2014年7月29日火曜日

「サイコパス」とは何か(アニメは関係ありません)

司法書士の岡川です。

佐世保の同級生殺害事件、ケンカか何かの突発的な事件かと思いきや、何やら異常な犯行動機が報道されるようになってきましたね。
何か隠しているのかもしれないし、必ずしも供述をそのまま信用できるわけではありませんが、過去にも色々問題行動があったみたいなので、それなりに真実に近いのかもしれません。

精神的な異常性が報道されると、すぐ「心神喪失で無罪になる可能性」という話が出てきます。
そして、最近では「サイコパス」という単語もよく目にするようになりました。
特にネット上で。

「サイコパス」という言葉は、例の遠隔操作ウイルス事件で片山被告が口にしたことで広く知れ渡るようになりましたが、これは昔からある言葉です(というかむしろ、昔のほうが一般的に使われていた用語)。

ただ、実はサイコパスであることと心神喪失で無罪というのは、あまり関係ありません。
むしろ、サイコパスなら刑事責任能力が認められる可能性が高い。


サイコパス(psychopath)とは、日本語で「精神病質者」といいます。
つまり「精神病質」を有している人のことです。

精神病質とは、精神障害の一種ですが、その定義は様々です。
日本では、ドイツのクルト・シュナイダーという医師による「異常性格者のうち、自らがその異常性に悩むか、社会がその異常性に悩まされる者」という定義が一般的に用いられています。
つまり、「精神病質」は「異常性格」に含まれる概念であって、「精神病」とはカテゴリからして異なることになります。

他にも、「正常と精神病の中間状態」という定義付けがなされることもありますが、この定義にしたがえば、精神病との違いは量的なものであって質的な違いはないことになります。

いずれにせよ、サイコパス(=精神病質)とは、性格の異常性・人格の病的な状態を示す場合をいうのであって、「(狭義の)精神病」とは異なる概念です。
つまり、本当に「サイコパス=精神病質者」であるなら、逆にいえば重度の精神障害・精神疾患(精神病)を有しているわけではないことを意味します。
これを「病気」というかは、「病気」の定義によるようです(少なくとも、「精神障害」には含められています)。

そして、精神病質者は、その人格の異常性により犯罪に親和性が高いとされていますが、必ずしも弁識能力を欠くというものではありません。
そのため、原則として完全責任能力が認められる(心神喪失とは認められない)のです。
場合によっては、心神耗弱が認められることはあります。


ちなみに現在では、「精神病質」という用語は、法律用語としては残っていますが、精神医学用語としてはあまり用いられていないようで、「反社会性パーソナリティ障害」というのがほぼ同じものを指しています。
もっとも、「精神病質」というのがそもそも定義や診断基準が明確でなかったので完全に一致しているわけではないようですが。


「自分はサイコパス」というのは、罰を免れる理由にはなりませんので注意しましょう。

では、今日はこの辺で。


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2014年7月25日金曜日

武器対等の原則

司法書士の岡川です。
素手で殴ってきた相手に対し、カッターナイフで応戦した事件で、正当防衛が認められました。
カッターで応戦「正当防衛」 米国人被告に無罪判決
大津市内の英会話学校で昨年9月、50代の米国人経営者=傷害罪などで公判中=に暴力をふるわれた際、護身用のカッターナイフで応戦してけがを負わせたとして、傷害罪に問われた英会話講師の米国人男性被告(31)=京都市下京区=の判決が24日、大津地裁であった。赤坂宏一裁判官は、正当防衛を認めて無罪(求刑懲役1年)を言い渡した。

「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。」
これが超有名な法律用語のひとつ「正当防衛」の規定です(刑法36条)。

「やむを得ずした」ことが正当防衛成立の要件ですので、何でもかんでも反撃が許されるわけではありません。
一般的に「やむを得ずした」といえるためには、「必要性」と「相当性」が必要であるといわれます。
どの程度であれば「相当性がある」といえるのかを判断する基準として、伝統的に判例が採用している(といわれている)のが「武器対等の原則」です。

「攻撃する側と防衛する側で武器が対等であれば原則として相当性が認められる」というものです。
要するに、ナイフで襲われたときにナイフで応戦するのは相当性があるが、素手で襲われたときにナイフで応戦するのは相当性が無い(過剰防衛)、という考え方です。

実際はそんな単純なものではなく、純粋に武器の種類のみで正当防衛の相当性が決まることはありません(あたりまえですが)。
「そういう結論が導かれやすい」という程度の原則で、武器の種類以外にも様々な要素を考慮した上で相当性が判断されることになります。
一般的には「判例は武器対等の原則を採用している」といわれていますが、武器の種類が対等でなくても正当防衛が成立した事例はいくつもあります。


ちなみに、前から気になっていたんですが、Wikipediaの武器対等の原則の項目に挙げられている参考文献が民事訴訟法の文献なんですけど、これはおそらく、同じ「武器対等の原則」でも、全く別概念の訴訟法上の原則のことを指していると思われます。
こちらの、民事訴訟や刑事訴訟法上の「武器対等の原則」(「当事者対等の原則」「武器平等の原則」ともいいます)とは、対立する当事者双方(民事訴訟なら原告と被告、刑事訴訟なら検察官と被告人)に主張を述べる機会を平等に与えなければならないという原則です。

