2015年1月31日土曜日

『市民と法』で記事を書きました

司法書士の岡川です。

主に司法書士を対象とした専門誌『市民と法』の91号で、「建物所有者変更を伴う建物明渡・執行事件」と題した記事を書きました。

法律家向けで、年間購読が必要な雑誌なのですが、何かの機会で手に取ることがありましたら、目を通していただけるとありがたいです。


ついでに年間購読契約していただけると、(出版社の方が)喜びます。

よろしくお願いします。


2015年1月29日木曜日

略取と誘拐

司法書士の岡川です。

突然ですが問題です。

暴行や脅迫を用いて、無理やり人を連れ去る行為を何というでしょう?





答え:略取





例えば、ナイフで脅して無理やり車に乗せて連れ去ったりするのは、実は「誘拐」ではありません。
これは「略取」といいます。

「拉致」というのも意味的には間違いではないでしょうが、「拉致」という語は、法律用語としては北朝鮮による拉致問題にしか使われません。


法律(刑法)上、「略取」と「誘拐」は明確に区別されています。

何が違うかというと、略取というのが、上記のとおり暴行や脅迫という手段で連れ去る行為。
誘拐は、欺いたり誘惑したりして連れ去る行為をいいます。

つまり、ナイフをちらつかせて車に乗せるのは「略取」で、「親戚のおじさんだよ。お母さんからお迎えを頼まれて来たよ」と言って子供を車に乗せて連れ去るのが「誘拐」です。

略取罪と誘拐罪を合わせて「拐取罪」といいます。
区別はされていますが、略取と誘拐で刑の重さは変わりません。


拐取罪には、色々な類型があります。

まず、どんな目的であろうと、未成年者を拐取すれば犯罪となります(未成年者略取・誘拐)。

また、未成年に限らず、「営利、わいせつ、結婚又は生命若しくは身体に対する加害の目的」で人を拐取すれば、やはりこれも犯罪となります(営利目的等略取・誘拐)。

身代金目的というのも、わいせつ目的と同じくらいメジャーですが、もちろんこれも犯罪です(身代金目的略取・誘拐)。

マイナーどころでは、国外移送目的で拐取する行為も犯罪です(所在国外移送目的略取・誘拐)。


未成年者の拐取は、身代金目的とかわいせつ目的とかがなくても成立します。
たとえば、「1人で寂しそうにしていたから、しばらく一緒に遊んであげていた」という場合でも、親の了承を得ていなければ、場合によっては誘拐になるかもしれません。

「家出した中学生を家に誘って一泊させる」というのも犯罪です。
家出した中学生を見つけたら警察に届けるべきであって、勝手に連れ込んだりすべきではないのです。

未成年者との接し方は注意しましょう。


ちなみに、身代金目的の拐取が一番罪が重くて、最高で無期懲役になります。
また、未遂どころか「予備」の段階でも犯罪(予備罪)が成立します。


では、今日はこの辺で。

2015年1月28日水曜日

「遡及効」について

司法書士の岡川です。

今日は「遡及効」のお話。
「そきゅうこう」と読みますが、一般にはなかなか耳慣れない言葉だと思います。

「遡及」というのは、文字から意味は推測できると思いますが、「さかのぼる」という意味です。
もっといえば、時間の流れを遡ること、つまり過去に戻ることです。

実は、このブログでも、今までに何度か出てきたことがあります。
そう、おなじみの「遡及処罰の禁止」の「遡及」ですね。
遡及処罰の禁止というのは、新しくできた法律を遡って過去の行為に適用して処罰してはいけない、という罪刑法定主義の派生原理です。


