2018年6月12日火曜日

債権法改正について(20)(不可分債務と連帯債務1)

司法書士の岡川です。

やっと詐害行為取消権の話が終わったところですが、次は多数当事者間の債権債務関係に関する、これまたややこしい話です。
今日から何回かに分けて取り上げるのは、不可分債権・不可分債務・連帯債権・連帯債務、この辺です。


・・・ん?連帯債権?

まあ、それはひとまず置いといて。


この分野は、現行法の理解だけでも難しいのに、改正法がどう変わったか理解するのはもっとややこしいですので気合入れましょう。
まず、条文の順番は無視して、債務者が複数の場合からいきます。

債務者が複数の場合、考えられるパターンは、
・分割債務
・不可分債務
・連帯債務

この3つです。
現行法におけるこれらの区分は、ざっと次のような感じ。

分割債務とは、性質的に分割可能で、当事者も特に「分割しちゃだめ」と決めてない債務。
例えば、「AとBが合計100万円を支払う」という債務は、金額を分ければいいだけなので、分割可能ですね。
この場合、原則としてAが50万円、Bが50万円支払えばよい。

これに対して、不可分債務は、「性質的に」あるいは「当事者の意思表示によって」分割できない債務。
「AとBが甲車を引き渡す」という債務は、甲車を半分ずつ用意して別々に引き渡すわけにもいかないので、性質的に分割不可能ですね。
あるいは、「100万円を支払う」といった性質的には可分な債務でも、「50万ずつに分けるのではなく、100万円を耳そろえて一括で支払う」という取り決めがあれば、不可分債務ということになります。

連帯債務とは、数人の債務者が連帯して(それぞれが債務の全体に対して)責任を負う(という取り決めがある)債務。
性質的には分割可能なんだけど、連帯債務として取り決めれば連帯債務です。


性質的に不可分な債務は不可分債務で間違いないので、問題は性質的には可分な場合です。
現行法の解釈では、原則として分割債務、不可分だと決めれば不可分債務、連帯して責任を負うと決めれば連帯債務、というふうに振り分けられているわけです。


これが改正法では、定義から変わってきます。

・不可分債務…債務の目的がその性質上不可分である場合(改正430条)
・連帯債務…債務の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債務を負担するとき(改正436条)

つまり、「性質上可分だけど、当事者の意思によって不可分」というパターンはなくなり、不可分債務とは、性質上不可分の場合のみを意味することになります。
当事者の意思によって各債務者に債務全体の責任を負わせる場合は、連帯債務に一本化されました。

不可分債務と連帯債務の振り分けがスッキリ整理されたところで、連帯債務の規律が変更されます。

まず、債務者の1人について生じた事由が、他の連帯債務者にどう影響するかという問題。
現行法では、連帯債務については、以下の事由について絶対効がある(1人の債務者について生じた事由が、他の債務者についても及ぶ)と規定されています。

・履行の請求(現行434条)
・更改(現行435条)
・相殺(現行436条)
・免除(現行437条)
・混同(現行438条)
・時効の完成(現行439条)

このうち、請求、免除、時効の絶対効の規定が削除されました(これらは相対効になる)。
つまり、残った絶対効は、更改、相殺、混同のみです。


なお、細かい話ですが、現行法によると、連帯債務者は、他の債務者が債権者に対して有している債権を使って相殺することが可能です。
例えば、連帯債務者ABがCに対して100万円の連帯債務(甲)を負っていて、AがCに対して50万円の債権(乙)を有している場合、Bは、勝手にこの乙債権をもって甲債権と相殺し、甲債務におけるAの負担部分(50万円)を消滅させることが可能なわけです。
もちろん、Bの負担部分の50万円は残りますが、50万円は消滅したので100万円を支払う義務はなくなるわけです。

でもまあ、さすがに他人(連帯債務者)の債権を勝手に使って相殺するのは無茶やろ~という批判が強かったので、次のように改正されます。

第439条2項 前項の債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は、その連帯債務者の負担部分の限度において、他の連帯債務者は、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。

つまり、勝手に相殺できるのではなく、履行を拒絶できるという形になります。
先ほどの例でいうと、Aが50万円分で相殺可能なので、Bとしては、Cから100万円全額の請求をされても、A負担部分の50万円については履行を拒絶できるということです。

長くなってきたので、不可分債務については次回へ回します。

では、今日はこの辺で。