刑法上の「武器対等の原則」とは、全然意味が違いますね。

Wikipediaの記述がいつ修正されるかな~と思って放置してるんですけど、結構長いこと修正されませんね。

というわけで、Wikipediaをコピペしてレポートを書こうとしている学生の皆さんは、こういうトラップに引っかからないように気をつけましょう。
ま、これがトラップだと気づく賢明な学生さんはWikipediaのコピペなんかしないでしょうが。

では、今日はこの辺で。


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2014年7月24日木曜日

そもそも「刑罰」とは何か

司法書士の岡川です。

2回にわたって「過料は刑罰とちゃうんや。行政上の制裁なんや」と繰り返してきましたが、そういえばそもそも「刑罰」とは何かということを書いてませんでした。

刑罰とは何かというと、ふわっと定義すれば、犯罪に対して法律が用意した効果です。
その本質は、応報であるとか更生の手段であるとか教育であるとか色々いわれていますが(これは非常に深~いテーマなので後にとっておきましょう)、基本的には応報だと考えてください。
なんやかんや言ったところで、刑罰は「犯罪者に対する制裁」にほかなりませんからね(この考え方に反対する立場も有力なんですが)。

そして、形式的には刑法9条に規定されています。
今年のトレンドの「9条」ですね。
(刑の種類)
第9条 死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。

犯罪の類型については、刑法だけでなく様々な法律に規定されているのですが、刑罰の種類は、刑法9条に書かれたこの7種類だけです。


「死刑」は、改めて説明をするまでもなく、生命を奪う刑(生命刑)です。
日本の死刑は、「絞首」(11条)と定められていますが、実際の執行方法は「首を絞める」のではなく、「天井に固定した縄を首にかけて床を抜く」という方法がとられます。
これを、正確な日本語では「縊首」といいます。
なので、「縊首」するのは、「絞首」と定めた刑法に反するのではないかという議論もあったのですが、裁判所では、「縊首」も「絞首」の一種だという判断がされています。

死刑はもっとも重い刑罰であり、基本的に、他人の生命を奪ったり、大量に奪う危険のある犯罪類型のみに死刑が規定されています。


「懲役」と「禁錮」は、どちらも刑務所に収容して自由を奪う刑(自由刑)です。
違いは、懲役は刑務所内で作業をさせられますが、禁錮は基本的に刑務所に入れるだけ。
ただ、実際には禁錮でも希望すれば作業に参加できるので、作業をする人も多いようです(何もせずに刑務所内でじっとしておく方が辛いのでしょう)。

あまり懲役と禁錮を区別する意味もないので、自由刑を一元化しようという議論もあります。

「拘留」も同じく自由刑で、刑務所に収容されるのですが、その期間が30日未満のものをいいます。


「罰金」と「科料」は、どちらも金銭を納めさせる刑(財産刑)です。
そのうち、1万円未満のものを「科料」といいます。


以上が「主刑」といって、単独で科される刑です。
それに対し、主刑に付け加えて科される刑が「付加刑」といって、「没収」がこれにあたります。

「没収」は、犯罪に関係する物を奪う刑です。
例えば、殺人に用いた包丁とか、文書偽造罪に問われた場合の偽造文書などです。



刑罰はいずれも、それ自体は「人権侵害」です。
死刑は人の生命を奪うし、懲役は人の自由を奪うし、罰金は人の財産を奪います。

それが正当化されるのは、それを正当化するだけの理由、すなわち、犯罪を予防するという目的があり、それに資するからです。
人権を侵害するデメリットを上回るメリットがあるからこそ、「国家による合法的な人権侵害」として用意された制度です。

刑罰を科すには、慎重さが求められ、無罪の推定とか罪刑法定主義といった原理原則があるのはそのためです。

では、今日はこの辺で。


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2014年7月23日水曜日

過料についてもう少し詳しく

司法書士の岡川です。

昨日は罰金とかの話をしたので、ついでなのでもう少し「過料」について続けようと思います。

「過料」は、犯罪に対する制裁である「刑罰」ではなくて、行政上の秩序罰で、罰金や科料(この2つは刑罰)とは区別されます。
法律マニアである皆さんは、「過料」という文字を見て、自然と「あやまちりょう」と読むようになっていることでしょう。

まあ、私は「かりょう」と読みますが。


それはさておき、行政上のルール違反に対して、刑事訴訟手続に乗せずに「金払え」と命じるのが過料なわけですが、では、具体的には誰が命じるのか。

例えば、会社法には、登記懈怠(しなければならない登記を申請しない)や役員選任懈怠(役員が必要数足りていないのに後任者を選ばない)などに対して「過料に処する」と規定しています。
「処される」のは、実は会社という法人ではなく取締役等の個人なのですが、それは置いといて、「処する」のは誰でしょう。

登記官?
法務局長?


実は、過料事件というのは原則として裁判所管轄の手続なのです。
だから、処するのは裁判所。

「えっ、さんざん行政や行政や言うときながら裁判所て・・・」と思われるかもしれません。
確かに過料を科すこと自体は、性質的には行政処分であると解されています。
とはいっても、強制的に金を徴収する制度であることに鑑みて、中立的な立場の裁判所が担当することになったわけです。
裁判所というのは、必ずしも純粋に司法作用だけを担当しているわけではないのですね。

刑罰を決めるのではないので、原則として刑事訴訟手続ではなくて非訟事件手続法の規定に基づきます。
訴訟じゃないから「非訟」です。
まあ、刑事訴訟手続の中で過料が科される場合の規定は刑事訴訟法にあるのですが、そういう細かいツッコミはとりあえずスルーで。

