2014年4月30日水曜日

離婚調停に関与できる資格

司法書士の岡川です

世の中には色んな資格があるもので、法律に規定のある国家資格から、民間団体が認定する謎の資格まで、まさに玉石混淆です(あ、もちろん民間団体が認定する資格でも「玉」のほうもたくさんありますよ)。
司法書士というのも国家資格で、かつ、独占業務(資格がない者が行うと犯罪になる業務)を有する資格です。

直接資格を仕事に活かすかどうかはさておき、資格を取得するために勉強することは知識の幅が広がりますし、もしかしたら思わぬところで何かの役に立つかもしれません。
なので、趣味として色んな資格の勉強をするのは、それはそれでよいと思うのですが(私も、暇なときに色々とりたいなと思っているところです)、「資格を取ったら金になる」と思っていると、まあ世の中そんなに甘くないもので・・・。
今や、弁護士ですら就職難で食えない時代ですからね(新しく法曹資格を取得した人のうちの2割が弁護士登録できずにいるというのが現実)。


それともうひとつ注意すべきが、資格の中身をよく理解するということです。
予備校や通信講座は、資格を取ってもらうこと(というか、資格を取ってもらうための講座を受けてもらうこと)が目的なので、ギリギリな煽り文句で資格を宣伝していることもあります。
雑誌とかネットの記事なんかでは、さらによくわかってない人間が資格の紹介をしていることもあります。

特に、国家資格の関係では、誤解したまま資格とって業務を行うと、ともすれば犯罪に手を染めることになりかねません。


という長い前フリはここまでで、こんな記事(紙面に載ったのはちょっと古いのかな)を見つけました。

定年後、役に立つ資格ベスト7

順位は書かれていませんが、これがベスト7だそうです。

・調理師
・語学関連の資格
・電気主任技術者
・マンション管理士
・社会保険労務士
・社会福祉士
・士資格

調理師と電気主任技術者はさておき、「語学関連の資格」って多すぎて全く絞り込めてないような・・・。
また、「士資格」だって結構いろいろあるし、業務内容はもちろん難易度も法律上の扱い(業務独占か名称独占か等)も丸っきりバラバラです。

そもそも、マンション管理士、社会保険労務士、社会福祉士、これらも全て「士資格」です。
特に社会保険労務士は、いわゆる「8士業」のひとつであり、士業中の士業ですよ。

(※8士業とは、戸籍等の職務上請求を行える8つの隣接法律専門職能の総称。弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、行政書士のこと)

逆にもし「士資格はどれも同じようなもんだ」という強引なまとめかたをするならば、結局ベスト4しか無いことになりますね。


この辺は些細なことなので、受け流すとしましょう。

本当の問題は次の部分。

中村氏によると、弁理士、会計士、行政書士などの難関の「士資格」は組織に残るにしても独立するにしてもつぶしが利くという。「最近は離婚の調停が増え、行政書士のニーズが高まっているようです」(中村氏)


あのう・・・。

行政書士が離婚調停に直接関与したら犯罪なわけですが・・・。


離婚調停は、家庭裁判所で行われます。
家庭裁判所に離婚調停申立書等の書類を提出し、当事者(やその代理人)が調停期日に出頭して話し合いをします。

離婚のような他人の紛争に代理人として介入することは、弁護士の独占業務ですから、一般人はもちろん行政書士も(司法書士も)行うことができません。
また、離婚調停を含めた「裁判所に提出する書類の作成」は、司法書士の独占業務ですから、一般人はもちろん行政書士も行うことはできないのです。

もし、行政書士が業務で他人の離婚調停を代理したりすれば、弁護士法違反で最高で懲役2年の犯罪となりますし、離婚調停に必要な書類を作成するだけでも、司法書士法違反で最高で懲役1年の犯罪です。

理屈としては、家庭裁判所に申し立てる成年後見申立に関与できるのが、司法書士と弁護士に限られるのと同じことですね(→「成年後見制度を利用するには?」)。

離婚調停が増えてニーズが高まっているのであれば、それは行政書士でなくて司法書士(か弁護士)ということになりますね。


司法書士と行政書士の違いはわかりにくいかもしれませんが、「キャリアカウンセラー」という肩書で資格についてコメントするなら、これくらいのことは把握しておいてもらいたいものです。

行政書士は行政書士で社会で求められる仕事を独占業務として行っています(逆にそっちを司法書士が行えば行政書士法違反の犯罪)ので、「役に立つ」と紹介するなら、それをきちんと紹介すべきでしょう。

これは犯罪に関わることですので、そこんとこよろしくお願いします。

では、今日はこの辺で。

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2014年4月28日月曜日

はがきで来る法律(っぽい)文書は全部嘘

司法書士の岡川です。

最近、ちらほらとケータイに架空請求メールが来るようになりました。
もちろん、無視するのが正解なので、さくっと削除して終了なのですが、架空請求は、はがきで来ることもあります。
直接何かを請求するというか、早く連絡しないと大変なことになりますよ的な文面です。
以前、私の家にも来たことがあります。

岡山県内で不審はがき急増 「料金未納で提訴」と架空告知
「訪問販売会社への料金未納で提訴されている」などと架空の告知で不安をあおり、電話連絡を求める不審なはがきが岡山県内で出回っている。県消費生活センターによると、3月から相談件数が急増しており、詐欺の可能性もあるとみて警戒を呼び掛けている。
こういう例は、岡山に限らず全国であると思うので、私からも注意喚起しておきましょう。


まず、「料金未納で提訴 はがき」で画像検索してみると、出るわ出るわ。

民事訴訟通達管理事務局
全国消費者通告センター
全国紛争処理支援センター
仲裁相談センター
法務局認定法人日本消費生活センター
法務局共同事務センター
国民財務管理事務局
全国消費相談支援センター
民事執行管理センター
全国情報管理室
(以下追加)
民事訴訟管理センター
いやぁ、皆さん頑張ってそれっぽい名前考えてますね。
方向性を間違った努力、なかなか微笑ましいことです。

これらは、全部デタラメな団体名ですので、こんなとこから来たはがきは全部破棄してよいです。



その文面を読めばデタラメであることが一目瞭然で、これを真面目に書いてる姿を想像すると笑えてくるシロモノばかりなのですが、急に来たらびっくりする方もおられるでしょう。
しかし、ちょっとした知識があれば、おかしいことがすぐわかります。

本当に訴えが提起されていたら、裁判所から直接訴状が届きます。

その前に別の機関から何らかの書面が届くことはあり得ません。
なぜなら、訴状が提出されたことは、裁判所しか知らないから。

そして、裁判所からの重要な郵便物は、「特別送達」という特殊な郵便物になってきます。
必ず、裁判所の封筒に、「特別送達」と印字されており、かつ、書留郵便となっています。
本人に手渡しなので、郵便のおじさん(お兄さん)に「ここにフルネームでサインお願いします」とか言われます。

裁判所からの書面が、はがきで、郵便ポストの中に放り込まれることは絶対にありえません。


上記のような面白ネーミングの団体から来るはがきには、だいたい次のようなことが書かれています。

・あなたに対する訴状が提出された
・我々は、正当性を確認するために通知している
・あなたから連絡がない場合、裁判所から呼び出し状が来る
・呼び出し状が届くと、出廷しないといけなくなり、出廷しないと差押えされる

確かに、本物の訴状が届いて、それを無視していれば敗訴してしまい、場合によっては差押えをくらうことはあるのですが、それは、訴状が届いたときに対処すべきことです。
届いてからでも十分間に合うくらい余裕はありますし、よくわからない謎の団体に連絡したところで意味がありません。

そもそも、訴状も届かないのに、対応しようがありません。
その訴状は上記の通り書留郵便で来ますから、届いたら確実にわかります。

本当に訴えられたなら、訴状が届くのを待ってから、近くの司法書士事務所なり弁護士事務所に駆け込んだらよいのです。
訴状も届いていない段階で焦る必要は全くありません。

