2016年8月4日木曜日

大渕弁護士「業務停止1か月」は重いか軽いか

司法書士の岡川です

テレビなどでもよく見かける大渕愛子弁護士が、所属する東京弁護士会から業務停止1か月の懲戒処分を受けました。
法テラスの規則に違反して、依頼者から不当に着手金や顧問料を受け取ったというのが理由です。

皆さんこの処分、重いと感じられるか、軽いと感じられるか、どうでしょう?

1か月間おとなしくしてればいいんだし、ちょっと長い休暇とるようなもん…くらいに思われるかもしれませんが、現実はそんな甘いものでもない。
同じ士業者の感覚としては、一般論として業務停止というのはたとえ1か月でもかなり重いものです。


業務停止中は、一切弁護士としての活動はできません。
弁護士を名乗ることも禁止なので、名刺を渡してはダメですし、原則として事務所の看板も撤去しないといけない。
バッジも身分証明もいったん弁護士会に返還するみたいです。

ここまでは、確かに大変ではありますけど、業務停止なんだから当然といえば当然ですね。

ただ、業務停止ということは、この程度にとどまりません。

業務停止期間中に新しい事件を受任してはいけないのは当然のこととして、既に受任中の事件についても、依頼者からの相談に応じることもできませんし、一切の処理をすることが禁じられます(期日に出席するどころか、事務所で準備書面の作成もしてはいけない)。

したがって、原則として全事件を辞任しないといけません。
辞任しないでそのまま事件放置したらそれはそれで懲戒事由を重ねる暴挙ですね。

それから、全ての顧問契約もいったん解除する必要があります。


そうなると、1か月後に復帰したところで、「さあ今日から仕事再開!溜まっていた仕事を処理しないと!」ということにはならない。
きちんと真面目に業務停止したら、仕事が溜まるどころか、業務に復帰した時には一切なにも残ってないはずなんですよね。

このように、「1か月分の収入が無くなる」程度じゃ済まず、この先しばらくの間の収入が完全に途絶えることになります。
新任弁護士のように、再スタートをしないといけない。


そう考えると、大渕弁護士に下された処分は結構重い。


ただ、その処分をされた理由として、「法テラス案件で別に着手金を受領した」というのは、ちょっと考えられないことではあるんですよね。

「知らなかった」と弁明されているようですが、今回の懲戒の理由は、厳密にいうと「着手金を受領した」ことではなく、「受領した着手金の返還を求められたのに、副会長が直接指導するまで数か月の間拒否した」ことです。
実は、着手金を受領したこと自体は、懲戒処分の3年の除斥期間(時効みたいなもの)にかかって処分対象から外されています。

知らなかったなら、法テラス事務局から連絡があった時点で間違いを認めて返還すればよかったのです。
それを拒否したのが悪質だとされたのでしょう。

そもそも「知らなかった」ってのがまずありえないし、仮に本当に知らなかったのだとしても、法テラスから指摘されたその時点で容易に知ることが可能です。

というのも、法テラスは、全ての弁護士が自動的に登録されるのではなく、法テラスと契約した弁護士・司法書士が登録されるものです。
そして、法テラスから支払われる報酬のほかに、依頼者から一切の金銭を受領してはいけないことは、契約条項に明記されています。
法テラス契約している時点で、知らないわけがない。

仮にそこは見落としていたとしても、契約書だけでなく色んなところに書かれていますから、法テラスを利用した手続を行っていれば必ずどこかで目にするはずです。

何をどう思ったんでしょうか…。
不可解です。


ところで、一般論はさておき、本件で業務停止は重すぎるから不服申立をするとかしないとか、そんな話もありますね。
これについては、過去の処分例とかとも見比べないと何とも言えません。

ただ、処分理由が限定的である(色んな理由で懲戒請求されたようですが、結局処分対象になったのは「返さなかった」という1点のみで、かつ、最終的には返還している)ことに鑑みて、一部で批判があるように、必ずしも「処分が軽すぎる」とはいえないとは思います。


ちなみに、これも一部で誤解があるようですけど、大渕弁護士は、「着手金を二重取りした」わけではありません。
一般的に法テラス基準の着手金というのは、弁護士事務所が定める着手金の額より安い。
そこで、法テラスから支払われる着手金と事務所報酬基準の差額(+法テラス基準にない「顧問料」という名目の報酬)を、依頼者から受け取ったわけです。

つまり、大渕弁護士が受領した弁護士費用の総額は、大渕弁護士の事務所の報酬基準を超えていない、ということになりますね。
(法テラス案件なのに事務所の報酬基準で受任すること自体が違反行為なんで、二重取りじゃないから悪くないという意味ではありません)


まあ、そんな感じで、業務停止っていうのは1か月でも結構ダメージでかい、ってことを踏まえて(逆に、法テラス案件で着手金を別途依頼者から受け取るなんて実務上あり得ない、ということも踏まえて)、本件処分が重いか軽いかを考えていただければよいかと思います。

 では、今日はこの辺で。

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