その「遡及」に「効」がつくので、遡及効というのは、「過去に遡って効力が及ぶ」という意味になります。

法律で規定されているルールというのは、単純にいえば、

「一定の法律要件を満たせば、一定の法律効果が生じる」

というものなのですが、一定の要件を満たしたときに生じる効力が過去に遡ることがあり、それを「遡及効がある」のように表現します。


例えば、成年被後見人の意思表示や、詐欺・強迫による意思表示は、取り消すことができます

この「取消し」の効果というのは「意思表示が無効になる」というものなのですが、じゃあ「いつから無効になるのか」ということも考えなければなりません。
「取り消した時点から将来に向かって無効になる」のであれば、例えば「過去に支払ったお金は返してもらえないが、まだ支払っていないお金は支払わなくてもよい」というような結論になりそうです。

しかし、取消しの効果としては「取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。」と規定されています(民法121条)。
「契約がなかったことにする(取り消す)」というのは、「もうこれで終わり(今後は無し)」なのではなく、「最初からなかったことにする」ということになるのです。

「今」契約を取り消したのに、「無効になる」という効果は「過去の時点(契約時など)」に遡って生じる。
これを専門的に表現すれば、「遡及的に無効」といいます。


他には、例えば代理権を与えられていない人が勝手に代理人として契約をした場合を考えてみましょう。
基本的には、その契約の効果は本人に帰属しません(自称代理人が勝手にやったことなので)。

このとき、勝手に契約されたことを知った本人が「その契約いいね!」と思えば、後から契約を認めることができます。
これを「追認」というのですが、この追認の効力は契約のときに遡ります。
つまり、追認時に改めて契約の効力が生じるのではなく、最初から何の不備もなく契約が締結されたものとして扱われることになります。

これも遡及効です。


ちなみに、遡及効の対義語は「将来効」。
これは、「今から将来に向かって効力が生じる」ということで、過去にまで効力は及びません。


このように、法律の世界では、「過去にさかのぼる」ということがよくあるのです。

では、今日はこの辺で。

2015年1月27日火曜日

「食い逃げ」で成立する犯罪いろいろ

司法書士の岡川です。

今日は、「食い逃げ」(無銭飲食)が犯罪になる場合とならない場合があるというお話。

ネット上でも「食い逃げ 犯罪」などでググったらいくらでも見ることができる有名な話ですが、実際のところ「食い逃げ」をすると何罪が成立するのか、改めてまとめておきましょう。

【パターン1】
最も罪が軽そうなパターンでいうと、「食事が終わった後、うっかり支払いを忘れて店の外に出てしまった」という場合。
先に食券を買う店で慣れていたら、帰りに支払いを忘れてしまうということもあるかもしれません。
あるいは、団体で行って、誰かが既に支払ってると思って出るとかも考えられます。

客からすれば「うっかり」とはいえ、店側からすれば「食い逃げ」なのですが、この場合は何の犯罪も成立しません。
何の罪を犯す意思もない(故意がない)からです(参照→「故意犯処罰の原則」)。
「過失債務不履行罪」のような過失犯類型も存在しません。

もちろん勝手に帰ったからといって、食事代を支払う債務は残ります(債務不履行)ので、支払っていないことに気づいたら、すぐに支払いましょう。


【パターン2】
「食事が終わった後、帰ろうとしたら店員が誰も見ていないことに気付き、『あれ、これこのまま帰ってもバレないんじゃね?』とつい魔が差して、そのままコッソリと帰った」という場合。
パターン1に比べれば、悪いことをすることが分かってやっているので悪質ですが、これもやはり犯罪は成立しません。

というのも、これは「食事代を支払う」という義務を免れる行為です。
支払義務を履行しなかった分、不当に財産的利益を得ているとはいえます。
しかし、前回ご紹介したとおり、これは単純に「不当に財産的利益を得る」という利益窃盗行為であり、利益窃盗はどこにも犯罪として規定されていないからです。

もちろん、債務不履行には変わりないので、民事上の責任を免れることはできません。
ただ、「犯罪にはならない」というだけです。


【パターン3】
パターン2を少し変えて、「食事が終わった後、帰ろうとしたときにふと思いつき、『ちょっと財布を忘れたのでコンビニで下ろしてきます』と嘘を言い、店員の了承を得て店を出てそのまま帰った」という場合。
パターン2と違い、コッソリ逃げるのではなく、店員を欺いて財産上の利益(代金支払義務を免れる)を得ていますが、この場合は、詐欺罪(詐欺利得罪)が成立します。

