2016年8月31日水曜日

【告知】サクラサイト被害撲滅・全国一斉110番

司法書士の岡川です。

出会い系サイトやサクラサイト被害に関する電話相談会が開催されます。

「出会い系サイトに登録してお金を支払ってたのに会えなかった(会えそうにない)」とか、「間違って変なサイトに誘導されてお金を騙し取られた(脅し取られた)」というように、パソコンやスマホをしていて不当にお金を支払ってしまったという方はいませんか?

そういう被害に関する電話相談会です。

「全国一斉」ということで、全国の弁護士会等が同時に開催するようですが、大阪での主催者は「出会い系・アダルトサイト被害対策会議」という任意団体(構成員は司法書士と弁護士)です。

結構古くから(たぶん弁護士会が本格的に取り組む前から)この問題に取り組んでいる団体で、私も所属しています(ホームぺージの名簿は、長い間更新されてませんけど)。


他府県の相談会は既に終わっているようですが、大阪では独自に次の要領で行います。

日時:2016年9月7日(水)10:00~16:00
電話番号:06-6941-3688

サクラサイト、出会い系サイト、アダルトサイト等による詐欺被害について、弁護士・司法書士が電話で相談に応じます。

最近は、古典的な詐欺被害も、新しい手口の詐欺も増えているようです。

当然、秘密は厳守されますので、詐欺被害に遭われて誰にも相談できずに困っている方は、一度電話で相談してみてはいかがでしょうか。

2016年8月23日火曜日

弁護士による横領に対する給付金制度

司法書士の岡川です。

日本弁護士連合会が、「依頼者保護給付金制度」を新設するようです。

これは、成年後見業務などで弁護士が依頼者から預かっている金銭等の横領事件が起きた場合に、被害者に対して見舞金を支払う制度です。
成年後見業務に限らず、弁護士が依頼者から預かったお金を着服する事件がいくつも発生していることを受けての対策です。

弁護士による不正が発生した場合、被害者1人につき最大500万円(複数の被害者がある場合総額2000万円を限度)を支給するとのことです。


このブログでも過去に何度か取り上げましたが、成年後見人による不正(基本的には横領)が後を絶ちません。
多くは親族によるものなのですが、中には、専門職といわれる司法書士・弁護士・社会福祉士による不正事件もあります。

そして、専門職の選任される比率が増加するにつれて専門職による不正も増加しています。

成年後見人による不正は、親族だろうが専門職だろうが絶対にあってはならないことではありますが、特に専門職は、その専門的知見とともに社会的信頼を背景に選任されるものです。
専門職による不正事件は、本人に対して財産的損害を与えるだけでなく、本人やその親族の信頼を裏切るものです。
そして、成年後見制度や当該専門職能に対する社会的信頼をも棄損することにもなり、きわめて悪質です。

専門職後見に対する刑事処分は、通常の横領事件などに比べても厳しい判決が下されることが多いように感じていますが、それは当然のことです。


専門職の業界としても、不正に対して手をこまねいているわけにはいきません。

司法書士会では、成年後見制度が創設されると同時に「公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート」(リーガルサポート)という専門の団体を設立し、ここが司法書士後見人の養成、指導、監督を引き受けています(家庭裁判所に後見人候補者を推薦するのもリーガルサポートが行っています)。

そして、実はリーガルサポートにも今回日弁連が新たに創設したような見舞金と同様の交付金制度が存在しています。
金額も含め、内容が似通っているので、日弁連も、おそらくリーガルサポートの交付金制度を参考にして作ったんだろうと思いますが、たまたま似たのかもしれません。


日弁連の新制度について、弁護士から徴収する会費が財源となります。
これに対しては、弁護士からも批判が出ているようです。
「なぜ一部の悪い弁護士のために自分たちの会費が使われるのか」という批判です。

リーガルサポートの交付金制度はリーガルサポート設立当初から存在(当初は保険だったのですが)しており、またリーガルサポートは、強制加入団体である司法書士会とは一応独立した任意入会の団体なので、「嫌なら入会しない」という選択肢があります。

しかし弁護士会は強制加入団体。
反発の声があったとしても仕方はないかもしれません。
まあ、最終的には承認されるのでしょうけどね。


また他方で、こういう制度は、「不正があること」を前提にした制度です。
そのため「不正をなくすことが先ではないか」「不正が起こることを認めるのか」という批判もあります。

不正を「許す」わけにはいきません。
しかし、横領に限らず「犯罪」というのは、減らすことはできても絶対に「根絶」することは不可能な現象です。

残念ながらそこは前提として認めなければならないと思います。
たとえどんな対策をとっていたとしても、なお不正があることを「想定外」で済ませるわけにはいきませんから。


「犯罪を根絶する」というのは、理想論や理念としては理解できるにしても、現実的な発想ではありません。
人類を絶滅させるか、あるいは、SF世界のように完全な管理社会にでもならない限り、犯罪は必ず存在するものです。


もちろん「専門職後見人による不正」だけであれば、対象が限定されているので、限りなくゼロに近付けることはできます。
そのためのあらゆる対策を考えて実施する必要があります。

専門職後見人の三士会(司法書士会・弁護士会・社会福祉士会)のうち、司法書士会を除く他の2団体の内部事情は良くわかりませんが、リーガルサポートでは、色々な不正対策が行われています。
司法書士が後見人等候補者名簿に登載するには、常に研修単位を取得し続けなければいけません。
また、後見人等に就任後はかなり厳しく(それこそ会員から不満が出るくらいの)業務報告を求められ、指導・監督が徹底して行われています(本当に会員から不満が出るくらいの…)。

