2014年11月28日金曜日

推定相続人の廃除

司法書士の岡川です。

前々回前回で、相続欠格について書きました。

(おさらい)
被相続人を殺したり遺言書を偽造したりすれば、相続人の資格を失う。

他にも欠格事由はあるのですが(被相続人を脅して遺言を書かせるとか)細かいことは民法の条文を確認して下さい。

このような「相続欠格」の他にも、悪いことをしたら相続権を失うことがあります。

それが「推定相続人の廃除」の制度です(「排除」ではなく「廃除」です)。
これは、何かをすれば当然に相続人の資格を失う欠格事由とは異なり、被相続人が「こいつは相続人から除外する」という意思表示をすることで、相続権を奪うものです。

「相続人から除外したければ、遺言を書けばいいのでは?」と思われるかもしれませんが、廃除をすれば、遺言でも侵害できない権利、すなわち遺留分についても渡さないことになります。
子だろうが孫だろうが、こんな奴にびた一文くれてやるものか!という場合に使うのです。
なので、廃除できるのは、「遺留分を有する推定相続人」に限られます(それ以外の兄弟姉妹などに遺産を残したくなければ、遺言で対応可能だからです)。

さて、遺留分すら残さないという制度なので、ホイホイと誰でも廃除できるわけではありません。
廃除には要件が決められており、「被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったとき」に限定されています。

要件が少し抽象的ですが、解釈としてはかなり厳格に解されています。


廃除の手続としては、被相続人が家庭裁判所に請求することになります。
直接相手に「廃除する!」と告げても意味がありません。
これは相続放棄と似ていますね(相続放棄も、家庭裁判所に申述しなければいけません)。

あるいは、遺言の中で廃除の意思表示をすることも可能です。


そう簡単に認められるものではありませんが、よっぽどの事情がある場合は、遺言書を作るだけでなく、廃除についてもご検討ください。

では、今日はこの辺で。


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2014年11月26日水曜日

遺言書偽造で丸儲けできるか

司法書士の岡川です。

昨日は、「被相続人を殺したら相続人になれませんよ」という話をしました。
これを「相続欠格」といいます。

相続欠格事由は、被相続人を殺害することに限られません。

もうひとつの典型例が、遺言書の偽造です。

偽造だけでなく、変造(内容を書き換える)、破棄(破り捨てる)、隠匿(隠す)といった行為も同様。
コッソリと自分の有利になる遺言書を作ったり、自分にとって不利なことが書かれてある遺言書を捨てたり隠したりすれば、相続欠格・受遺欠格になります。

おとなしくしていれば相続人として少しくらいは取得できたかもしれないのに、これらの遺言書に関する小細工が発覚すれば、一銭ももらえなくなります。
遺言というのは、遺贈者の死後に効力が生じるものなので、きちんと意思が実現されるように保護されているわけです。


ちなみに、刑法上も、私文書偽造罪とか私用文書毀棄罪とか、文書に関する犯罪が成立する可能性があり、最高で5年の懲役があなたを待っています。

偽造した遺言書を利用すれば、その他にも様々な罪を重ねることになりますね。
詐欺罪とか公正証書原本不実記載罪とか。






あ、ちなみに昨日は書き忘れましたが、被相続人を殺害したら殺人罪が成立します。





現代日本では、さすがに被相続人や遺贈者を殺そうと考える人はそれほど多くはないでしょう。

しかし、ちょっと魔が差して遺言書を偽造してみたり、怒りに任せて遺言書を燃やしてしまったり…ということは、無いとはいえません。

それは犯罪です。
そして、あなたに不利にしかなりません。

あまり早まらないようにしましょうね。

逆に、そういう被害を受けたという方は、当事務所では犯罪被害者支援も行っておりますので、ご相談ください(犯罪被害者週間にあわせて宣伝)。

では、今日はこの辺で。


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2014年11月25日火曜日

被相続人を殺せば遺産をもらえるか?