詐欺罪は窃盗罪と違って、財産上の利益を詐取(だまし取る)行為も犯罪としています。
単純に利益を得るだけならまだしも、相手をだましてまで利益を得る行為は、刑法も認めていないのです。
詐欺利得罪は、246条2項に規定されているので、「2項詐欺」ともいわれます。


【パターン4】
悪質なのは、「最初から食い逃げする気で店に入り、注文して食事をして、そのまま逃走した」という場合。
食い逃げの中でも最も悪質なものですが、これは、「金を払って食事をする客であるかのように店員を欺いて食事を提供させた」ということで、詐欺罪を構成します。
財産上の利益というより、財物(食事)をだまし取っているわけですから、詐欺利得罪ではなくて普通の詐欺罪です。
厳密には、逃げなくても食事の提供を受けた段階で既遂ですね。
また、これとは別に建造物侵入罪が成立する可能性もあります。


【パターン5】
もっと悪質なのは、「食事が終わった後、帰ろうとしたときにふと思いつき、レジにいた店員を殴り倒して店を出た」という場合。
常識的にわかると思いますが、これは強盗罪(強盗利得罪)が成立します。
単純に利益を得るのではなく、暴行や脅迫を用いたら、さすがにそれは犯罪だということです。
代金支払義務を欺いて免れたのではなく、暴行によって免れたので、詐欺ではなく強盗になります。
強盗利得罪も、詐欺利得罪のように、2項(236条2項)に規定されているので、「2項強盗」ともいわれます。

強盗なので、店員が怪我をしたら強盗致傷罪になりますし、店員が死んだら強盗致死になります。


【パターン6】
少し場面を飲食店から変更し、「屋台に並べられているたこ焼きを金を払わず食べて逃げた」という場合。
これは窃盗罪ですね。
財物(たこ焼き)を窃取しているので。
お好み焼きでも、いか焼きでも、ねぎ焼きでも、結論は同じです。
実は、焼きそばでも同じ結論になります。

もちろん、その場で食べずに、たこ焼きを持ち去った場合も窃盗です。


【パターン7】
パターン6の発展型で、「逃げたら店のおじさんが追いかけてきて捕まりそうになったので、突き飛ばして逃走した」という場合は、強盗罪(事後強盗罪)が成立する可能性があります。
事後強盗罪というのは、「窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたとき」に成立します。
暴行強迫が物を奪う手段になった場合だけでなく、窃盗犯の逃走手段になった場合も、強盗罪に格上げされるのです。

強盗なので、相手が怪我をすれば強盗致傷ですし、死んだら強盗致死罪になります。


以上、色々な食い逃げパターンを検討しましたが、無罪になるパターンであっても、「無銭飲食するつもりがなかったんです」という釈明が通るかどうかはわかりません。
犯罪にならなくても、違法な行為であって民事上の責任を免れるものでもありません。


(今日の教訓)
たこ焼きはお金を払って食べましょう。

では、今日はこの辺で。

2015年1月26日月曜日

「金を返さない」のは犯罪か?

司法書士の岡川です。

「貸したお金を返してくれない」というのは、よくある法律トラブルですね。
支払期限を過ぎても返さない(履行遅滞)というのは、民事上の「債務不履行」になります。

貸した相手が、病床に伏しているとか会社をリストラされて生活に困っているとかならまだしも、借金を返さないくせにパチンコ三昧だったり毎晩飲みあるいてたりすれば、何らかの制裁を加えたくもなります。

言うまでもないですが、人のお金を勝手に取ったら犯罪(窃盗)です。
これは小学生でも知っています。

では、借りたお金を約束の期限までに返さないのも犯罪でしょうか?


