tag:blogger.com,1999:blog-2268907830887124852024-02-21T14:28:58.261+09:00司法書士岡川敦也の雑記帳知って得する情報や別にそうでもない情報をあなたに!岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.comBlogger533125tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-67791875639069650002023-08-03T21:17:00.001+09:002023-08-03T21:17:49.012+09:00成年後見制度と意思能力の関係<p>司法書士の岡川です。<br /><br />お久しぶりです。<br /><br />なんと、このブログ1年以上投稿していないことに気づきました。<br />こんな超放置ブログですが、今でも「ブログ見てます」と言ってもらえることがちょいちょいありまして、ありがたい限りです。<br /><br />さて、今日は久しぶりに書きたいことがあったので徒然なるままに。<br /><br /><br /><br />突然ですが、成年後見制度ってあるじゃないですか。<br /><br /><br />もう10年以上前の投稿になりますが、「<a href="https://okagawa-office.blogspot.com/2013/06/blog-post_4.html" target="_blank">成年後見制度入門</a>」からの一連の記事を見ていただければ、だいたいのことは理解できると思います。<br /><br /><br />世間では、だいぶ成年後見制度に対する理解も進んでおり、10年前と比べたら各種手続も随分とスムーズになりました。<br /><br />しかし、それでもまだまだ根本的に理解されていないところがありまして、今でも金融機関やら保険会社やら通信会社やらで、無茶苦茶なことを言われることがよくあります。<br />例えば、「本人(被後見人)連れてきてください」「本人からの委任状が必要です」といった話は今でも珍しくありません。<br /><br />軽くおさらいしますと、成年後見人(に限らず、保佐人や補助人も)は、「法定代理人」です。<br />裁判所が審判によって選任される、「法律で定められた代理人」ですから、その代理権の範囲においては、本人に代わって(つまり本人がいなくても)契約等の法律行為をすることができます。<br />本人が自分でできないところを(本人のために)代理するための制度ですから、「本人連れてこい」というのは、法律で定められている権限を無視するものです。<br />また、委任状というのは、法律上の定めではなく、委任契約等によって権限を与えた代理人(これを「法定代理人」に対して「任意代理人」といいます)が、代理権を与えられたことを示すための書類です。<br />「代理人に委任したこと(内容)を相手方に示すために、委任者が代理人に渡しておく書状」が委任状なわけです。<br /><br />成年後見人等の法定代理人は法律で権限が定められているわけで、本人から何か委任されたわけではないですから、「本人からの委任状」なるものは本来的に存在しないのです。<br /><br />その代わりに、後見人には法務局から「登記事項証明書」というものが発行されますので、これがあれば、その人が後見人等であること(保佐や補助の場合は、さらに権限の範囲)がわかります。<br /><br /><br />それから、「会社の規定で、書類は本人の自宅にしか送付できません」といわれること(特に保険会社)も、いまだにあります。<br />それをされると、既に施設入所している場合等、本人が自宅にいなかったら誰も受領できないのですよ。<br /><br />当然ながら、書類の受領権限も後見人にありますし、後見人の事務所住所もその相手方会社に届け出ているわけですから、後見人宛に送付すれば済む話なのです(そういう扱いの保険会社も少なくないので、それができない理由はない)。<br /><br />しかしなぜか、頑なに本人の自宅住所宛にしか送らないという会社があります。<br /><br />ちょっとこれは、本当に何がしたいのかわかりませんし、誰も得しない(保険会社としても重要書類が返送されてくるだけで面倒なだけ)ので、速やかに改善していただきたいものです(保険会社のエライ人見てますかー?)。<br /><br /><br /><br />前置きが長くなりました。<br /><br />(そう、ここまでが全部前置き)<br /><br /><br /><br />上に書いたようなことほどの頻度ではないのですが、特に保佐・補助・任意後見の場合にたまに遭遇する面倒な問題があります。<br /><br />言ってる当人が発言内容を理解せずに(おそらく会社のマニュアルとか上司の指示に基づいて)言ってくるのですが、それが、<br /><br /><br />「本人に意思能力はありますか?」<br /><br /><br />これです。<br /><br /><br />意思能力というのは、「自己の行為の結果を認識する(あるいは認識したうえで正しく意思決定する)知的能力」のことを言います(→「<a href="https://okagawa-office.blogspot.com/2014/02/blog-post_24.html" target="_blank">意思能力の話</a>」)。<br />意思能力を有しない者が行った契約等の法律行為は無効となります(民法3条の2)。<br /><br />もっとも、保佐・補助類型や任意後見であれば、多くの場合は意思能力はあります。<br />保佐や補助類型は、事理弁識能力(厳密にいうと意思能力とは少し異なりますが、判断能力という意味ではある程度重なる概念)が不十分なだけの方ですので、開始時よりよほど認知症が重症化した場合でもなければ、当然に意思能力を欠いているようなことはありません。<br />また、後見類型であっても本人の能力には幅がありますので、完全に寝たきり状態の方でもなければ、意思能力自体は認められるような方もいます。