というわけで、どのような内容(金額)の過料に処されるかは、管轄裁判所の裁判(性質としては「決定」)によることになります。
そして、過料の裁判を執行するのは検察官です。キムタクです。


ただし、地方自治法にも過料の規定がありまして、条例や規則(地方公共団体の長の命令)に過料の規定を設けることができます。
条例違反に対して過料の処分をする権限を有するのは、地方公共団体の長とされています。
知事とか市長ですね。


こちらの記事も併せてどうぞ→「過料」の意味と執行方法


というわけで皆さん、過料について詳しくなったところで、過料に処されないよう、ルールは守りましょう。

では、今日はこの辺で。


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2014年7月22日火曜日

ルール違反をした場合に支払うお金

司法書士の岡川です。

一般的な用語として、ルールに違反したときに支払うお金を「罰金」といいます。
しかし、法律用語としての「罰金」とは、もっと狭い意味で、法律に違反した場合にお金を納めるよう命じられる制度としては、罰金以外にもいろいろあります。
「罰金」として認識されているものの中にも、実は(法律用語としての)罰金じゃないものがあるので、今日はその辺のお話。


まず、法律用語としての「罰金」とは何かというと、これは刑法に規定された「刑罰」の一種です。
刑罰というのは、犯罪に対する刑事上の制裁です(「刑事罰」ということもありますね)。

刑罰なので、刑事訴訟手続の中で科されることになりますし、いわゆる「前科」もつきます。

同じく刑罰として金銭を支払う制度で、「科料」というものがあります。
罰金とほぼ同じなのですが、金額が1万円未満のものをいいます。
軽微な犯罪に対する制裁ということで、細かいところで違いがあります(例えば犯罪人名簿に登載されないとか)が、本質的には罰金と同じ財産刑です。


科料と同じく「かりょう」という制度で、漢字が違う「過料」という制度もあります。

過料は同じ「かりょう」の「科料」とは違って刑罰ではありません。
秩序罰といって、行政上の制裁です。

秩序罰は、行政上の違反に対する制裁であって、犯罪に対する制裁ではないので、過料を命じられたからといって犯罪者になるわけではありません(前科にもなりません)。

過料と科料は、口頭で話す場合に混同しないように、前者を「あやまちりょう」と言い、後者を「とがりょう」と言って使い分けることがあります。
使い分けられるようになったら、あなたも法律マニアです。


それから、反則金というのもあります。

これは、車を運転する方にとっては嫌な思い出があるかもしれません。
比較的軽微な交通違反をしたときに青キップを渡されて請求されるアレです。

交通違反は、だいたいにおいて犯罪なのですが、反則金自体は刑罰ではありません(裁判も経ずに、警察官の権限で刑罰を科されることはありません)。
交通犯罪を全部起訴してたらキリがないということで、「反則金を支払えば刑事事件としては見逃してあげるよ」という制度です。
そういう制度なので、反則金の支払いは任意です。
不起訴(起訴猶予)になることを見越して反則金を支払わないという猛者もいるようですけど、まぁ、そこは自己責任で。


ちなみに、刑罰である罰金や科料を支払えない場合は、労役場留置となります。
「働いて払え」てことです(1日あたり何円換算で何日間入れ、といった具合)。

過料は刑罰ではないので、支払わなければ差押えということになります。
実際に差押えを受けるかは別として。

反則金を支払わなければ、上記の通り、刑事手続に移行します。
実際に起訴されるかどうかは別として。


まあ、そんな感じですが、身に覚えがあることに関しては、素直に支払いましょうね。

では、今日はこの辺で。


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2014年7月17日木曜日

DNA鑑定と法律上の親子関係

司法書士の岡川です。

DNA関係で血縁関係が否定された場合に、法律上の親子関係も否定することができるかが争われた3件の事案で、最高裁判決が出ました。

血縁なしでも「父子」 最高裁、1・2審判決覆す
DNA型鑑定で血縁関係がないことが明らかになった場合に法律上の父子関係を取り消せるかが争われた3訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷(白木勇裁判長)は17日、父子関係の取り消しを認めない判断を示した。


結論的には、DNA鑑定によっても、一度決まった親子関係を覆すことはできないということになりました。

「一度決まった」というのは、嫡出否認ができる期間を過ぎた場合ということです。

この辺の詳しい法律上の論点については、過去の記事(「嫡出推定と推定の及ばない子」)を参照してください。

要するに、たとえDNA鑑定で血縁が否定されても、それは、「推定が及ばない」根拠にはならないということです。

そして、「推定が及ぶ」以上、推定を否認する手段は嫡出否認ということになります。
既に嫡出否認はできない(期間制限による)ので、父子関係は確定するということです。


これは、 いろんな考え方があると思い、私もどっちが良かったのか判断しかねるところですが、最高裁判例が出た以上、今後はそういうことになるのでしょうね。


では、今日はこの辺で。


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2014年7月16日水曜日

検察官いろいろ

司法書士の岡川です。

昨日、検察官の仕事の話をしたので、ついでなので検察官という身分について。

皆さん、「検察官」という語のほかに「検事」という単語も聞いたことがあるのではないでしょうか。

「HERO」でキムタクの演じる久利生公平という検察官も「久利生検事」と呼ばれていますが、キムタクも検事なのです。
いや、もちろんキムタクは検事じゃないですが。


「検察官=検事」だと思っている方も少なくないと思いますが、「検事」というのは、検察官の一種です。

検察官にも色々ありまして、大部分は「検事」なのですが、その上に「検事総長」「次長検事」「検事長」という階級の検察官がいます。
また、「検事」の下には「副検事」という検察官が存在します。

