2015年12月27日日曜日

【告知】空き家の管理・活用セミナー

司法書士の岡川です。

平成27年もあとわずか。
来年の準備もしないといけない時期ですね。

というわけで、大阪府と高槻市が主催して、平成28年の1月に高槻市で開催されるセミナーの告知をします。

「空き家の管理・活用セミナー」
日時: 2016年1月16日(土)午前9:30~午後12:15
場所:高槻市総合センター14階C1401会議室(市役所の新しいほうの建物)
主催:大阪府、高槻市

近年話題になっている空き家の問題について、 適切に管理して活用するにはどうすればよいかを解説するセミナーです。


このうち、「不動産の相続などの問題点と相続対策」の部分を、私が大阪司法書士会空き家問題対策検討委員として講師派遣されて、空き家問題が生じる大きな要因である相続の問題について話をさせていただきます。



どうやら、だいぶ反響がよくて、締め切り前に定員になりそうな勢いみたいですが、まだ定員にはなっていないようですので、高槻市在住で、空き家問題に関心がある方(現在空き家を所有している、将来空き家になりそうな家を所有している、空き家を相続した、など)は、是非お申込み下さい。

詳細は、高槻市役所のホームページ

では、今日はこの辺で。

2015年12月26日土曜日

「事件」の「被告」になるということ

司法書士の岡川です。

法律用語と日常用語の意味が異なることはよくあることです。

日常用語としてぼやっとした意味で使っているけど、法律用語としては厳密な意味が決まっている場合は気をつけて使わないといけないのですが、逆に、法律用語としては大した深い意味はないのに、一般の人にとっては身構えてしまうような用語というのもあります。


まず「被告」という法律用語。

ニュースでもよく聞きますね。
殺人事件の被告に死刑が言い渡されたとか。

ニュース等では、刑事事件起訴された人を「○○被告」として報道されるので、「被告」という用語には犯罪者のイメージが付きまといます。

しかし、何も悪いこと(犯罪)をしていなくても、誰でも「被告」になる可能性があります。

「被告」というのは、法律用語では、民事事件で「訴えられた側」を意味します。
民事事件というのは、金銭や人間関係の問題ですので、当事者が自由に訴えることができ、訴えられたら誰もが「被告」になります(訴えた側は「原告」といいます)。

訴えられた人が、訴状等で「被告」と呼ばれることに対して、「犯罪者扱いされた」と怒ることがありますが、法律用語としては全くそのような意味はありません。
ただ単に「訴えられた人」というだけのことで、それ以上の意味はないのでご安心ください。

逆に、法律用語としては、刑事事件で起訴された人のことは「被告人」といい、「被告」とはいいません。
刑事事件で起訴された人を「被告」と呼称するのは典型的なマスコミ用語です。

私も司法書士として「被告の代理人」をすることがありますが、これは犯罪者の弁護人になっているわけではありません。



それから、「事件」という単語にも悪いイメージがあるかもしれません。

「事件」と聞けば、何となく、会議室ではなく現場で起きるようなモノ、例えば殺人とか強盗とかをイメージしがちです。

ドラマでは「これは事故ではなく事件だ」とかいう言い回しもよく聞きます。
ここでいう「事件」は、殺人=犯罪の意味になります。


が、もちろん、「事件」というのは犯罪のことではありません。

「民事事件」といういい方もあるとおり、「事件」はもっと広く、ニュートラルな意味です。

すなわち、「事柄」とか「案件」くらいの意味しかありません。
オシャレに「ケース」といってもよいですね。

裁判所では、審理の対象となる事柄を全て「事件」といいます。

誰かが誰かを「金返せ」と訴えれば「貸金返還請求事件」となります。
成年後見人をつけてほしいと申し立てれば、「後見開始審判申立事件」となります。

なので、それぞれのケースで「この事件は…」とかいわれても、別に何か犯罪が起こったわけではありません。
「事件の当事者」といわれても、別に犯人扱いされているわけではありません。

