2015年7月29日水曜日

他人物売買

司法書士の岡川です。

突然ですが、問題です。

他人の物(他人が所有権をもっている物)を勝手に売ることは可能でしょうか。

例えばですね、隣の人の家とかをですね、知人に1000万円くらいで合法的に売りたいなぁ~と思ったら、どうすればよいでしょう?





(答え)
普通に1000万円で売ればよい。



意外に思われるかもしれませんが、民法上、他人の物を売ることは禁止されていません。

他人に所有権がある物を売買することを「他人物売買」といいますが(そのまんまですね)、これ実は違法でもなんでもなく、当然に可能であると考えられております。
売買契約の要件として、「売主の所有物」であることは求められておらず、さらに、他人物売買を前提とした条文も存在するからです。
これは、ドイツ法由来の考え方です。

だから、隣の人の家を1000万円で売りたければ売ればよい。
買うという人がいて、そこで意思が合致すれば、何の問題もなく売買契約が成立するわけです。
他人物売買も、契約自由の原則の範疇に入るということになります。



ま、そんな危険な物を買う人がいれば、の話ですけどね。



他人の所有物ですから、売買契約が成立したとしても所有権が当然に移転することはありません。
民法560条に「他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。」とあるとおり、「売買契約の成立」と、「所有権の移転」は別の次元の話なわけです。

金を払っても所有権を取得できないのだから、よっぽど確実な場合じゃないと、怖くてそんなもん買ってられないですよね。


さらに民法561条には、「売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。」と定められています。

売主にとっても、「濡れ手で粟」とばかりに、ノーリスクハイリターンで1000万円ゲットできるわけではありません。
その後できちんとフォローしきれないと、契約を解除されます(1000万円は返さないといけないし、場合によっては損害賠償請求されます)。


もちろん、他人の物であることを隠して売ったりしたら、詐欺にもなり得るので、そういう行為は違法です。
他人物売買が合法なのは、「双方とも他人物売買であることをわかってリスクを承知の上で契約することは問題ない」というにとどまります。

また、宅地建物取引業法では、宅地建物取引業者(要するに不動産会社)は「自己の所有に属しない宅地又は建物について、自ら売主となる売買契約(予約を含む。)を締結してはならない。」(33条の2)と規定されているので、不動産会社が他人物売買をすることは禁止されています。
普通の人は、不動産会社で売ってる物件がまさか他人の物だとは思わないでしょうから、これを認めると消費者の利益を害することになるからですね。


逆にいえば、そういう例外的な事情がなければ、原則として他人物売買は合法だということです。

同じ理屈で「他人物賃貸借」なんかも、契約自体は合法だったりします。
もちろん、他人物を賃借しても、所有者との関係では不法占有になりますけどね。


では、今日はこの辺で。

2015年7月27日月曜日

高槻まつり2015

司法書士の岡川です。

今年も梅雨が明け、夏本番に突入しました。

夏といえば、そう、「高槻まつり」の季節ですね。

今年は、8月1日(土)、2日(日)に開催されるようです。
つまり、来週です。

高槻まつり開催中は、世界中から高槻市に人が集まり、駅前(阪急、JR)や市役所前(けやき通り)が大勢の人であふれかえります。

まあ、大部分(おそらくほぼ100%)が日本国内から集まっていると思いますけどね。


ちなみに、今日は「高槻魂!!」というイベントが行われていたようです。
これは、「野外無料ロックフェス」だそうです。

炎天下の中、野外ライブに参加された皆さん熱中症は大丈夫でしたか?
 一方私は、クーラーのガンガンにきいた(ききすぎて寒いくらいの)部屋で 研修を受けておりました。

それから昨日の夜は、センター街(高槻駅前の商店街)の入り口で、食べ物だか飲み物だかを売ってる集団があり、その周辺もなんか賑やかでした。
何だったんだろうと思って調べたら、センター街の「夜まつり」なるイベントが行われていたようです。


こんなかんじで最近の高槻は、お祭り三昧です。

夏らしくていいですね~。


では、今日はこの辺で。

2015年7月23日木曜日

賃貸物件の貸主(家主)の義務

司法書士の岡川です。

前回、賃貸物件を借りている人(賃借人)が負っている義務について書きました。
続いて今回は、貸している側である家主の義務をご紹介。

家主は、賃貸借契約の「賃貸人」といいます。

「家主は、家賃をもらうだけじゃないの?」というとそうでもありません。
家賃をもらう以上は、家主も家主できちんと義務を果たす必要があります。


賃貸人の中心的義務としては、賃借人に対象物件を使用収益させる義務があります。

当然といえば当然ですが、賃貸借契約は、貸す側と借りる側の「意思の合致」さえあれば成立するので、実際に賃借人が住むためには、賃貸人に「使用させる義務」が無いといけないわけです。

