2018年3月26日月曜日

債権法改正について(16)(詐害行為取消権1)

司法書士の岡川です。

少し間が空いてしまいました。
少しだけね、少ーしだけ。

でも書き溜めてるので、しばらく続けて投稿できると思います。
忘れなければ。

さて、ここから、どんどん一般の人に馴染みの薄い領域に突入していきます。
今日のテーマは詐害行為取消権。

なんか字面だけ見るとかっこいい。


詐害行為というのは、他人を害する行為のことです。
「詐害」という日本語は「偽って」という意味を含んでおりますが、法律用語としての「詐害行為」は、必ずしも他人を騙した場合に限りません。


さて、詐害行為取消権は、債権者に認められている権利で、債務者が債権者を害すること(典型的には、「そんなことをやったら債務超過になってしまう」ような行為であること)を知ってした法律行為を取り消すことができるというものです。

お金を借りてる債務者が、債権者にお金を返すのが嫌だったので、自身の唯一の資産である自宅の不動産を第三者に無償で贈与したり、著しく低額で売り払ったりする行為が詐害行為となります。
債権者にお金を返すくらいなら、仲の良い知人にあげてしまおう!とかいうイヤガラセですね。

そんなことをされると、債権者からすれば、いざという時差し押さえる資産が流出してしまって不利益を被ってしまいます。

そこで、債権者は、詐害行為取消権を行使すれば、この贈与なり売買を取り消すことができます。
他人同士の契約に横槍を入れて無効化できる強力な権利なのです。


細かいところですが、現行民法における詐害行為取消権は、債権者代位権と同じ第3編(債権編)の「第1章第2節第2款」に「債権者代位権及び詐害行為取消権」というタイトルで納められていたのですが、改正法では、債権者代位権と詐害行為取消権が分けられて、前者が第2款、後者が第3款となりました。
詐害行為取消権に関する条文も、大幅に増えています。
ホントにめっちゃ増えたので、何回かに分けます。

さて順番に見ていきましょう。

まず、基本となる424条は、3項と4項が追加されました。

第424条 (略)
2 (略)
3 債権者は、その債権が第1項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り、同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。
4 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、詐害行為取消請求をすることができない。

1項と2項も若干表現が改正されていますがスルーします。

3項と4項も基本的に判例の明文化です。

ただ、3項については、判例では、詐害行為取消権を行使するには、詐害行為より前に被保全債権が発生していないといけない(被保全債権の発生より後になされた詐害行為のみ取り消すことができる)としています。
債権者が債権者になる前の行為を取り消すというのは不合理ですから当然ですね。

改正法の条文では、被保全債権が、「行為の前の原因に基づいて生じたもの」である場合に詐害行為取消請求ができると書かれています。
つまり、必ずしも被保全債権自体が詐害行為の前に発生していなくてもよいわけです。

例えば、①AがBとの間で保証委託契約を締結し、②Bが詐害行為を行い、③Aが保証委託契約に基づいて保証債務の履行をしたことでAのBに対する求償債権が発生した、という時系列の場合、被保全債権は、詐害行為(②)の後に発生(③)していますが、その原因は保証委託契約(①)ですので、Aは詐害行為取消請求が可能ということになります。

判例では、そこまでは述べていませんので、改正法は、表面上は判例より詐害行為取消の範囲が広いといえますが、判例法理も必ずしもそこを否定していないと考えれば、判例法理の外延が明確になったともいえます。

ここまでが詐害行為取消権の基本部分ですが、大幅に考え方が変わったことも無いので分かりやすい。


この後、424条の2~424条の4まで、特則が類型化されて規定されています。
長くなるので後回しにして、424条の5を先に見ましょう。

第424条の5 債権者は、受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合において、受益者に移転した財産を転得した者があるときは、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定める場合に限り、その転得者に対しても、詐害行為取消請求をすることができる。
一 その転得者が受益者から転得した者である場合 その転得者が、転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。
二 その転得者が他の転得者から転得した者である場合 その転得者及びその前に転得した全ての転得者が、それぞれの転得の当時、債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。

転得者に対する詐害行為取消請求が認められる要件ですね。
転得者というのは、何か(財産とか権利とか)がA→B→C→D→…と移転した場合、AB間の問題におけるC(とCより後に取得した人ら)のことをいいます。

現行民法では、424条の中で(受益者と同列で)規定しているのですが、もう少し細かく説明されています。
ここで書かれているのは、取消請求をする転得者及びそれより前の転得者全員が「債権者を害すること」を知っていた(悪意の)場合にのみ詐害行為取消請求をすることができるというものです。

現行法では、この点特に明記していませんが、判例は、請求する相手方である転得者が悪意であれば取消を認めます。
知ってたか知らなかったか(善意か悪意か)は、転得者ごとに個別に(相対的に)判断して、その転得者との関係において取消し(相対的取消)を認めるわけです。
このような考え方を「相対的構成」と言ったりします。




ちなみに、法律用語というか、法律論において、「Aさんとの関係ではこうだけど、Bさんとの関係ではまた別」というような関係を「相対的」と表現しますので覚えておきましょう(相対的無効、相対的効力…とか)。


ところが、改正法では、請求の相手方である転得者が悪意であっても、それより前に善意の(知らなかった)人がいれば、詐害行為取消請求が認められないということになります。
つまり、転得者が複数出てきた場合において、間に一人でも善意者(詐害行為を知らない人)が出てきた時点で、詐害行為取消権の行使が遮断されます。
判例の考え方を採用せず、取引の安全(中間の善意者の保護)を重視して、要件が厳格になったということができます。
なお、後の条文でも出てくるのですが、債務者の行為を絶対的に取り消す(取消しの効力として、絶対的無効)ものではありません。

ただ難点は、転得者が詐害行為取消権の行使を妨害するには、自分の前にとにかく善意者を一人挟めばよいので、適当な人に1回取得してもらい(これを「藁人形的善意者」とかいったりする)、その人からさらに転得することで、悪意者が詐害行為取消権を遮断しつつ転得が可能になるということです。
この点に関しては、従来より絶対的構成説が示していたとおり、藁人形的善意者を悪意者と一体のものとみなして取消しを認める、といった解決方法が採られることになるのでしょう。


というわけで、詐害行為取消権の原則的な要件を定めた条文を先に紹介したところで、次は、特則をみていこうと思います。

では、今日はこの辺で。