実はこれは、犯罪ではありません。

なぜか。
単純に、刑法に「そのような行為を犯罪とする規定がない」からです。

刑法に規定がなければ犯罪ではない。
これが罪刑法定主義という大原則です。


窃盗罪は、他人の物を窃取すると成立します。
「窃取」とは、他人の手元にある物を、自分の手元に移す行為をいいます。

車でも札束でも犬でも何でもいいですが、とにかく、客体となる「物」をアッチからコッチに移転させること。
これが「窃取」です。

では、「金を返さない」というのはどうでしょう。
返さないという行為によって、何か「物」が債権者から債務者に移転するわけではありませんね。
したがって、「窃取」という行為が無いので、窃盗罪は成立しません。


債務の履行を一時的にでも免れると(それが法的に免責されたわけでなく、事実上のものであっても)、債務者は「財産上の利益」を得ることになります。
他人から「財産上の利益」を(脅したり騙したりせずに)取得する行為を、講学上は「利益窃盗」と呼びますが、利益窃盗は犯罪ではないのです。

利益窃盗とされるものの中には悪質な場合もありますが、単純な債務不履行も含まれることになります。

債務不履行は、悪気が無くとも起きる(返したくても返せないことが多い)もので、民事上の債務不履行をことごとく犯罪(利益窃盗罪)として処罰しても抑止力にはならないし、結局債権者には何の得もないし、「犯罪者」とされる者を無駄に増やすだけであまり意味がありません。
民事上の債務不履行は、民事上の決着(強制執行するとか、話し合いで分割払いにするとか)をつけるべきなのです。


ただし、犯罪でないのは、「単純な債務不履行」の場合です。

債権者を脅したり騙したりして履行を免れると、これは「強盗利得罪」「恐喝利得罪」「詐欺利得罪」といった犯罪が成立します。
ただ単に「返さない」だけならまだしも、脅したり騙したりすることまでは見逃されないわけです。
逆にいえば、そういう悪質な手法を用いない場合は、犯罪者として処罰するのではなく、民事的に解決させようという形になっているわけです。


もちろん、繰り返しになりますが、債務不履行は民事上の制裁(損害賠償請求)なども待っていますので、「犯罪じゃないから問題ない」という話ではありませんので、お間違えなきよう。

では、今日はこの辺で。

関連記事→「食い逃げ」で成立する犯罪いろいろ

2015年1月22日木曜日

債務不履行の話

司法書士の岡川です。


債務というのは債権の対概念で、誰かに対して一定の行為をする義務をいいます(参照→「債権と債務」)。
借金(金銭消費貸借契約)をすれば、債務者(借主)は債権者(貸主)に対して「借りた金を返す」という債務を負っています。
売買契約をすれば、買主は売主に代金を支払う債務を負いますし、売主は買主に目的物を引き渡す債務を負います。
売買契約のように、契約当事者が双方に対価的な意義を持つ債務を負う契約を「双務契約」といいますが、一方的に債務を負う契約(片務契約)もあります。
贈与なんかが典型的な片務契約ですね。
受贈者は対価的な債務を何も負っていませんので。

債務者がその義務を果たさない(民法の条文の文言としては「債務の本旨に従った履行をしない」)ことを「債務不履行」といいますが、伝統的な理解では、債務不履行には大きく分けて3つの類型があると説明されます。


1.履行遅滞

まずは履行遅滞。
読んで字のごとく、履行を遅滞する(遅れる)ことをいいます。
「何月何日に100万円を返す」という約束(契約)だったのに、その日を過ぎてもお金を返さなければ、それは履行遅滞ということになります。


2.履行不能

履行したくてもできない、という状況も考えられます。
「この車をあげる」という贈与契約をした後で、引渡しまでに目的の車が交通事故で全損してしまった場合などです。
無いものはあげようがないので、履行時期になる前にも債務不履行となります。


3.不完全履行

形式的には履行がされたが、それが「債務の本旨に従った」完全なものではない場合です。
例えば、ネットで本を注文した(売買契約)ら、届いた本が上下逆さまに印刷されていたような場合ですね。
「本は本やろ?」と言われても「そういう問題ちゃうやろ」となります。

