2014年1月24日金曜日

NTTの職員は「みなし公務員」なのか

司法書士の岡川です。

NTT東日本の職員がNTT法(日本電信電話株式会社等に関する法律)上の収賄罪で逮捕、起訴されたというニュースを見ていて、「NTT東日本の職員は、公務員とみなされる」と紹介されているのを聞きました。

そこで今日は、「みなし公務員」の話です。

日本の法律では、公務員ではないけど一定の範囲で(主に刑法の適用において)公務員として扱われる、いわゆる「みなし公務員」というものが存在します。

刑法上、公務員の定義は刑法7条にあり、「国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員」とされています。
そして、みなし公務員とは、(公務員じゃないけども)公務員とみなされる職務に従事している人たちをいいます(なお「みなす」の意味については、こちらの記事で復習しましょう)。


公務員じゃない人のうち、誰が公務員と「みなされる」かというと、個別の法律の条文に、「○○の職員は、刑法(明治四十年法律第四十五号)その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす」といった規定が設けられています。
これを「みなし公務員規定」といいます。

この規定が存在する場合、当該職員は、刑法上の公務員にしか適用されない犯罪類型、例えば収賄罪や公務員職権乱用罪の適用を受けることになります。
適用において公務員と「みなされる」からです。


さて、この「みなし公務員規定」は、多くの特殊法人や独立行政法人の根拠法に規定されており、日本銀行や日本年金機構、法テラスの職員なんかも、みなし公務員とされますので、そこで働く職員が賄賂を受け取ったりしたら、刑法197条以下の収賄罪で処罰されることになります。


では、NTT東日本の職員はどうでしょう。
NTT法には、このような「みなし公務員規定」は存在しません。
したがって、公務員と「みなされる」ことはないはずです。

ところが、NTTの公式ホームページでは、
NTT・NTT東日本・NTT西日本においては、公務員ではないものの職務内容が公務員に準ずる公共性を有するとして刑罰適用に関し公務員の扱いを受ける「みなし公務員」とされています。

と書かれています。

(追記:NTTのページは、2014年8月~2015年1月頃に、「公務員に準じた扱いを受ける」と表現が修正されています。「刑罰適用に関し公務員に準じた扱い」というのも、正確ではないのですが)

また、ニュースでもそのように紹介され、新聞(少なくとも読売新聞と朝日新聞と日経新聞)でも「みなし公務員」であると解説されています。

その他、ウィキペディアをはじめとする、ネット上の用語解説のサイトには、みなし公務員の例としてNTT法を挙げるものがわんさか存在します。

しかし、みなし公務員とされる根拠条文を挙げているものは皆無です。

ネット上では、あまりにも当然のように「NTT法に基づいて、NTT職員はみなし公務員である」と紹介されまくっているので、非常に不安で仕方ないのですが、NTT法のどこをどう探しても、みなし公務員規定が見つかりません。


確かに、NTT法には、収賄罪の規定が存在します。
しかしこれは、NTT法という特別法上の収賄罪であって、NTT職員はNTT職員として「NTT法上の収賄罪」が適用されることを意味します。
公務員とみなされて、公務員にしか適用されない「刑法上の収賄罪」が適用されるわけではありません。

例えば株式会社の役員が「会社法上の収賄罪」に問われたり、金融商品取引業者の職員が「金融商品取引法上の収賄罪」に問われたりするのと同様であり、これらの人が「みなし公務員」ではないのと同様、NTT職員が「みなし公務員」なのではありません。
会社の役員がみなし公務員なら、世の中みなし公務員だらけですよ。

また、NTT法22条に「刑法4条の例に従う」とあることを根拠にしているネット上の発言もありましたが、これは、NTT法19条の違反に関する国外犯処罰に関する扱いを定める規定であって、職員を公務員とみなしているわけではありません。


そういうわけで、NTT職員はみなし公務員ではないといえるでしょう。
NTTの公式ホームページに「みなし公務員とされています」と宣言されているのが非常に気になりますが、後で問い合わせてみようかな。


なお、「NTT職員は、みなし公務員である」という法律上の根拠をご存知の方は、ぜひぜひ情報提供お願いします。
気になるので・・・。

(追記:『コンメンタールNTT法』という書籍をご紹介いただきました。そこに、NTT法19条をもってNTT職員を「みなし公務員」というのは不正確である旨が記載されていました。)

では、今日はこの辺で。

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