<br /><br />任意後見は事理弁識能力的には補助相当くらいの方から開始されるので、色々な場合がありますが、やはり意思能力が認められることも少なくありません。<br /><br /><br />だから私は、ほとんどの場合こう答えるのです。<br /><br />「意思能力はあります」<br /><br /><br /><br />ここまでは別にいいのです。<br />聞きたければ聞いたらいいし、こっちも答えるだけです。<br /><br />問題はその後ですが、こういう問答で私が「意思能力はありますよ」と答えると、たいてい「意思能力がある場合は、保佐人(補助人・任意後見人)が代理できません」とか言ってくるのです。<br /><br /><br />いや待て待て。<br /></p><p> </p><p>それだと、後見制度の意味がないじゃないか。</p><p></p><p> </p><p>その時々の本人の意思能力の有無で、個別に契約が有効になったり無効になったりするとまともに契約ができないし、そうなると本人も相手方も困ります。<br />そうならないように、予め一律に一定の代理権を付与することで、本人の権利を擁護しつつ、取引の安全も図っているのが成年後見制度です。<br /><br />後見人がついていない場合、相手方に意思能力が無ければ契約が無効になってしまうので、意思能力を確認することは重要です。<br />しかし、後見人がついていて後見人が代理すれば、本人に意思能力が無くても契約は無効になりません。<br /><br />本人の意思能力があってもなくても、代理人には本人のために法律行為をする権限があるからです(そうでなければ意味がない)。<br /><br />つまり、本人の能力に応じて、私が「この人は意思能力はあります」と答えようが「この人は意思能力はありません」と答えようが、どっちにしても後見人が手続をすることに変わりはないわけです。<br /><br /><br />さらに言えば、(任意後見や同意権のない補助を除き)行為能力が制限されていますから、意思能力がある本人(特に成年被後見人や被保佐人)が契約したら、逆にその契約が無効になることもあります。<br />(同意のない)制限行為能力者の行為は、取消すことが可能だからです。<br />そうすると、本人の意思能力を確認するのは構わないが、意思能力があろうがなかろうが相手方としては、本人と契約するわけにはいかず、後見人等を代理人として契約するのが安全なわけです。<br /><br /><br />もちろん、本人の事理弁識能力に応じて、本人の意思を確認したうえで後見人が手続を進めること(意思決定支援のプロセス)は重要ですが、それは本人と後見人の間の問題であって、そのプロセスがどうであれ相手方との関係(契約の有効性や代理権の有無)には全く影響がありません。<br /><br />そして、意思能力の有無を確認してくる会社が、意思決定支援の理念に基づいて確認しているわけでないことは明らかです。<br />なぜなら、そういうことを言ってくる場合、「では、まず本人の意思は確認されましたか?」ではなく、「では本人から委任状をもらって…」と言ってくるからです。<br /><br />要するに、「意思能力があれば代理権限がなくなる」とでも思っているということです(前述のとおり、後見人等の代理権は、委任状ではなく登記事項証明書で提示できるのですから)。<br /><br /></p><p>こうなると、「いや、だから私が代理権を持ってますし、登記事項証明書で証明できるんですけど…」という話を延々と説明しなくてはならず、非常に面倒なことになります。</p><p><br /><br />まとめます。<br /><br />後見だろうが保佐だろうが補助だろうが、あるいは任意後見だろうが、本人の意思能力は必ずしも失われているものではありません。<br />そして、本人の意思能力があるかないかにかかわらず、成年後見人、保佐人、補助人、任意後見人が就任した以上は、それら後見人等には間違いなく権限が付与されております。<br />そして、その権限は、委任状ではなく、法務局が発行する登記事項証明書にて確認することができます。<br /><br />逆に、意思能力があるからといって成年被後見人等と直接契約すると、契約を取り消される可能性もあります。<br /><br /><br />本人の「意思能力」を確認する場合、何のために確認しているのか、改めて考え直してみてください。<br /><br />では、今日はこの辺で。</p>岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-79677806152639096692022-05-19T01:12:00.003+09:002022-05-19T01:17:58.067+09:004630万円を返すには<p>司法書士の岡川です。</p><p>4630万円を誤振込された人が返還に応じず、数日のうちにギャンブル(オンラインカジノ)で全部費消してしまって逮捕されたという事件が世間を賑わしています。</p><p>罪名が電子計算機使用詐欺罪という聞きなれないもので、これもまあ大切な(有名な)論点ではあるのですが、そこはひとまず置いといて、容疑者は、「少しずつでも返していきたい」と述べているそうです。</p><p><br /></p><p>誤振込がされて数日の間に何のためらいもなく全額ギャンブルに突っ込むという、なかなかのぶっ飛び具合からして、本当に返す気あんのか?という疑問がそこかしこから聞こえてきますが、そこはとりあえず返す気はあると信じてみましょう。</p><p><br /></p><p>で、「少しずつでも」とか言っていますが、現実的にいくら返せるのか。</p><p><br /></p><p>今回のように、何らの法律上の原因(正当に貰う理由)がないのに利益を得た場合を「不当利得」といいます。</p><p>不当利得は、正当な権利者に返還する義務を負います(民法703条)。</p><p>特に、不当利得であることを知っていた場合は、ただ返すだけでなく、利息を付して返還しなければなりません(民法704条)。