これらの総称が検察官です。

数としては、検事総長は検察組織のトップなので1人、次長検事はその次なのでこれも1人、検事長は高等検察庁のトップなので8人ですかね。
ここまでは人数が限られています。

それ以外が検事と副検事で、全部で2700人くらいいるのですが、その3分の2が検事で、残りの3分の1が副検事です。


副検事というのは、検事と違って、司法試験合格者とは限りません。
司法試験に合格してから任官することももちろん可能ですが、実は、司法試験に合格しなくても、一定の職に3年以上就いていた人が副検事選考試験に合格することで副検事になることができるのです。

一定の職というのは、検察事務官や、裁判所書記官、警察官、労働基準監督官など(のうち一定以上の階級の人)です。
なお、副検事から検事になる道もありますので、司法試験を受けなくても最終的に検事になることも可能なのです。
松たか子はこれを目指してたようです。


検事も副検事も「検察官」であることに変わりありませんので、職務としては同じなのですが、副検事がいるのは区検察庁だけです。
キムタクがいるのは地検(の支部?)なので、副検事は出てきませんね。

区検察庁は、簡易裁判所に対応する検察庁なので、基本的には軽微な犯罪を取り扱うことになります(軽微といってもそれなりに凶悪な犯罪もあるものですが)。


では、今日はこの辺で。


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2014年7月15日火曜日

検察官の仕事

司法書士の岡川です。

キムタク主演のドラマ「HERO」が好調のようです。
「あんなチャラい検察いねーよ」とか「検察官はあんなに暇じゃねーよ」とか、そういう無粋なツッコミはやめておくとして、今回は、「検察官とは何か」をご紹介します。

検察官というのは、簡単にいえば「公益の代表者」です。
各種の法律事件に関する国(行政府)側の代理人ということもできます。

その職務内容や歴史的経緯から「準司法機関」といわれることもありますが、本質的には、検察の職務は行政に属します。
司法権を行使できるわけではありませんからね。

したがって、検察官の事務を統括する検察庁は、裁判所(司法)ではなく法務省(行政)の下部組織です。


検察の仕事としてまず思い浮かぶのは、刑事訴訟において、犯人(と思われる人)を起訴することです。
要するに裁判所で「異議あり!」とかやる人ですね(←誤解に満ちた裁判のイメージ)。


日本では、国家訴追主義といって、国の機関である検察官が犯罪者を訴追することになっています。
検察庁法には、検察官の職務として真っ先に「刑事について、公訴を行い、裁判所に法の正当な適用を請求」することが掲げられています。

犯罪が発生したとき、犯罪捜査をするのは大部分が警察官の役目であり、その捜査で集まった資料は検察に送致(俗にいう送検)され、そのあとは検察官が裁判所に訴えるのです。
検察官にも捜査権はあるのですが、警察と比べて圧倒的に数が少ないので、現実には捜査官としてではなく法律家(多くの検察官が司法試験に合格した法曹資格者です。法曹資格を有しない検察官もいます。これは後日)として、刑事司法手続の最後の部分を担当することになります。


さて、刑事司法手続における検察官の仕事は起訴して終わりではありません。
起訴した後は公判を維持する必要がありますが、公判が終わっても仕事は終わりません。

判決が確定すると次は刑を執行しなければなりませんが、裁判の執行の指揮をするのは検察の仕事とされています。
死刑の執行は法務大臣の命令によりますが、検察官が執行に立ち会わなければなりません。

それから、刑事事件の記録は、裁判が終わった後は裁判所ではなくて検察官が保管します。

あ、もちろん、同じ検察官が全部やるわけではありませんよ(担当部署が異なるので)。


ここまでが刑事手続ですが、検察官は、民事手続でも仕事があります。

例えば、成年後見開始や、不在者財産管理人選任など、家庭裁判所に申し立てる必要がある事件について、適当な申立人(親族や利害関係人等)がいない場合もあります。
その場合に、公益の代表者が申立てをすることができるように、申立権者として法律に「検察官」が規定されている場合があります。

不適法な婚姻の取消しや、親権喪失、不在者財産管理人の選任なども検察官が申し立てることができると民法に規定があります。

逆に、人事訴訟においては、被告になる者が死亡していない場合は、検察官を相手(被告)として訴えを提起することになります。
例えば、父親が死亡した後に認知請求をしようと思えば、「認知しろ」と請求する相手(被告)は見ず知らずの検察官です。
もちろん検察官が認知してくれるわけじゃなくて、死者に代わって訴訟手続の遂行を担当するのが検察官ということです。


そのほかにも、検察官にはいろんな仕事があります。
法務省で働いている検察官もいますね。


ちなみに、現実の検察官というのは、非常に忙しい人達でして、「トイレに行くとき以外、一日中自分の席に座っている」ということも聞きます。
どれくらい忙しいかというと、法律上受理する義務がある告訴状を忙しいからという理由で送り返してくるくらい忙しいです。

被疑者を取り調べるのに毎回検察庁に呼び出すのも、別に偉ぶってるわけじゃなくて、検察官は検察庁から動く暇すらないからだと聞いたことがあります。
エリートの皆さんは大変ですね。
少なくとも、フラフラと自分で現場に捜査に行くような暇はないと思われます。


