2015年2月27日金曜日

色々な法人設立の方式

司法書士の岡川です。

自然人と違って、法人格というのは法律で特に定められたものですから、法人が設立されて法人格を取得する方法も法律で定められています。
そのひとつが前回紹介した準則主義ですが、他にも様々な制度が存在します。

特許主義

まず、最も厳格な方式が、個別の立法に基づいて設立されるというもので、これを特許主義といいます。
日本銀行法に基づく日本銀行や、日本赤十字社法に基づく日本赤十字社などは、国策に基づき、個別の法律で設立される特許主義の法人です。
特許」といっても、特許権の特許とも違いますし、行政処分としての特許とも違うのですが。

許可主義

個別の根拠法が必要な特許主義よりは緩やかですが、設立には主務官庁の「許可」が必要な方式を許可主義といいます。
かつての民法上の法人(社団法人と財団法人)がこれです。
法律の要件を満たしていても、最終的に法人格が付与されるかどうか(許可が得られるか)は行政庁の裁量に委ねられます。


免許主義

法人の設立に主務官庁の「免許」が必要となる、旧商法時代の会社設立の方式です。
詳しくは昨日の記事を参照。

認可主義

法人設立に主務官庁が関わりますが、許可主義や免許主義より緩やかなのが認可主義です。
設立には「認可」が必要ですが、認可申請があったとき、法令の要件を満たしていれば、官庁の裁量を挟まずに認可を与えることになります。
学校法人や社会福祉法人、医療法人など多くの法人が認可主義となっています。

認証主義

認可主義と同じようなものですが、設立に主務官庁の「認証」が必要なものを認証主義といいます。
宗教法人や特定非営利活動法人がこれにあたります。
認証も認可と同じく、主務官庁側に裁量はないのですが、認可より審査が形式的なのが認証だとされています。

準則主義

法定の要件を満たしていれば、法人を設立できるのが準則主義。
現行法上の会社のほか、一般社団法人なども準則主義です。

自由設立主義

法定の要件すら必要なく、会社組織が形成されれば(定款さえ作れば)設立できるのが自由設立主義です。
形式審査すらないので、設立にあたって国の関与は一切ありません。
日本では、自由設立主義をとる法人形態は存在しません。


日本では、自由設立主義の法人はないので、準則主義による法人が最も簡易に設立できます。
そこで、営利活動をするなら会社を作ればよいし、非営利活動をしたいなら一般社団法人や一般財団法人を作ればよいのです。

ちなみに、現行法上の公益法人(公益社団法人と公益財団法人)というのは、一般社団法人・一般財団法人として設立された法人のうち、公益認定を受けたものをいいます。
つまり、設立手続(法人格を取得するまで)については、準則主義ということができますね。


では、今日はこの辺で。

2015年2月23日月曜日

会社はどうやって「成立」するか?

司法書士の岡川です。

会社(株式会社や持分会社)は、法人格を有する「法人」です。
会社が成立するということは、すなわち法人格を取得することを意味します。

では、会社はどうすれば「成立」するのでしょうか。

会社法では「株式会社は、その本店の所在地において設立の登記をすることによって成立する」(会社法49条)とされています。
なので、会社に法人格が付与される(会社が法人格を取得する)ためにとるべき手続は、「登記」の手続だということになります。


会社は、法律に則って、一定の手続が履行されたら、許可や認可等を必要とせずに法人格を取得することができます。
これを「準則主義」といいます。

法定の手続としては、まず会社の実体を形成するために、

1.定款の作成
2.株主の確定
3.出資の履行(会社財産の形成)
4.取締役等の機関の選任

を行います。

会社の実体が形成されたら、その後に設立登記をしますが、法定の手続が履行されていれば設立登記に必要な書類が揃いますし、逆に手続に不備があれば設立登記ができません。
準則主義の下で会社設立の要件が整っているかは、設立登記手続の中で登記官が審査することになっているのです。
ただし、登記官は、「法定の手続が履行されたか」という範囲を超えて、「こんな会社の設立を許すべきではない」といった実質的な判断に踏み込む権限は有していません。



今では誰でも簡単に会社を作ることができる(親の同意があれば小学生でも作れる)時代ですが、元々そういうものだったわけではありません。


株式会社という企業形態(あるいは、その起源となるような組織形態)が生まれたのは、大航海時代のヨーロッパに遡ります。
高校で世界史を学んだ人は、「イギリス東インド会社」とか「オランダ東インド会社」というのを聞いたことがあると思いますが、あのへんの会社が、世界で最初の株式会社と言われています。
「あのへん」とはっきりしないのは、何をもって「株式会社」というのかによって、どれが世界初になるのかが変わってくるからです。