</p><p><br /></p><p>利息というのは、これも民法404条2項で基本的に年3%(ただしこれは変動します)と定められていますから、年3%ずつ債務は増えていくわけですね。</p><p>しかも債務の弁済は、まず利息に充当されますから、利息を上回る金額を返さなければ元金は減りません。</p><p><br /></p><p>例えば、「少しずつ」が月5万円くらいとか考えていたら、もう全くお話になりません。</p><p>4630万円に対する年3%の利息は、換算すると月11万円以上ありますから、月10万円の返済でも足りません。</p><p><br /></p><p><u>仮に月10万円を弁済し続けた場合、一生かけても(たとえ5億年くらい返し続けても)、元金4630万円は1円たりとも減りません。</u></p><p>つまり実質的に、1円も返していないことになります。</p><p>というか足りてない利息分だけ、<u>むしろ債務は増えます。</u></p><p><br /></p><p>月12万円くらい返し続ければ、ようやく当初の利息を上回るので、110年くらいで完済できそうです。</p><p><br /></p><p>110年の返済はちょっと生きるのに疲れそうなので、住宅ローンみたいにせいぜい35年くらいで完済しようと思えば、月18万円くらい返す必要があります。</p><p><br /></p><p>もはや「少しずつ」のレベルじゃないですね。</p><p><br /></p><p>ちなみにこのときの返済総額は元金利息含めて7400万円くらいです。</p><p><br /></p><p>まぁ、頑張って働いて返しましょう。</p><p><br /></p><p>では、今日はこの辺で。</p>岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-69127495036600049692022-04-08T16:23:00.001+09:002022-04-08T16:23:05.827+09:00成年年齢引き下げについての注意喚起<p>司法書士の岡川です。<br /><br />民法の改正により、令和4年4月1日から成年年齢が引き下げられ、これまでは20歳で成年であったのが18歳で成年となりました。<br />つまり18歳と19歳の人が未成年者ではなくなったということです。<br /><br /><br />民法という私人間(「わたくし-にんげん」ではなく「しじん-かん」)の関係を定めている法律は、原則としてすべての人は独立した対等な主体として行動することが想定されています。<br />つまり、誰もが自分の判断(のみ)に従って契約等をすることができる一方で、その結果については自分で責任を負わなければなりません。<br /><br /><br /><br />これには例外もいくつかあるのですが、そのひとつが「未成年者」に関する次の規定です。<br /><br /></p><blockquote>(未成年者の法律行為)<br />第5条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。<br />2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。<br />3 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。</blockquote><br /><br /><br />ざっくりと書くと、「親が自由に使ってよいと許可した財産(小遣い等)の処分以外は、親の同意なく処分したり契約をしたりすることはできない」ということです。<br />もし同意なく契約した場合、「取り消すことができる」とされています。<br />取り消すということは、その契約等は無効(最初からなかったこと)になります。<br /><br /><br />何をするにしても親の同意を得なければならないということは、未成年者にとっては、自由を制限されて窮屈と感じられるかもしれません。<br /><br />しかし一方で、自由が制限されているということは、その限りで自己の判断の結果にすら拘束されないということです。<br />親の同意を得ていない契約は、自分にとって不利だと判断すれば、未成年者というだけの理由により問答無用で取り消す(なかったことにする)ことができますから、これは未成年者にとっては強力な武器(というか防御手段)となります。<br /><br /><br />すなわち、単独で自由に契約ができないというルールは、社会経験も少なく、判断力が十分に備わっていない(したがって、社会的には弱者の立場にある)未成年者が、未熟なゆえに判断を誤ったことにより生じる不利益から保護する規定なのです。<br /><br />決して、親が子の自由を奪って支配下に置くためのルールというわけではありません(したがって、民法には親による親権の濫用を防止する仕組みも同時に存在する)。<br /><br /><br />さて、今までは、20歳になった瞬間から「親の同意を得なくても単独で契約等ができる自由」を手に入れる一方で、「未成年者というだけの理由により問答無用で契約を取り消すことができる権利」を失うというルールになっていました。<br /><br />成年年齢引き下げは、この強力な武器を失う時期が、2年早くなったことを意味します。<br /><br />18歳というと、まだ高校生です。<br />高校を卒業するより前から、社会生活においては、普通の社会人と同様の判断を求められ、その判断に対する自己責任を負わされるわけです。<br /><br /><br />そうすると、若い人は、社会の仕組みを今までより早くから理解し、「自己の判断で」その危険を回避できるようにならなければならない。<br />自由を手に入れて喜んでばかりもいられないということですね。<br /><br /><br />世の中には「『詐欺まがい』だが詐欺ではない」ような悪質な契約は掃いて捨てるほどあふれかえっています。<br />いっそ詐欺ならまだマシなのです(詐欺による契約は取り消すことができる)。<br /><br /><br />そして、悪質な業者は、未成熟な若年層を狙ってくるものです。