債務不履行があれば、債権者は当然ながら「きちんと履行しろ」と請求することができます。
また、債務者に帰責事由(故意・過失等)がある場合、債務不履行によって損害が発生すれば、債権者は損害賠償請求をすることができます。
帰責事由というのは、法律の条文には出てこないのですが、伝統的にはこれが要件となっています。
つまり、不可抗力の場合(例えば、車をガレージ内に停めていたのに隕石が直撃して全損したとか)、債務者は損害賠償責任を負わないわけです。
それから、契約の場合は、債務不履行を理由として契約を解除することができます。
双務契約では、債権者は契約を解除することで、自分が負っている債務から解放されることができます。
例えば、建物賃貸借契約で賃借人が賃料債務を履行しない場合、家主は、契約を解除することで賃借人に建物を使わせる債務から解放され、明渡請求をすることができます。

ところで、債務不履行は民法上の問題なわけですが、貸した金も返さない相手を警察に突き出すことはできるでしょうか?

その辺の話は次回書こうと思います。


では、今日はこの辺で。

2015年1月20日火曜日

登記名義人になれない団体

司法書士の岡川です。

不動産の「名義人」は、登記簿に所有者として名前が記載されている人をいいます。
実際に(法的に)誰が所有権を有しているかはさておき、登記簿上は、申請をしなければ名義人は変わりません。

自然人(個人)だけでなく、会社や一般社団法人、学校法人、宗教法人等の「法人」も、権利の主体になることができる(人の集まりである法人自体が所有者になることができる)ので、法人名義で登記することができます。

他方で、同じ人の集まり(団体)であっても、法人格を有していない(法人として登記されていない)団体名義では登記をすることができません。

学校のサークル、町内会、スポーツチーム、ボランティア団体など、世の中には法人ではない団体は数多くあります。
学校のサークルが不動産を購入しようとすることはあまりないでしょうが、町内会など、きちんとした組織や財政基盤がある場合、不動産を取得する必要が出てくる場合もあります。
町内会の集会所とかですね。

そのとき、その団体名義に登記することができないからといって、不動産を購入しても前所有者名義に放置するというのは危なっかしくて仕方がない。
前所有者が別の人に売ってしまって、その人に名義が移転してしまえば、たとえ先に買ったのだとしても権利を主張することはできませんので、せっかく買った不動産なのに手放さざるを得なくなります(第三者に対して権利を主張するための要件を「対抗要件」といいます)。

そこで、団体名で登記するのではなく、便宜的に、代表者名義で登記をしたり、団体の構成員全員の共有名義で登記するという方法がとられます。

共有名義となると、団体の構成員に変動がある毎にきちんと持分移転登記をしておかないと、いざその不動産を処分しようとするときに、大変なことになります(例えば、とっくの昔に脱退した人とかその相続人とかにハンコをもらいにいかないといけないなど)。

共有名義というのは色々面倒なのです。

また、代表者名義で登記するというのも、その代表者が変われば登記しないといけませんし、代表者個人名義にするというのも不安なものです(この場合、本当に個人名義で登記され、「○○会会長○○」のような肩書が付されることもありません)。


今は、いろんな法人が比較的簡単に作れるようになっています(一般社団法人など)。
町内会などは、「認可地縁団体」という特別な法人になることも可能です。

団体がお金をためて不動産を購入するなら、その前に法人にしてしまうのがオススメです。
また、現に不動産を所有している団体は、ややこしくなる前に法人化するとよいでしょう。
そうすれば、団体(法人)名義で登記ができます。

では、今日はこの辺で。

2015年1月14日水曜日

控訴審や上告審の判決

司法書士の岡川です。

いつまで続くか司法(裁判)制度ネタ。
今日は、控訴審や上告審判決の話です。

第一審判決は、民事訴訟の場合、メインは請求認容(一部認容)判決か請求棄却判決です。
例えば「100万円返せ」という請求であれば、裁判所が「100万円返しなさい」と認めるのが認容判決、「返さなくてよい」というのが棄却判決です。
「50万円だけ返しなさい」という内容なら一部認容判決ですね。
この他、「訴え自体が適法でない」という場合もあり、そのときは訴え却下判決となります(棄却と却下は、法律用語としては似て非なるものなのです)。