その頃の会社が法人格を取得するには、基本的には国王の勅許や議会の特許が必要でした(こうして設立された会社を勅許会社とか特許会社といいます)。
当時は国策として会社が設立されていたことから、誰でも彼でも会社を作ることは認められませんでした。


という400年くらい前の歴史に思いをはせるのはこれくらいにして、身近な日本の話に戻しますと、かつての旧商法(明治23年商法)では、免許主義が取られていました。
すなわち、目論見書と仮定款を作成して発起人が署名捺印し、これを主務省に提出して認可を得なければ発起することができませんでした。

その頃は認可を得て初めて株主を募集することができたのです(旧商法159条)。

そして、認可が得られたのち、創立総会なども終われば、設立に際してさらに主務省の免許を申請し、免許が得られたら無事に会社設立となります。

これが明治23年ですから、130年くらい前の話です。

今の会社法の前身となったのが現行商法ですが、これは明治32年に制定され、この段階で免許主義は廃止され、一定のルールの下で自由に設立できるようになりました(準則主義)。
110年くらい前の話ですね。

明治32年に免許主義が廃止されて以来、現在の会社法に至るまで準則主義となっています。


準則主義では、設立の許可や認可を与えるための審査というものがありませんので、適法に会社が設立されているかを審査する唯一の制度が登記です。

現在の商業登記はかなり簡略化されて、会社設立も非常に簡単になりましたが、会社の実在は登記でのみ確認できるので極めて重要な制度なのです。
その辺をあまり意識せず、登記を軽く考えている人もいますが、それは大きな間違いです。

これは設立登記に限らず、設立後の変更登記(例えば、役員の任期が満了した時の役員変更登記)などでも同じことです。
登記懈怠には注意しましょう。

では、今日はこの辺で。

2015年2月18日水曜日

「無資格で登記申請」とは?

司法書士の岡川です。

行政書士が会社設立登記申請業務を行ったとして、司法書士法違反で逮捕されました。

無資格で登記申請・・・行政書士の男を逮捕

警察によると、小野容疑者は司法書士の資格がないにも関わらず、中国人の依頼を受け、去年までの2年半の間に司法書士に認められている会社設立の登記の申請手続きを7件行った疑いがもたれている。

記事にもある通り、会社設立登記に限らず、およそ「登記」の手続は、司法書士の独占業務です。

測量などを要する「不動産の表示登記」に関しては、その専門家である土地家屋調査士の業務範囲となっていますが、少なくとも、行政書士による登記手続が認められることは絶対にありません。


今回の逮捕の主眼は、在留期限を不当に延長させる行為に手を貸したことにあるのでしょうが、どんな目的であろうと、行政書士が登記手続に関与すれば司法書士法違反となります。
たとえ「登記申請を手伝って若者にたくさん起業してもらい、日本の経済を活性化させたい!」という立派な志を持っていたとしても、それは司法書士資格を取ってからしましょうね、という話になるわけです。


「法律で登記申請を認められてないのなら、どうやって登記申請したの?」というと、この手の犯罪をする人たちの典型的な手法は、「本人申請」という形をとります。

司法書士は、登記申請代理人になれますので、申請書に司法書士の名前を書き、押印して登記を申請します。
しかし、司法書士以外が代理人として申請すれば、自分の犯罪を堂々と申告しているようなものですので、犯罪者は、普通はそんなことはしません。

あくまでも「申請書は本人が作った」ことにして、代理人にもならず、「本人が自分で申請した」という形をとるわけですね。
外見上は、本人が記名押印して、本人が提出しているわけですから、申請は受理されるわけです。


ただし、司法書士法は、登記申請代理だけを独占業務としているわけではなく、司法書士以外が業として「法務局に提出する書類の作成」することを禁じています。
したがって、たとえ本人の名前で申請するとしても、業として書類作成を行えば違法(犯罪)となります。

中には本気で「代理をせずに本人申請なら違反にならない」と考えて、違法行為を繰り返している人もいるかもしれませんが、司法書士法はそこまでザルではありません。

さらに言えば、司法書士法は、その書類作成の「相談に応ずること」から独占業務としていますので、「代理も書類作成もせず、申請書の作り方を教えるだけ」であっても、司法書士法違反になる可能性があります。