<br /><br />今までは、18歳とか19歳とかを狙って不利な契約をさせても、後から無効になってしまうリスクがあったのですが、今の18歳、19歳にはそのリスク(悪質業者にとってのリスクです)はありません。<br /><br />カモがネギ背負って鍋の中で待機しているようなもんです。<br /><br /><br />新成人の皆さんには、自分の身を守るために社会のルールを学んでいただきたいと思います。<br /><br /><br />では、今日はこの辺で。<br /><p></p>岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-87311160759533338862022-01-03T02:25:00.004+09:002022-01-03T02:25:39.733+09:00【令和4年】謹賀新年<p>あけましておめでとうございます。</p><p>旧年中は、なんかいつのまにか8か月くらい放置してしまいましたが、ブログのネタ考えたり記事を書いたりする余裕が全くないくらい、何やかんやと忙しくしておりました。</p><p><br /></p><p>そういえば、ここでは全く何も触れていませんでしたので、昨年を振り返りがてら、この間に何やってたのかご報告しますと、実は昨年5月に大阪司法書士会の常任理事(総務部門会員事業担当)に選任されて、これでかなりの時間をとられていました。</p><p>同時に、北摂支部の副支部長(相談部長)にも就任して、これもそこそこの時間をとられていました。</p><p>さらにリーガルサポート大阪支部副支部長も重任したので、これも結構な時間をとられていました。</p><p><br /></p><p>主要なところで上記の3つを兼任したことで、まあまあ時間をとられてしまっていたのですが、そこに加えて、公共嘱託登記司法書士協会が受託した長期相続登記未了土地の解消作業(相続人調査)のお手伝いを引き受けたところ、もう(現在進行形で)地獄です。</p><p><br /></p><p>みなさん、相続登記はきちんとしましょうね。</p><p><br /></p><p>というわけで、空前の多重会務を抱え込んだまま、令和4年に突入します。</p><p>今年もブログを書く余裕がほぼ無さそうですが、普通に現役で司法書士やっているはずですので、どうぞよろしくお願いします。</p>岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-28308981594148584992021-04-29T02:30:00.001+09:002021-04-29T02:30:07.143+09:00相続放棄後の管理責任<p> 司法書士の岡川です。</p><p><br /></p><p>全国的に大量の空家(管理不全建物)が存在していることは以前から大きな社会問題となっています。</p><p><br /></p><p>いわゆる空き家問題ですね。</p><p><br /></p><p>私は、大阪司法書士会空き家問題対策検討委員会の委員をやっていたこともあり、現在も高槻市空家等対策審議会の委員を現役で拝命しているところでして、空き家問題についてはちょっとだけ詳しいのです。</p><p><br /></p><p>さて、建物が空き家になる理由はいくつもありますが、大きな理由の一つが相続です。</p><p>さすがに自分が住んでいた家を空き家にしてそのまま引越しすることはあまりない(高齢になって施設に入所するとかいう場合は除く)ですが、親から相続した建物がそのまま放置されるという例は少なくありません。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>さて、相続が発生した場合、相続を承認した相続人が所有者になります。</p><p>当然ながら所有者として自由に処分する権利もあれば適切に管理する義務もあります。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>しかし、相続人が相続放棄をしてしまえば、被相続人(亡くなった親)の所有していた不動産はどうなるでしょうか。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>相続放棄をした人は、初めから相続人でなかったものとして扱われます(民法939条)。</p><p>つまり、親が生前住んでいた実家が現在空き家になっているとしても、相続放棄した人は、その空家の所有権を取得することはありません。</p><p><br /></p><p>親が借金まみれで亡くなった場合、相続放棄をすればその債務を承継するのを免れるのと同じで、親の相続財産が欲しくもない空き家だけなら、相続放棄をしてしまえばその空き家を承継する必要もなくなるわけです。</p><p><br /></p><p>まあここまでは分かりやすい話です。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>ところが、問題はここからです。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>ここ1~2年くらい前からでしょうか。</p><p><br /></p><p>「相続放棄をしても、実は管理責任が残る。管理し続けないと近隣住民や通行人に対して損害賠償責任を負うことがあるから気をつけよう!」なんていう話をよく目にするようになりました。</p><p><br /></p><p>素人の記者が書いた週刊誌やらネットメディアのみならず、弁護士や司法書士、税理士などの相続を専門にする士業者のホームページにも書かれています。</p><p><br /></p><p>さらには、東京の弁護士会が運営する法律相談センターのサイトでも同趣旨のことがかかれています。</p><p><br /></p><p></p><blockquote><p>相続放棄後の管理責任</p><p>民法第940条は、「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」としています。</p><p>この管理責任が問題となるのは、例えば、山奥の山林であったり、老朽化した家屋が挙げられます。