2017年11月16日木曜日

債権法改正について(10)(履行遅滞)

司法書士の岡川です。

さてさて、本格的な債権法改正の論点に入ってきました。

今日から何回かは、債務不履行に関するルールの変更です。
その前に債務不履行については、過去の記事で復習しておきましょう(→「債務不履行の話」)。


まず、「履行遅滞」(債務の履行が遅れたこと。債務不履行の一種)になるのがいつの時点か?という点が、微妙に変更になります。

仮に確定期限(例えば「平成29年12月20日に支払う」という場合)、12月20日を1秒でも過ぎれば遅滞というのは明らかですね。
だから確定期限が定められている場合は特に問題になりません。


あ、ちなみに12月20日というのは私の誕生日ですので、皆様、遠慮なく何かしらの金品の交付をよろしくお願いします。


他方で、不確定期限(例えば「父親が死んだ日に支払う」という場合)、いつ父親が死ぬかは確定していませんので、どの段階から遅滞になるのかが問題になります。
素直に「父親が死んだ日」を1秒でも過ぎれば遅滞としてしまうのは具合が悪い。
なぜなら、「12月20日」であればカレンダー見てればわかることですが、「父親が死んだ日」というのは、債務者にとっても即時に認識できるとは限らないからです。
不確定期限について、その期限の経過=即遅滞となれば、債務者が知らない間に遅滞になっているという事態が生じてしまうのです。

というわけで、現行民法は「債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う。」としており、「知った日」に支払えばセーフです。


これが、改正法では次のようになります。

第412条第2項 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。

期限の到来を債務者が知るより前に債権者が(知ってか知らずか)請求した場合でも、履行遅滞に陥るというルール。
このルール自体は、現行法の解釈として確立しているものではあるのですが、それが明文化されました。


そうそう。
法律系資格試験の受験生が混乱するポイントのひとつとして、「履行遅滞に陥る時期」と「消滅時効の起算点」の違いがあります。
両者は微妙に時期がずれることがありますので、各自しっかりと(意識的に)区別して覚えるようにしましょう。

この点は、消滅時効の時効期間に長短の類型ができたこともあって再整理が必要ですね。
改正法における消滅時効の基本ルールは次のとおり。

1 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
2 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。

そうすると、不確定期限がある場合、

・履行遅滞に陥る時点:請求を受けた時又は期限到来を知った時(早いほう)
・5年の消滅時効の起算点:期限到来を知った時
・10年の消滅時効の起算点:期限到来時

こんな感じでしょうか。
消滅時効が類型化されたことで、逆に分かりやすくなったかもしれませんね。


では、今日はこの辺で。