ついでに言うと、「タダでサービスでやるだけだから」という言い訳も通用しません。

以前も書きましたが、司法書士法は、有償無償を問わず、無資格者が反復継続して登記手続に関与(代理・書類作成・相談)することを犯罪として規定しています(→「無資格でもタダでやるならいいのか?」)。

司法書士法は、取引の安全を確保するための「登記制度」という厳格な手続に関与する資格を定めたものですので、厳しい規定となっているのです。


なお、「本人申請なら受理される」としても、法務局も、その裏ではきちんとチェックし、定期的に調査していますので、関与している無資格者はある程度把握しています。
バレてないと思っていても、結構バレています。

というか、そもそも「バレなきゃ大丈夫」と考えている時点でダメなんですけどね。


士業というのは、それぞれ業務範囲が決まっています。

皆さんも、違法行為を繰り返している人には関わらないようにしましょう。


あ、ちなみに私は司法書士兼行政書士なので、合法的に登記も許認可申請もできます。
よろしくお願いします(宣伝)。

では、今日はこの辺で。

2015年2月16日月曜日

「入籍」の意味

司法書士の岡川です。

芸能ニュースなんかを見ていると、誰かと誰かが結婚した場合、よく「入籍した」と言われます。
「結婚」というより、何となく「お上品」な響きだから使っているのか何なのか知りませんが、婚姻届を出したら「入籍」というイメージですね。

しかしですね、入籍と結婚は(被っている部分もあるが)全く別なのです。

入籍というのは、読んで字のごとく、「籍に入る」ことをいいます。
籍とは戸籍のことですね。

「入る」というからには、既に戸籍があって、そこに新たな人物が加わるということ。

このことからも分かると思いますが、典型的な入籍の原因は「出生」です。
この場合、「ご入籍おめでとうございます」というお祝いは、生まれてきた赤ちゃんに言うことばだということになりますね。

養子縁組というのも、多くは(未婚者であれば)養親の戸籍に入るので、これも入籍です。

この場合、「今日、○○さんと入籍しました♪」という報告は、○○さんの養子になったという意味になりますね。



では、結婚したらどうなるか。

多くの場合(特に初婚の場合)、結婚すれば、新しい戸籍が編製されます。
結婚すると、「入籍」するのではなく「新戸籍編製」するのです。

「結婚」と言わないのであれば、きちんと、「新戸籍編製おめでとうございます」とか「今日、○○さんと新戸籍編製しました♪」というべきなのです。

ただ、本当に「入籍」する場合もありまして、婚姻前に戸籍の筆頭者となっている人(例えば、一度結婚して離婚した場合など)と結婚して、その人の姓を名乗る場合であれば、その人の戸籍に入る(=入籍する)ことになります。
この場合は、新しい戸籍を作るのではなく、既存の人の戸籍に入ることになりますので、「入籍」でよいのです。


昔の戸籍では、女性が結婚したら男性側の「家」の戸籍に入っていたので、「結婚=入籍」でした。
結婚のことを入籍というのは、おそらくこの名残なのでしょうが、現行の民法や戸籍法では、「夫婦と未婚の子」を家族の最小単位としていますので、結婚したら親の戸籍から抜けて夫婦で新しい戸籍を作ります。
基本的には、「入籍」はしないのです。


戸籍事務では、「入籍届」というのもきちんと存在します。
しかしこれは婚姻届ではありません。

結婚するときに「入籍届」を出しても受理されませんので、注意しましょう。

では、今日はこの辺で。

2015年2月14日土曜日

同性カップルに公的証明書を発行する条例

司法書士の岡川です。

渋谷区で、同性カップルに 「婚姻相当」の証明書を発行する条例ができるとかできないとか。
条例案の内容がどこにも出ていないので、批評のしようもないのですが、報道に出ている範囲で。


日本の法律では、同性婚は認められていません。
条例レベルで同性婚を認めることは法律に違反しますので、これはできません。

したがって、この条例も、法的に意味のある(例えば、相続権が発生したり、同一戸籍に入ったりする)同性婚を認めるものではなく、あくまでもその2人の関係を公的に証明するというものです。

これは、同性婚容認派と否定派、どちらからも賛否両論があろうかと思います。

まず、容認派からすれば、同性同士の婚姻を否定することを前提の制度なので、それでは不十分であるという批判がありえます。
ただ、これは渋谷区がどうこうできる話でもないので、仕方ありません。