というわけで、裁判関係の書類は、裁判所からの正式な手紙を待ちましょう。
それ以外は、嘘です。

ただし、税金とか年金とかの書類ははがきで来ることがあるので、そちらは慎重に。

では、今日はこの辺で。

2014年4月24日木曜日

認知症患者の家族の損害賠償責任

司法書士の岡川です

認知症の症状のひとつとして、徘徊があります。
夜中や、家族等が目を離した隙に、家を出てどこかへ行ってしまうのです。

そんな病気が元で起こった事件の裁判が昨年大きな話題になりました。

事案の概要はこうです。
2007年、認知症により徘徊していた91歳の男性がJRの電車にはねられました。
同居していた妻がうたた寝をしていた数分の間に、家を出てしまったのです。

人身事故が起こると、ダイヤの乱れや振替輸送のため、鉄道会社には多大な損害が発生します。
JR東海は、その損害の賠償を求め、男性の妻等の遺族に対して不法行為に基づく損害賠償請求をしたのです。
遺族からしてみれば、家族が死んだ上に、損害賠償請求をされるという、正に泣きっ面に蜂の状態ですが、昨年その第一審判決が名古屋地裁であり、妻と長男に対する720万円の損害賠償を命じました。

これに対する控訴審判決が今回出たようです。

認知症で徘徊し線路で事故、遺族の賠償減額 名古屋高裁

徘徊(はいかい)中に列車にはねられ死亡した愛知県大府市の男性(当時91)の遺族に、JR東海が損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が24日、名古屋高裁であった。長門栄吉裁判長は、介護に携わった妻と長男に約720万円の支払いを命じた一審・名古屋地裁の判決を変更し、359万円に減額して妻に支払いを命じたうえ、長男は見守る義務はなかったとして請求を棄却した。

結論からいうと、妻の損害賠償額が359万円に減額され、長男の損害賠償義務が否定されたということです。

長男の責任が否定されたのは良かったですが、依然として妻の責任が認められたのは、非常に酷なことであります。


そもそもなぜ遺族が責任を負うのでしょうか。

これには、民法の規定があります。

重度の認知症患者は、責任能力が否定されます。
民事上の責任能力とは、「自己の行為の責任を弁識するに足りる能力」(民法712条)で、この責任能力が無い者(責任無能力者)は、不法行為に基づく損害賠償責任を負いません。

そのままだと、被害者は「やられ損」になってしまうため、本人が賠償責任を負わない代わりに、民法714条には、「責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」と規定されています。

もっとも、ただし書きで「ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」とありますので、「義務を怠らなかったこと」を証明することで、責任を免れることができます。


未成年者の親は、監護権という監督義務が民法820条に規定されているので、未成年者の法定の監督義務者になります。
他方、「認知症患者の妻」が当然に監督義務者になるという規定は存在しませんが、判例によれば、事実上の保護者も、法定の監督義務者に「準ずる者」として責任を負う場合があるとされています。

【追記】さらに、妻自身に、認知症患者の他害行為を防止する法的な義務が認められた場合、それを怠ったこと自体が不法行為(709条)を構成することもあります。

詳しくは判決文を読まなければわかりませんが、本件では、妻にはその責任が認められ、かつ「義務を怠らなかったとはいえない」と認定されたいずれかの義務違反が認められたことになります(※訂正。下記補足参照)。

【追記2】 地裁判決では、妻は709条に基づく責任、長男は714条に基づく責任が認められましたが、高裁判決では、妻は714条に基づく責任が認められ、長男はいずれの責任も否定されました。


しかし、仮に監督義務があるとしても、認知症患者を24時間監視しなければならないような義務を認知症患者の家族に負わしてよいものか、非常に疑問です。
認知症患者の家族というのは、数分のうたた寝すら認められないのでしょうか。

確かに、ヘルパーを頼んでおけば事故は防げたかもしれませんが、ヘルパーを頼むのもそう簡単ではありませんし、ヘルパーを頼んだところで、24時間を離さないなんてことはできません。
鎖でつないだり、外から鍵のかかった部屋に隔離するわけにもいきません。

あとから「こうすることもできた」というのは、色々指摘することはできるでしょうが、言うは易し・・・です。

本件では、男性に資産があったという事情も考慮されているようで、色んな対策をとる余裕はあったのかもしれません。
その辺の事情はよくわかりませんが、何にせよ、介護現場にいる人間にとっては、なかなか厳しい判決ですね。


この男性の妻が、本件のような事故も補償対象になっている賠償責任保険に加入していればよいのですが・・・。
(賠償責任保険については、自動車保険の記事参照→「加害者側の保険」)

では、今日はこの辺で。

(※補足)
判決の法律構成を勘違いしていたので訂正です。
まだ高裁の判決文を読んでいませんが、地裁判決を読み直してみると、長男に対しては本文で述べた監督義務者(に準じる者)の義務違反を認定し、714条によって賠償責任を認めていますが、他方で、妻に関しては、二人きりのときに目を離したことが注意義務違反(過失)として、709条に基づき、「妻自身の不法行為」が認定されています。
高裁でどういう認定がされたかはまだわかりませんが、 取り急ぎ訂正します。

(※さらに追記)
 高裁判決をざっと読むと、結論としては、妻に対して714条に基づいて責任を認定し、709条に基づく責任を否定しています。
一審判決と法律構成が変わったようです。

(※さらにさらに追記)
最高裁判決が出ました。
妻も長男も損害賠償責任を負わないとして、請求が棄却されました。
→「成年後見人の監督義務(名古屋の認知症患者の列車衝突事故に関する最高裁判決を踏まえて)

2014年4月23日水曜日

仮差押

司法書士の岡川です。

前回、「差押え」について書きました。
物や権利の処分を制限する「差押え」をするには、その前にまず、判決などの「裁判所のお墨付き」(債務名義)を取得する必要があります。
差押えをしようとしている人が、本当に債権を有しているということを確定するためです。

しかし、「金を貸したことは確実で証拠もある」「それなのに金を返してくれない」「今なら相手の財産を把握できている」というような場合、一刻も早く債務者の財産を確保しておきたいものです。
放っておいたら、使われたり隠されたりするかもしれませんし、そうなれば債権を回収することが困難になります。

そこで、こういう場合に金銭債権を保全するために、暫定的に債務者の物や権利を確保する方法があります。
これを「仮差押」といいます。

仮差押の段階では、本差押と違って、競売にかけて売ってしまうことはできません(あくまでも「仮」なので)が、とりあえず債務者の処分を禁止することができるので、その間に訴訟を提起してじっくりと判決を取りにいけばよいのです。


そんな便利な制度ですが、そう簡単に使えるものではありません。

仮差押をするには、ある程度確からしいと判断できる証拠を裁判所に提出しなければなりません。
全く何の証拠もなしに、「あいつの財産を確保してほしい」といっても通らないということです。
まあこれについては、何とかなることも多いでしょう。

それよりも問題は、担保が必要だということです。

またまだ最終的な判断が出ていない段階で他人の財産の処分を禁止するわけですから、相手に損害を与える可能性もあります。
仮差押をしたはいいが、後に判決で債権が認められなかったりすれば、「ごめんなさい」では済まないこともあります。
その場合は、相手に対し、逆に損害を賠償しなければなりません。

そのため、仮差押をするには、裁判所から担保を立てるよう求められるのが一般的です。
事案にもよりますが、仮差押対象財産の2~3割程度を納める必要があります。
つまり、100万円の預金債権を仮差押しようと思えば、20~30万円くらい用意しないといけないわけですね。

そのため、仮差押というのは、便利な制度ではあるものの、それほど頻繁に利用されるものではありません。

もちろん、事案によっては、担保を立ててでも、速やかに財産を押さえておく必要がある場合もありますので、「そういう制度もある」ということは頭に入れておくとよいでしょう。

では、今日はこの辺で。

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2014年4月22日火曜日

「差押え」とはどういう制度か?

