2016年3月17日木曜日

「他に相続人はいない」旨の上申書が不要に

司法書士の岡川です。

またまた相続登記に関する法務省の通達(平成28年3月11日法務省民二第219号)が出ました。

例によって実務的な話になりますが、あまり高度なことではありませんので興味のある方はどうぞ。

相続を原因とする移転登記、いわゆる「相続登記」ですが、相続登記を申請するには、基本的には、相続関係を証明するための書類として、戸籍謄本を添付します。

相続登記は、相続人全員の住所氏名がわからなければなりません。。

法定相続分どおりに共有名義にする場合はいうまでもないですが、遺産分割に基づいて単有名義にする場合も、遺産分割協議は相続人全員でしなければなりませんので、やはり、全員の住所氏名が必要になります。


要するに、相続登記に必要とされている添付書類は、「登記申請人や遺産分割協議の参加者が相続人である」ということを証明できなければなりませんが、それだけでは足りず、その人(達)以外に他に相続人がいないことまでが、(少なくとも書類審査でわかる範囲で)証明できていなければいけないことになります。


そのために 、戸籍謄本だけでなく、除籍謄本やら改製原戸籍なども含めて、被相続人の古い戸籍まで全部そろえなければなりません。

例えば、ある人が子を産み、その子が結婚して戸籍から抜けた後に、他市へ転籍(本籍地を移転)したとします。
このとき、最新の戸籍には、転籍前にすでに戸籍から抜けていた子のことは一切記載されません。

つまり、転籍や戸籍が改製される前の除籍や原戸籍には載っていて、最新の戸籍や除籍には載っていない相続人というのが存在するので、それを見つけるために古い戸籍類が必要なのです。


ただ厄介なのは、除籍や原戸籍というのは保存期間というのがあり、あまり古いものは市役所が廃棄してしまっていることがあるのです。
保存期間は過去に延長されたりもしましたが、延長される前に廃棄されたものはどうしようもない。
そうすると、古い戸籍を請求しても、市役所から「これより前のものは廃棄されているので出せません」と言われます。


そんなとき、必要な書類がそろわないから未来永劫相続登記ができないか、ということになるとそういうわけにもいきません。

そこで、残存する戸籍類からわかる相続人全員が、「私たちの他に相続人はいません」ということを証明した上申書(実印を押して印鑑証明添付)を、戸籍類と一緒に登記申請の際に添付すれば、相続登記は受理される、というのが登記実務の扱いでした。

でもこれって非常におかしなことで、相続人にだって他に相続人がいるかどうかなんてわからないし、厳密な意味で証明などしようがない。
でも、そんなこと言っててもしょうがないので、「いません」と言い切ってしまうしかないので、細かいことは気にせずに上申書を出して登記を通してもらうわけです。

もっとも、理屈としておかしいことに目を瞑ったとしても、実際問題として、「相続人全員の上申書」というものを取得できないこともあります。
ケースバイケースの部分もありますが、上申書も揃わないようだと登記は受理してもらえないという事態が生じることもあり、この「除籍謄本の代わりに上申書で登記」というのも万能ではなかったのです。


という前提がありつつの、今回の通達の話。

今回の通達では、この上申書は添付不要だということになりました。
以下、通達より引用
「他に相続人はない」旨の相続人全員による証明書を提供することが困難な事案が増加していることなどに鑑み,本日以降は,戸籍及び残存する除籍等の等本に加え,除籍等(明治5年式戸籍(壬申戸籍)を除く。)の滅失等により「除籍等の等本を交付することができない」旨の市町村長の証明書が提供されていれば,相続登記をして差し支えない

結局のところ、上申書なんかあってもなくてもあんまり意味ないし、その割には、出せなくて登記できないという不都合も生じていることから、この取り扱いを維持することはデメリットの方が大きいということでしょう。

今後は、取得できる限りの必要な戸籍類を全部添付(これは当然)して、廃棄されたものは廃棄証明を出せば、必要な戸籍類が完全に揃っていなくても相続登記が受理されることになります。

なお、壬申戸籍は除くということになっていますが、壬申戸籍というのは、そもそも一般に交付されていない古い戸籍なので、「わざわざ市町村長の証明などなくても、交付できないのは周知の事実だからそんなもんいらん」ということだと思われます。

戸籍が揃わないケースというのは頻繁にあるので、司法書士にとっては大きな意味を持つ通達なのでした。

では、今日はこの辺で。

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