裁判所だけでなく、司法書士や弁護士のように、裁判手続にかかわる人間も、それぞれのケースを全部「事件」と呼びます。


「事件の被告になった」というと何だか悪人のような感じがしますが、実は犯罪とは何の関係もないことになります。

本当に何の関係もないので、「事件の当事者」とか「被告」とかいわれても、怒らないで冷静に対処してくださいね。

では、今日はこの辺で。

2015年12月15日火曜日

共同申請の原則

司法書士の岡川です。

「謀殺」がどうとかいう記事で更新が止まっていては、さすがに物騒なので、たまには司法書士らしく登記の話でもしましょうかね。

テーマは不動産登記の基本中の基本である「共同申請の原則」について。

不動産登記のうち、権利に関する登記(所有権の移転や抵当権の設定等)は、「登記権利者」と「登記義務者」の共同申請によることが原則とされています(不動産登記法60条)。

これを、共同申請主義とか共同申請の原則とかいいます。

司法書士にとっては、あまりにも常識すぎる原則なのですが、法律に詳しくない一般の方だけでなく、法律の勉強をして登記について多少知っている人にとっても馴染みの薄いものかと思います。


「登記権利者」というのは、「登記をすることにより、登記上、直接に利益を受ける者」で、登記義務者というのは、「登記をすることにより、登記上、直接に不利益を受ける登記名義人」をいいます。

具体例を挙げると、例えば、売買に基づく移転登記であれば、新しく登記名義人になる「買主」が登記権利者で、逆に、登記名義を失うことになる「売主」が登記義務者です。

つまり、売買に基づく移転登記の申請は、登記権利者である買主と登記義務者である売主が共同してしなければなりません。

「共同申請」といっても、婚姻届みたいに、二人で仲良く法務局に行って窓口に申請書を提出してもいいのですが、普通はそんなことはしません。

登記申請は書面(またはオンライン)で行うので、申請書(申請情報)の作成名義が共同になっていることを意味します。
つまり、共同申請というのは、「登記権利者と登記義務者が両者とも申請書や委任状に押印する」ということです。


売買だけでなく、贈与の場合も考え方は同じですね。

また、抵当権を設定する場合も、登記権利者である抵当権者(金を貸す側)と、登記義務者である抵当権設定者(不動産の所有者等)が共同して申請します。


さて、ここまでは、「契約当事者の両方が揃って登記の申請をしなければならない」ということですので、理解もしやすいでしょうが、登記の原因となるのは、契約だけではありません。


例えば、AとBの共有名義となっている不動産について、Bが共有持分を放棄するような場合です。

共有物の共有者は、いつでも勝手に(一方的に宣言するだけで)自分の持分を放棄することができ、共有者が放棄した場合、他の共有者にその権利が帰属します(民法255条)。

つまり、Bが持分を放棄すると、その不動産はAの単有になるのですが、実はこの場合の持分移転登記の申請も、AとBが共同でしければなりません。
持分放棄は一方的な意思表示なので、AとBの契約でも何でもないのですが、名義を書き換えるには共同でしないといけないのです。


他には、時効によって取得した場合。
他人の不動産を長期間占有していると、一定の要件を満たせば、時効によりその所有権を取得できることがあります。

時効取得は、別に元の所有者から所有権を譲り受けるわけではなく、法律の規定によって所有権を取得することになります(これを「原始的取得」といいます)。

この場合も、時効取得したからといって勝手に自分の名義に書き換えることができるわけではなく、元の名義人と共同して移転登記を申請しなければなりません。

契約のように、当事者間で譲り受けたわけではないにもかかわらず、登記申請は共同してしないといけないのです。
もし登記義務者である現在の名義人が登記申請に協力してくれなければ、訴える(移転登記請求訴訟)しかありません。

つまり、たとえ取得時効の要件を満たしていたとしても、元の所有者に協力してもらうか裁判に勝たなければ、実際に登記名義人になることができないのです。


登記は、自己の権利を公示するためのものなのだから、単純に、「新しい権利者が申請すればええやん」と思う人もいるかもしれません。

しかし、「登記名義を失う人」の利益を保護する(実際に権利を失っていないのに名義を失うことのないようにする)ために、原則的に登記義務者の関与が求められているのです。

