんし、検察庁に提出する書類作成も司法書士の独占業務のひとつとして規定されています(簡裁訴訟代理は、民事限定ですが)。
これらは、簡裁訴訟代理業務などより歴史の古い伝統的な業務です。

具体的には、告訴状や告発状の作成、検察審査会への審査申立書作成、新しい制度としては刑事訴訟における損害賠償命令申立書作成などが想定されます。
つまり、あまり主要な業務ではありませんが、刑事事件への関与も、全くの専門外というわけではありません。
もっといえば、犯罪の被害回復という意味では、刑事手続ではなく民事事件として扱われるものですので、これは完全に司法書士の業務(本人訴訟支援や関西訴訟代理)となります。

もちろん、犯罪の嫌疑をかけられた人(被疑者や被告人)の側に付いてその人権を擁護する「弁護人」の立場につくことは、完全に弁護士のみに認められた業務です。
その一方で、被害者の側について、社会に潜んでいる犯罪被害を司法手続に乗せたり、犯罪被害者の権利擁護を図ることは、日本の司法制度の一翼を担う司法書士に課せられた責務でもあります。
これが司法書士の責務である根拠としては、上記のような業務が司法書士の独占業務として規定されている司法書士法のほか、総合法律支援法において「弁護士及び弁護士法人並びに司法書士その他の隣接法律専門職者」に「総合法律支援の実施及び体制の整備のために必要な協力をする」努力義務が課せられています。


というわけで、大阪司法書士会でも犯罪被害者支援対策に取り組んでいて、今日(平成25年12月1日)は、犯罪被害者週間最終日に合わせて、犯罪被害を対象とした無料電話相談会をやっています(今更ですが、告知)。

犯罪被害に遭われた方、その危険がある方、その他犯罪被害について相談がある方は、06-6941-1000までお電話どうぞ(このダイヤルは本日午後6時までです)。(終了しました)

では、今日はこの辺で。