司法書士の岡川です。

遺産目当てで、自分の親や配偶者等の被相続人を殺害するという事件がたまに報道されます。
漫画やドラマの世界だけでなく、現実にもそういうことをする人がたまにいます。

もし、早く遺産を取得するために被相続人を殺害したらどうなるのでしょうか。
ちょっと刑務所に入って出てくれば、相続した遺産で楽しく余生を過ごせるのでしょうか。






答え:相続人から外されます





民法891条は、次の通り規定しています。
第891条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
(以下略)

つまり、遺産目当てに親や子のいない人と結婚し、同人を青酸カリ等を用いて毒殺した場合は、遺産を引き継いで丸儲けにはならず、配偶者であっても相続することはできなくなります。
これを「相続欠格」といいます。

相続欠格事由には他にもいくつかあります(そのほかの欠格事由の例→「遺言書偽造で丸儲けできるか」)が、まずは「夫(妻)を(故意に)殺したら、あなたは夫(妻)の遺産を相続できない」と覚えておきましょう。


また、遺言についても次のような規定があります。
第965条 第886条及び第891条の規定は、受遺者について準用する。

ということで、例えば、身寄りのない大金持ちとお近づきになって、「すべての財産を遺贈する」という遺産を書いてもらってから、その遺贈者を殺害すると、受遺者として指定された人は遺贈を受ける資格を失います。
これを「受遺欠格」といいます。


ついでに、もうひとつ。
誰かに生命保険をかけて、その生命保険の受取人となってから、被保険者を殺害したら(いわゆる保険金殺人)どうなるでしょう。

何となくわかると思いますが、これも保険金は支払われない(免責される)ことになっています(保険法51条3号)。



このように、法律は「誰かを殺してお金を得る」ということはできないようになっているのです。

では、今日はこの辺で。


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2014年11月24日月曜日

【告知】犯罪被害電話相談会

司法書士の岡川です。


以前ツイッターで告知しましたが、大阪司法書士会で下記のとおり「身近な犯罪被害ほっとライン」が開催されます。
「暴力を受けた」「騙された」「お金をとられた」「DV・ストーカーにあっている」など、犯罪は身近なところで起こっているものです。
被害が軽微であったり、どこに相談すればよいのかわからなかったりして、犯罪被害が犯罪被害と認知されていないこともあります。


そんな「これって犯罪被害?」といった相談から、「被害回復のために法的手続をとりたい」といった相談まで、犯罪被害に遭われた方が気軽に相談できる電話相談会です。




日時:11月25日(火)と12月1日(月)いずれも午後6時~9時
電話番号:06-6941-1000


詳細は、こちらのチラシを参照。


では、今日はこの辺で。

2014年11月21日金曜日

不在者の財産の管理

司法書士の岡川です。

空き家問題にも絡んできますが、所有者が不在で誰も管理していない財産が残されているという場合があります。
適切な管理がされていない空き家の中には、所有者の死亡が確認されて相続人がいないという場合もありますが、所有者の死亡は確認できていないが行方が分からないという場合もあります。

空き家の所有者がどこにいるかわからないと、苦情を言おうにも対応してくれる相手がいないということになります。

また、財産の権利者(所有者等)がいなくて困るのは、家屋(空き家)の場合に限らず、その他の財産であっても生じる問題です。
よくある事例では、例えば、相続が開始した場合に、共同相続人の一人が行方不明という場合があります。
遺産分割は、相続人全員でしなければ効力が生じませんので、一人でも行方不明になっていると具合が悪い。
やはり、行方不明となった相続人の財産(相続財産の相続分)を管理する人が必要です。


そんな場合は、利害関係人が家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てることで、裁判所が財産の管理人を選任してもらうことができます。

「利害関係人」は、例えば、不在者に対して債権を有している人や、先の例でいえば他の共同相続人などです。

この「利害関係人」という概念は比較的広く解されています。
例えば、事実上財産を管理している人は、その財産を所有者(不在者)に返還すべき義務を負いますので、これも利害関係があると考えられます。
ただ、単なる知人友人などはさすがに利害関係人には含まれません。

