2019年2月8日金曜日

債権法改正について(27)(債権譲渡1)

司法書士の岡川です。

個人の私法上の権利というのは、権利者がどう処分しようが基本的には自由です。
まあ、一身専属権のような性質上譲渡しようがないものだったり、他人の権利を侵害するようなやり方で処分するのはダメですが、所有権だろうが地上権だろうが著作権だろうが、契約で売ることも贈与することも可能です。

債権も同じ(466条1項)。
債権を売ったり贈与したりすることを、債権譲渡といいます。

ただし、債権というのは、相手(債務者)がいますから、何でもかんでもポンポン譲渡されると債務者が困ります。
ということで、契約の中で「譲渡禁止特約」の条項を入れておくなど、当事者同士(債権者と債務者)で、債権譲渡を禁止することもよくあります。


さて、この譲渡禁止特約付債権を、債権者が第三者に売ったらどうなるでしょうか。

現行法では、原則として譲渡禁止特約のある債権は譲渡できない(債務者は、債権譲受人からの請求を拒める)のですが、例外的に譲渡禁止特約を知らなかった人(善意の第三者)にはそれを対抗できない、つまり、譲渡禁止特約付債権であったことを理由として請求を拒めないというルールになっています。

では、債権譲渡の当事者同士(債権の譲渡人と譲受人)での譲渡の効力どうなるか、というと、「譲渡人と譲受人の間は有効」という説と、「譲渡人と譲受人の間も無効」とする説が対立しています。

改正法では、この解釈が分かれていた点を明確にしています。

まず、改正466条2項で、「当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。」として、「譲渡禁止特約付債権であっても、譲渡当事者間では譲渡有効」説を採用しました。
そのうえで、第三者との間では、「譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。」(3項)として、現行法の「対抗できる」の意味が具体的に規定されています。

ただし、この規定は、債権が任意に譲渡された場合の話であって、譲渡禁止特約付債権が差押えされて第三者に移転した場合には適用されません(改正466条の4)。
このルールは判例が明文化されたものです。
さらに細かい話ですが、悪意又は重過失の第三者に譲渡された債権がさらに差し押さえられた場合は、債務者は履行を拒めます(2項)。


ところで、第三者が悪意又は重過失の場合、譲受人が債務者に請求しても拒否されるし、譲渡人は(債権譲渡自体は有効だから)債務者に請求できない。
その結果、債務者だけがまる儲け…となります。

そういうわけにもいかないので、4項で、「前項の規定は、債務者が債務を履行しない場合において、同項に規定する第三者が相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、その債務者については、適用しない。」という規定が新設されました。

譲渡禁止特約付債権を譲り受けた悪意又は重過失の譲受人は、債務者に対し、「譲渡禁止やから払わん言うんなら、元の債権者に払えや!」と催告できるわけですね。
それで、債務者が元の債権者にも履行しないということであれば、その後は、悪意だろうが重過失だろうが、もはや債務者は第三者(譲受人)に対抗することはできません。

ちなみに、預貯金債権だけは例外扱いで、「その譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対抗することができる。」(466条の5)という、現行法っぽい表現で別の条文が用意されました。
そのため、譲渡禁止特約付の預貯金債権の譲渡については、当事者間でも譲渡無効だと解されます。
預金債権は売っちゃダメなのが当然だからですね。たぶん。

譲渡禁止特約付債権が譲渡された場合に、債務者が供託できる制度も新設されたりしてますが、細かい話なので省略。


では、今日はこの辺で。

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