「法的に意味がないなら何の意味があるのか」という疑問があるかもしれませんが、そもそも同性婚が認められていないことでの不都合というのは、必ずしも法的な裏付けのある(いいかえると、法律婚の制度に原因がある)不利益ではないのです。

例えば、同性カップルが2人で済む家を買う場合、2人の共有名義にしようと思っても、2人で住宅ローンを組むことはできません。
(もちろん、現金で購入すれば共有名義で登記できますが…)
あるいは、賃貸であっても、貸してもらえないことがあります。

これらは同性カップルだからというより、婚姻していないからなのですが、これらは別に、法律で「同性パートナーとの共有はできない」とか「同性カップルが賃貸物件に同居してはならない」と決まっているわけではありません。
あくまでも、「不動産業者や銀行が敬遠する」というだけの話。
また、病院等で家族とそれ以外の扱いに差をつけられるのも、別に法律でそう決まっているわけでもなく、病院側の都合にすぎません。

今までは、こういう不都合を回避するため、同性パートナー同士で「養子縁組」をして、法律上の家族(親子)になるという方法も取られていました。
養子縁組は、例えば1歳差であっても、年上が年下を養子にすることができるので、いびつな形ではありますが、それで不都合をある程度回避しようとしてきたのです。


もっとも、「法的に決まっていない不利益」を取り除くには、「法的な婚姻」である必要はないわけで、この条例案のように公的に認証する制度があれば大分マシになると思います。

報道に出ているところでは、「互いに後見人とする公正証書の提出」が条件となっているとのことで、おそらくこれは、相互に任意後見契約を締結するという話なのでしょう。
後見人には身上配慮義務がありますし、パートナーに何かあったときも「私は婚姻してない他人だから」といって放置することはできません。

この種の条例が広がると、別に同性カップルに限らず、事実婚についても同様の制度ができてくるかもしれませんし、そうなると任意後見の活用事例が増えるかもしれません。

不動産については、相続の問題等も絡んでいるのだと思いますが、証明書の発行前に、「相互に遺言を残す」とかそういう条件があるのかもしれませんね。
婚姻相当であることを証するのですから、そうなっていないとおかしいですからね。


次に、この条例に反対する意見も見ていきましょう。
例えば、「家族制度の破壊につながる」といったことが考えられます。

といっても、これは法律上の家族になることを条例レベルで決めてしまうものでもないので、あまり説得的な批判でもないように思います。
同性同士でマンションを買えるようになっても、家族制度には何の影響もないと思います。

仮に、前提として「法律婚を尊重すべき」という価値判断を維持するとしても、この条例ができたからといって、「同性カップルが証明書を発行してもらえるようになった。だったら異性じゃなくて同性と付き合おう!」という発想になるわけがないですからね。


法律婚として同性婚を認めることは、我が国の家族制度や家族法制度を根本から見直す必要のある問題であり、同性婚を認めない現行制度を今すぐ廃止すべきとは思いません。

ただし、そのことと同性カップルが(不合理な)不利益を受けることを甘受すべきというのは別問題で、法律婚の制度と無関係な(それが想定する範囲を超えた)不利益を被っている現状には何らかの手当てがあっても然るべきでしょう。

その意味で、(もしかしたら、不十分な制度なのかもしれませんが)肯定的に捉えてよいのではないでしょうか。

では、今日はこの辺で。

2015年2月11日水曜日

裁判に欠席したらどうなる?

司法書士の岡川です。

訴訟(いわゆる「裁判」といわれるやつ)手続は、裁判所で行われます。
裁判所は裁判をするためにあるので、これは当たり前ですね。

そして裁判所も役所(司法官庁)ですので、休日(土日祝日年末年始)は閉まっていますし、早朝とか夜も閉まっています。
つまり、裁判が行われる(法廷が開かれる)のは、平日の朝から夕方までということになります。
だいたい小さな郵便局が開いている時間帯ですね。

そうすると、昼間働いているサラリーマンなど、裁判の期日に出席できない場合があります。

その場合、裁判はどうなるのでしょうか。


まず刑事訴訟ですが、原則として、被告人が出頭しなければ開廷することはできません。
刑事訴訟は、被告人を刑に問うための重大な手続きですから、きちんと被告人が手続きに参加していなければ進められないのです。
「欠席裁判」というのは、刑事訴訟では原則として認められません(「推定無罪の原則」も参照)。