明らかに足りていないので、もう少し検察官の人数を増やしてもいいと思うんですけど、なかなか増えませんね。
優秀な人材が少ないのか、予算の関係で難しいのか・・・。

弁護士も余ってるみたいですし、人材が足りないってことはないと思いますがはてさて。


では、今日はこの辺で。

検察官についてはこちらもどうぞ→「検察官いろいろ

2014年7月11日金曜日

脱法ハーブと罪刑法定主義

司法書士の岡川です。

最近、脱法ハーブというものが話題になっています。
違法薬物と成分や作用的には同じようなものであるにもかかわらず、法律の規制の対象外(あるいは、規制対象であるが規制の網をかいくぐって流通している)ドラッグです。
「ハーブ」だとか「お香」だとか言って売られているようですね。

「脱法ハーブ」という語が、あたかも何の害もないかのように誤解を与えてよろしくないということで、名称変更の動きもあるようですが、もともと「脱法ドラッグ」という語も「合法ドラッグ」といわれていたものを「誤解を与えてよろしくない」ということで「脱法」に変更された経緯があったかと思います。

「触法薬物」とかどうでしょう?


なぜ明確に違法なものと脱法的なものがあるかというと、立法技術と罪刑法定主義に絡む問題があるからです。

何かの薬物の所持や使用を禁止しようと思えば、まず規制対象の薬物を定義しなければなりません。
覚せい剤取締法や麻薬及び向精神薬取締法、薬事法、それらの政令や省令において、1000種類以上の化学物質が何らかの規制対象の薬物の定義に含まれるようになっています。

薬事法の改正などで、今ではだいぶ包括的に規制対象とされているのですが、それでも成分が少し異なれば定義から外れます。
そして、どの法律の定義にも当てはまらない化学物質については、処罰の対象外にならざるを得ません。

「脱法」という部分が残るのは、新しい成分の薬物の流通と立法(行政立法も含む)との間に、どうしてもタイムラグが起きてしまうからです。

そこで、例えば「同じようなもん」だからといって、定義から外れた薬物の販売を犯罪として取り締まると、「類推解釈の禁止」に反します。
それならいっそのこと「吸引するとラリってしまう化学物質」といった抽象的な定義にしてしまえば取り締まりは簡単ですが、それは「明確性の原則」に反するおそれがでてきす。

そうすると、取り締まる行為のほうが違法になってしまうわけですね。


もっとも、「合法」といいつつ違法な薬物もきっと大量に出回っているでしょうから、とりあえず取り締まれる分は徹底的に取り締まってもらいたいものです。

では、今日はこの辺で。

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2014年7月9日水曜日

中間利息控除の話

司法書士の岡川です。

一般的に、金銭の支払いまでに一定の期間がある場合、その間、債務者(一定期間支払わなくていい側)は「自由に使える」という利益を得て、逆に債権者(一定期間支払ってもらえない側)は「自由に使えない」不利益を負うことになります。

たとえば、100万円を借りて1年後に返す場合、借りた側(債務者)は1年間、それを元手にお金を稼ぐことも可能です。
他方、貸した側は、貸してしまえば他で運用することはできませんし、貸したお金が返ってこないリスクも負わなければなりません。
「100万円貸して100万円返してもらう」というのは、差し引きゼロのようにみえて、実は貸した側が損をしているわけです。

そのため、金銭債務の支払時期が一定期間後である場合、債務者がその利益の対価として一定割合の金銭を支払う約束をすることがあります。
そこで支払われるべき対価を利息といいます。
原則として、本体の契約(例えば、100万円貸すから1年後に100万円返せという契約)とは別に利息を払うという契約(特約)が必要です。

ちなみに、民法では法定利率を年5%としていますが、これは当事者同士が(利息制限法に違反しない範囲内で)自由に決めることができます。


さて、ここまでが、「支払うまでに時間的猶予を与えれば不利になる(損をする)ので、その分の『利息を足して』調整する」というお話。

では、「本当は将来もらうはずであったお金を早く貰った」場合どうなるか。
この場合、逆に「早く貰った」側が得をすることになります。

そこで、本来であれば1年後に支払ってもらうべきお金を今の時点で先に支払ってもらうなら、逆に「利息分を差し引いて」調整する必要があります。
そのための計算を中間利息控除といいます。

いくら控除すべきかを算出するための計算式は、利率を「i」、年数を「n」とすれば、

1 ÷ ( 1 + i )^n

で求められます。
これで求められる値をライプニッツ係数といいます。

例えば、「2年後に支払われるはずの100万円を支払ってもらった」という場合、法定利率で2年のライプニッツ係数は、

1 ÷ 1.05^2 ≒ 0.9070

となります。
中間利息控除をするには、本来支払われるべき100万円にこの係数を乗じて、

1,000,000円 × 0.9070 = 907000円

つまり、907,000円が「2年後に支払われるべき100万円を今支払ってもらうとした場合の妥当な支払額」ということになります。


どういうときに中間利息控除の計算をするかというと、将来の逸失利益の計算をする場合です。
例えば、交通事故で被害者が死亡した場合、「今後10年間、毎年1000万円稼いでいたはずだ」とすれば(生活費控除等の細かい点はひとまず無視)、1億円の損害が出たことになります。

しかし、今後10年かけて稼いだはずの1億円を、今の時点で一括で全額支払え、というのは妥当ではありません(利息分が不公平)。
そこで、先に一括して支払う代わりに、中間利息は控除することになります。

この場合、上記の計算と違って、少し計算式が複雑になります。
10年後に1億円ではなくて、「1年後に1000万円+2年後に1000万円+3年後に1000万+・・・」の総額1億円だからです。

