2019年5月22日水曜日

債権法改正について(31)(代位弁済)

司法書士の岡川です。


まただいぶ間が空いたので、なんと今になってようやく令和時代の初投稿です。

この債権法改正シリーズ、このペースでいくと改正債権法の施行にまでに終わらないんじゃないかという危機感も出てきました。
もっとサクッと終わらせる予定だったのですが…。

さて、今日は代位弁済。

債務を(主たる)債務者が弁済した場合、債権が消滅し、そこに付随していた担保も消滅して終わりです。

ところが、主たる債務者以外の者、例えば、保証人や全くの第三者が債務を弁済した場合、全て消滅して終わりというわけにはいきません。

本来の債務者以外の第三者が債務を弁済した場合、その第三者は、本来の債務者に対して「代わりに払っといたったから、同額を返せ!」と請求することができます。
これを「求償」といいます。

第三者が求償する権利(求償権)を取得する場合、元々の債権者が有していた担保等についてもそのまま求償権者に移転するというのが衡平といえますね。
元々債権者が有していた担保権等が、債務を弁済した第三者に移転することを「弁済による代位」といい、このような「代位」が生じる弁済を「代位弁済」といいます。
(「代物弁済」とは一字違いで全く別の制度なので注意)


現行法では、「正当な利益を有する者」以外の第三者が弁済した場合、代位するのに債権者の承諾を要件としています。
しかし、債権者は既に弁済を受けているのだから、承諾するかしないかの選択を与えるのも合理性がない(原則として承諾を拒めないとするのが通説)ので、この要件は無くなりました。


さて、代位弁済の効果についても少し変更があります。

実務上大きい変更点は、「保証人は、あらかじめ先取特権、不動産質権又は抵当権の登記にその代位を付記しなければ、その先取特権、不動産質権又は抵当権の目的である不動産の第三取得者に対して債権者に代位することができない。」という現行501条1号の規定が削除されたことです。

ある債権を担保する抵当権が設定されており、かつ、保証人がいるという場合に、保証人がその債務を弁済したら、その保証人が債権者に代位して抵当権を取得します。

しかしこの場合、現行法では、当該不動産が第三者(第三取得者)に取得される前に抵当権に代位の付記登記をしておかなければ、保証人は、第三取得者に対して代位することができません。
要するに、第三取得者の所有物となった不動産に設定されている抵当権を実行することはできないということです。

これは、第三取得者の期待を保護するための規定とされています。
抵当権が(登記簿上)残っていても、債務が弁済されたことでその抵当権は実体上は消滅しているのであり、いわば「カラ」になった抵当権が残っているだけだと考えて不動産を取得する第三者を保護するということです。


といっても、登記簿上は抵当権が設定されたままになっている不動産を取得する第三者が、「この被担保債権は消滅しているから、抵当権も消滅しているはずだ」という期待をもって取得することを想定して、その期待を保護することの合理性(また、保証人以外が弁済した場合は、付記登記を要しないこととの整合性)には、従来より批判がありました。

そこで改正法では、この規定が削除されたため、仮に債務が弁済されていたとしても、それが保証人による弁済であった場合は、抵当権は保証人に移転するだけで、消滅もしなければ、第三取得者に対しても代位して実行することも可能となります。


従来であれば、保証人が弁済した場合であっても、付記登記がなされる前に先に所有権移転登記をしてしまえば、抵当権を実行される危険は無かったのですが、今後は、きちんと抵当権を抹消しない限り、抵当権ごと引き受けることになります。
まあ、上記のとおり、そもそも保証人以外が弁済した場合は、501条1号の適用もなくて代位されていたのですから、それが保証人の場合も妥当することになったということですね。
中途半端に現行法を知っていて、「保証人の場合は付記登記より先に所有権移転登記すれば勝てる!」と油断すると大損するかもしれないので注意です。



ところで、弁済したのが一部だったらどうなるのか。
例えば1000万円の債権があって、第三者が500万円だけ弁済したような場合です。

で、この債権に抵当権が設定されていたとすれば、誰がこの抵当権を実行できるのか?というのが問題です。

現行民法502条では、一部弁済した人(代位者)は、弁済した価額に応じて、元の「債権者とともに」権利を行使するとされているのですが、古い判例によれば、一部弁済した代位者も単独で抵当権を実行できる(大決昭和6年4月7日)とされています。

どちらも権利を有しているんだから、それはそれで公平やん、と思わなくもないです。

しかし例えば、元々の債権の残り500万円のうち、300万円については弁済期が到来していなかったりすれば、その部分は(まだ)抵当権でカバーされないわけです(実務上はあまり考えられないのですが、素人同士の契約だったらそういうこともありうる)。
そうすると、この段階で代位者に勝手に抵当権を実行されてしまうと、弁済期未到来の部分については無担保となる危険が生じてしまいます。

このように、一弁済しただけの代位者に、勝手に単独での権利行使を認めると、元の債権者にとって不利なタイミングでの権利行使を強いられる事態も生じるわけです。
これでは、債権者に不測の損害を与えてしまいます。

そこで、改正法では、まず、代位者が権利を行使するには、債権者の同意が必要になりました(改正502条1項)。
他方、債権者は、単独で権利行使をすることができます(同2項)。

そして、いずれの場合も、担保権の実行によって得られる金銭については、債権者が代位者に優先します(同3項。なお、判例どおり)。


代位弁済についての大きな変更はこんなところですかね。


では、今日はこの辺で。