例外的に、50万円以下の罰金に当たる事件など、軽微な事件については、一定の場合には被告人欠席のまま審理を進めることができます。


他方、民事訴訟においては、原告(訴えた人)や被告(訴えられた人)が欠席しても構いません(原告が欠席することはあまりないと思いますが…)。
民事というのは、当事者同士の問題ですから、出席するもしないも当事者の自由なわけです。

ただし「擬制自白」という制度がありますので、被告が欠席して期日に何も主張しなければ、自白した(原告の主張を認めた)ものとみなされます。
つまり、欠席すると全面敗訴する可能性がある(欠席裁判)ことは受け入れなければなりません。

とはいえ、いきなり裁判を起こされて、いきなり「この日に来い」と呼び出されて、欠席したら全面敗訴で金払え!というのは非常に酷な話です。

そこで、1回目の期日だけは、答弁書等の書面を出しておけば、欠席してもその書面の内容を法廷で陳述したものとみなされることになります。
これを「擬制陳述」といいます。
何で1回目だけかというと、2回目以降の期日は、原告被告双方の都合を聞いて日程調整するからです(1回目は、原告の都合だけで決めます)。

実は、原告側が欠席して被告側だけ出席したという場合でも、擬制陳述は適用される(原告は訴状の内容を陳述したとみなされる)のですが、普通は訴えておきながら裁判所に来ないということはありませんね(期日を勘違いとかはあるかもしれない)。

実務では、被告側代理人(特に古くからの弁護士)は、1回目は基本的に答弁書だけ出して欠席するということが多いです。
とりあえず答弁書で全面的に原告の主張を否認しておいて、実質的な反論は2回目の期日までに行うこともよくあります。
本当は、1回の期日が空転することになるので望ましい態度ではないのですが、期日が差し迫って依頼を受けた代理人は、準備が間に合わないので仕方ないこともあります。


民事裁判のニュースなどで、「被告側弁護士は出席しなかった」というふうに報道されることもあり、「なんやこの弁護士やる気のないやっちゃなー」と思われるかもしれませんが、第1回口頭弁論期日に被告代理人弁護士が欠席するのはまったく珍しいものでもないのです。

まあ、「被告側弁護士は答弁書も出さずに欠席した」という報道があれば「なんやこの弁護士アホなんか?」と思っていただいて結構です(最悪の場合、損害賠償請求ものです)が、そういうことはまずありませんので。


民事訴訟では、代理人(弁護士や司法書士)がついていれば本人欠席でも手続きは進みますが、代理人任せにすることなく出席できる期日は出席するのが望ましいと思います(あくまでも代理人は代理人。本人訴訟が民事訴訟の原則です)。


なお、判決(宣告)期日は、民事と刑事で正反対。

刑事訴訟では、被告人の刑(あるいは無罪)を宣告する重大な手続きなので、原則として被告人が出席していないとできません。

他方、民事訴訟では、どうせ判決書は後から郵便で送られてくるので、判決期日は(重大な事件でもない限り)出席しないのが普通です。
その場合、裁判官は誰もいない(傍聴人はいるかも)法廷で判決を言い渡します。
誰かに聞いてもらうつもりもいでしょうから、裁判官が主文だけぼそぼそ呟いて終わります。

もちろん早く判決が知りたい場合(敗訴が濃厚で即控訴したい場合とか)は、聞きに行っても構いません。

では、今日はこの辺で。

2015年2月6日金曜日

重婚になる場合

司法書士の岡川です。

婚姻取消原因として、「重婚」というものがあります。

重婚とは、配偶者のある人(要するに結婚している人)が、さらに重ねて別に人と婚姻することをいいます。
日本では、民法上、重婚はできないことになっていますし、それだけでなく、刑法でも「重婚罪」というものがありまして、犯罪とされています。
法制度としての一夫一婦制を守る(秩序を維持する)ために、それに違反する婚姻関係を犯罪としているのです。


しかし、そもそも民法の規定によって重婚はできない、つまり既婚者が婚姻届を役所に持っていっても受理されることはないのに、なぜ取消原因になったり犯罪になったりするのか。