さらにこれを細かくみていくと、まず賃借物を賃借人に引き渡す義務が考えられますね。

引き渡さないと使用できませんので、賃貸借契約を締結した後、賃貸人がいつまでたっても引き渡してくれない(具体的には、ずっと住み続けてるとか、鍵を渡さないとか)場合は、賃借人は、契約の効力として賃貸人に「引き渡せ」と請求することができるわけです。

賃借人に引き渡して終わりではなく、その後も引き続き賃借人が使用できる状態に保つというのも、「使用収益させる義務」の内容といえます。


さらにもうひとつ重要な義務として、賃貸人には、対象物件の修繕義務があります。
使用収益させる義務がある以上、それに適した状態に修繕する義務も負うということです。

雨漏りがする、壁に穴があいている、床が抜けている…等、建物の修繕が必要な状態になっていれば、賃貸人の責任においてこれを修繕しなければなりません。
また、賃借人が修繕した場合も、その費用を賃借人に支払わなければなりません。

もっとも、実際の賃貸借契約では、軽微な修繕については、賃借人負担という特約があることが一般的です。
細々とした修理で、毎回家主を呼びつけてたらキリが無いですからね。

大規模修繕まで借主負担とするような契約もできないこともないので、家を借りるときはよくよく契約内容を確認しましょう。
仮にそんな契約条項になってたら、消費者契約法的にまずいと思いますけど…(貸主が事業者なら無効になる可能性もありますね)。


といった具合で、家主さんも「貸したらそれで終わり」というわけではないので、家を貸すときは「賃貸人の義務」を忘れないようにしましょう。

では、今日はこの辺で。

2015年7月21日火曜日

賃貸物件の借主の義務

司法書士の岡川です。

日本は、比較的持ち家率が高いのですが、賃貸物件(マンションとかアパートとか)を借りて住んでいる人もたくさんいます。

賃貸物件に借りて住むというのは、法律的には、家主(建物所有者)と借主(居住者)との間で「賃貸借契約」を締結していることとになります。
居住用だけでなく、店舗等として使うために借りることもありますね。
私の事務所も、事務所として賃借しています。

賃貸借契約では、貸す側(家主とかオーナー)のことを「賃貸人」といい、借りる側のことを「賃借人」といいます。
貸すのは建物所有者であることが一般的ですが、たまに、賃貸人と所有者は別という場合もあります。

契約ですので、建物を借りると、貸した側にも借りた側には色々な義務(債務)が発生します。

ということで、賃貸借契約の当事者が負っている義務について書いてみたいと思います。


まず、賃借人の義務です。

賃借人の義務というのは、常識的にわかることがほとんどです。

まず賃料(家賃)を払わないといけませんね。
賃料は賃貸借契約で必ず決められるものですので、賃料の発生しない賃貸借契約は存在しません。
賃料なしで貸し借りする契約は、「使用貸借契約」という、また別の契約類型になります。

賃料の額は、契約で決められています。
賃料の他に、敷金とか礼金とか保証金とか更新料とか、よく分からないお金の支払が契約で決められていることもありますが、その契約が違法でなければ、それらのお金も支払わなければなりません。

それから、賃借人は契約で決められた「用法」、例えば「居住用」だとか「店舗用」といった取り決めに従って利用しなければなりません。
居住用で借りた家で、カラオケ喫茶とか始めるとうことは、難しい言葉でいうと「用法順守義務違反」ということになります。
あとこれも当然ですが、「善良な管理者の注意」をもって建物を管理する義務(善管注意義務)があります。
借り物なのですから、好き勝手に破壊してはいけません。

最後に、見落としがちですが、契約終了後、賃借人は賃貸人に対して建物を返還する義務を負っています。

借りた物は返さなければならない。
これまた常識ですね。


賃借人がやってはいけないこともあります。
これも義務といえば義務(不作為義務)なので気をつけなければいけません。

まずは、契約書に「禁止事項」として書かれたことはやってはいけません。
例えば、ペットの飼育禁止とかが契約の内容になっていることがありますが、そういう約束である以上、その建物でペットを飼育してはいけません。


契約書に書かれていることも多いですが、契約であえて規定しなくても、法律で「無断譲渡」「無断転貸」が禁止されています。

ここでいう譲渡というのは、賃借人がその建物を借りる権利(賃借権)を他人に譲り渡すことです。
転貸は、賃借権を譲り渡すのではなく、自分が借りている建物を更に別の人に貸す(いわゆる「また貸し」)ことです。

どちらも、賃貸人の承諾を得ずにやってはいけません。
賃貸人にとって「誰が借りているのか」は重要な関心事ですので、貸したつもりのない第三者が使うということは認められないのです。