利害関係人が誰もいなければ、検察官も不在者財産管理人選任の申立人になることができます。
まあ、検察が申し立てることはめったにありませんが。

不在者財産管理人が選任されると、その後はその管理人が裁判所と連携しながら財産を管理することになります。
苦情も請求も、管理人にすればよいわけです。


不在者の生死が不明の場合、延々といつまでも不在者財産管理人が管理を続けるわけにはいきませんので、どこかの段階で失踪宣告を申し立てることもあります。


ちなみに、面白いことに、大学の法学部などでよく使われている民法の基本書(教科書)である内田貴教授の『民法Ⅰ[第2版補訂版]』(東京大学出版会)の128頁に、不在者財産管理人の解説が6行だけ書かれているのですが、そこには「25~29条がこれを定めるが、余り重要性の大きくない規定である」とあります。

少し古い版なので最新の版ではどうなっているかわかりませんが、不在者財産管理人制度は、実務上、非常に重要な規定なわけでして、学者の認識と実務が思いっきり乖離している例ですね。


では、今日はこの辺で。


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2014年11月20日木曜日

空き家問題

司法書士の岡川です。

衆議院の解散が決まったこともあり、バタバタと色んな法案が駆け込みで成立しています。
例えば・・・サンゴの法案とかですね。


その中で、あまり法案としてはクローズアップされていないのですが、「空家等対策の推進に関する特別措置法」(空き家対策特別措置法)という法律も成立しました。
近年大きな社会問題となっている「空き家問題」に関する法律です。


実は日本では、少子高齢化、核家族化などの影響により、全国的に「空き家」が増えていまして、空き家数は年々増加の一途をたどっています。

平成25年の総務省の統計では、全国で空き家の数は820万戸(総住宅数に対する空き家率は13.5%)、大阪だけでも67.9万戸(同14.8%)に上っています。
これらの空き家が、ただの「入居者募集中の賃貸物件」であれば良いのですが、所有者や相続人によって適切に管理されていない空き家も多数存在し、安全・防犯・景観・都市計画などに重大な悪影響を与えています。
例えば、倒壊や火事の危険、溜まり場になるなどの問題が起こっています。

そういう適切に管理されていない空き家が増えているという問題を「空き家問題」といいます。

実は、大阪司法書士会でも、数年前から「空き家問題対策検討委員会」という専門の委員会が設置されて、空き家問題に取り組んでいます。

地方の条例レベルでは、空き家対策に使える条例も次々と作られ、何らかの対策を行っている自治体もありますが、空き家の解消を強力に推し進めることができるような条例は多くありません。

空き家を解消するには、所有者や管理者が分からない建物については行政が強制的に管理・処分できるようになれば一番ですが、空き家とはいえ個人の財産ですので、財産権の不可侵性(憲法29条)や「所有権絶対の原則」のこともあり、なかなか簡単なことではありません。

今回成立した法律では、行政が空き家の所有者の把握をしやすくしたり、空き家の活用を推進するほか、倒壊の危険がある空き家の取壊しをしやすくなるような規定も盛り込まれています。

この法律だけで一気に空き家問題が解決するようなものではありませんが、空き家の活用も含めて、行政と民間と法律家が連携して問題の解決に向かっていけばいいですね。


では、今日はこの辺で。


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2014年11月19日水曜日

「専有部分」と「区分所有権」の定義

司法書士の岡川です。

区分所有権の目的(対象)となっているマンションの一室などを、その建物の「専有部分」といいます。

区分所有法1条によれば、「一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるもの」が区分所有権の目的になるので、専有部分はこの要件を満たした建物の部分ということになります。

ただし、「区分所有権」の定義は、「前条に規定する建物の部分(第4条第2項の規定により共用部分とされたものを除く。)を目的とする所有権」であるので、1条に規定する部分は全て専有部分というわけではありません。
規約共用部分は、区分所有権の目的とならないので、それは除外する必要があります。

よって、「一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものから規約共用部分を除いた部分」が専有部分ということになります。