司法書士の岡川です。

商船三井の保有する船舶が中国の企業に差し押さえられたという事件が、日中の外交問題となっております。

戦後賠償について取り決めた日中共同声明との関係はどうなってるのか?とか、何で時効が成立してないんだ?とか、疑問点は多々あるのですが、そういう細かいことはさておき、もっと基本的なところを押さえましょう。

というわけで、今日のテーマは、


「差し押さえられた」ってどういうこと?


です。

なお、私が中国法についてはあまり詳しくないのと、このブログの読者が中国法に基づく差押えに遭遇する事案はそうそうないと思われることから、専ら日本法の話をします。


「差押え」というのは、最も一般化した定義では、「国家権力が物や権利の処分を禁じること」ということになります。

この差押えには、大きく分けて、民事手続における(民事執行法に基づく)差押えや、税法上の差押え、刑事手続における(刑事訴訟法に基づく)差押えの3つがあります。
なお、今話題の商船三井の事件は、民事手続きにおける差押えです。

1.民事手続における差押え

金銭債権を有する人がその権利を満足させる(実際に現金を手に入れる)にはどうすればよいでしょうか。

債務者を脅して財布を奪っ・・・それは自力救済といって、不法行為でしたね。


最もスタンダードな方法でいうと、まずは、訴訟を提起(相手を訴える)して、裁判所の判決を獲得することです。
判決が出ても支払わない相手に対しては、「判決書」という「裁判所のお墨付き」(裁判所のお墨付きのことを「債務名義」といいます)を持って、裁判所や執行官に申し立てることで、強制執行の手続に移行します。

この強制執行手続で行われるのが、「差押え」です。
すなわち、債務者の所有する物や権利の処分を禁ずる強制執行の方法を「差押え」といいます。

不動産を差押えられたら、差押えの登記が入るので、勝手に売ることができなくなります。
不動産以外の物は、執行官に取り上げられたり、使用を許可された場合も「差押物件標目票」という紙を貼られて、やはり勝手に売ることはできません。
船舶の場合、差し押さえられたら、出航が禁じられます。

権利を差し押さえることもできます。
例えば、債務者が第三者に対して有する債権(債務者が仕事をしていれば、会社に対する賃金債権など)を差し押さえることもできます。
差し押さえられた債権は行使することができなくなります。

何のために差し押さえるのか?
嫌がらせか?

もちろん紙をペタペタ貼るのが目的ではなく、最終的には、差し押さえた物を競売にかけて、売却代金から債権を回収するわけです。
また、金銭債権を差し押さえた場合は、差し押さえた債権者自身が第三者に対して請求することができるようになります。


このように、民事手続における「差押え」は、金銭債権を回収するための手段というわけです。


2.税法上の差押え

これも民事上の差押えと似たようなもので、国などが税金滞納者の物や権利の処分を禁止する手続です。
最終的には、差し押さえた物を競売にかける等して、税金を回収します。

民事手続と違うのは、徴税職員は、いちいち裁判所に訴訟を提起したり強制執行の申立てをしたりすることなく、直接差押えができるということです。
税金の滞納は、いきなり差押えを食らうので、非常に怖いのです。
注意しましょう。


3.刑事手続における差押え

これは、上記2つと少し違って、犯罪捜査のためのものです。
捜査機関(警察等)が証拠を強制的に押収することを差押えといいます。

差押えは、裁判所の令状に基づいて行われます。

捜査のために差し押さえるので、当然ながら差し押さえた物を競売にかけたりすることはありません。


以上のとおり、差押えにも色々あります。
2と3は国家機関が主体なので、一般市民は、差し押さえられることはあっても差し押さえることはありません。


なお、繰り返しではありますが、民事手続において、いくら債権を有していても「相手が金を払ってくれない」というだけで、いきなり債務者の預金を差押えたりすることはできません。
きちんと、裁判手続を経て、何らかの「裁判所のお墨付き」を取得する必要があります。


ふと「そうだ、差押えしよう」と思ったら、お近くの司法書士までご相談ください(宣伝)。
裁判所のお墨付きの取得から、強制執行の申立てまで、司法書士がお手伝いします(宣伝)。

では、今日はこの辺で。



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2014年4月21日月曜日

債権と債務

司法書士の岡川です。

不法行為の話をしたので、ここでついでに債権の話でも。

物を直接支配する権利である「物権」に対して、物ではなく、人に対して何かを要求する権利のことを債権といいます。
例えば、売買契約を締結すれば、売主は、買主に対して「金を支払え」という権利(代金債権)が発生します。
債権を有する者を「債権者」といいます。

債権と対になる概念が「債務」で、これは逆に、債権者に対して何かをする義務のことをいいます。
債務を有する者を「債務者」といいます。

一般的には、「請求権」というのとほぼ同じと考えてもいいのですが、請求権といえば、物権に基づく請求権も含みます。
例えば、自分の土地を不法占拠された場合、土地明渡請求権が生じますが、これは所有権に基づく請求権なので物権です。


民法において、債権の発生原因としては、大きく4種類あります。

まずわかり易いのが「契約」ですね。
契約を締結すれば、債権債務が発生します。
売買契約のように、互いに債権債務を有する場合(売主が代金債権を取得し、買主が引渡債権を取得する)や、贈与契約のように、一方的に債権債務を生じさせる場合があります。

その他、契約のような当事者の合意がなくても生じる債権(法定債権)として、事務管理、不当利得、不法行為に基づく債権があります。
不法行為は以前紹介しました。

不当利得は、法律上の原因がないのに利得を得た者に対して、それを返せという権利(不当利得返還請求権)が発生する制度です。
よく耳にする「過払金請求」というのが、「弁済し過ぎた金を返せ」という請求なので、これは不当利得に基づく債権です。

あまりにも「過払金請求」というものが有名になりすぎましたが、典型的には、例えば売買契約が無効になったとき、買主が「払った代金を返せ」というようなのが不当利得に基づく債権です。

事務管理というのは、「義務なく他人のために事務の管理」をすることです。
イメージし辛いかもしれませんが、例えば「お隣が留守にしているときに、台風が来て、窓が壊れてしまっていたので、修理してあげた」というようなものです。
教科書なんかでは典型例として紹介されますが、そんな場面にそうそう出くわすものではありませんね。
この場合、事務管理にかかった費用を請求する債権が発生します。


「債権」とか「債務」というと、何か難しい法律用語と思うかもしれませんが、単純に「人に対する権利と義務」のことだと理解しておけばよいでしょう

では、今日はこの辺で。

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2014年4月18日金曜日

「不法行為」とは何か

司法書士の岡川です。

そういえば、そもそも「不法行為」とは何かについて書いてなかったですね。

不法行為というのは、原則として民法709条に規定されている、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害」する行為をいいます(さらに、その特則として、責任が加重されたものも含む)。

「違法行為」ってのとは違うのか?というと、似て非なるものです。
「違法行為」は、「違法な行為」という程度の意味ですが、「不法行為」というのは、民法709条以下に規定されている民法上の概念です。
つまり、「不法行為」は、「不法な(違法な)行為」の総称ではなくて、「不法行為」でひとつの固有名詞なのです。

名前から明らかなように、不法行為が違法な行為であることは確かなのですが、そのうち、民法等に規定された一定の要件を満たした行為のみを指すことになります。


ちなみに、一定の要件を満たす違法な行為を指す刑事上の概念として、「犯罪」という概念があります。
ある違法な行為が、犯罪であり、かつ不法行為でもあることは、少なくありません。
その行為の刑事責任について考えるときは「犯罪」として扱われ、民事責任について考えるときは「不法行為」として扱われるというわけです。

もちろん、犯罪と不法行為では、それぞれ別の法律に規定され、要件が異なるので、その範囲は一致しません。
犯罪だからといって不法行為が成立しないこともあるし、逆に不法行為だからといって犯罪にはならないことも多くあります。


さて、ある行為が不法行為の要件を満たした(不法行為が成立する)場合、どうなるのか。
すなわち不法行為の効果とは何かという話です。

犯罪の効果は刑罰ですが、不法行為の効果は、「損害賠償」です。
すなわち、不法行為をした者は、損害を与えた相手対して、その損害を賠償しなければなりません。
逆にいえば、不法行為の被害者は、加害者に対して損害賠償請求権を取得します。