よくできていますね。


では、今日はこの辺で。

2015年12月4日金曜日

「謀殺」と「故殺」

司法書士の岡川です。

義足でオリンピックの陸上競技に出場したピストリウス選手が、殺人罪で有罪判決を受けたようです。
原審では、「過失致死罪」で有罪となっていましたが、上級審でこの判決が破棄され、「殺人罪」が適用されたとのことです。


それはひとまず横に置いておいて。


当たり前のことですが、法律というのは、国ごとに制定されるものです。
犯罪と刑罰について定めた刑法についても当てはまりますので、つまり、国ごとに犯罪類型というのも異なります。

同じような類型がある国もあれば、法体系が全く異なる国では、ある罪名が対象とする行為が全然違ったり、聞いたことのないような罪名があったりします。

なので、日本語に訳せば同じ罪名でも、中身は全く違う可能性も大きいのです。

特に日本の刑法は、ドイツやフランスといった大陸法系(ヨーロッパ大陸の国々が採用してるような法体系)がベースになっているので、英米法(文字通り、イギリスやアメリカのような法体系)の国の犯罪と比較するときは注意が必要です。
注意が必要というか、日本の法律に慣れきっている日本人にとっては、ちょっと理解が難しいかもしれないですね。


例えば殺人罪。

日本の刑法では、199条に「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。」と規定があり、これが日本における「殺人行為」に対する刑罰規定です。

誰をどんな方法で殺害しようとも、故意に人を死に至らしめる行為は、基本的にはこの殺人罪が適用されます。
「殺人」は「殺人」でひとつの類型です。

特徴的なのは、日本の刑法は、「故意犯」と「過失犯」で犯罪類型を厳格に区別します(→「故意犯処罰の原則」)ので、殺人罪と過失致死罪は全く別類型だということです。

しかし、「殺人」はもっと広い概念で、かつ、もっと細かく分類できる概念として理解することも可能です。
外国では、そのような理解を前提に殺人罪を類型化されることがあります。


英語でいえば、「殺人」の全体を指すのが「homicide」です。
とにかく人を死に至らしめればhomicideなので、日本でいう過失致死罪とか重過失致死罪とか業務上過失致死罪とか過失運転致死罪とかも含む概念ということになります。


英米法とかコモン・ローとよばれる法体系では、(もちろん国ごとに異なりますが)日本の「殺人」より広い「homicide」を、その中で日本とは異なる基準で類型化します。

ここで出てくるのが、「謀殺(murder)」と「故殺(manslaughter)」という概念です。

ここでいう「謀殺」というのは、悪意を持って計画的に故意に人を殺害したような場合です。
国や州によっては、その程度によって、さらに第一級謀殺と第二級謀殺に区分されることもあります。

他方、「故殺」は、計画的でない殺人のことなのですが、殺人の故意がない場合(日本でいう過失致死)も含む概念です。
もっとも、「非故意故殺」は重過失がある場合や傷害致死などに限定されたりしますので、必ずしも非故意故殺罪=過失致死罪というわけではありません。
これも国と地域によって異なります。


話をさらにややこしくするのが、大陸法系の国にも、日本語で「謀殺」と「故殺」と訳される区別があり、それでいて、コモン・ローにおける謀殺(murder)と故殺(manslaughter)の区別とは別物だということ。
和訳したら一緒になるというだけです。

例えばドイツでは、いわゆる「殺人罪」は、「Mord」と「Totschlag」に分類されます。
日本語では、一般的には、前者は「謀殺罪」、後者は「故殺罪」と訳されています。

ドイツ刑法は日本と同じく故意と過失で類型を区別していますので、謀殺(Mord)も故殺(Totschlag)も、どちらも日本の殺人罪と同じ「故意に人を死に至らしめる行為」に入る概念だといえます(過失致死罪はまた別に条文があります)。
謀殺罪とは、故意による殺人の中でも、動機が悪質だったり、残酷だったり、特に危険な方法だったりする場合が該当し、故殺はそれ以外の故意による殺人です。