この場合の計算式は、

{ 1 - ( 1 + i )^-1 } ÷ i

となります(前の計算式で求められた値を全部足せば同じになるはずです)。

法定利率5%で10年のライプニッツ係数(年金現価)は、「7.7217」なので、「今後10年間、毎年1000万円稼いでいたはずの人」が、死亡によって失った利益として損害賠償請求できる額は、

10,000,000円 × 7.7217 = 77,217,000円

ということになります。

こうなると、「2000万円も賠償額が減るのは納得できない!毎年1000万円、総額1億円支払え!」と言いたくもなりますね。
事情によっては、そういう支払いも認めらるのですが、基本的には中間利息を控除したうえでの一括払いになります。


ちなみに、いちいち考えて計算しているとめんどくさいですが、実務上は「係数表」というものがあるので、平均年収と死亡時の年齢がわかれば簡単に計算できるのです。


では、今日はこの辺で。


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2014年7月8日火曜日

解釈改憲について

司法書士の岡川です。

最近は、「解釈改憲」ということばをよく耳にするようになりました。
いうまでもなく集団的自衛権の行使容認との関連で使われています。

ここで、「解釈改憲」とは何かということをきちんと確認しておこうと思います。

安倍内閣は、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行いました。
歴代内閣では、集団的自衛権の行使は憲法9条に違反して認められないという憲法解釈をしてきましたので、解釈の変更が行われたわけです。

これをもって、「解釈改憲は許されない」という批判がされているわけですが、誤解してはいけないのは、「行政府たる内閣の会議体である閣議で解釈を変更したこと」を「解釈改憲」というのではないということです。

行政府が憲法解釈をすることは何の問題もありませんし、行政府は一定の解釈の下に法を執行していかなければなりませんので、自ら解釈をすることはむしろ当然のことです(これを政府解釈とか行政解釈といいます)。

そして、行政府が考えた解釈を、行政府自身が変更することも一切禁じられていません。
最終的な違憲審査権を有するのは司法府たる裁判所です(したがって憲法の番人とよばれる)ので、司法の解釈を行政の側で否定することは許されませんが、行政解釈を不変のものと考える道理はありません。

問題なのは、その解釈が憲法が定めた枠から外れている場合、憲法が許容する解釈の範囲を超えている場合です。
そのような解釈は、「実質的な憲法の内容の変更(改憲)である」という意味で「解釈改憲」といわれます。

この解釈改憲は、憲法自身が規定する憲法改正手続を経ずに内容を変更する点で、一般的には否定的に評価されています。


つまり問題のポイントは、「変更された解釈の中身が憲法の枠内にあるかどうか」なのです。
賛否を論じる前に、この点はしっかり押さえておきましょう。

では、今日はこの辺で。

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2014年7月7日月曜日

交通事故の慰謝料(交通事故の損害各論)

司法書士の岡川です。

交通事故の被害者にとっては、支払った治療費交通費といった金銭的な損害(財産的損害)だけを賠償してもらえれば気が済む、というものではありません。
単純に「停めていた車にぶつけられた」ような物損事故ならまだしも、怪我をさせられたような場合(人身事故)は、肉体的にも精神的にも苦痛を与えられているからです。
この非財産的損害に対する賠償が「慰謝料」です。

交通事故における慰謝料には、次の3種類あります。
  • 傷害慰謝料
  • 後遺障害慰謝料
  • 死亡慰謝料
いずれも性質としては苦痛に対する賠償であることに変わりはないのですが、「どの苦痛に対する賠償か」が違います。
そして、「どの苦痛に対する賠償か」に応じて算定方法が異なります。

どれも文字通りの意味なのですが、ざっと紹介します。

まず、傷害慰謝料は、傷害(怪我等)に対する慰謝料です。
これは、怪我の治療期間に応じて算定するので、通院慰謝料と入院慰謝料に分けることもでき、併せて「入通院慰謝料」ということもあります。
死亡したり、重い障害を負った場合でなくても、怪我をしただけでも、慰謝料の対象になるのです。

それから、後遺障害慰謝料。
これは、後遺障害に対する慰謝料で、治療期間が終わった後にも後遺障害が残った場合に支払われることになります。

最後に、死亡慰謝料。
被害者の死亡に対する慰謝料で、死亡と同時に発生すると観念されており、実際には遺族(相続人)が請求権を相続して請求することになります。
また、近親者を亡くした親族固有の慰謝料というものも存在します(→参照「交通事故の損害賠償は誰が誰に請求するのか」)。


交通事故(特に人身事故)の被害者は、多かれ少なかれ苦痛を感じており、それも法的に損害として評価されます。
自動車保険でも、(どこまで払うか、という程度問題はあるにせよ)補償対象に含まれています。

もし「治療費だけでチャラにする」とか「車の修理代だけで支払ってくれたらいい」というふうに被害者側から積極的に宥恕してくれるなら、それはそれで構いませんが、加害者の側が「治療費を出したら文句ないだろう」という認識・態度で話をすると、揉める原因となりかねません。

また、慰謝料といっても別に無制限に認められるものではありませんので、被害者の側も判例等に照らして妥当な範囲の額を請求しなければ、それはそれで揉める原因です。


ちなみに、交通事故以外の不法行為でも、慰謝料というのは発生します。
皆さん、加害者にならないよう安全運転を心掛けましょう。

では、今日はこの辺で。


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1.交通事故による損害
2.交通事故による損害の分類
3.交通事故の損害項目
4.治療関係費(交通事故の損害各論)
5.入通院の費用(交通事故の損害各論)
6.葬儀関係費(交通事故の損害各論)
7.休業損害(交通事故の損害各論)
8.交通事故の慰謝料(交通事故の損害各論) ← いまここ
9.逸失利益(交通事故の損害各論)