具体的にいうと、構造的には専有部分と変わらない部分でも、規約によって共用部分とすることができます。
例えば、マンションの一室を集会所にして、そこは共用部分とする場合などですね。

その場合、その集会所は区分所有権の目的とはならず、したがって専有部分でもないということになります。
ただし、専有部分ではないけども不動産登記法上、「区分建物」には含まれます。


ややこしいので、注意しましょう。

では、今日は今日はこの辺で。

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2014年11月17日月曜日

「区分建物」と「区分所有建物」

司法書士の岡川です。

前回に引き続き、区分所有のお話。

マンションなど、区分所有権の対象となる建物のことを「区分所有建物」といいます。

これとは別に、「区分建物」という用語もあります。
用語は似ていますが、実は別のものを指します。

「区分所有建物」は、法令上は「被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法」という法律に出てきます。

同法の2条において、「建物の区分所有等に関する法律第2条第3項に規定する専有部分が属する一棟の建物」と定義されています。

つまり、一棟の建物である「マンションの全体」が区分所有建物です。


これに対し、区分建物は、不動産登記法に出てきます。

同法2条22号において、「一棟の建物の構造上区分された部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものであって、建物の区分所有等に関する法律第2条第3項に規定する専有部分であるもの(区分所有法第4条第2項の規定により共用部分とされたものを含む。)」と定義されています。

つまり、最後の括弧の部分はとりあえず横においておけば、区分所有権の目的(専有部分)である「マンションの一室」が区分建物です。


一棟の建物=区分所有建物
専有部分≒区分建物

ですね(後者が「=」ではなく、「≒」なのは、読み飛ばした括弧部分があるからです)。

あまり普段意識しない用語の使い分けです。
覚えておいて損はしないでしょう。
まあ、得もしないでしょう。

では、今日はこの辺で。


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2014年11月14日金曜日

分譲マンションの権利関係

司法書士の岡川です。

だいぶ前になりますが、「一物一権主義」という原則をご紹介しました。
これは、物権に関する次の2つの性質を表しています。

「同一物に対しては、同一内容のの物権はひとつしか成立しない」(排他性)
「ひとつの物権の客体は、ひとつの独立した物である」(単一性、独立性)


さて、皆さんの中にも、マンションを所有している方もおられるでしょう。

マンションの建物一棟を丸ごと所有して他人に賃貸しているという方もいるでしょう(マンション全部自分で使っている人も中にはいるかもしれない)が、多くの「マンション所有者」は、「分譲マンションの一室」を所有しているような人たちをいいます。

所有権とは、物に対する全面的な支配権であり、その物を自由に使用収益し、処分することができる権利です。
そして一物一権主義によると、所有権は対象物の全体に及ぶ(独立性)はずです。

しかし、多くの「マンション所有者」は、マンションの所有者(所有権を有している人)なのに、一棟の建物の全体のどこでも自由に出入りしたり、自由に使えるわけではありません。
基本的には、マンションの中の一部分だけしか自由に使えません。
試しに、無断で隣の家に入ってみましょう。
きっと捕まります(不法侵入ダメ。ゼッタイ。)。


では、マンション所有者の皆さんは、何を所有しているのでしょうか?
どういう権利を持っているのでしょうか?


一つの物について、複数の権利者がいる場合といえば、「共有」という概念があります。
家を夫婦の共有名義で所有している方もおられるでしょう。

しかし、共有は、「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる」権利です(民法249条)。
マンションを共有しているのだとすれば、隣の家も持分割合で使用できるはずです。
マンション所有者が一棟の建物を共有していると考えることは実態に合っていません。


ここまで回りくどい説明をしてきましたが、答えをいいますと、分譲マンションの一室を購入したマンション所有者は、端的に「マンションの一室」に対する所有権を有しています。

「そのまんまやんけ!」と思われましたか?
はい、結論としては「そのまんま」なのです。


しかし、一物一権主義を前提にすると、「一棟の建物の一部」であるマンションの一室だけの所有権というのは、決して当然の話ではありません。

これを可能とするのが、「建物の区分所有等に関する法律」(区分所有法)という法律があるからで、この法律の1条に「一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用途に供することができるものがあるときは、その各部分は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる。」と規定されているからです。


