2017年8月29日火曜日

債権法改正について(6)(時効の完成猶予2)

司法書士の岡川です。

前回に引き続き、時効の完成猶予に関する改正点のご紹介。


1.催告による時効の完成猶予

現行法でもちょっと特殊な「催告」での時効中断については、改正法の条文は次のとおり。

第150条 催告があったときは、その時から6箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
2 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、前項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。

規定ぶりは変わりましたが、他の条項と相まって現行法と扱いは変わりません。

ここでいう「催告」というのは裁判所を通さないでする請求とか督促とかです。

催告をしたら、一応時効は中断する(改正法的に表現すれば、時効の完成が猶予される)のですが、6か月以内にもっと強力な時効中断事由(典型的には、訴えを提起するなど)が発生しない限り時効中断の効力が生じません。
つまり、催告というのは、時効中断事由ではあるものの、訴え提起までの時間稼ぎ的なものになります。

改正法でも内容は同じことで、催告によって時効が完成猶予されるのは6か月だけで時効期間の「更新」がないので、それを過ぎてしまえば、時効が完成することになります。

ところで、現行法では、裁判上の請求(訴え)をした後に、その訴えを取り下げると、条文上は時効中断の効果が生じない(現行民法149条)ので、裁判手続進行している間に時効期間が満了してしまうと、取り下げたくても取り下げられなくなってしまいます(取り下げた瞬間、遡って時効が完成してしまうので)。

そこで「裁判上の催告」という考えがあって、「裁判上の請求」としての時効中断効は認められない(条文に明記されているので)が、本来は裁判外で行われる「催告」と同視して、催告と同じ効力(6か月間の時効中断)だけは認めよう、というものです。

改正法では、前回見たとおり、訴えを取り下げたような場合に6か月時効完成を猶予することが明文で規定されましたので、あえて「裁判上の催告」という概念を持ち出す必要もなくなりました。

2.協議を行う旨の合意による時効の完成猶予

これは、完全に新しい制度です。

時効が完成間近に迫っている場合、とりあえず裁判外で請求しておけば「催告」として6か月は時効が完成しません。

しかし、前述のとおり催告で時間を稼げるのは6か月だけなので、その間に話し合いではなくて訴えを提起しなさい、というのが法の要請なわけです。

とはいえ、せっかく相手方と話し合ってる最中にいきなり訴え提起でもしようものなら、険悪なムードになること間違いなしです。
でも、現行法は、相手方が債務を承認でもしてくれない限り(つまり、債務があることは認めつつ、その支払い方法について協議するような場合を除き)、話し合ってるそばから訴え提起しないと、時効完成してしまうんですよね。

そこで、新たに加えられた制度がこちら。

第151条 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。
一 その合意があった時から1年を経過した時
二 その合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
三 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6箇月を経過した時
2 前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて5年を超えることができない。
3 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第一項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。

とりあえず話し合いをしましょう、というところまで書面で合意すれば、1年間は時効完成が猶予されます。
そして、2項において、合意を繰り返せば通算で5年まで延長することが可能とされます。

それから、3項において、催告と協議の併用はできないことになっています。
催告による完成猶予期間中に再度の催告をしても完成猶予期間は延長されないのとバランスをとったものです。


ところで、この3項の解釈としては、「催告によって時効の完成が猶予されている間」にされた協議を行う旨の合意に完成猶予の効力がないという規定なので、これは「催告から6か月以内であっても、当初の時効期間が満了した後の合意では、合意による完成猶予の効力は生じない」(催告と合意が逆も同様)という意味だと解されます。
つまり、例えば時効完成1か月前に催告をして、その催告から2か月後(=「時効の完成が猶予されている間」)に合意をしたとしても、そこから1年延長することはないということです。

他方、例えば時効完成1か月前に催告をして、その2週間後(=まだ時効期間が満了する前)に合意をすれば、それは3項が適用される場面ではないので、1年間の完成猶予が認められますね。

これは、再度の催告が認められないといっても、時効期間満了前に再度催告することは可能(時効期間満了前に行われた最後の催告から6か月時効の完成が猶予される)なのと同じです。

3.その他の変更点

債務者が権利を承認した場合(典型的には、金を返せと請求されている人が「返します」と相手に告げたような場合)については、現行法と内容的には同じで、文言だけが変更されました。

第152条 時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
2 前項の承認をするには、相手方の権利についての処分につき行為能力の制限を受けていないこと又は権限があることを要しない。


それから、現行法では、天災等によって時効の中断ができない場合、天災等が終わって2週間まで時効が完成しないと規定されています。
逆にいえば、2週間以内に請求したり訴えを提起しないと時効が完成してしまいます。

さすがに2週間は短すぎるので、改正法では、天災等による時効の完成猶予期間は3か月となりました(改正民法151条)。



今日紹介した中では、やはり協議をする旨の合意によって時効の完成猶予の効力が生じるという規定が大きな改正点です。
もっとも、この規定がどこまで実務上使われるのかは未知数です。
消費者金融業者が債務者に合意書(と一見わからないような)書面を送りつけて、時効の完成を止めるのに使ったりするんでしょうかね。

まあ、それで猶予されるのは1年だけなので、こういうセコい使い方はあんまり実用的でもないかもしれません。


では、今日はこの辺で。

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