2014年7月3日木曜日

内容証明の使い方

司法書士の岡川です。

「内容証明」という言葉を聞いたことはありますか?
法的なトラブルが発生したとき、とりあえず「内容証明を出す」というのが常道のように思われるかもしれません。

「内容証明」というのは、普通郵便とか書留郵便とかの郵便の一種である「内容証明郵便」で出す手紙をいいます。
内容証明郵便とは、その名の通り、差し出した書面の「内容」を郵便局が「証明」してくれる「郵便」です。
ただし、ここで証明されるのは、「こういう内容の書面が送られた」という事実であり、その内容自体が正しいことまで証明してもらえるわけではありません。
また、通常は配達証明付で送るので、きちんと到達したことも証明されます。
つまり、「こういう内容の書面が、何月何日に誰から誰に送られた」ことが後から証明できるわけです。

そこで、「そんな郵便受け取ってない」とか「郵便は受け取ったが、そんな内容は書いてなかった」という反論を防ぐ手段として使われます。
相手方にこちらの意思が確実に到達したことを証明する必要がある場合、例えば催告書や解除通知、クーリングオフの通知なんかを送る場合は、内容証明が役に立ちます。

さらに、わざわざ、「きちんとこの内容をあなたに伝えましたよ」と証明された文書を送るわけですから、副次的にこちらの「本気度」を伝える手段にもなります。
それに加えて、それが代理人の司法書士や弁護士の名前で職印を押して送られて来たら、観念して借金を返してくることも期待できます。

このような副次的な効果をメインに考えて内容証明を使う方も多く、実際に、内容証明がきっかけでトラブルが解決することもあるのですが、あくまでも、郵便物の一種であって、それ以上に何か法的な意味のある書面ではないことに注意が必要です。
後で証拠として使いやすいという点を除けば、所詮は「手紙」なのです。


例えば、代理人名義で相手に通知を送る場合、別にあえて内容証明郵便でなくても、普通郵便(特定記録くらいは付けるでしょうが)で十分な場合も多々あります。


副次的効果を狙った内容証明の利用も別に構わないのですが、あまり深く考えずに出して、かえって逆効果になることもあるので注意が必要です。
典型的には、まだ交渉の余地があるような場合に、いきなり内容証明を出して相手を刺激し、「こんなもんを出してきやがって!」と怒らせてしまうパターンですね。
「なんか法律的に正式な文書(っぽいもの)を送ってきた」ことが逆効果になるわけです。

怒らせないまでも、完全に黙殺されることもあります(郵便代の無駄遣いです)。

また、例えばこちらに確実な証拠もなく、また相手方に資力もないような場合に、何百万円という請求をする内容証明だけ送っても、何の意味もありません。
その後に、何らかの法的手続を見据えているなら別ですが。

司法書士や弁護士のような専門家に頼めば、まず内容証明を出すべきかどうかの検討から入るはずですが、専門家でもない人(例えば、無料でトラブル相談に応じているような団体の人ら)に頼むと、安易に「とりあえず内容証明を出す」ということをされる場合があります。
「内容証明」というものの存在、書き方は知っていても、それがどういう意味を持つかに無頓着だと、話がこじれるか何の解決にもならないかのどちらかになりかねません。


本当に内容証明を考えるような状況であるとすれば、そのあとの交渉や法的手続も必要になってくるのですから、不用意に出す前に、最初から専門家(司法書士か弁護士)に相談することをお勧めします。


では、今日はこの辺で。


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2014年7月2日水曜日

症状固定と後遺障害

司法書士の岡川です。

交通事故による損害賠償請求をする場合において、「症状固定」や「後遺障害」が問題となることがあります。
両者は相互に密接に関連する概念で、損害賠償額を算定するうえで非常に重要な概念です。

傷害を受けた場合の損害賠償は、別に交通事故に限った話ではないのですが、交通事故では自賠法(自動車損害賠償保障法)が適用され、自賠責保険から保険金が支払われることになります。
「後遺障害」は、その自賠法に規定されている法律用語なので、交通事故の場合によく出てくるのです。

そして、この後遺障害という法的概念は、一般的な「後遺症」よりもっと限定された意味を持っていますので注意が必要です。


さて、交通事故により傷害を受けたとします(いわゆる人身事故です)。
受けた傷害については病院で治療をします。
治療して「完全に元通りに回復」したらよいのですが、現代の医療も万能ではありませんので、どうしても「完全に元通りに回復」というわけにはいかない場合があります。
ある段階に至ると症状が安定して、「医学上一般に承認された治療方法をもってしても、その効果が期待し得ない状態」、平たくいえば、「治療を続けても、それ以上の症状の改善が見込めない状態」になることが多々あるのです。

この状態を「症状固定」といい、症状固定に達した日を「症状固定日」といいます。

そして、症状固定日以後も身体に残存する障害を「後遺障害」といいます。

症状固定までは、治療に要する費用は「治療費」として認められますし、通院のための交通費も傷害に対する損害として認められます。
しかし、症状固定後は、「治療しても効果がない」ので、それ以上の治療費や交通費は交通事故による損害とは認められません。
もちろん、症状の改善を願って治療を続けても構いませんが、その費用は自己負担となります。