このような、マンションの一室を対象とする所有権を「区分所有権」といいます。
そして、区分所有権の対象となっている「マンションの一室」を「専有部分」といい、それ以外の部分(廊下とか)を「共用部分」といいます。
で、マンションのような、区分所有権が認められている建物を区分所有建物といいます。


区分所有建物の権利関係については、色々と書くことがあるので、一気に書くと大変なので、またちょくちょく書いていこうと思います。

マンション購入の際の参考に是非!

では、今日はこの辺で。


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2014年11月10日月曜日

危急時遺言

司法書士の岡川です。

タレントで歌手のやしきたかじん氏とその妻の壮絶な闘病を描いたノンフィクション作品「殉愛」(百田尚樹著)が話題になっています。
32歳年下で、やしきたかじん氏が亡くなる直前に結婚した妻は、週刊誌等で「遺産目当て」「悪女」などと強烈なバッシングを受けています。
これに対し、著者である百田氏は、そららは週刊誌等による「捏造」だと断じています。

本作は、ただの妻の手記ではなく、著者による取材に基づくものです。
メモ魔であったやしきたかじん氏が残した膨大なノートや、妻の看病日誌などの記録類の存在も大きいですが、友人、テレビ関係者、タレント仲間、病院関係者など、当時の状況を知る多くの人の実名での証言が紹介されており、それが妻の語った内容を裏付ける形になっています。

客観的事実はひとつしかないにしても、事実に対する評価は人それぞれですし、人によって違う捉え方ができるものです。
闘病中や死後に何があったのか、それをどう評価するかは、ぜひ本書を実際に読んでみるとよいでしょう。


さて、やしきたかじん氏は、死ぬ何日か前に、遺言を作成しています。

一般的な遺言の方式としては、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。
少し特殊なものとして、秘密証書遺言というものもあります。

作中で、正式な遺言を作るには公証人が必要だと書かれていますが、全て遺言者が自書する自筆証書遺言も紛れもなく正式な遺言ですので、必ずしも公証人が関与しなくても構いません。


実は、さらに特殊な方式である「危急時遺言」というものがあり、やしきたかじん氏はこちらの方式を利用して遺言を作成したようなのです。

危急時遺言にも細かく分けるといくつかの種類がありますが、通常は一般の危急時遺言(死亡危急者遺言)という方式が利用されます(その他は、「伝染隔離者」とか「船舶遭難者」の方式なので、これはもう極めて特殊)。

「疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者」の遺言は、「証人3人以上」が立会い、遺言者が証人に遺言の趣旨を口授して、証人がそれを筆記して、証人全員が署名押印するというものです。

自筆証書遺言と違って、遺言者ではなく証人が署名押印するというのが特徴です。
そして、遺言の後20日以内に家庭裁判所に請求して確認を得なければなりません。
また、遺言から6か月生存したら、無効になります(死亡の危急に迫った人が用いる方式であるため)。

やしきたかじん氏の場合、証人3人とも弁護士であり、しかも遺言の前に医者の診断書を作成してもらっており、かつ、遺言作成の過程を録画していたようです。
また、利害関係を有する妻も部屋の外に出され、遺言作成に同席していません。
危急時遺言としては考え得る限り完璧な証拠保全がなされており、親族からの遺言無効確認の訴えは退けられたようです。


もっとも、本当に完璧を期すなら、危急時遺言が使えるような状況になるまえに、通常の方式での遺言(特に公正証書遺言)を作成しておくことを強くお勧めします。
やしきたかじん氏は、判断能力に問題が無く、その旨の医師の診断書も確保できていたので良かったのですが、皆がそう上手くいくとは限りません。