賃借人がこれらの義務に違反した場合、賃貸借契約を解除する理由となりますので、気をつけましょう。

特に、無断譲渡・無断転貸をした場合は、催告もなく即刻契約解除ということも可能になりますので、借りた物を安易に「また貸し」することはやめましょうね。

長くなりましたので、家主側の義務については、また次回に。

では、今日はこの辺で。

2015年7月19日日曜日

善管注意義務

司法書士の岡川です。

私法上、ある行為をする際に求められる注意義務に反した場合、過失責任を負うことがあります。
注意義務違反で他人に損害を与えた場合、損害を賠償しなければなりません。

もっとも、行為の種類等によって、「どこまで注意すべきか」という、求められる注意義務の「程度」に違いが考えられます。

この程度の違いによって、法律(民法)でも2種類の「注意義務」が規定されています。

よく出てくるのが、「善良な管理者の注意」です。
これがいわゆる「善管注意義務」というやつです。

「善良な管理者の注意」ってどんな注意なのか、抽象的すぎて分かりにくいですが、取引通念上、客観的に要求される十分な注意をする義務、といったふうに説明されます。


例えば民法には、
  • 第297条 留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。
  • 第400条 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。
  • 第644条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。
といった規定があります。
このほか、質権者が目的物を占有する場合には第297条が準用されています(350条)。

また、委任契約の受任者の注意義務を規定した644条は、あらゆるところで準用されています(671条、852条、869条、876条の3、876条の5、876条の8、876条の10、1012条などなど)。
これらはいずれも、後見人(869条)や遺言執行者(1012条)など、他人の財産の管理をする場合であり、このような場合は基本的に善管注意義務を負っていることが分かります。

不在者財産管理人の注意義務については、民法上規定されていませんが、家事事件手続法146条によって644条が準用されていますので、善管注意義務を負います。

また、会社の役員(取締役とか監査役とか)と会社の関係は、委任の規定に従いますので(会社法330条)、役員は会社に対して善管注意義務を負うことになります。


他人の財産を管理するときは、基本的に自分の物を管理する以上に十分な注意を払って管理しなければならない義務を負っているということです。

自分の通帳は、家の引き出しの中に入れていてもいいけど、後見人として被後見人の通帳を預かるときは、金庫の中に入れておかないとだめ・・・みたいなイメージ(あくまでイメージです)で、自分の物以上に慎重に管理しなければ義務違反となるわけです。

他方、善管注意義務より一段階、その程度が低い注意義務として「自己の財産に対するのと同一の注意」というものがあります。
条文によって「自己のためにするのと同一の注意」とか「固有財産におけるのと同一の注意」と、微妙に文言が異なりますが、どれも中身は同じです。
これは「自財注意義務」のような省略はしません。

無償寄託契約における受寄者(659条)、親権者による子の財産の管理(827条)、相続人による相続財産の管理(918条)、限定承認者や相続放棄者による相続財産の管理(926条、940条)などでは、自分の財産ではないけども、自分の財産と同程度の注意を払って管理すれば足りることになっています。


ということで、他人の物を預かる場合、あるいは、他人のために何かをする(という契約がある)場合、自分の物を管理する場合以上に慎重に行動するよう心がけましょう。

では、今日はこの辺で。

2015年7月13日月曜日

最近の勉強

司法書士の岡川です。

ブログの更新頻度が激減というか、大分長い間お休みしていました。
なんやかんやと会務が重なったりして、睡眠不足気味です。


昨日は、居住福祉学会関西支部が主催する「社会的養護経験者の“自立”と“居住”」というテーマのセミナーに参加してきました。
大阪府立大学の伊藤嘉余子准教授と、NPO法人四つ葉のクローバー理事長の杉山真智子氏の話を聞きました。

社会的養護とは、セミナーでは「さまざまな理由で、親・家族と一緒に生活できない子どもたちに用意された生活の場」と定義されていましたが、具体的にいうと児童養護施設出身者等の問題ですね。

児童養護施設というのは、貧困や虐待、親の死亡や障害等で親のもとで暮らせない児童(18歳までの子)が入所する施設です。

児童養護施設から退所した人が、社会に出て自立するうえで生じる様々な問題、そこをどうサポートするかというアフターケアの問題についての話でした。

私も、司法書士仲間数人と一緒に、児童養護施設退所者のアフターケアに法律家として何か関われることはないかを勉強しに行ってきました。


そんな感じで、昨日は「子」の福祉について勉強したのですが、今日は、大阪司法書士会、リーガルサポート大阪支部、毎日新聞社が共催した、「認知症800万人時代 認知症の人とその家族をどう守るか?」というシンポジウムに行ってきました。

こちらは、リーガルサポート大阪支部の広報委員長という立場で。
(対外広報は、新聞社がやってくれるので、今回は対内広報活動ですね)

普段から成年後見業務を行っている者として、非常に興味深い話が色々聞けましたし、一般の方々(おそらく、家族に認知症の方がいる方の多くいたと思われます)にとっても、参考になる良いシンポジウムだったと思います。

詳細は、7月末の毎日新聞に報告記事が載るみたいですので、是非ご覧ください。
(大阪司法書士会所属の方には、私の簡単なレポートが何かしらの形で配布されると思います)


まあ、そんな感じでやっております。
そろそろブログ更新頻度を元に戻したいところです。

では、今日はこの辺で。