そうはいっても、障害が残存しているとすれば、その後も財産的、非財産的損害を受けることになります。
そこで、治療費などは支払ってもらえませんが、後遺障害は後遺障害で別途損害賠償の対象となります。

例えば、傷害に対しては、通院期間に応じた通院慰謝料がもらえますが、後遺障害に対しては、それとは別に後遺障害慰謝料が認められています。

ただし、何らかの後遺症が残っていれば、自動的に後遺障害に対する損害賠償が認められるかというとそういうわけでもありません。
基本的に、損害賠償の対象となるのは、1級~14級の「後遺障害等級」が認定された場合に限られます。
認定するのは、損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所というところです。

ここで後遺障害等級が認定されない場合(軽微な場合など)は、「非該当」といって、法的な意味での「後遺障害」は存在しないと評価されることになります。
非該当となっても、裁判所に訴えれば裁判所が独自に後遺障害を認定することもありますが、基本的には、等級認定というものが極めて大きな意味を持っています。
後遺障害が認められなかった場合は、症状固定後ですので治療費は認められませんし、後遺障害に対する損害賠償もありません。


このように、症状固定前と症状固定後では損害賠償の項目が異なり、損害額の算定方法も変わりますので「いつ症状固定とするか」は、非常に重要なのです。

後遺障害が認められた場合、どのような損害賠償をしてもらえるかは、また後日。

では、今日はこの辺で。


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2014年7月1日火曜日

華麗なる一人芝居

司法書士の岡川です。

法律行為というのは観念的な部分がありまして、「実際の行動」と書類の上でのできごとが食い違うことも少なくありません。

そのため、書類の上で「一人芝居」をする場面がしばしば出てきます。

1.一人株主総会

よくあるのが、株主が一人の場合の、一人株主総会ですね。
「株式会社」という企業形態は、典型的には、多くの出資者が株式を分割所有し、したがって株主が大勢いることが想定されています。

ただ現実には、株主が一人でも株式会社は作れるので、株主が一人しかいない「一人会社」は大量に存在します。

一人会社でも、株主総会というものは必ず開かないといけないので、そこで、一人芝居が始まるわけです(脳内で)。

株主総会議事録には、「議長を選任し・・・」とか「議長が議場に諮ったところ・・・」とか書くわけですが、選任するのもされるのも、議事を諮るのも諮られるのも自分一人なわけで、全ては脳内で完結します。
「満場一致で」とか書いてあっても、満場一致以外の結論はあり得ませんしね。


2.一人遺産分割協議

相続人が1人しかいなければ遺産分割協議は必要ないのですが、「相続人が複数いるけど、現実には同一人物」という事態は生じることがあります。
その場合は、一人芝居に突入します(やはり脳内で)。

具体的にどういうことかというと、例えばAさんとBさんという夫婦がいて、その間には子のCさん一人がいるとします。
この場合、Aさんが死亡すると、その相続人はBさんとCさんです。

ところが、Aさんの遺産分割協議がされない間に、Bさんも死亡したとします。
Bさんの相続人は、Cさん一人です。

この場合のAさんの遺産に関する遺産分割協議は、「Aさんの相続人であるCさん」と、「Aさんの相続人であるBさんの相続人であるCさん」との間で行います。
現実には、Cさん一人で分割することになるのですね。

なお、脳内協議の結果は「遺産分割協議書」でもいいですが、「遺産分割決定書」とかいう書面にするとスマートです。

(※追記)
・・・という方法が登記実務であったんですが、最近になって、「一人遺産分割協議は不可」という判決が出まして、その影響で法務局の取り扱いも変更され、この方法が使えなくなってしまいました。残念。
「一人遺産分割協議」の問題とその周辺

3.一人代理権授与

代理というのは、他人に任せるから代理なのであって、自分を代理人にするということは、基本的にはあり得ません。
しかし、登記手続について、本人申請か司法書士による代理申請かによって微妙に手続が変わってくることがあります。

そこで、岡川敦也さんが自ら申請人となって登記申請する場合において、司法書士の立場で申請したいときは、「岡川敦也」という個人から「司法書士岡川敦也」に対する委任状を作成することが可能です。

例えば、Aさんに後見人がついている場合の登記申請は、Aさんではなく後見人が申請人になります。
司法書士である岡川敦也がAさんの後見人になっている場合、Aさんの不動産について登記申請(例えば相続登記など)をするときは、もちろん、「A後見人岡川敦也」として登記申請してもよいのですが、「A後見人岡川敦也」から「司法書士岡川敦也」へ代理権を授与すれば(脳内で)、司法書士による代理申請の形で登記が可能です。

具体的な違いとしては、司法書士が代理人となることで、登記識別情報通知を司法書士事務所宛に郵送してもらえるとか、司法書士の電子署名を用いてオンライン申請が可能となるのです。
まあ、この違いは管轄法務局によっても異なるかもしれませんが。

(※追記)
・・・という取扱いがまかり通っていたわけですが、同一人格である自分宛に委任状出さないといけない理屈がわからないのと、法務局ごとに取扱いがちがうので、とある機会に正式に法務局に「法的根拠」を聞いてみたところ、「法的根拠がないので、取扱いを改める」旨の回答がありました(大阪法務局管内では、委任状不要の取扱いとなるでしょう)。


なお、上記で紹介したような事例でも、ケースによって一人芝居が認められないこともあるかもしれないので、実際の事案に直面している方は、「ネットで見た」とか言って無理に手続を進めることなく、とりあえず司法書士に相談しましょう。

では、今日はこの辺で。