「犯罪」の効果が「国家による刑罰」という「国と個人」の関係であるのに対し、不法行為の効果は、「加害者から被害者への賠償」という「個人と個人」の関係になります。

犯罪を規定する刑法が「公法」に分類され、不法行為を規定する民法が「私法」に分類されるのと対応していますね(→「私法と公法」)。


では、今日はこの辺で。

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2014年4月17日木曜日

自力救済禁止の原則

司法書士の岡川です。

自らの権利の実現(回復)のために、法的な手続きを経ず、実力行使(「私力の行使」とも)を行うことを「自力救済」といいます。

例えば、賃貸住宅の借主が家賃を滞納しているときに、家主が実力をもって物件を明け渡させるような場合です。
具体的には、借主の留守中に家に入って中の荷物を全部外に出し、鍵も付け替えてしまうような方法です。


近代法秩序の下では、権利の実現は、法的(主に司法)手続を通じて行うことが要請されており、個人が勝手に強制的な権利実現を図ることは禁じられています。
これを「自力救済禁止の原則」といいます。


もちろん任意の和解交渉によって、双方合意の下で権利を実現することは何の問題もありません。
上記の例でいえば、和解契約に基づいて、借主に退去してもらうというのは自由です。

問題は、強制的に相手を賃貸住宅から退去させたいときで、この場合は、「建物明渡請求訴訟」を提起したり、民事調停を申し立てるなど、裁判所の手続きを経たうえで、判決書や調停調書などの「裁判所のお墨付き」に基づいて強制執行を行わなければなりません(色々方法はありますが、代表的でわかり易いのが訴訟ですね)。

いちいち法的手続きを経なければいけないというのは、面倒な面もありますが、それは、我々が無秩序な社会ではなく近代の法治国家で生きているからです。
皆が法に基づいて行動することが要請され、法的手続を経ない実力行使が禁止されることで、自分たちの身も守られているわけです。

したがって、面倒だからといって司法手続を飛ばして実力行使に出れば、権利行使した側が逆に違法となります。

上記のような実力を持って借主を退去させる、いわゆる「追い出し行為」は、不法行為として損害賠償の対象となります。
「家賃滞納」で訴える権利を持っている側が逆に不法行為で訴えられるわけです。

そうなったら、家主は賠償責任を負って損をするし、借主は不法行為の被害で損をする。
誰も得をしませんね。


さて、例によって「原則には例外がある」もので、自力救済が例外的に認められる場合もあります。

すなわち、「法律に定める手続によったのでは、権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能又は著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情が存する場合においてのみ、その必要の限度を超えない範囲内で、例外的に許される」というのが判例です(最判昭和40年12月07日民集19巻9号2101頁)。
ま、この判例は、自力救済を認めなかった判例なんですけどね。

要するに、法的手段では権利の実現ができない場合、現状維持のために緊急的に行う最低限の実力行使は認められることもあるよ、ということです。

例えば、今まさにあなたの自転車が盗まれようとしている場面に出くわした場合、それをみすみす見過ごして、きちんと動産引渡請求訴訟を提起しろ、というのはあまりにも酷なわけですね。
逃げられたら、もうどこの誰を訴えればいいのかも分からなくなります。
そのような場合は、自力救済(その場で奪い返す)でも認めなければ、権利者を保護できません。


そのような例外的な場合を除けば、基本的に自力救済は違法です。

法的手続は色々ありますので、くれぐれも実力行使だけはやめましょう。


では、今日はこの辺で。

(追伸)
とかいう記事を書いてたら、ちょうど追い出し屋の裁判が・・・。
何このタイミング。
こういう事態になっちゃうんで、いくら家賃滞納で困っても自力救済はやめましょうね、ほんと。
家賃滞納したら家財撤去され 「追い出し」違法と提訴
(追伸の追伸)
よく読むとこの事件、保証会社の事案ですね。
保証会社は賃貸借契約の当事者(賃貸人)ではないため、自力救済ですらない単なる不法行為と認定されます。


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2014年4月16日水曜日

養子縁組

司法書士の岡川です。

今日は、知っているようであまり詳しく知らない養子縁組という制度について。

養子縁組とは、実親子関係にない者同士で法律上の親子関係を形成する制度です。
(場合によっては、実親子関係があるのに重ねて養子縁組をすることもあり得ます)

普通養子縁組と特別養子縁組があるのですが、特別養子縁組というのは文字通り少し特別なものなので、手続は厳格に定められています。
家庭裁判所の手続きが必要なのです(長くなるのでまた別の機会に→「特別養子縁組」)。

他方、普通養子縁組をするには、何らかの複雑な手続きとか厳かな儀式をする必要はなく、基本的には 市役所に届出をすればそれで完了です。
婚姻と同じようなものですね。

まあ、それだけの制度なのですが、養子縁組に関して思いついたことをざっと羅列してみましょう。

  • 養親は養子より年上であればよい。なので、「1歳年上の養親」とか、「90歳年下の養子」とかでも何の問題もない。
  • 年下であっても、尊属を養子にすることはできない。たとえば、自分の叔母(傍系尊属)が自分より年下であったとしても、叔母を養子にすることはできない。逆にその叔母を養親にすることもできない(自分が年上なので)。
  • 親族同士で養子縁組も可能。たとえば、弟が兄の養子になることもできる。
  • 未成年者は養親となることができない。
  • いわゆる「婿養子」というのは、必ずしも法律上の養子を意味せず、俗に「妻側の姓を名乗る結婚」のことを指す場合も多い。夫が、結婚するともに、妻の親と養子縁組をすれば養子である。
  •  子のいる相手と再婚した場合、相手の連れ子と自分の間には親子関係は成立しない(妻の子、あるいは夫の子にすぎない)。親子関係を成立させるには、養子縁組が必要。
  • 養子は、ほぼ実子と同じ法的地位にある。養子だからといって、一段下にいるということはないし、養親子間で結婚することもできない。
  • 相続税対策で、孫を大量に養子にしても、必ずしも思い通りの節税にはならない可能性がある。もめる可能性もある。事前に専門家(税金の問題であれば税理士)に相談のこと。
養子縁組自体は難しい手続きではありませんが、縁組することでどのような効果が生じるのかは、事前にきちんと確認しておくのがよいでしょう。

では、今日はこの辺で。


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2014年4月15日火曜日

30年前の事故の損害賠償請求が認められた理由

司法書士の岡川です。

交通事故などの「不法行為」に基づく損害賠償請求権は、一定の期間行使しないことで消滅します。

一定の期間とは、ひとつは、損害を知ってから3年の消滅時効
もうひとつが、不法行為から20年の除斥期間です。

消滅時効と除斥期間の違いの説明はまた別の機会に譲るとして、とにかく、この期間を過ぎれば、損害賠償請求をすることができません。


さて、これを前提にして、30年前の事故に起因する後遺障害に対して、損害賠償請求が認められたというニュースです。

30年前の事故で1億6500万円の賠償命令 頭強打、成人後に障害判明(産経新聞)
事故は昭和58年6月に発生。東京都杉並区の国鉄高架橋の防護壁からブロックが崩れ落ち、乳母車に乗っていた男性の頭を直撃。男性は専門学校を卒業後、知的障害4級と認定された。当時は後遺障害との認識はなかったが、平成21年に病院の検査で高次脳機能障害と診断され、両親とともに機構を提訴した。
機構側は訴訟で、障害の原因が事故であることは争わず、損害賠償請求権は時効で消滅していると主張していた。
なぜ30年前の事故に起因する障害について、賠償請求が認められたのでしょうか。
産経新聞の記事を読んでみても、サッパリわかりません。

実際の判決文を見ていないから正確なところはわからないのですが、実は、読売新聞と時事通信の記事を併せ読むことで全貌が明らかになります。

まずは、時事通信
2006年に23歳で知的障害の認定を受けており、機構側は高次脳機能障害の診断以前に後遺症と認識できたとして、09年の提訴時点で時効(3年)が成立するなどと主張していた。
吉田徹裁判長は「高次脳機能障害の症状が表れるのは、知的障害よりも遅くなると考えられる」と述べ、機構側の主張を退けた。
というわけで、提訴したのは2009年ですが、損害(高次脳機能障害)を知ったのは「提訴の3年前(2006年)よりも前だったとはいえない」という認定のようです。
これで、まず3年の消滅時効の問題はクリアです。

そして、読売新聞
機構側は事故が障害の原因と認めたが、89年には障害が出ているとし、「20年の除斥期間が過ぎた後の提訴で、賠償請求権は消滅している」と主張。しかし、判決は「過去の健康診断などからは、89年の時点で障害が発症していたとは言えない」と指摘。
というわけで、提訴の20年前である1989年の時点では、まだ損害(高次脳機能障害)は発生していないと認定しています。
これで、20年の除斥期間の問題もクリアしたということです。

この2点は両方揃って初めて、この事件の判決内容が理解できるのですが、何でどのマスコミも同一記事内に両方書いてくれないんでしょう?