山林の木が敷地外の道路に倒れてしまったり、老朽家屋が倒壊して隣地に迷惑をかけたり第三者に怪我をさせたりすると、管理をしている相続人がその責任を問われることになりかねません。 </p></blockquote><blockquote><p> (<a href="https://www.horitsu-sodan.jp/column/column/704.html" rel="nofollow" target="_blank">https://www.horitsu-sodan.jp/column/column/704.html</a>)</p></blockquote><p></p><p><br /></p><p><br /></p><p>確かに、民法940条には「財産の管理を継続しなければならない」と書かれています。</p><p><br /></p><p>しかしこの規定は、相続放棄した人が、次順位の相続人に管理を引き継ぐまでの間、その相続財産の価値を減少させないように管理する責任を負っているというものであり、一種の事務管理(契約によらずに他人の財産の管理を開始したときに、その相手との関係で一定の権利義務が発生するルール)の規定だと理解されています。</p><p><br /></p><p>したがって、誰に対する義務かというと「その放棄によって相続人となった者」(遺言があった場合の受遺者等も含まれる)であって、管理責任を果たさずに財産的価値を損ねた場合には、引き継いだ相続人に対して損害賠償責任を負うというものです。</p><p><br /></p><p>もちろんその管理の過程で、不法行為の一般規定である民法709条の成立要件を満たせば、(近隣住民や通行人等の)第三者に対する責任を負うことはあるでしょうが、940条自体には、相続放棄をした人につき、709条の要件を修正ないし緩和するような特殊な不法行為の成立要件は定められていません。</p><p>もしかしたら解釈上そういう何らかの第三者責任の趣旨を読み込むことは可能かもしれませんが、そうであったとしてもその要件効果については明らかではありません。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>学説上こういった解釈が一般的でして、民法起草者も、相続人と「社会経済上の利益」を保護するためのものと考えており、第三者に対する責任というような解説はなされていません。</p><p>実務上も、940条の管理義務は対第三者に対するものではないために、市町村長が相続放棄した人に対して、空家特措法14条に基づき「必要な措置」をとるよう助言・指導・勧告・命令をすることはできないと考えられています(国土交通省や総務省がそういう見解であり、それに基づく市町村での運用もそのようになっている)。</p><p><br /></p><p>また、第三者である近隣住民や通行人から相続放棄した人に対する損害賠償請求が認められた裁判例もありません。</p><p><br /></p><p>そして、先日(令和3年4月28日)成立した民法の改正法に関する法制審議会での議論の中でも、940条の責任の相手方は相続人であるという前提で改正案が作られました。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>にもかかわらず、あまりにも当然のように(あたかもそれが判例・通説であるかのように)940条に基づいて第三者から損害賠償請求されると解説されているのは、極めて根拠に乏しい見解なわけです。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>さて、その民法改正により、940条についても改正され、これが相続人に対する責任であることを明確にするため、管理継続義務の内容を保存義務だと明記されました(あくまでも、もともとの義務の内容を明確にしたものであって、「この改正によって対第三者責任が無くなった」わけではありません)。</p><p><br /></p><p>さらにその責任の発生要件についても「放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」に限定される方向で改正されました。</p><p><br /></p><p>ちなみにこの場合、940条の責任を負う人は、現に占有しているわけですから、第三者との関係においては、940条とは無関係に工作物責任(民法717条)を負う可能性はあるということになります。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>改正民法の施行は3年後ですが、上述のとおり、現行法でも第三者に対する責任は無いと考えるのが一般的です。</p><p>相続放棄をしたにもかかわらず、第三者から何らかの責任を追及された場合、根拠のない不当な請求である可能性もありますので、お近くの司法書士までご相談ください。</p><p><br /></p><p>では、今日はこの辺で。</p>岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-80854602741104807662021-03-24T11:37:00.003+09:002021-03-24T11:37:49.958+09:00私有物の橋が封鎖された件<p> 司法書士の岡川です。<br /><br /><a href="https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/202103/0014171674.shtml" target="_blank">唯一の出入り口なのに…住宅地の橋が突然封鎖 実は私有物「買い取るか、通行料を」</a><br /><br /></p><blockquote>約30戸が並ぶ神戸市北区の住宅地に、車で出入りできる唯一の橋が突然封鎖され、警察官が出動する事態がたびたび起きている。50年近く公共物という認識で使われてきたが、最近になって「私(し)橋(きょう)」であることが判明。所有者は老朽化のため「維持管理費がかかる」として住民に購入を求め、住民は市への移管を提案するが、主張は平行線をたどっている。