2017年12月9日土曜日

債権法改正について(12)(債務不履行に基づく損害賠償請求)

司法書士の岡川です。

条文の順番的には、次は受領遅滞の話なのですが、これはひとまず飛ばして、債務不履行があった場合にどうなるか、というポイントの改正について取り上げます。

まずは、裁判所を通じて履行の強制(強制執行)ができるという内容の条文が414条にあるのですが、ここは基本的に表現が改められただけです。
具体的な強制執行の方法は、民事執行法に書かれていますので、民法には書かないことになったわけです。


次に、債務不履行に基づいて損害賠償ができるという規定。

現行民法では、「債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。」(415条)と規定されています。

一見すると、債務者の責めに帰すべき事由(帰責事由)は、後段の場合、つまり履行不能の場合にのみ要件になっているようにも読めます。
というか、普通に日本語を読んだらそうとしか読めません。

でも、一般的な解釈では、前段の場合、つまり履行遅滞であっても、損害賠償請求をするには帰責事由が必要だと考えられています。

こういうところが法解釈のいやらしいところ。
正しく日本語が読めても、正しい条文理解にはならないというね。

で、改正法は、その辺の文言も整理して、次のような規定になります。


第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。

1項は書きぶりは異なりますが、現行法(の解釈)と同じです。
「債務者に帰責事由がないときは、賠償責任を免れる」という内容が但し書きになってるのも、現行民法においても立証責任は債務者側にある(と解釈されている)ので、実務に変更はなく、むしろ解釈が明確になったといえます。

2項は何なのかというと、履行が遅れたとか不完全だったために損害が生じたという場合(これらは1項の対象)ではなく、履行されてない場合に、「もう履行はええから賠償金くれ!」ということができるという規定(これを填補責任といいます)。
典型的には1号にあるように履行不能の場合ですが、2号のように明確に履行を拒絶しているような場合もありますね。

現行民法では、これに関する規定は存在しなかったものの、判例では認められておりましたので、改正法で明文化されました。


損害賠償の範囲については、特別損害(特別の事情による損害)について若干の改正がありまして、現行法が「当事者がその事情を予見し、又は予見することができたとき」であるのに対し、改正法では「当事者がその事情を予見すべきであったとき」に賠償範囲に含まれるという規定になりました。

そのほか、損害賠償に関しては、中間利息控除について明文の規定ができたり、過失相殺について文言が若干追加されたりとありますが、基本的に現行民法の下で通用しているルールがそのまま明文化されたものです。

また、422条に代償請求権の規定が新設されましたが、これも判例・学説で一般的に認められていたものを明文化したものです。

では、今日はこの辺で。

2017年12月2日土曜日

債権法改正について(11)(履行不能)

司法書士の岡川です。

今日は、債務不履行の2つめの類型である「履行不能」について。

前提知識をざっくり説明すると、「できない」というのを「不能」といいます。
つまり、「債務を履行できない」ってことですね。

実は、「履行不能」の場合に債務がどうなるかという点についてのルールは、現行民法では明記されておりません。
それが条文に明記されるようになります。

第412条の2 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
2 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第415条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。

まあ、そんなわけで読んでのとおりであります。

ちなみにここでは、「原始的不能」(契約締結より前から不能)と「後発的不能」(契約締結後に不能となる)についての区別がされておりません。

伝統的な理解では、原始的不能の場合、債務不履行の問題ではなく、そもそも契約自体が無効であると考えられています。
法律行為の有効要件のひとつに(別に法律に規定があるわけではありませんが)「実現可能性」という要件があり、実現可能性のない=原始的不能な契約は無効だという理解です。

改正民法では、こういう原始的不能と後発的不能を峻別する考え方を取らず、とりあえず履行が不能な場合はどちらも債務不履行の問題として扱うというルールを明確にしました。

そのうえでの2項です。

これまでは、「原始的不能は契約自体が無効である」ことを前提として、契約締結上の過失の理論(これはマニアックなのでまた別の機会)とかを駆使して損害賠償請求の可能性が確立されていましたが、改正法では、契約自体は有効なので、それを前提に他の債務不履行と区別することなく損害賠償請求の道筋が明らかとなったわけです。
契約締結上の過失による責任と債務不履行責任では、その対象にズレがあります(一般的に前者の方が狭い)ので、改正により債権者に有利になったということができます。


後発的不能の場合については、現行のルールと大した差はありませんね。
条文上明確になったというだけです(文言の問題で、いくらか差は出るかもしれません)。

では、今日はこの辺で。