刑事訴訟の場合、メインは有罪判決と無罪判決で、そのほかに免訴判決とか公訴棄却判決というのもあります。


では、このような判決に対して上訴したら、上訴審ではどのような判決が出るのでしょうか。

原判決を維持する場合は、上訴を棄却することになります。

控訴審では、第一審判決を維持するなら控訴棄却判決です(「公訴棄却」ではないので注意)。
これは民事も刑事も同じですが、民事訴訟では控訴が不適法な場合の控訴却下判決というのもあります。
上告審でも似たようなもので、控訴審判決を維持する場合は、上告棄却判決となります(不適法な場合、却下決定がなされることもあります)。

いずれも「棄却」とありますが、民事訴訟の第一審判決の「請求棄却」と違って、上訴を棄却するものです。
したがって、「控訴棄却判決」の内容が「請求認容」である場合もあるので少し注意が必要です(第一審の請求認容判決に対して被告が控訴し、その控訴が棄却されたら、結論としては請求認容です)。


逆に、原判決が不当であると判断された場合はちょっと複雑です。

まず、民事訴訟の控訴審で第一審判決が不当である場合、判決で原判決を取り消します。
取り消したあとは、原則として、そのままその控訴裁判所が新しい(変更された)判決を出します。
これを「自判」といいます。
場合によっては、第一審の審理が不十分であることもあるので、その場合は、新しい判決を出すのではなく、第一審に審理の場を戻して足りていない部分の審理をやり直させます。
これを「差戻し」といいます。

これに対して刑事訴訟の控訴審では、第一審判決を破棄します。
破棄した後は、原則として第一審に差し戻すことになりますが、既に十分な審理がなされている場合は、そのまま自判することもできます。


それから上告審ですが、民事訴訟でも刑事訴訟でも、控訴審判決が不当なら破棄します。
そして、控訴審判決を破棄した後は、原則として差し戻します。
上告審は法律審なので、法律問題に一定の判断をした後は、その解釈の下で事実審理を続ける必要があるからです。
その必要がなければ、例外的に自判することも可能です。


判決取消しも判決破棄も、どちらも原判決を覆すという意味では同じようなものですが、控訴審では、民事訴訟と刑事訴訟で用語が異なります。
これは、続審制である民事訴訟の控訴審が「取消し」で、事後審制である刑事訴訟の控訴審が「破棄」という使い分けのようです。
同じく事後審制である上告審では、どちらも「破棄」です。

そして、取消し(続審制)の場合は、自判が原則で、破棄の場合(事後審制)は、差戻しが原則。


よくニュースなどで「最高裁は、判決を破棄し、審理を大阪高等裁判所に差し戻した」と聞くことがあります。
「最高裁がそのまま最終判断しろよ!」とツッコむのはシロウトです。
「最高裁は自ら判断することから逃げた」とか批判するのもアマチュアです。

最高裁は、原判決を破棄しても原則として自判はしないものなのです。

よって、プロの法律マニアは、このニュースで「なるほど、事実審である高等裁判所に戻して、足りていない事実審理をやり直すんだな」と理解するのです。

では、今日はこの辺で。

2015年1月13日火曜日

控訴と上告の理由

司法書士の岡川です
司法(裁判)制度の話がずっと続きますが、ここまできたらとことん行きましょう。

おさらいですが、第一審判決に不服がある場合に上級裁判所に不服申立て(上訴)をすることを控訴といい、控訴審判決に対する上訴を上告といいます。
例外的に、第一審判決に対して上告する場合もありますが、とりあえずこれは無視しましょう。