「役所の手違いで受理されてしまう」ということもないことはないですが、もっと現実的にあり得るのは、離婚が無効になった場合です。

例えば、こんな場合。

AさんとBさんが婚姻していましたが、音楽性の違いによって仲違いしました。
そこでAさんは夫婦の署名押印がなされた離婚届を役所に提出。
役所はこれを受理し、AさんとBさんは戸籍上離婚したことになりました。
独身となったAさんは、Cさんと婚姻します。

ところが、実はBさんはAさんと離婚する気はなく、離婚届もAさんが勝手に作成して提出したものでした。


この場合、裁判やら何やらで争えば、AさんとBさんの離婚が無効となることがあります。
婚姻意思のない婚姻届が無効であるのと同じく、離婚意思のない離婚届もやはり無効なのです。

もし、ABの離婚が無効だという判決が出た場合、そもそも最初から離婚していなかった、すなわち婚姻関係は継続していることになります。
一方で、AさんとCさんの婚姻届はきちんと婚姻意思のもとに提出されているので、こちらも婚姻関係は有効に成立していることになります。

これで重婚関係成立です。

で、この場合、重婚になるのはAとCの婚姻であり、こちらが婚姻取消の対象になります。
AやCだけでなく、Bも重婚の取消権者になるので、BからACの婚姻を取り消すよう請求することができます。

それから刑法上の重婚罪が成立するのはAです(離婚が虚偽であることを知っていたらCもです)。


もうひとつ、重婚が成立する可能性として、「死んだと思ってたら生きていた」という場合。

以前、失踪宣告という制度をご紹介しましたが、「死んだ」ということが確認できなくても死んだものとみなされる場合があります。
戸籍上も死んだものとして扱われるので、その配偶者(だった人)は、再婚することができます。

ところが、失踪とは「どっかに行ってしまって連絡が取れない」というだけなので、失踪宣告を受けた人が必ずしも実際に死んでいるとは限らず、実は10年くらい家族に内緒で一人旅に行ってただけかもしれません。
その場合、生きて帰ってきたら「俺は生きてるぞ」と家庭裁判所に申し立てれば、失踪宣告を取り消すことができます。

このとき、残された配偶者が、失踪した人が生きていることを知らずに再婚した場合、再婚相手との婚姻関係は維持され、かつ失踪者との婚姻関係が復活することもありません。
失踪宣告の取消しは、「失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。」と規定されているからです(「善意で」とは、「知らずに」という意味です)。

ということは、逆にいえば、死んでいないことを知りながらした行為の効力には影響を及ぼすということです。
つまり、実は失踪者が生きていることを知りつつ失踪宣告を申し立て、かつ再婚した、となれば、失踪者との婚姻関係が復活して、重婚関係が成立します。

この場合、故意で重婚関係を成立させているので、重婚罪に問われる可能性もありますね。


役所のミスを除けば、重婚罪が成立するのは、無理やり婚姻関係を解消(したことに)して、再婚した場合です。
この場合、それ以外にも色んな犯罪を積み重ねている可能性が高いです。


当人同士で離婚協議が進まないなら、離婚調停という方法もあります。

離婚する場合は、きちんと法に則ってしましょう。


では、今日はこの辺で。

2015年2月4日水曜日

婚姻の取消し

司法書士の岡川です。

離婚意思がない場合は婚姻が無効になりますが、それとは別に、婚姻を取り消すことができる場合があります。
婚姻関係を解消するという意味で離婚と似ていますが、離婚とはまた別です(離婚は、婚姻が無効になるわけではないので)。

「気が変わったからやっぱやめた」といって取り消すことができるわけではなく、取り消せるのは一定の条件を満たす場合に限定されています。

まずは、不適法な婚姻です。
不適法な婚姻であっても、無効原因とはされていませんので、一応有効なものとして扱われます。
そもそも不適法な婚姻は、届出時に役所ではねられるものなので、審査をすり抜けて受理されてしまった場合ということになります。
無効ではないとはいえ、そのまま置いておくのもよろしくないので、当事者の意思により取り消すことができるとされているわけです。

「不適法な婚姻」とは、婚姻適齢(男18歳、女16歳)に達しない婚姻、重婚、再婚禁止期間内の婚姻、近親婚、直系姻族間の婚姻、養親子間の婚姻です。

それから、詐欺・強迫による婚姻です。
騙されたり、脅されたりして婚姻してしまったとしても、取り消せるということです。

詐欺や強迫による契約は取り消すことができるのと同じですね。


この婚姻取消の制度ですが、当然ながら取消権者(取り消すことができる人)は一定の範囲に限られます。
いきなり近所の人がやって来て、「あんたのとこの婚姻は不適法だから取り消す!」と言い出すと困るからです。