</blockquote><br /><br />私道の所有者が通行料を徴収しようとして、住民が拒否したらその私道を封鎖した…という事件は以前もありましたが、橋というのは珍しいですね。<br /><br /><br />このニュースに対して、受け取る人の意見は分かれています。<br /><br />当該橋が個人の所有物であることから、「使わせてもらっているのだから住民は所有者に金を払うのは当然」という意見もある一方で、所有者といえどもその人が橋を作ったわけではなく、50年も無料で通行されていた橋を最近になって購入したという経緯から、金を払う必要はないという意見まであります。<br /><br /><br /><br />ここで、どういう理屈で住民が橋を通れるのか、あるいは所有者が通行料をとれるのか、といった点について、色んな人が色んな考察をしています。<br /><br />ただし、大前提として、橋というのは河川上に設置された工作物であって、それ自体は土地ではありません。<br />地役権がどうとか囲繞地通行権がどうとかいう意見も散見されましたが、これらは、土地に関する権利ですので、橋の上に地役権やら囲繞地通行権が生じることはありません。<br />そもそも地役権やら囲繞地通行権といった権利も、別に無償の権利ではありませんから、通行料の妥当性とは無関係です。<br /><br /><br /><br />さて、所有者のやり方が少々乱暴なところがあるので、所有者が一方的に設定した金額の通行料を支払わなければならないものではないと思いますし、1200万円という所有者の言い値で買い取る必要もないと思います。<br /><br />また、通行料をとらなければ修繕費等が賄えないとしても、現状無償であることを承知で購入したのだからそのリスクは当然に所有者が負うべきであるし、もちろん何か事故が起きれば所有者として責任を負っても仕方がない(それが嫌ならそもそも購入しなければよい)。<br /><br />他方で、実際に住民は通行によって利益を得ているし、所有者は(たとえ今になって購入したのだとしても)現時点で所有権を有していることに変わりは無いわけですから、例えば無償で通行するのは不当利得となっているのではないか、妥当な金額であれば通行料は徴収しても良いのではないか、ということも考えられます。<br /><br /><br />では、どういう点を考慮すべきか。<br /><br />詳細な事実関係が必ずしも明らかでない(例えば河川の占有許可はどうなっているのか、元の所有者は誰だったのか、本当に1200万円で購入したのか等)ので想像するしかないのですが、少し考察してみます。<br /> <p></p><p>基本的には、所有者が自分の所有する橋を他人に有償で使用させる権利はあります。</p><p>しかし本件でいうと、例えば、住民には使用借権(無償で使用する権利)のようなものが認められるのではないか。<br /> </p><p>この橋には元の所有者(開発業者か?)がいたわけで、その人は、この住宅地ができたときから無償で使用することを承諾していたわけです。<br />ということは、<u>橋の元の所有者と住宅地の住民との間で、当初から黙示の使用貸借契約のようなものが成立していた可能性、あるいは50年も経った現在では住民が使用借権を時効取得している可能性</u>が考えられるわけです。<br /><br />使用借権は比較的弱い権利ですから、賃借権と違って原則として第三者(本件でいえば、橋を購入した現所有者)に対抗することはできません。</p><p>ただし、例えば、使用借人がいる土地を安価で購入して建物収去土地明渡を請求した場合に、権利濫用の主張が認められたという裁判例もあります。 <br /></p><p>そうすると、本件の経緯に鑑みれば、<u>現所有者が使用借権の消滅を主張して封鎖すると、場合によっては権利濫用になる可能性</u>が考えられます。<br /><br /></p><p>現在は警察の指導により通行自体は可能になっているようなので、所有者は住民全員を相手取って不当利得返還請求訴訟を起こすことは可能だろうし、他方で住民側は使用借権(+権利濫用)を主張して争うことが可能ということになるので、どっちの主張が認められるか…という争いになります。</p><br /><p>では、何でこんなことになったのか?<br />そもそも誰が悪いのか?<br /><br />完全に想像ですが、例えば元の所有者が造成工事をした業者だったとすれば、本来は橋を無償で市に移管すべきだったものです。<br />そもそも、公道に出る橋が無ければその一帯の土地に価値はないですから、橋の設置費用は、その一帯を造成して住宅地として売り出した際に、土地の価格に転嫁されていたと考えられます。<br />元の所有者は、土地の代金(の一部)という形でその費用を回収できたわけですから、市に無償で移管しても損はしないわけです。<br /><br />しかし、そうせずに第三者に売却したということであれば、これは利益を二重取りしている(土地の代金上乗せ分として住民から受け取り、さらに売買代金として現所有者からも受け取った)ことになるわけですね。<br /><br />こういう話であれば、悪いのは、元の所有者だということです。<br /><br />「住民は橋を無償で使わせてもらっていたのに文句を言うな」という意見も見られましたが、必ずしもそうではない。<br />橋の設置費用込み(維持管理費用については、市に移管されるので発生しないという前提)で土地を購入したのであれば、無償で使用できなくなったら「話が違う」と文句を言う権利はあると思われます。<br />そもそも50年間も無償で通行可能だったことに鑑みれば、元の所有者の認識もそういうものであったと推測されます。<br />造成工事をした業者も商売でやってるわけですから、仮に通行料を取らなければ損をするような事情があったなら、住宅地を売り出した当初からそういう話になっていなければおかしいですからね。<br /><br /><br />で、現所有者はそういう事情は当然に想定すべきであることから、そもそも橋を購入すべき物件ではないし、購入するのであれば、自由に使用収益する権利を制限されて損するリスクは甘受すべきである、という方向に傾くんじゃないでしょうか。