2018年9月13日木曜日

債権法改正について(23)(保証1)

司法書士の岡川です。

保証に関する規定は、今回の債権法改正で大きく変更された点のひとつです。

まずは、現行法上の一般的な理解や判例を明文化したのが、448条2項(「主たる債務の目的又は態様が保証契約の締結後に加重されたときであっても、保証人の負担は加重されない」)とか457条2項(「保証人は、主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができる」)の改正ですね。

457条3項に新設された、

第457条3項 主たる債務者が債権者に対して相殺権、取消権又は解除権を有するときは、これらの権利の行使によって主たる債務者がその債務を免れるべき限度において、保証人は、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。

というのも、趣旨は同じことです。

ところで、連帯保証については、現行法上、連帯債務の規定が多く準用されています。
現行458条では、

・連帯債務者の一人に対する履行の請求(434条)
・連帯債務者の一人との間の更改(435条)
・連帯債務者の一人による相殺等(436条)
・連帯債務者の一人に対する免除(437条)
・連帯債務者の一人との間の混同(438条)
・連帯債務者の一人についての時効の完成(439条)
・相対的効力の原則(440条)

の各規定が、連帯保証の場合に準用されることになっています。

このうち、連帯債務における請求、免除、時効の絶対効の規定は削除されました。
また、そもそも連帯保証人には負担部分がない(最終的には全部主債務者に求償できる)ので、負担部分を前提とする436条2項(改正法439条2項)の規定は、準用する意味がありません。

そこで、改正法458条では、準用する連帯債務の規定は、

・連帯債務者の一人との間の更改(改正438条)
・連帯債務者の一人による相殺等(改正439条1項)
・連帯債務者の一人との間の混同(改正440条)
・相対的効力の原則(改正441条)

になりました。
ここまでは条文の整理といった感じですね。



改正法では、保証人の保護を厚くするために、いくつかのルールが新設又は変更されています。

保証に関して新設されたルールとしては、まず、保証人に対する「情報提供義務」があります。

改正法で新設された「情報提供義務」には、一般的な(全ての保証について適用される)情報提供義務としては、「主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務」と、「主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務」の2種類があります。

まずは、主債務者の履行状況に関する情報提供義務。

第458条の2 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。

保証というのは、(少なくとも)当事者が3人出てきます。

例えば、BがAから金を借りて、Cが保証人になったという場合、Aが債権者、Bが主債務者、Cが保証人ですね。
このうち、主たる債務(借金)については、債権者と主債務者の間の契約(金銭消費貸借契約)であって、厳密にいうとCはこの契約の当事者にはなりません。
Cは、あくまでもAとCの間で締結される(Bの債務を保証するという)保証契約の当事者にすぎない。

そうすると、AB間の金銭消費貸借契約の履行状況がどうなっているのか、現在どれだけ滞納しているのかというのは、Cにとっては、自分が当事者になっていないAC間の契約関係における問題ということになります。

この場合、債権者に問い合わせて、任意に答えてくれたらいいですが、現行民法では明確な回答義務は規定されていません。
回答すべき義務がない以上、逆にAB間の守秘義務の問題も絡んで、債権者としては第三者であるCへの情報提供に消極的にならざるをえない。

そうすると、保証人は、自分が知らないうちに借金返済をさんざん滞納された後、まとめて急に債権者から請求される、ということも生じます。

そこで、改正法では、債権者は、保証人から請求されれば回答しないといけないと明確に義務を定めたわけです。


次に、主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務。

主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務

第458条の3 主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から2箇月以内に、その旨を通知しなければならない。
2 前項の期間内に同項の通知をしなかったときは、債権者は、保証人に対し、主たる債務者が期限の利益を喪失した時から同項の通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。)に係る保証債務の履行を請求することができない。
3 前二項の規定は、保証人が法人である場合には、適用しない。

何らかの債務(例えば、お金を支払う義務)があっても、必ずしも全て直ちに支払う義務を負っているとは限りません。
「(将来の)何月何日に支払う」とか「5年間で毎月○円ずつ支払う」とかいう債務はよくあります。
この場合、債務者にとっては、定められた支払時期までは支払わなくて良い、という利益を有しているわけです。
これを、「期限の利益」といいます。

で、期限の利益というのは、いろんな理由で喪失します。
典型的には、履行遅滞になった場合とかですね。
「毎月○万円ずつ支払う」という契約でも、「1回でもこの支払いを怠ったら、直ちに残額を一括で支払う」というような条項が付されていることがあります。
これを「期限の利益喪失約款」とか「懈怠約款」とかいいますが、「直ちに一括で」となるということは、上記の期限の利益を喪失したということになります。

債務者が期限の利益を失うということは、その債務を保証している保証人にとっても利益を失うことを意味します。
そして、期限の利益を喪失すると、その時点から遅延損害金も発生し続けることになるわけで、期限の利益を喪失したことを知らずに放置していたら、いつの間にか遅延損害金が加算されていき、保証人が気づいたときには、債務総額が膨大なことに…なんていうことも起こりうるわけです。

そこで、「保証人に対して通知するまでは、期限の利益を喪失したことで前倒しで発生した遅延損害金は請求できない」というルールができたわけです。

ただし、保証会社等、法人が保証人の場合はこの規定は適用されません。
債務者の履行状況なんか自分で管理しとけば済む話なので、そこまで保護する必要もないという判断でしょう。


情報提供義務は、他にもありますが、ちょっと条文が離れている(別の枠組みの中にある)ので後回しにします。

では、今日はこの辺で。