遺言は書き直すことは可能ですので、本当に遺言を残すべき人は、ギリギリに書くのではなく、元気なうちに書くよう心がけましょう。

では、今日はこの辺で。


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2014年11月6日木曜日

契約の更改

司法書士の岡川です

プロ野球選手の契約更改の季節です。

私はあまりプロ野球選手の年俸に興味はないのですが、やはりプロ野球ファンの皆さんにとっては重要な情報なのでしょう。
ニュースでも、多くの有名選手の来年の年俸額(推定)が発表されています。

さて、このイベントを「契約更改」といいますが、「更改」とは何でしょうか。

記者会見をやって契約内容を発表しているから「契約公開」だと思っていた人もいるのではありませんか?
私は小さい頃は「公開」だと思っていました。


更改というのは、民法に規定のある制度で、債務の要素を変更することにより、元の債務を消滅させ、同時に別の新たな債務が生じるという契約(制度)です(民法513条)。

債務の要素の変更としては、「債務の目的の変更」「債権者の変更」「債務者の変更」があります。

例えば、「冷蔵庫を贈与する」という契約をしていたが、後に「電子レンジを贈与する」という契約に変更する場合、これは給付の内容が変更しているので更改となります。
あるいは、「冷蔵庫を贈与する」という契約をしていたが、やっぱり代金を受け取ることにすれば、契約の性質が贈与契約から売買契約に
変更しているので、これも更改ということになります。

とはいえ、このような単純な契約であれば、合意解除の上で新たな契約を締結すれば済みます。
また、債権者の変更は債権譲渡によって実現可能ですし、債務者の変更も(免責的)債務引受によることが可能です。

そのため、現代の日本では、更改という制度がの有用性はそれほど高くありません。
微妙に要件効果が異なるので、使い分けは一応可能なので、制度としては残っています。


さて、更改とは、そういう契約なわけですが、プロ野球選手が契約期間(1年契約なら1年)が満了し、次の契約を締結することを契約更改といっていますが、これは法律用語としての「更改」とは異なります。
期間満了で債務が消滅しているのだから、更改によって元の債務を消滅させているわけではないし、野球選手に「来年からサッカーをしろ」と転向させるようなものでもありません。

これは、借家の賃貸借契約の期間が満了したときに、同一条件で(あるいは家賃を変更して)引き続き借りるのと似ています。
つまり、契約「更改」ではなくて、契約「更新」というほうが正確です。

「契約更新」と書いているニュースもチラホラとありますね。


では、今日はこの辺で。


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2014年11月5日水曜日

一事不再理の原則

司法書士の岡川です。

舞鶴女子高生殺害事件で無罪が確定して釈放された元被告人が、殺人未遂事件を起こしたようです。
今のところ、正当防衛を主張しているようですが、警察の取り調べを受けることになります。

別件だとは分かっていても、同一人物に関する2件の事件。
前の事件についても気になってくる人も少なくないでしょう。
しかし、それはそれ、これはこれ、冷静に切り分けて考えなければなりません。


ところで、一度無罪が確定した事件で、 新証拠が出てきて「やっぱりあいつが犯人だった」ということが分かった場合はどうなるか。

これが逆の場合、すなわち、有罪判決が確定した後にそれを覆す新証拠が出てきた場合は、「再審請求」をすることで、無罪への道が開かれます(もちろん、かなり厳しいですが)。

それと同じように考えると、例えば検察が再審請求してもう一度審理しなおすこともありそうですが、実はそうではありません。
 刑事訴訟法の再審の規定は、「有罪の言渡をした確定判決に対して、その言渡を受けた者の利益のために、これをすることができる。」(刑訴435条)のようになっており、無罪の確定判決に対する規定は存在しないのです。

もちろん、同じ人を同じ罪で再び起訴することも許されません。
刑事訴訟法では、有罪無罪にかかわらず、一度確定判決を経た事件に関して、同一事件で再度起訴した場合、「免訴」が言い渡されて手続が打ち切られます(刑訴337条)。


このように、一度裁判が確定した場合に、再び実体審理を行ってはならないという刑事訴訟法の原則を「一事不再理」といいます。
(日本国憲法39条が一事不再理の原則を定めているという見解もあります)