<br />要は、そもそも1200万円の価値がある物件じゃないということです。<br /><br /><br />とはいえ、話が平行線なら橋の修繕もされないまま崩落でもしたら大変ですし、ここは思い切って、1世帯あたり20万~30万円ずつくらい出し合って、自治会が新たに河川使用許可を受けたうえで本件橋の横に同じような橋を作り、これを無償で市に移管してはどうでしょうか?<br /><br />現所有者から1200万円で購入したり、通行料を延々と支払い続けるよりも安上がりかもしれません。<br /><br /><br />では、今日はこの辺で。</p>岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com14tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-72548636672322794422021-03-11T15:32:00.007+09:002023-09-22T13:18:03.632+09:00司法書士が不動産業者に顧客を紹介して紹介料を貰うことは倫理違反か<p>司法書士の岡川です。<br /><br />今日は司法書士業界内のマニアックな話。<br /><br />司法書士は、司法書士法や司法書士法施行規則といった法令遵守義務を負っていることはいうまでもありませんが、司法書士法には会則順守義務(23条)が定められているので、所属する司法書士会の会則違反は、会則順守義務違反という法令違反になります。<br /><br />さらに司法書士が守るべき行為規範としては、法令と会則だけでなく、「司法書士倫理」というものもあります。<br /><br />司法書士倫理というのは、「人としてどう生きるか」といった道徳的な意味でのルールではなく、司法書士として求められている基本姿勢や行動基準について定めたものです。<br />一般的な「倫理」と違い、司法書士倫理は抽象的な概念ではなく、具体的に成文化された規定です。<br /><br />司法書士倫理に違反したからといって直ちに違法になるわけではありませんが、場合によっては、司法書士法上の品位保持義務違反等に該当する可能性があり、懲戒の対象ともなりえます。<br /><br /><br />さて、司法書士倫理の中に、不当誘致等の禁止というものがあります。<br />その典型例が、紹介料(キックバック)の支払いであり、司法書士は、誰か(他士業者や不動産会社等)から依頼者を紹介された場合に、その紹介者に紹介料を支払ってはいけません。<br /><br />一般社会の商取引の中では、顧客を紹介してくれた相手に対して紹介料を支払うのは、ごく普通の(何ら違法性のない)行為ですが、司法書士は、お金を払って依頼を誘致することは倫理違反となるのです。<br /><br />具体的には、司法書士倫理13条2項違反です。<br /><br /><br /></p><blockquote>第13条 司法書士は、不当な方法によって事件の依頼を誘致し、又は事件を誘発してはならない。<br />2 司法書士は、依頼者の紹介を受けたことについて、その対価を支払ってはならない。<br />3 司法書士は、依頼者の紹介をしたことについて、その対価を受け取ってはならない。</blockquote><br /><br /><br />ちなみに、弁護士の場合も同じようなルールがあり、弁護士が紹介料を支払えば弁護士職務基本規程13条1項違反となります。<br />(弁護士職務基本規程というのは、従来の「弁護士倫理」を「規程」として制定し直して、より拘束力を強めたもの)<br />司法書士倫理は、この弁護士倫理(及び司法書士倫理にあたっては弁護士職務基本規程)を参考に制定されたのです。たぶん。<br /><br /><br /><br />ここで、司法書士倫理13条2項については解釈が分かれることはあまりない(キックバックを渡してはいけないことは、全司法書士が知っている)のですが、問題は3項です。<br />これが少し前にtwitter上で軽い論争になっていました。<br /><br />一般に、「司法書士は紹介料を支払ってはならないし、逆に受け取ることも禁止されている」と説明されています。<br />その根拠が司法書士倫理13条3項です。<br /><br />私も倫理研修等でそのように説明を受けていましたし、司法書士にとって紹介料は当然に「渡すのも貰うのも許されない」ものだと理解していました。<br />皆が当然にそのように話すので、私の周りにこれと異なる解釈をとる人は見当たりません。<br /><br /><br />しかし、改めて条文をじっくり読むと、また別の解釈が可能となる。<br /><br />すなわち、13条3項の規定は、「他の司法書士に対して依頼者を紹介した場合に、その司法書士から紹介料(キックバック)を受け取ってはならない」という規定であって、例えば不動産業者にお客を紹介して、それに対して不動産業者からキックバックを貰うことについては司法書士倫理上禁止されていない、という解釈です。<br /><br />この説明を見たとき、一瞬「はぁ?」と思いましたが、文理上その解釈も一理あることに気づきます。<br /><br />2項と3項は、同じ「依頼者の紹介」という文言で、同じ事象に対する規律をしています。<br />2項は、司法書士が「依頼者の紹介」を受けた場合を対象とするものですが、ここで「依頼者」というのは、司法書士に事件を依頼するから「依頼者」になるわけですから、当然「紹介された側」から見て「依頼者」です。<br /><br />そして、3項も同じ文言が使われていますから、2項と整合的に解釈するならば、3項の「依頼者の紹介」というのも「紹介された側」から見て「依頼者」と言えなければなりません。<br /><br />そうすると、「紹介される側」は、司法書士倫理で規律するところの「依頼」を受ける立場の者、すなわち司法書士でなければならないという結論になるのが文理上は素直です。