不親切ですね~。

では、今日はこの辺で。


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2014年4月14日月曜日

司法書士は法定後見だけ?

司法書士の岡川です。

以前、行政書士の先生から、こういう質問を受けました。

「司法書士さんって、法定後見に力を入れていて、任意後見はあまり積極的でないと聞きましたが、そうなんですか?」

どこでそういう誤解が生じたのかは分かりませんが、「司法書士は法定後見に積極的で任意後見に消極的」ということはありません。

司法書士会やリーガルサポート(司法書士による、成年後見制度の専門家団体)も、どちらかを推奨していることもありません。

成年後見制度は、法定後見制度と任意後見制度から成り立っており、一般論として、どちらが優れているとか、どちらが望ましいとかいうものではありません。
それぞれに特徴があるため、法定後見が適切な方もいれば任意後見が適切な方もいます。

任意後見契約は「契約」なので、判断能力の低下が著しい場合(意思能力に疑義が生じるような場合)は、利用できませんし、逆に判断能力が低下していない段階では、法定後見制度は利用できません。

判断能力の低下の度合いや、経済状況、家族関係などなど、高齢の方や精神上の障害を持った方のおかれた状況は様々ですので、どの制度を選ぶかはケースバイケースといえます。
ご本人の事情から判断して、その方に合った制度を利用するので、任意後見に適した方であれば、もちろん任意後見を選択することになります。実際に、私も司法書士として任意後見契約を受任しています。


「司法書士=法定後見」というイメージになるのは、いくつかの理由があるかもしれません。

まず、そもそも法定後見と任意後見では、法定後見の方が圧倒的に件数が多いことが挙げられます。
ざっと100倍くらいの差があります。
絶対数にかなりの差があるので、司法書士が受任するのも法定後見の方が多いわけです。


それから、法定後見に関しては、司法書士は、弁護士・社会福祉士と並んで、家庭裁判所に成年後見人等の候補者名簿が置かれているという事情があります(この3士業による後見人を専門職後見人といいます)。
そのため、司法書士が法定後見を受任する機会も多くなります。

もうひとつ大きな理由が、司法書士は、家庭裁判所に対する後見開始申立書類の作成をすることができるということです(裁判書類作成業務)。
逆にいえば、司法書士以外はこれができないという事情があります。

裁判書類作成業務は、司法書士の独占業務なので、司法書士の資格を持たない人が業務として行うことは犯罪です(弁護士は除く)。
そのため、法定後見を業務として取り組むには、司法書士か弁護士の関与が不可欠なのです(参照→「成年後見制度を利用するには?」)。

つまり、司法書士は、法定後見でも任意後見でも、特に何の制約も受けずに依頼者に提案することができるのに対し、司法書士以外の士業者が法定後見に取り組むには、「申立て」というハードルがあるわけです。
「司法書士以外の士業者」が任意後見に重点を置くことになれば、相対的に司法書士は法定後見を重視しているように見えるのかもしれません。


こんな感じで、司法書士は実際に多くの法定後見に取り組んでいますが、任意後見も別に消極的であるわけではありませんので、任意後見のご相談も、司法書士までどうぞ(宣伝)。

では、今日はこの辺で。


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成年後見シリーズ
第1回「成年後見制度入門
第2回「法定後見の類型
第3回「任意後見契約について
第4回「後見終了後の問題
第5回「後見人には誰がなるか?
第6回「成年後見制度を利用するには?
番外編「成年後見の申立てにかかる費用
番外編2「成年後見の申立てにかかる時間
(このほかにも、成年後見についての記事はありますので、右上の検索窓で検索してみてください)

2014年4月11日金曜日

少年法改正

司法書士の岡川です。

少年法の改正法が本日成立しました。

改正少年法:成立 厳罰化、有期上限20年に 

改正により、有期刑の上限は20年に、不定期刑の上限も「10年以上15年以下」にそれぞれ引き上げられ、従来より重い刑を科すことが可能となる。不定期刑の幅が広がりすぎないようにする規定も設けられた。
少年法は、少年の更生のため、刑法に規定された法定刑よりも軽いを科すことができるよう規定しています。

特に、少年が18歳未満の場合、死刑相当の犯罪には無期刑が科されることになり、無期刑相当の犯罪に対しては、有期刑が科されます(少年法51条)。

また、有期刑相当の犯罪に対しては、「何年以上何年以下の懲役に処する」といった不定期刑を科すこともできます。
これは、確定した期間を定めることなく、罪を犯した少年の更生の度合いによって柔軟に刑期を決めるためです。


さらに、少年法に定められた有期刑や不定期刑の上限は、通常の刑法の法定刑よりも軽くなっています。


ところで、何年か前の刑法改正により有期刑の上限が引き上げられたのですが、少年法のほうは特に上限引き上げなどの改正はされませんでした。
そのため、刑法に定められた通常の刑期と、少年法に定められた刑期の差が大きくなっていたのです。

今回の改正は、その差を埋めるためのものです。


少年法に限らず、刑罰を厳しくすればするほど犯罪が減るということはありません。
ただ、適正な刑罰を科すことで犯罪を抑制しようとするのが法の存在意義であるなら、「軽すぎる」のはやはり望ましくありません。
自然科学と違って、適正な刑量というのは、実験などで調べることは困難ですので、本当に適正化されたかどうかはわかりません(まだ軽いかもしれないし、厳しすぎるかもしれない)が、今回の改正が少年犯罪の抑止につながればよいですね。

では、今日はこの辺で。


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2014年4月10日木曜日

違法性の意識

司法書士の岡川です。

最近話題の悪意があるとかないとかの話で思い出したので、「違法性の意識」の話でも。
ちょっと専門的な話になりますが、これを知っていると、犯罪報道をより深く理解できるようになるかもしれません(ならないかもしれません)。

「違法性の意識」とは、刑法における概念なのですが、「法律上許されないことであるという意識」のことです。
この「違法性の意識」の有無が犯罪の成立に影響を与えるのか、という問題があります。

具体的には、「そんな法律があるとは知らなかった」という場合(法の不知)や、「法律は知っていたが、自分の行為がその法律に当てはまるとは思わなかった」という場合(あてはめの錯誤)に生じる問題です。

この問題については、いくつかの説が分かれています。

1.違法性の意識不要説

「犯罪の成立には違法性の意識は不要である」という説です。
判例は、一応この立場をとっていると考えられています。
もっとも、下級審ではこれと異なる裁判例も多数存在し、また、最高裁も他の説を意識した判決を出したりしているので、まだまだ流動的ではあります。

2.厳格故意説

1の説とは正反対の結論を導く立場で、「故意の成立には違法性の意識が必要である」とする説です。
この説は、「違法性の意識」が故意の要素だと考え、これを欠けば故意が否定されると考えるものです。
要するに「これが違法だとは知らなかった」という主張が認められれば、「故意が無かった」となり、結論的に犯罪(故意犯)が成立しないことになります。
その結論の不当性などから、(有力な学者が採用しているものの)非常に人気のない少数説になっています。
なお、ここでいう「厳格」とは、「厳しい」という意味ではなくて、「首尾一貫した」という意味です。