背景には、二回も三回も刑事訴追の負担を与えてはならない(「二重の危険」の禁止)という考えがあると解されています(憲法39条は、二重の危険の禁止を定めていると考えます)。

国民に過度な負担を与えないということは、「真犯人を取り逃がさない」ことよりも重視されるのです。

推定無罪の原則と通じるところがありますね。

では、今日はこの辺で。


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2014年11月4日火曜日

安楽死の法的問題

司法書士の岡川です。

医者から余命宣告をされたアメリカ人女性が安楽死をしたというニュースがありました。

安楽死というのは、非常に難しい問題です。
アメリカの一部の州では、安楽死を合法化しているようですが、日本では安楽死についての法整備はされておりません。

他人の手を借りず、自分自身で死に至るような行為を行った場合、これは平たくいえば「自殺」なわけですが、少なくとも日本において自殺は犯罪とされていません(違法かどうかという点は争いがあります)。
しかし、自殺を教唆(そそのかし)したり幇助(手助け)したり、あるいは、被害者の同意のもとで殺害(同意殺人)した場合、すなわち、他人の死に関与したときは、犯罪とされています

つまり、自殺が犯罪とされていない日本においても、他人の自殺に関与する行為は許されていないのです。


さて、「安楽死」とは、一般的には、医者の関与のもとで苦痛を緩和して死に至らしめる行為です。
よって、「安楽死」には常に自殺関与罪や同意殺人罪の問題が付きまといます。


一口に「安楽死」といっても、いくつかの類型に分けられます。

まずは、末期患者の苦痛を和らげる目的で鎮痛剤等をを投与する行為。
これを「純粋安楽死」ということがありますが、このように、それ自体が生命の短縮を伴わずに苦痛を除去する医療行為に違法性はありません。

痛みを緩和する目的で薬物を投与することが、結果として死期を早めることがあります。
これを「間接的安楽死」といいますが、これもやはり適切な医療行為であれば違法性はないと考えられています。

次に、苦痛が長く続くことを患者が望まず「延命措置を行わない」という形で死を早める行為。
これを「消極的安楽死」といいますが、この場合も、医者には「患者を延命させる義務」というのはありませんので、患者が望まないのであれば、延命措置をしないことに違法性は生じません。


以上の3類型と異なり、苦痛から逃れるために死期を早める薬物を投与する行為については、争いがあります。
これを「積極的安楽死」といいますが、一般的に安楽死の問題といえば、この積極的安楽死を合法と認めてよいのか(あるいは、現行法上違法であるなら合法化への法整備をすべきか)に関する問題なのです。


形式的には、積極的安楽死は、殺人罪または同意殺人罪に該当する行為です。
日本の現行法上、明示的にこれを許容する規定は存在しません。

過去の裁判例では、いくつかの要件を満たせば安楽死が許容される(違法性が阻却される)とされていますが、その要件も確定的なものではありません。


患者の自己決定権を根拠に積極的安楽死を認めることも考えられます。
ただし、あまり自己決定権を重視すると、どんなに苦しんでいても、本人が意思を表明できないような場合は積極的安楽死は認められないことになります(それはそれで当然だ、という考えもあり得る)。


人の生死観にも関わる議論であり、簡単には答えが出せない問題ですが、終末期医療に関わる医者たちにとっては、とにかく結論を出してもらいたい問題でしょう(自己が犯罪者になるかならないかがかかっているわけです)。


ちなみに、尊厳死という言葉もあります。
これは、「人間としての尊厳を守って死ぬこと」を意味しますが、具体的に何を尊厳死というかは、定義があいまいです。

とにかく、「尊厳を守って死ぬ」ことが尊厳死なのですが、治療中止のことを尊厳死という場合もあれば、消極的安楽死のことを尊厳死と呼ぶこともあるようです。
しかし、尊厳死については、苦痛の除去が問題になっているわけではないので、(具体的な状況としては類似し、両者が重なることもあるにしても)消極的安楽死と尊厳死を同一視するのは誤りだと思われます。

では、今日はこの辺で。


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