民事訴訟では、判決に不服があれば控訴することができ、控訴理由は特に制限されていません。
「事実認定がおかしい」でも「その法律の解釈は間違っている」でも何でも構いません。

これに対し、刑事訴訟では、控訴理由とすることができる事由が限定されています。
細かく挙げれば色々ありますが、主要なところでは、①第一審訴訟手続の法令違反、②事実誤認、③法令適用の誤り、④量刑不当のいずれかであって、特に重大な法令違反がある場合や判決に影響を及ぼすことが明らかな場合が控訴理由となります。


上告の場合は、更に理由とできるものに絞りがかけられます。

民事訴訟では、①憲法解釈の誤りや憲法違反、②一定の重大な手続違反、の2つが上告理由となります。
上告審が高等裁判所の場合(一審が簡裁の場合)、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反というのも上告理由となります。

上告審は法律審なので、基本的には事実に認定の誤りなどを理由として上告をすることはできません。
また、法律問題でも、単なる法令違反では受け付けてくれません。

ただし、裏道(?)として、「上告受理申立て」という制度があります。
最高裁は、原判決が最高裁判例に反する場合や、法令の解釈に関する重要な事項を含む判断が含まれている場合は、上告理由がなくても上告を受理することができるので、「受理して下さい」という申立てをするわけです。

ちなみに、事実認定の誤りが経験則違反であるとして上告受理の申立てがされることも認められています。
経験則違反だと法令違反とか法令解釈の問題になるからです。
裁判官は経験則に則って(つまり常識的な)判断をしなければならないので、そこから大きく外れた判断をするのは、法令の適用や解釈に関する違法があるということになるわけです。

ものは言いようですね。

もちろん何でもかんでも経験則違反が認められるものではありませんが。


刑事訴訟法の上告理由も似たようなもので、憲法解釈の誤りや憲法違反があると上告理由となります。
それに加えて、民事訴訟と違って、最高裁判例に反することも上告理由となります。

民事訴訟法の上告受理の申立てと同じような制度もあり、法令の解釈に関する重要な事項を含む場合、最高裁判所は、上告を受理することができます。


とまあこんな具合に、何やかんやと理由をつけて、上告することは可能なのですが、実際に受理されて、しかもその主張が通って原判決が破棄されるのはなかなか困難です。

では、今日はこの辺で。

2015年1月9日金曜日

事実審と法律審

司法書士の岡川です。

まだまだ裁判所の審級の話が続きます。
裁判所の審理の対象についてみると、「事実審」と「法律審」にわけることができます。

事実審というのは、事実問題(どういう事実があったのかの問題)と法律問題(どの法令をどう当てはめるかの問題)の両方について審理する裁判所(審級)をいいます。

例えば「貸した金を返せ」という訴えに対しては、「本当に貸したのか」「いくら貸したのか」「まだ返していないのか」といった事実面での審理と、「その契約は適法か」といった規範面の審理の両方を行うのが事実審です。

これに対し、自ら事実認定を行わず、法の適用についてのみ審理するのが法律審です。
法律審では、例えば「貸した金を返せ」という訴えに対して、「実際に貸したのか」「本当に返していないのか」といった事実面の判断は行いません。


日本の司法制度では、第一審と第二審(控訴審)は事実審とされています。
他方、上告審は法律審であり、上告審では原則として原審(控訴審)が認定した事実がそのまま判決の基礎となります。

つまり、専ら上告審を担当する最高裁判所では、「金は借りていない」といった事実面での控訴審の誤りを主張をすることはできない(しても意味がない)ので、基本的には、法令解釈の誤りを指摘したり、そもそもその法律は憲法違反だと主張するしかなくなります。


上告審が法律審である以上い、三審制といっても、事実の存否について3回別の裁判会に判断してもらうチャンスがあるわけではない。
これは覚えておきましょう。

では、今日はこの辺で。


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2015年1月6日火曜日

民事も刑事も「自白」は慎重に

司法書士の岡川です。

「自白」というのは、一般的なイメージとしては、カツ丼の誘惑に負けて「私がやりました」と罪を認める供述をすることだと思われるかもしれません。
もちろん、そういう意味(カツ丼は除く)もあるのですが、自白はなにも犯罪者が行うものとは限りません。