3.制限故意説

2の説と同じく、故意の要素として考慮するものですが、「故意の成立には違法性の意識の可能性が必要である」とする説です。
つまり、違法性の意識が無くても、故意の成立(=犯罪の成立)に影響は無いが、しかし、違法性の意識の可能性すらない場合は、故意を否定するというものです。
厳格故意説が「首尾一貫した故意説」であるのに対し、その内容を修正した(制限した)故意説というわけです。
これは、結論的にも穏当なもので、伝統的な学説(かつての通説?)なのですが、故意の要素として「可能性」というものを含めることに疑問と批判が集中しておりますね。

4.責任説

2と3が違法性の意識(の可能性)を「故意」という枠組みの中で考えていた「故意説」だったのに対して、「故意」の枠組みを越えて「犯罪の成立には違法性の意識の可能性が必要である」という説です。
すなわち、制限故意説と同じく、「違法性の意識の可能性」を考慮しますが、これを「故意の要素」とはせずに、故意とは別個の、独立した責任要素と考えます。
違法性の意識の可能性を欠いた場合でも故意は問題なく成立するが、責任が否定されるということです。
結論的には、制限故意説とほぼ同じですが、責任説は、過失犯の場合も同じ枠組みで考えることができます。
これが近時の有力説(通説?)です。


あと他にも細かい説は色々分かれているのですが、大まかにはこの4つですね。
そして、見てのとおり、2の厳格故意説という少数説を除けば、「違法性の意識を欠いていても犯罪は成立する」という点で一致します(あとは、「意識できる可能性すらなかった場合に犯罪は成立するか」という点で結論が異なる)。

よく不祥事を起こした偉い人が「違法性を認識していなかった」と言い訳しますが、「違法性の意識が無かった」ということは法律的には全く何のいいわけにもなっていないということが分かりますね。

言い訳したいときは、きちんと事実認識自体を否定しましょう。

では、今日はこの辺で。



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2014年4月9日水曜日

昏睡強盗?

司法書士の岡川です。

今日はこんなネタ。

連続昏睡強盗か、女追う=目黒、品川で被害-警視庁
東京都目黒区と品川区で昨年、男性が若い女に眠らされている間に現金などを盗まれる被害が相次ぎ、警視庁が同一の女による連続昏睡(こんすい)強盗事件の可能性もあるとみて捜査していることが9日、同庁への取材で分かった。
睡眠薬入りの酒を飲まされたようです。
私には見ず知らずの相手と自宅で飲むという神経が理解できないのですが、それより何より、


強盗

ではありません。

強盗

です。
発音すればどちらも「こんすい」ですが・・・。


各種マスコミが揃いも揃って「昏睡強盗」と書いていますが、刑法239条に規定された犯罪の罪名は、「昏強盗罪」です。

間違えないようにしましょう。


ちなみに、昏酔強盗罪は、「強盗」とありますが、殴ったり蹴ったり脅したりは要件ではありません。
その代わりに、酒や薬などで昏酔させることが要件となっています。

昏酔させたうえで、コッソリ金品を盗んだら、窃盗ではなく強盗になるということです。


では、今日はこの辺で。


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2014年4月8日火曜日

「果実」の意味

司法書士の岡川です。

日常的に使われる日本語と、法律用語では意味が異なることがある、ということを書きました(→「『悪意』の意味」)が、「果実」というのもその典型例ですね。

「果実」 とは、一般的には果物(フルーツ)のことです。

ところが、法律用語で「果実」をフルーツの意味で用いることは少数です。

民法には、次のような規定があります。

物の用法に従い収取する産出物を天然果実とする。(民法88条1項)
物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物を法定果実とする。(民法88条2項)

これらが全て果実です。

では、具体的には何が果実なのでしょうか。

果樹園のリンゴは、「物の用法に従い収取する産出物」なので、天然果実です。
ここまでは、日常の用語と共通。

ところが、法律用語では、畑で採れたレタスも果実です。
 「実」である必要はないのです。

さらには、採卵用のニワトリが生んだ卵も、乳牛から搾った牛乳も果実です。
植物から採れる必要もありません。

そのうえ、鉱山からとれるダイヤモンドだって果実です。
生物から産出する物である必要もないのです。

ここまでは、天然果実です。
そして、「果実」には、法定果実も含まれます。

法定果実とは、「物の使用の対価として受けるべき金銭」なので、例えば、「賃貸物件の賃料」などをいいます。
「賃料」が果実なのです。

そして、法律上の紛争というのは、リンゴやミカンで起きるよりも、賃料などの金銭トラブルのほうが圧倒的に多いので、法律用語としての「果実」とは、法定果実を指すことが多いのです。


法律用語を作るときに、もうちょっとどうにかできなかったのか疑問ですが・・・。

では、今日はこの辺で。

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2014年4月7日月曜日

一物一権主義

司法書士の岡川です。


物を直接支配する権利を「物権」といいますが、物権に関して、「一物一権主義」という原則があります。
原則なので例外も多々ありますが、それはともかく、そういう原則があります。
この一物一権主義とは何か、というと、これがまた複数の意味で使われる用語でして、初学者を混乱させるものです。

まず、「同一物に対しては、同一内容のの物権はひとつしか成立しない」という意味で使われます。
これは、物権の排他性を表します。
例えば、あなたが土地を持っているとすれば、その土地の所有権はあなたに帰属します。
このとき、その土地には、あなたの所有権の他に別の所有権が同時に成立することはありません。
つまり、「あなたの所有物でありながら、かつ、他の人の所有物でもある」という状況にはならないということです。
そうなると権利関係が複雑になってしまうからです(「共有」については、いろんな説明の仕方がありますが、とりあえず、一物一権主義の例外だと考えておけばよいでしょう)。


次に、「ひとつの物権の客体は、ひとつの独立した物である」という意味でも使われます。
これは、物権の単一性や独立性を表します。
つまり、原則として「リンゴ5個に対する所有権」とか「車の後部座席の所有権」という物権は成立しないことになります。
リンゴ1個1個に所有権が生じますし、車の所有権は車の全体に及ぶのです。


ただし、この原則はかなり緩やかなものです。
例えば、「倉庫内のリンゴ一切」を一括して担保に入れたい場合、全体に「譲渡担保権」という担保物権を設定する方法が認められています(これを集合物譲渡担保とか流動動産譲渡担保といいいます)。
また、土地の一部を譲渡する(その一部だけ所有権を移転する)ということも可能です。
もっとも、土地の一部を譲渡しても、それを登記することはできないので、その部分の名義を自分のものにしようと思えば一筆の土地を、複数の土地に分ける(分筆する)必要があります。



一物一権主義は、民法の基礎的な知識なので、法律を勉強する人は知っておくべき概念です。
とはいえ、そんなに難しい概念じゃないので、「色んな意味がある」「厳格に貫かれる原則ではない」ということさえ頭に入れておけば、何となく理解できるでしょう。
そして、何となく理解しておけばそれで足ります。
では、今日はこの辺で。

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2014年4月4日金曜日

承諾殺人罪

司法書士の岡川です。

島根県で女子大生が承諾殺人罪で逮捕されたようです。

承諾殺人容疑で女子大生逮捕=31歳男性死亡-島根県警

刑法とは、法律によって保護される利益(法益)を守るためにあります。
他人の法益を侵害する行為を「犯罪」として規定し、それに罰則を設けて抑止しているわけです。

そうすると、基本的には、法益を放棄すれば、犯罪を成立させる意味がありません。

例えば、持ち主が「自由に持って行っていいよ」と言ったパソコンを持って行ったとしても窃盗罪は成立しませんし、国会の委員会において突如大声で健康状態を尋ねる癖を持つ国会議員が、その支持者の求めに応じて顔面を平手で殴打したとしても暴行罪は成立しません。

