2014年1月19日日曜日

嫡出推定と「推定の及ばない子」

司法書士の岡川です。

法律上の親子関係に関するニュースが続いています。

父子関係、DNA鑑定で取り消し 司法、異例の判断
DNA型鑑定で血縁関係がないと証明されれば、父子関係を取り消せるかが争われた訴訟の判決で、大阪家裁と大阪高裁が、鑑定結果を根拠に父子関係を取り消していたことがわかった。いったん成立した親子関係を、科学鑑定をもとに否定する司法判断は、極めて異例だ。


前回も書きましたが、民法772条は、「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。」と規定しています。
「推定する」というのは、実際にどうか不明確な場合にも、とりあえず、そういうものとして扱うということです。
つまり、既婚女性が妊娠したら、生まれてくる子は、反証がない限りその女性の夫の子と扱われます。
これを、「推定される嫡出子」といいます。

推定される嫡出子の嫡出性を争うには、「嫡出否認の訴え」(民法777条)によらなければなりません。
この訴えは、出生を知った時から1年以内に提起しなければなりません。
それを過ぎれば、嫡出否認の訴えを提起することができない=嫡出性を否定できない=推定を覆せない=親子関係が確定する、ということになります。

他方、夫婦の間に子が生まれたとしても、懐胎したのが婚姻前ということもあります。
いわゆる「できちゃった婚」というやつですね。
この場合、民法772条の要件を満たさないため、夫の子と推定されません。
ただし、この場合も夫が別途認知する必要はなくて、戸籍実務上は、嫡出子として扱うことになっています。
これを、「推定されない嫡出子」といいます。

推定されない嫡出子の場合、嫡出性を争うには嫡出否認の訴えではなく、親子関係不存在確認訴訟によることができます。
これには1年という期間制限がないため、いつでも争うことができます。
例の元・光GENJIの大沢樹生氏の件は、ワイドショーなんかをみる限りこのパターンのようです。

ここで、妻が婚姻中に懐胎した子ではあるが、夫の子ではないことが明らかな場合どうなるのか、という問題が生じます。
民法の条文のとおりに解釈すれば、1年を経過すれば嫡出性を否定しえないように思われます。
しかし、そんな杓子定規な解釈では、不都合が生じることがあります。

そこで、明らかに772条の推定が不自然な場合は、772条の推定が及ばないと考えられています。
これを「推定の及ばない子」といいます。

「推定されない嫡出子」が「民法772条の推定が及ばないけど嫡出子」であるのに対し、「推定の及ばない子」は、「民法772条の推定が及ばないから嫡出子ではない子」ということになります。
ややこしいので、混同しないよう注意が必要です。

この、「推定の及ばない子」には、どこまでが含まれるのかは争いがあります。
判例では、夫が戦争中で長期間出征していた間に懐胎した子(これを夫の子と推定するのは不自然)について、嫡出推定が及ばないとしています。
そして、外観上、夫の子である可能性が否定できない(例えば、同居していたり、性交渉があった場合)が、DNA鑑定等によって科学的に父子関係が否定された場合はどうか、という点について、学説も審判例も分かれてきました。
DNA鑑定で親子でないことが分かっているのに、法律上親子関係が否定できないという点に違和感を覚えるかもしれませんが、民法が嫡出否認の期間制限をしたのが、親子関係を早期確定して子の法的地位を安定化させるという趣旨であるとすれば、たとえ真実と違っても、もはや否定できないとすることが子の利益に適うという考え方もできるからです。
というかそもそも現行民法ができた明治時代に、そういう事態が想定されていなかったということでもあるのですが…。

今回報道されたの事案では、生物学的な父親(要するに、不倫相手ですね)に子供が懐いているという事情もあるようで、親子関係を否定する結論がでました。
おそらく上告されているのでしょうが、最高裁の判断が待たれます。
では、今日はこの辺で。

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