1.刑事訴訟法上の自白

一般的にイメージされる自白は、刑事手続におけるものです。
犯人(被疑者や被告人)が、自分の犯罪事実を認める供述です。

犯人が認めちゃっているわけですから、他の証拠よりも信用性が高く、「自白は証拠の女王」といわれています。
何で「女王」なのかは分かりませんが、とにかく女王と呼ばれています。

ありのままの自分だからですかね。

ただ、自白偏重の捜査が冤罪を生むというのもまた事実であり、憲法38条2項は、「強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない」と定めています。
刑訴法319条1項にも同様の規定(「強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない」)があり、自白の証拠能力(証拠として採用できるかどうか)に一定の制限を設けています。
これを、「自白法則」といいます。

また、憲法38条3項は、「何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない」と規定し、刑訴法319条2項も「被告人は、公判廷における自白であると否とを問わず、その自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には、有罪とされない」と規定しており、「自白のみ」で被告人を有罪にすることはできないことになっています。
これを補強法則といいます。

自白が強力な証拠である分、その取り扱いは慎重でなければならないということです。


2.民事訴訟法上の自白

実は、民事訴訟においても「自白」というものがあります。
民事訴訟法上の自白は、自己に不利益な事実を認めることをいいます。

例えば、原告が「何年何月何日、被告に100万円貸し付けた」と主張したことに対し、被告がその貸付けの事実を認めることを「自白」といいます。
被告としては、貸付けの事実を認めたうえで「でも何月何日に返した」という反論(これを抗弁といいます)をして原告の請求を争うことができます。

民事訴訟法上の自白は、裁判所の認定を拘束します。
「裁判所において当事者が自白した事実及び顕著な事実は、証明することを要しない」(民訴法179条)とされているので、自白が成立すれば、裁判所は何の証拠もなくその事実を認定する(認定しなければならない)ことになります。
刑事訴訟と違って、民事上の紛争は当事者間の問題なので、当事者が認める事実をそれ以上慎重に審理する必要はありません。
したがって、補強証拠なども一切必要とされません。

自白には、積極的に「認める」と述べた場合のほか、積極的に争わなかった場合も成立することになります。

認めるなら認めると述べる(自白)。
認めないなら認めないと述べる(否認)。
知らないなら知らないと述べる(不知)。

そのいずれでもない態度をとった場合(これを「沈黙」といいます)、認めた(自白した)ものとして扱われるのです。
これを「擬制自白」といいます。

訴えられた被告が答弁書も出さず、法廷にも出てこない場合、原告の主張を争わなかったということになります。
その場合は、全面的に擬制自白が成立し、原告全面勝訴の判決が出ることになります。

いわゆる「欠席裁判」というのはこういうことです。
欠席裁判では、全面的に被告が認めたことになるので証拠すら必要ないのです。


犯罪を疑われた場合、本当にやっていないときは自白してはいけません。
なんせ自白は証拠の女王ですから、あとから撤回することは大変です。

そして、民事で誰かに訴えられた場合、無視してはいけません。
無視すると、全面的に認めたことになりますから、面倒でも何らかの対応をしましょう。

擬制自白が成立し、控訴期間が経過すれば、真実がどうであろうが、法的には原告の主張通りの事実が認められます。

裁判所から何か書類が届いたら、まずは司法書士に相談しましょう!(久しぶりの宣伝)


では、今日はこの辺で。


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2015年1月1日木曜日

謹んで新年のお慶びを申し上げます

司法書士の岡川です。


旧年中はたくさんの皆さまに当ブログを読んでいただき心より感謝いたします。


今年も引き続き、役に立つ情報と別にそうでもない情報を織り交ぜてぼちぼち発信していきます。


何卒よろしくお願い申し上げます。


平成27年元旦

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