2015年1月27日火曜日

「食い逃げ」で成立する犯罪いろいろ

司法書士の岡川です。

今日は、「食い逃げ」(無銭飲食)が犯罪になる場合とならない場合があるというお話。

ネット上でも「食い逃げ 犯罪」などでググったらいくらでも見ることができる有名な話ですが、実際のところ「食い逃げ」をすると何罪が成立するのか、改めてまとめておきましょう。

【パターン1】
最も罪が軽そうなパターンでいうと、「食事が終わった後、うっかり支払いを忘れて店の外に出てしまった」という場合。
先に食券を買う店で慣れていたら、帰りに支払いを忘れてしまうということもあるかもしれません。
あるいは、団体で行って、誰かが既に支払ってると思って出るとかも考えられます。

客からすれば「うっかり」とはいえ、店側からすれば「食い逃げ」なのですが、この場合は何の犯罪も成立しません。
何の罪を犯す意思もない(故意がない)からです(参照→「故意犯処罰の原則」)。
「過失債務不履行罪」のような過失犯類型も存在しません。

もちろん勝手に帰ったからといって、食事代を支払う債務は残ります(債務不履行)ので、支払っていないことに気づいたら、すぐに支払いましょう。


【パターン2】
「食事が終わった後、帰ろうとしたら店員が誰も見ていないことに気付き、『あれ、これこのまま帰ってもバレないんじゃね?』とつい魔が差して、そのままコッソリと帰った」という場合。
パターン1に比べれば、悪いことをすることが分かってやっているので悪質ですが、これもやはり犯罪は成立しません。

というのも、これは「食事代を支払う」という義務を免れる行為です。
支払義務を履行しなかった分、不当に財産的利益を得ているとはいえます。
しかし、前回ご紹介したとおり、これは単純に「不当に財産的利益を得る」という利益窃盗行為であり、利益窃盗はどこにも犯罪として規定されていないからです。

もちろん、債務不履行には変わりないので、民事上の責任を免れることはできません。
ただ、「犯罪にはならない」というだけです。


【パターン3】
パターン2を少し変えて、「食事が終わった後、帰ろうとしたときにふと思いつき、『ちょっと財布を忘れたのでコンビニで下ろしてきます』と嘘を言い、店員の了承を得て店を出てそのまま帰った」という場合。
パターン2と違い、コッソリ逃げるのではなく、店員を欺いて財産上の利益(代金支払義務を免れる)を得ていますが、この場合は、詐欺罪(詐欺利得罪)が成立します。

詐欺罪は窃盗罪と違って、財産上の利益を詐取(だまし取る)行為も犯罪としています。
単純に利益を得るだけならまだしも、相手をだましてまで利益を得る行為は、刑法も認めていないのです。
詐欺利得罪は、246条2項に規定されているので、「2項詐欺」ともいわれます。


【パターン4】
悪質なのは、「最初から食い逃げする気で店に入り、注文して食事をして、そのまま逃走した」という場合。
食い逃げの中でも最も悪質なものですが、これは、「金を払って食事をする客であるかのように店員を欺いて食事を提供させた」ということで、詐欺罪を構成します。
財産上の利益というより、財物(食事)をだまし取っているわけですから、詐欺利得罪ではなくて普通の詐欺罪です。
厳密には、逃げなくても食事の提供を受けた段階で既遂ですね。
また、これとは別に建造物侵入罪が成立する可能性もあります。


【パターン5】
もっと悪質なのは、「食事が終わった後、帰ろうとしたときにふと思いつき、レジにいた店員を殴り倒して店を出た」という場合。
常識的にわかると思いますが、これは強盗罪(強盗利得罪)が成立します。
単純に利益を得るのではなく、暴行や脅迫を用いたら、さすがにそれは犯罪だということです。
代金支払義務を欺いて免れたのではなく、暴行によって免れたので、詐欺ではなく強盗になります。
強盗利得罪も、詐欺利得罪のように、2項(236条2項)に規定されているので、「2項強盗」ともいわれます。

強盗なので、店員が怪我をしたら強盗致傷罪になりますし、店員が死んだら強盗致死になります。


【パターン6】
少し場面を飲食店から変更し、「屋台に並べられているたこ焼きを金を払わず食べて逃げた」という場合。
これは窃盗罪ですね。
財物(たこ焼き)を窃取しているので。
お好み焼きでも、いか焼きでも、ねぎ焼きでも、結論は同じです。
実は、焼きそばでも同じ結論になります。

もちろん、その場で食べずに、たこ焼きを持ち去った場合も窃盗です。


【パターン7】
パターン6の発展型で、「逃げたら店のおじさんが追いかけてきて捕まりそうになったので、突き飛ばして逃走した」という場合は、強盗罪(事後強盗罪)が成立する可能性があります。
事後強盗罪というのは、「窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたとき」に成立します。
暴行強迫が物を奪う手段になった場合だけでなく、窃盗犯の逃走手段になった場合も、強盗罪に格上げされるのです。

強盗なので、相手が怪我をすれば強盗致傷ですし、死んだら強盗致死罪になります。


以上、色々な食い逃げパターンを検討しましたが、無罪になるパターンであっても、「無銭飲食するつもりがなかったんです」という釈明が通るかどうかはわかりません。
犯罪にならなくても、違法な行為であって民事上の責任を免れるものでもありません。


(今日の教訓)
たこ焼きはお金を払って食べましょう。

では、今日はこの辺で。

2 件のコメント:

  1. 面白くてとても役に立ちます。ありがとうございます。

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    1. ありがとうございます。
      これからも面白くて役に立つ記事を書いていこうと思います。
      今後ともよろしくお願いします。

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