このあたりの説明については、過去にも書いたので参照(→「痴漢サイトなりすまし事件」)。


さて、そんなわけで、原則として被害者の「同意」があれば犯罪が成立しないのですが、例外として、「生命」という法益については、刑法は厳しい規定となっています。
すなわち、人を殺した場合、いくら被害者の同意があっても犯罪成立が否定されません。

もし、被害者が殺されることを承諾していた場合、「承諾殺人罪」が成立することになります。
あるいは、被害者が「殺してくれ」と頼み、それに応じて殺した場合、「嘱託殺人罪」が成立します。

また、他人の自殺を教唆したり幇助することも自殺教唆罪や自殺幇助罪が成立します。

真の同意がなければ、場合によっては殺人罪が成立することもあり得ます。

これらは、殺人罪より罪は数段軽いのですが、それでも犯罪は犯罪です。
つまり、「生命」という法益は、完全に自由に放棄することができないということになります。

日本では、本人が1人で自殺すること自体は犯罪ではありません。
当然、自殺未遂罪もありませんので、死にきれなかったとしても処罰されることもありません。
いくら「生命」が大切だといっても、「自殺未遂をした者は死刑」という規定があれば本末転倒です(ただし、自殺を違法とする立法例も存在します)。

しかし、「他人の死」に関与することは許されない、というのが刑法の立場です。
たとえ本人が望んでいてもです。


自殺、あるいは自死といういい方もしますが、死を望んでいる人たちも、誰しも好き好んで死にたいわけではありません。
それを助長する行為はすべきではないということでしょうね。

「殺してくれと言われたから殺した」「殺していいと言われたから殺した」というのは、簡単に許されるものではないのです。

では、今日はこの辺で。

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2014年4月3日木曜日

「悪意」の意味

司法書士の岡川です。

日常的に使われる日本語と法律用語とでは、同じ単語でも意味が異なるということはよくあります。
例えば、普通「社員」といえば、会社に雇われている従業員(会社員)のことをいいますが、法律用語としての「社員」は社団の構成員をいい、株式会社であれば社員とは株主のことです。

同じく、よく例に挙げられるものとして、「善意」「悪意」という法律用語があります。

日常的に使われる日本語としては、善意とは「親切心」とか「好意」のような意味、悪意とはその反対で「害意」とか「悪気」の意味があります。

ところが、法律用語の「善意」「悪意」は、善悪の意味は含まないことが一般的です。
すなわち、この場合、

「善意」とは、単に「知らないこと」
「悪意」とは、単に「知っていること」


を意味するのです。
例えば、条文に「善意の第三者」とあれば、それは「ある事項を知らない第三者」という意味であり、「善良な市民」とかそういう意味はありません。
反対に、条文に「悪意であった場合」とあれば、「そのことを知っていた場合」という意味です。

倫理的・道徳的な意味での善悪とは無関係な用語というわけですね。


このことは、法律を学ぶと最初の方に出てくる知識なので、少し法律をかじったことがある方なら知っているかもしれません。
ただし、これだけの知識だけで「全てわかったつもり」になるのは危険です。

今日は、こういう記事を見つけました。

理系は「悪意」の意味が分かっていない!(STAP論争)

しかし、そもそもこうした規定や法律などで使われる「悪意」は、法律用語として解釈しなければいけません。
そして、法律用語としての「悪意」には、何ら倫理的な意味合いは含まれていないのです。。法律用語として「悪意」とともに、「善意」という言葉も使われますが、これにも倫理的な意味は含まれません。行為者が、ある事実について知っているか、知らないかを示すのが、「悪意」であり「善意」であるのです。従って、例えば、結果的に、誰かの論文を無断で引用したような場合、当該文章が他人の文章であることを知らずに、結果として無断引用してしまった場合などには「悪意」には該当しないのですが、しかし、それが他人の文章であるのを知っていて無断引用してしまえば、格別誰かを騙す意図がなくても、「悪意」として認定されてしまうのです。
なお、当然私は文系ですけど、「理系は」という無意味なレッテル貼りをした論説は極めて不適切であると思うのですが、この点はとりあえずスルーしましょう。
皆さんも、そこは全力でスルーしましょう。


さて、法律用語として一般的な「善意」「悪意」の理解は前述の通りです。
しかし、法律用語としての「悪意」であっても、単に「知っている」だけでなく、倫理的な意味合いが含まれることがあります。

例えば、民法に規定された法定離婚原因や法定離縁原因には、「悪意で遺棄されたとき」というものがあります。

ここでいう「悪意」とは、単に「知っていて」という意味ではなく、「倫理的に非難されるべき」のような価値判断を含んだ意味だと解されています。

また、破産法で非免責債権とされている「破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」という場合の「悪意」についても、単なる故意ではなく、積極的な害意であると解されています。

他にも、「悪意」といった場合に「単に知っている」という以上の意味が含まれた規定は多くあります。
これらは別に、「ここでの『悪意』とはこういう意味」と定義づけられているわけではなく、いずれも解釈によって意味が決まってくるものです。

つまり、「法律用語としての『悪意』とは単に『知っていること』という意味。だから、理研の規程でいう『悪意』もそういう意味だ」と単純に断定できるものではなく、「悪意」がどんな意味であるかは、それぞれの規定の文言や趣旨に鑑みて結論付けなければならないことなのです。


そして、理研の規程をみてみると、「悪意のない間違い及び意見の相違は含まない」とあります。

「知っている」という意味での「悪意」とは、そういう状態のことですから、「ある」とか「ない」とかの問題ではないので、もしこの意味なら「悪意のない」のような言い回しは不自然です。
これが法律の条文なら、「知らなかった」という意味にしたければ、端的に「善意」と規定しているでしょう。

法律の条文で「悪意のない」とか「悪意がない」という言い回しは出てきません。
「悪意があった」という表現は、法律の条文でも若干みられるのですが、そこでの「悪意」には、単に「知っていた」という以上の何らかの意味が付加されている場合が多いように思います。

このように、規定の仕方から、「知っていること」の意味ではなさそうだと解することができます。


そこで、どういう意図で規定されたのか、ガイドラインか何かは無いのか探してみると、理研による「科学研究上の不正行為へ基本的対応方針」という文書に、
米国連邦科学技術政策局:研究不正行為に関する連邦政府規律2000.12.6連邦官報pp.76260-76264の定義に準じる。
とありました。
その連邦政府規律とは、「U.S. Federal Policy on Research Misconduct」のことです。

そこで、対応部分を見てみると、「Research misconduct does not include honest error or differences of opinion.」とありますね。
「honest error」とある以上、ここは、知不知の問題ではなく「誠実さ」「害意の無い」の意味であると考えられます。


理化学研究所の調査委員会の報告会見においても、委員は「知っていながらという意味」と説明していますが、理研自身が「honest error」に対応させて「悪意のない間違い」と規定している以上、その解釈には疑問が残ります。


ハッキリと明確な結論は出せません(判例があるわけでもないので)が、少なくとも、

法律用語だとしても、必ずしも「悪意=知っている」ではない
ということは確かですので、そこんところお間違いなく。

では、今日はこの辺で。


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2014年4月2日水曜日

不動産の数え方

司法書士の岡川です。

日本語の難しいところのひとつに、物の単位(助数詞)がたくさんあるということです。
自動車は「台」、六法全書は「冊」、仏像は「柱」や「座」、カピバラは「匹」などなど。

まあ、大抵の場合、間違っても意味が通じるから問題ないですね。


ところで、不動産の単位をご存知ですか?

