2014年4月30日水曜日

離婚調停に関与できる資格

司法書士の岡川です

世の中には色んな資格があるもので、法律に規定のある国家資格から、民間団体が認定する謎の資格まで、まさに玉石混淆です(あ、もちろん民間団体が認定する資格でも「玉」のほうもたくさんありますよ)。
司法書士というのも国家資格で、かつ、独占業務(資格がない者が行うと犯罪になる業務)を有する資格です。

直接資格を仕事に活かすかどうかはさておき、資格を取得するために勉強することは知識の幅が広がりますし、もしかしたら思わぬところで何かの役に立つかもしれません。
なので、趣味として色んな資格の勉強をするのは、それはそれでよいと思うのですが(私も、暇なときに色々とりたいなと思っているところです)、「資格を取ったら金になる」と思っていると、まあ世の中そんなに甘くないもので・・・。
今や、弁護士ですら就職難で食えない時代ですからね(新しく法曹資格を取得した人のうちの2割が弁護士登録できずにいるというのが現実)。


それともうひとつ注意すべきが、資格の中身をよく理解するということです。
予備校や通信講座は、資格を取ってもらうこと(というか、資格を取ってもらうための講座を受けてもらうこと)が目的なので、ギリギリな煽り文句で資格を宣伝していることもあります。
雑誌とかネットの記事なんかでは、さらによくわかってない人間が資格の紹介をしていることもあります。

特に、国家資格の関係では、誤解したまま資格とって業務を行うと、ともすれば犯罪に手を染めることになりかねません。


という長い前フリはここまでで、こんな記事(紙面に載ったのはちょっと古いのかな)を見つけました。

定年後、役に立つ資格ベスト7

順位は書かれていませんが、これがベスト7だそうです。

・調理師
・語学関連の資格
・電気主任技術者
・マンション管理士
・社会保険労務士
・社会福祉士
・士資格

調理師と電気主任技術者はさておき、「語学関連の資格」って多すぎて全く絞り込めてないような・・・。
また、「士資格」だって結構いろいろあるし、業務内容はもちろん難易度も法律上の扱い(業務独占か名称独占か等)も丸っきりバラバラです。

そもそも、マンション管理士、社会保険労務士、社会福祉士、これらも全て「士資格」です。
特に社会保険労務士は、いわゆる「8士業」のひとつであり、士業中の士業ですよ。

(※8士業とは、戸籍等の職務上請求を行える8つの隣接法律専門職能の総称。弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、行政書士のこと)

逆にもし「士資格はどれも同じようなもんだ」という強引なまとめかたをするならば、結局ベスト4しか無いことになりますね。


この辺は些細なことなので、受け流すとしましょう。

本当の問題は次の部分。

中村氏によると、弁理士、会計士、行政書士などの難関の「士資格」は組織に残るにしても独立するにしてもつぶしが利くという。「最近は離婚の調停が増え、行政書士のニーズが高まっているようです」(中村氏)


あのう・・・。

行政書士が離婚調停に直接関与したら犯罪なわけですが・・・。


離婚調停は、家庭裁判所で行われます。
家庭裁判所に離婚調停申立書等の書類を提出し、当事者(やその代理人)が調停期日に出頭して話し合いをします。

離婚のような他人の紛争に代理人として介入することは、弁護士の独占業務ですから、一般人はもちろん行政書士も(司法書士も)行うことができません。
また、離婚調停を含めた「裁判所に提出する書類の作成」は、司法書士の独占業務ですから、一般人はもちろん行政書士も行うことはできないのです。

もし、行政書士が業務で他人の離婚調停を代理したりすれば、弁護士法違反で最高で懲役2年の犯罪となりますし、離婚調停に必要な書類を作成するだけでも、司法書士法違反で最高で懲役1年の犯罪です。

理屈としては、家庭裁判所に申し立てる成年後見申立に関与できるのが、司法書士と弁護士に限られるのと同じことですね(→「成年後見制度を利用するには?」)。

離婚調停が増えてニーズが高まっているのであれば、それは行政書士でなくて司法書士(か弁護士)ということになりますね。


司法書士と行政書士の違いはわかりにくいかもしれませんが、「キャリアカウンセラー」という肩書で資格についてコメントするなら、これくらいのことは把握しておいてもらいたいものです。

行政書士は行政書士で社会で求められる仕事を独占業務として行っています(逆にそっちを司法書士が行えば行政書士法違反の犯罪)ので、「役に立つ」と紹介するなら、それをきちんと紹介すべきでしょう。

これは犯罪に関わることですので、そこんとこよろしくお願いします。

では、今日はこの辺で。

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2 件のコメント:

  1. 行政書士は,どちらかといえば,難関資格ではない方に入るので,そっちの方が気になりました。また,行政書士は全く法律家の範疇には入らないのに,街の法律家などと嘯くのも気になります。

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  2. >匿名さん

    昔に比べると、だいぶ難易度は上がっていますよ。
    もちろん司法書士や弁理士・公認会計士と比べれば、依然として差はあると思いますが、どこから「難関」に入れるのかは厳密な定義がないですからね・・・。
    あまり、そこは触れない方向で・・・。

    法律家の範疇に入るか入らないか、というのは、難しい問題で、これは、司法書士にとっても非常に耳の痛い話であります。
    極端な話、法曹三者以外は法律家でないという人も多くいます。

    司法書士は、昔から「第四の法曹」とかいって(誰が言ったか知りませんが)、かろうじて法律家扱いされることも少なくないのですが、それでも、微妙な立場にあります。

    簡裁訴訟の代理権を有する認定司法書士が登場してからは、認識も変わりつつあるようですが、我々からすれば、認定を取っているかどうか(訴訟代理権があるかどうか)に関わらず、「訴状等の裁判書類作成を業とする国家資格が法律の専門家(=法律家)でないなら何なんだ」という思いはあるのですが・・・。

    逆に、「行政書士は法律家ではない」という認識をされている方にとって、司法書士の認識はどうなんでしょうか?

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