フランス刑法にも「謀殺(assassinat)」と「故殺(meurtre)」の区別がありますが、ドイツ刑法と同じく、どちらも故意犯で、計画的な殺人が謀殺罪になります。


ところで、日本の刑法には「謀殺」も「故殺」もありませんが、実は、現行刑法が施行される前、明治13年に制定された刑法(いわゆる「旧刑法」)には、この区別があったのです。
フランス刑法(昔のやつ)を輸入したようなものですから、似て当然ですね。

旧刑法における謀殺罪は「予メ謀テ人ヲ殺シタル者ハ謀殺ノ罪ト為シ死刑ニ処ス」とあり、死刑一択です。
毒殺も謀殺に含めるという規定がありますので、人を毒殺したら確実に死刑になります。

そして、故殺罪は「故意ヲ以テ人ヲ殺シタル者ハ故殺ノ罪ト為シ無期徒刑ニ処ス」とあり、これまた無期懲役一択。

犯罪者に厳しい時代だったようですね。


さて、ピストリウス選手の裁判。
南アフリカ共和国の刑法は、ベースとなっているのが大陸法系(オランダ法)のようです。
ただ、刑法典は存在しないみたいですが。
そこには、どうやら過失致死には過失致死罪という犯罪類型があるようです。

今回破棄された原審の罪名は何だったのかというと、英文の記事を色々見てみると「culpable homicide」と書いているものと「manslaughter」と書いてあるものがありましたが、日本語としては「過失致死罪」でよいのでしょうね。

では、今日はこの辺で。

2015年12月2日水曜日

「準法律行為」について

司法書士の岡川です。

以前、「法律行為」という概念を紹介しました。

法律行為とは、「意思表示を主たる要素とする私法上の法律要件」と定義されます。
もう少し詳しく定義づけると、意思表示を行ったときに原則としてその意思の内容に沿った効果が認められる行為が法律行為ということになります。

法律行為の典型である契約では、例えば「この土地を買います」「この土地を売ります」という意思表示の合致によって、当事者が欲する「土地の所有権移転」という効果(法律効果)が生じます。

「法律行為」は、伝統的な民法学における基本的かつ重要な概念ですので、覚えておきましょう。


さて、私法上の法律要件には、法律行為以外の行為もあります。

私法上の法律効果を発生させる行為であって、法律行為でないものは、法律行為に類する、あるいは準ずるものとして、「準法律行為」といわれます。

例えば、「催告」という行為があります。
「催告」というのは、「今月末までに100万円払え」みたいな通知をすることをいいます。

この「催告」には、行為者の「弁済してほしい」という行為者の意思が含まれていますが、催告したからといってそのまま表意者が欲する「弁済」という効果が生じるわけではありません。
催告により「時効の中断」や「解除権の発生」といった法律効果が生じますが、これらの法律効果は当事者の意思内容にかかわらず法律で決められたものです。

「催告」と同じく、債務の弁済を債権者側で拒む「受領の拒絶」というのも、意思内容(弁済を受けない)とは異なる法律効果を生じさせます。

これらは「意思を相手に通知する行為」であって、意思内容に沿った効果が生じる法律行為ではありません。
これを「意思の通知」といい、準法律行為の一種です。


「意思」ではなく、「事実」を通知する行為もあります。
例えば、債権譲渡の通知は、「債権譲渡をした」という事実を債務者に通知する行為です。
その他、代理権授与表示というのも「代理権を授与した」という事実を契約の相手方に通知する行為です。

これらは、「観念の通知」といい、やはり準法律行為とされます。


準法律行為は、法律行為の規定が類推適用されます。

まあ、「法律行為かそうでないか」というのは、(学術的な意義はともかくとして)実際のところは大して重要でもないので、「法律行為とは違う」ということさえ知っておけば、後は何も難しいことはないですね。


では、今日はこの辺で。