まず、建物の単位は「個」です。
普通ですね。

注意していただきたいのは、不動産の「個数」というのは、登記簿に基づいて数えられるということです。
したがって、ひとつの家屋だと思っていても、登記簿上2個の建物に分かれている場合、それは「2個の不動産」ということになります。
固定資産税の納税通知を見たら、「家は1軒しか持ってないのに、2個の建物の固定資産税を請求されている!」とか、疑問に思った経験がある方もいるかもしれません。
それは、登記簿上、建物が2個だったということです。

逆に、ひとつの部屋を借りて住んでいたとしても、登記簿上、その部屋が1個の建物として独立して登記されていなければ、その部屋は「1個の建物の一部」としか数えられません。

登記簿上の個数ではなく、「家屋」単位で数える場合の単位は、「戸」(こ)という単位もあります。
これは、税法や行政手続などで出てきますが、それ以外では、建物は、一般的には登記簿に基づいて数えるので、「何戸」というのはあまり使われないですね。

それから、マンションなんかでは、建築物全体を数える単位を「棟」といいます。
建築物全体が登記簿上も1個の建物であれば、1棟の建物=1個の建物ということになりますね。


では、土地はどう数えるでしょうか。

土地の単位は、「筆」(ひつ)です。

土地の単位も登記簿上の区分に基づきますので、1筆の土地の上に2個の建物が建っていることもあれば、2筆の土地の上に1個の建物が建っていることもあります。
「ひとつの広い土地」だと思っていても、登記簿上は細かく分かれていれば、「10筆の狭い土地の集まり」であるかもしれません。

土地というのは、どこまでもつながっているもので、どこからどこまでを「1筆」とするかは、あくまでも記録上「ここからここまでがひとつのまとまり」と決めるだけです。
したがって、数筆の土地をまとめて1筆の土地にまとめる(合筆)こともできるし、大きすぎる土地を数筆に分割する(分筆)こともできます。


というわけで、建物の数え方は「1個、2個・・・」で土地の数え方は「1筆、2筆・・・」です。
覚えておくとどこかで役に立つかもしれません。


では、今日はこの辺で。


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2014年4月1日火曜日

エイプリルフールでも許されない「嘘」

司法書士の岡川です。

今日は4月1日、エイプリルフールですね。
誰が決めたか知りませんが、今日は嘘をついてもいいらしいですよ。

私も、ユーモラスでウィットに富んだ、春らしい爽やかな大嘘を書こうと思ったりもしましたが、構想3分で考えるのが面倒臭くなったので、今日は「嘘」にまつわる本当のことを書こうと思います。
本当に本当のことです。


今日は、「エイプリルフールでした~」という魔法のコトバを唱えるだけで嘘が許される日なわけですが、それでも法律上、許されない嘘があります。
違法な「嘘」については、「エイプリルフールの抗弁」は認められませんので、注意しましょう。

許されない嘘その1「詐欺」

法律用語としての「詐欺」というのは、単に「嘘をついて騙す」というだけではなく「騙して相手に何かをさせる」場合をいいます。
民法上の「詐欺」とは、相手を騙して(欺罔行為)勘違いさせ、勘違い(錯誤)に基づいて意思表示をさせる行為です。
刑法上の詐欺も、やはり相手を騙して、財産や利益を得る行為です。

どちらも、「嘘をつく」のみならず、それによって相手と契約したり、相手から何らかの利益を得たりすれば、違法行為ということになります。

民事的には、詐欺による意思表示は、取り消すことができます(民法96条)し、刑事的には、詐欺罪(刑法246条)として犯罪となります。


許されない嘘その2「文書偽造」

嘘の文書を作成する行為は、一定の範囲で犯罪となります(こちらの記事も参照→「猪瀬氏のアレは法的にどうなのか」)。
広い意味で「文書偽造の罪」になるのは、次のような場合ですので、こういう形で嘘の文書を作ることは危険です。

1.詔書偽造等

あまりないでしょうが、「詔書」などの特別な文書を(それを使用する目的で)偽造・変造する行為です。
あなたが天皇でないのに「そうだ、国会召集しよう」とか思い立って、国会召集詔書を作成したら犯罪です。

2.公文書偽造等

作成権限がないのに、公文書を偽造・変造する行為です。
例えば、「大阪市長橋下徹」名義の文書を勝手に作成したら犯罪になります(あなたが橋下徹氏であれば構いません)。

3.虚偽公文書作成等

内容が嘘の公文書を作成する行為です。
あなたが公務員で、何らかの公文書を作成する場合、そこに嘘を書けば犯罪となります。

4.公正証書原本不実記載等

登記簿や戸籍などに、嘘の記載をさせる行為です(直接敵に嘘の記載をするのは役所の人ですが、役所に嘘の申請書や届出書を出して「嘘の記載をさせる」行為です)。
例えば、虚偽登記(嘘の申請書を提出)や偽装結婚(嘘の婚姻届を提出)などです。

5.私文書偽造等

他人名義の私文書を作成する行為です。
あなたが、「司法書士岡川敦也」名義で勝手に契約書を作ったりすれば、犯罪になります(あなたが岡川敦也であれば・・・以下略)。

6.虚偽診断書等作成

文字通り、嘘の診断書(公務所に提出するもの)を作成する行為です。
あなたが医者なら、嘘の診断書は書いてはいけません。


これ以外の行為であれば、少なくとも文書偽造の罪には当たりません。
細かくみていけば、政治資金規正法とか公職選挙法に抵触するような嘘とかもあるのですが(例えば、8億円の熊手を買ったりするときは注意が必要です)キリがないのでこの辺で。

許されない嘘その3「通貨偽造」

通貨というのは、社会の信用のもとに成り立っているもので、信用がなければメモ帳にも使えないただの紙切れです。
したがって、ニセモノの通貨を作成することは、通貨の信用を損なう行為ですので、かなりの重罪となっています。

面白半分で、コンビニで1万円札コピーしたら、大変なことになりますので絶対にやめましょう。

ちなみに、コピー機は、紙幣のコピーを検知してコピーできないようになっています。
さらに、コンビニなどのコピー機では、紙幣をコピーしたら警報がなるようです。

これ、嘘じゃないですよ。
犯罪になりかねないので、試したことはないですけど。

許されない嘘その4「司法・行政手続における嘘」

嘘の被害届を出す、嘘の告訴をする、裁判所で証人として嘘の事実を話す、など、国家の司法作用を誤らせる嘘は、虚偽告訴罪や偽証罪となり、それなりに重い犯罪となります。
場合によっては、その嘘によって他人を犯罪者に仕立て上げることも可能だからです。

友達同士の会話であることないこと嘘をつきまくるのは勝手ですが、裁判官の前で宣誓してまで嘘をついてはいけません。
なお、裁判の当事者が嘘をつくこと自体は、基本的には犯罪ではありません。

また、「耳が聞こえません」などの嘘をついて障害者手帳の交付を受ける等、行政手続の過程で嘘をつくことも、場合によっては犯罪となりますので、やめましょう。

許されない嘘その5「他人に迷惑をかける嘘」

嘘によって誰かの手間をかけさせたり(業務妨害罪など)、誰かの信用や名誉を傷つけたり(信用棄損罪や名誉棄損罪)する場合は、もちろん違法行為です。
一時期、嘘の犯罪予告をして、威力業務妨害や偽計業務妨害で捕まる人が続出していましたね。
エイプリルフールだからといって、きわどい嘘をついたら、場合によっては業務妨害やら名誉棄損が成立しかねません。
なので、たとえネタであっても他者(企業)のことを書くのはオススメできません。

許されない嘘その6「嘘の肩書」

嘘の肩書で契約したりすればそれは詐欺ですけど、名乗るだけでも犯罪となることもあります。
それが、司法書士や弁護士、税理士、行政書士、社会福祉士などの独占資格です。

司法書士等は「業務独占」といって、登記申請や裁判書類作成などの業務自体も無資格で行うことができません。
また、社会福祉士やマンション管理士などのように、業務自体は誰でもできるが、その資格を名乗ることができない「名称独占」という資格もあります。

いずれにせよ、独占資格を無資格者が名乗るだけでも犯罪ですので、注意しましょう。

似たようなことで、株式会社でないのに「株式会社」を名乗ったりすることも違法ですので注意しましょう(こちらの記事も参照→「特撮ヒーロー俳優が会社法違反で警察沙汰に?」)。


というわけで、これらの「許されない嘘」には気を付けましょう。

では、今日はこの辺で。


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