不適法な婚姻では、各当事者とその親族(重婚や再婚禁止期間内の婚姻では、当事者の配偶者や前配偶者も)、それから公益を代表して検察官です。
詐欺・強迫による婚姻では、詐欺や強迫を受けて婚姻した人です。

取消期間も決まっています。
不適齢婚では、原則として適齢に達するまで。
再婚禁止期間内の婚姻は、原則として前婚の解消・取消しの日から6か月まで。
詐欺・強迫による婚姻は、原則として詐欺を発見したり強迫を免れてから3か月まで。

取消しの方法も、契約の取消しのように相手に意思表示すれば済むのではなく、必ず「家庭裁判所に請求」しなければいけません。
具体的には、婚姻取消訴訟を提起する(その前に婚姻取消調停を申し立てる)ということです。

取消しの効果としては、遡及効がなく、将来に向かって無効となるにすぎません。
契約の取消しは、遡及的に無効になりますが、それとは効果が異なります。

その結果、取り消されるまでの間に生まれた子は嫡出子になります。
あまり身分関係を不安定にさせないような規定になっているのです。

とまあ、そう頻繁に出くわすことではないですが、婚姻にも取消しという制度があるというお話でした。

では、今日はこの辺で。

2015年2月3日火曜日

婚姻が無効になる場合

司法書士の岡川です。

男女が夫婦になることを、一般的には「結婚」といいますが、法律用語としては「婚姻」といいます。
そして、夫婦だった男女が分かれて夫婦関係を解消することを「離婚」といいます。
たまに「離縁」という言葉が離婚と同じような意味で使われることがありますけど、法律用語としては、離縁は養子縁組の解消を意味するので、離婚とは全く意味が異なります。


日本の法律では、婚姻は、婚姻届を役所に提出することで成立します。

さて、婚姻も離婚も身分行為といって、身分関係の法的効果を生じさせる法律行為です。

法律行為には有効要件がありますので、成立した婚姻が無効になることも当然あります。

婚姻の無効原因は、ひとつは「人違いその他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき」です。
人違いなんてことがあるのかというと、まあ、少しはあるんでしょうね。
他人に成りすました結婚詐欺とか、そんな場合が考えられます。

実際には、「その他の事由」の方が現実的で、例えば「知らないうちに勝手に婚姻届を出されていた」ような場合、婚姻をする意思(婚姻意思)がないことになります。

理由は何にせよ、男女双方に「婚姻意思」がなければ婚姻は無効、最初から婚姻の効力が発生していないことになります。
仮に婚姻届けが受理されて戸籍上は夫婦となっていても、法的には婚姻関係は生じていないので、それは「戸籍が間違い」ということになります。

婚姻意思とは、「真に社会観念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する効果意思」であると解されています。

何らかの他の目的(例えば在留資格を獲得するためとか)で形式上(戸籍の上だけで)夫婦になるために婚姻届を出したとしても、それは無効となります。
いわゆる「偽装結婚」は、法的には無効になるわけです。


いずれにせよ、婚姻が無効ということは、そのような場合に婚姻届を出してはいけません。
婚姻が無効になるような状況で婚姻届を出した場合、「婚姻していないのに虚偽の内容を戸籍簿に記載させた」ということになり、場合によっては公正証書原本不実記載罪という犯罪が成立することになります。

例外的に、相手に勝手に婚姻届を出されたけど特に争うこともなく何年も経過したような場合など、婚姻を追認したということで遡及的に婚姻が有効になる場合もあります。

が、原則として無効なので、「とりあえず先に婚姻届出しちゃえ!文句言われたらその時に考えよう!」といった無計画かつ無謀な行動はやめましょう。
場合によっては犯罪ですので。


もうひとつ、民法上婚姻無効原因とされているのは「婚姻の届出をしないとき」です。
ただ、そもそも婚姻届を提出して初めて婚姻が成立するので、婚姻の届出をしないなら、無効どころか婚姻が成立していないことになります。
成立していない婚姻に有効も無効もありません。

なので、これは意味のない規定だと解されています。

むしろ、ただし書きとして、「方式を欠くだけであるときは、婚姻は、そのためにその効力を妨げられない」と規定されており、こっちに意味がある規定だと考えられています。


届出に多少不備があっても、婚姻は成立するということです。

では、今日はこの辺で。