仮に不正をすれば、刑事処分だけでなく懲戒処分も受け、二度と司法書士として復帰することはできないリスクを負っています。


それでも、対策さえしておけば「未来永劫絶対に不正は起こらない」というようなことは保証できないものです。
実際に、あの手この手で不正をする人間が出てきているわけです。

そうである以上は、不正を防ぎきれなかった場合の「次善の策」として、事後的な被害救済策も用意しておくことは重要であると考えられます。
もっとも、実際の被害額と比べて500万円では足りない事例も多々あるわけで、やはりあくまでも「次善の策」に過ぎないのですが…。


今後、この給付金が使われないことを願いたいところです。

では、今日はこの辺で。

2016年8月4日木曜日

大渕弁護士「業務停止1か月」は重いか軽いか

司法書士の岡川です

テレビなどでもよく見かける大渕愛子弁護士が、所属する東京弁護士会から業務停止1か月の懲戒処分を受けました。
法テラスの規則に違反して、依頼者から不当に着手金や顧問料を受け取ったというのが理由です。

皆さんこの処分、重いと感じられるか、軽いと感じられるか、どうでしょう?

1か月間おとなしくしてればいいんだし、ちょっと長い休暇とるようなもん…くらいに思われるかもしれませんが、現実はそんな甘いものでもない。
同じ士業者の感覚としては、一般論として業務停止というのはたとえ1か月でもかなり重いものです。


業務停止中は、一切弁護士としての活動はできません。
弁護士を名乗ることも禁止なので、名刺を渡してはダメですし、原則として事務所の看板も撤去しないといけない。
バッジも身分証明もいったん弁護士会に返還するみたいです。

ここまでは、確かに大変ではありますけど、業務停止なんだから当然といえば当然ですね。

ただ、業務停止ということは、この程度にとどまりません。

業務停止期間中に新しい事件を受任してはいけないのは当然のこととして、既に受任中の事件についても、依頼者からの相談に応じることもできませんし、一切の処理をすることが禁じられます(期日に出席するどころか、事務所で準備書面の作成もしてはいけない)。

したがって、原則として全事件を辞任しないといけません。
辞任しないでそのまま事件放置したらそれはそれで懲戒事由を重ねる暴挙ですね。

それから、全ての顧問契約もいったん解除する必要があります。


そうなると、1か月後に復帰したところで、「さあ今日から仕事再開!溜まっていた仕事を処理しないと!」ということにはならない。
きちんと真面目に業務停止したら、仕事が溜まるどころか、業務に復帰した時には一切なにも残ってないはずなんですよね。

このように、「1か月分の収入が無くなる」程度じゃ済まず、この先しばらくの間の収入が完全に途絶えることになります。
新任弁護士のように、再スタートをしないといけない。


そう考えると、大渕弁護士に下された処分は結構重い。


ただ、その処分をされた理由として、「法テラス案件で別に着手金を受領した」というのは、ちょっと考えられないことではあるんですよね。

「知らなかった」と弁明されているようですが、今回の懲戒の理由は、厳密にいうと「着手金を受領した」ことではなく、「受領した着手金の返還を求められたのに、副会長が直接指導するまで数か月の間拒否した」ことです。
実は、着手金を受領したこと自体は、懲戒処分の3年の除斥期間(時効みたいなもの)にかかって処分対象から外されています。

知らなかったなら、法テラス事務局から連絡があった時点で間違いを認めて返還すればよかったのです。
それを拒否したのが悪質だとされたのでしょう。

そもそも「知らなかった」ってのがまずありえないし、仮に本当に知らなかったのだとしても、法テラスから指摘されたその時点で容易に知ることが可能です。

というのも、法テラスは、全ての弁護士が自動的に登録されるのではなく、法テラスと契約した弁護士・司法書士が登録されるものです。
そして、法テラスから支払われる報酬のほかに、依頼者から一切の金銭を受領してはいけないことは、契約条項に明記されています。
法テラス契約している時点で、知らないわけがない。

仮にそこは見落としていたとしても、契約書だけでなく色んなところに書かれていますから、法テラスを利用した手続を行っていれば必ずどこかで目にするはずです。

何をどう思ったんでしょうか…。
不可解です。


ところで、一般論はさておき、本件で業務停止は重すぎるから不服申立をするとかしないとか、そんな話もありますね。
これについては、過去の処分例とかとも見比べないと何とも言えません。

ただ、処分理由が限定的である(色んな理由で懲戒請求されたようですが、結局処分対象になったのは「返さなかった」という1点のみで、かつ、最終的には返還している)ことに鑑みて、一部で批判があるように、必ずしも「処分が軽すぎる」とはいえないとは思います。


ちなみに、これも一部で誤解があるようですけど、大渕弁護士は、「着手金を二重取りした」わけではありません。
一般的に法テラス基準の着手金というのは、弁護士事務所が定める着手金の額より安い。
そこで、法テラスから支払われる着手金と事務所報酬基準の差額(+法テラス基準にない「顧問料」という名目の報酬)を、依頼者から受け取ったわけです。

つまり、大渕弁護士が受領した弁護士費用の総額は、大渕弁護士の事務所の報酬基準を超えていない、ということになりますね。
(法テラス案件なのに事務所の報酬基準で受任すること自体が違反行為なんで、二重取りじゃないから悪くないという意味ではありません)


まあ、そんな感じで、業務停止っていうのは1か月でも結構ダメージでかい、ってことを踏まえて(逆に、法テラス案件で着手金を別途依頼者から受け取るなんて実務上あり得ない、ということも踏まえて)、本件処分が重いか軽いかを考えていただければよいかと思います。

 では、今日はこの辺で。