<br />すなわち、3項はあくまで2項の行為(キックバックを渡す行為)と対になる行為も禁止する趣旨の規定(対向犯処罰規定のようなもの)だと考えるわけです。<br /> <p></p><p>この見解によると、不動産業者に顧客を紹介することは、「依頼者の紹介」にはならない(せいぜい「顧客の紹介」といったものになる)ので、13条3項の対象外ということになります。<br /><br />このように、「依頼者」は「紹介された側」からみての依頼者であり、かつ、司法書士業務の依頼者であると限定する解釈は、司法書士業界ではあまり見られませんが、弁護士業界では有力説として存在します。<br />例えば、東京三会有志・弁護士倫理実務研究会編『改訂 弁護士倫理の理論と実務』21頁には、「本条の『依頼者』とは『弁護士に事件や顧問等依頼をする者』を指すことは明らかであり,不動産業者からみての顧客をも含むという解釈は余りにも弁護士職務基本規程の文理からかけ離れた拡張解釈」だと説明されています。<br /><br /><br /><br />では、弁護士職務基本規程を制定した日弁連はどう解釈しているかというと、「依頼者」が「紹介される側」から見ての依頼者であるという点では上記の厳格な解釈と同様です。<br />そのため、紹介する側の弁護士にとっての依頼者かどうかは問われず、自身が何の業務も受任していない人を紹介する場合も含みます。<br /><br />ただし、日弁連は、2項(司法書士倫理では3項に相当)の「依頼者」には不動産業者から見ての「顧客」をも含むと解釈しています(原典に当たれていないのですが、『解説 弁護士職務基本規程』や『自由と正義』vol.56にこの趣旨の解説が掲載されているようです)。<br /><br />この解釈では、同項の趣旨が、「他人に顧客を紹介する行為は弁護士の職務ではないのに、そこから対価を得ることは品位に悖る」という理解からそのような行為を禁止しているのであって、必ずしも「1項(司法書士倫理では2項に相当)のキックバックを渡す行為と対になる行為」に限って禁止しているわけではない、ということになります。<br /><br /><br />司法書士倫理の母法のような位置にある弁護士職務基本規程では解釈が分かれているところですが、では、司法書士倫理での解釈はどうなっているか。<br /><br />司法書士倫理の注釈本としては『注釈司法書士倫理』という書籍があるのですが、これは2004年発刊。<br />13条2項と3項は、平成20年(2008年)の日司連総会で司法書士倫理が改正された際に追加されたものなので、この書籍には載っていません。<br /><br />日司連の司法書士執務調査室倫理部会が出している『新訂版「司法書士倫理」解説・事例集』には、前提となる「依頼者」の解釈について全く触れられていませんが、そこでは、「自らの依頼者を紹介しただけのことで対価(紹介料)を受け取るのは、何らの法律事務を行うことなく対価を手にするものであって、依頼者を食い物にした、あるいは依頼者を利用して金を儲けたという側面を有するため」という髙中正彦『法曹倫理』の解説を引用して「自らの依頼者を紹介」と説明しているところから、この「依頼者」とは「紹介する側」から見た依頼者だと解釈しているようにも見えます。<br /><br />しかし同時に、前掲の『解説 弁護士職務基本規程』から「依頼者を紹介して対価を受け取ることを目論んで事件集めをする行為は品位を失するもの」という解説も引用していることから、紹介される側から見た「依頼者」を紹介する行為も対象とみていることがわかります。<br /><br />したがって、基本的には日弁連の解釈と一致し、その中でも特に「自らの依頼者」を紹介する場合は、「依頼者を食い物にした」という側面も有する、と理解すれば整合的に読み取ることが可能です。<br />まあ、そもそもこのあたりを意識して書かれたのか疑問ですが。<br /><br /><br />いずれにせよ、日司連の解説が、日弁連の解説(「依頼者」について限定していない解釈)を特に注釈もつけず引用していることからみて、文理上「不動産業者からキックバックを貰うことについては司法書士倫理上禁止されていない」と解釈することは可能だとしても、実際に行うことは倫理違反のリスクが大きいように思われます。<br /><br />特に、紹介するのが「自らの依頼者」であった場合は、前掲『法曹倫理』の解説も引用されていることからして、日司連の解釈は、紹介先が不動産業者である場合も当然に含めていると考えられますし、13条を厳格に解釈する前掲『改訂 弁護士倫理の理論と実務』でも、基本規程13条2項(司法書士倫理13条3項に相当)にはあたらないものの、品位を失するものとして基本規程6条(司法書士倫理3条に相当)違反に該当しうると解釈されています。<br /><br />したがって、例えば司法書士が自ら登記申請を代理する事件について依頼者を仲介業者に紹介してキックバックを貰ったり、自ら相続登記をした後に相続税のために依頼者を税理士に紹介してキックバックを貰ったりすれば、どっちにしても倫理違反(仮に13条違反でなくても3条違反)となりうる、という結論部分に異論はなさそうです。<br /><br /><br /><br />というわけでまとめると、やっぱり司法書士にとってキックバックは「渡すほうも貰うほうも倫理違反」ということで認識しておくべきですね。<br /><br />※本記事の内容は筆者の個人的見解であり、筆者が所属する団体、組織、部門等の公式見解でもありません。<br /><br /><br />では、今日はこの辺で。</p><p> </p><p><span style="color: red;">※2023.9.22追記<br /></span></p><p><span style="color: red;">『司法書士倫理』は、令和4年6月に開催された日本司法書士会連合会定時総会において、『司法書士行為規範』に改正されました。 <br /></span></p><p><span style="color: red;">改正にあたって、この条文文言に変更はされなかったため、代議員として質疑をしました。</span></p><p><span style="color: red;"> 執行部の答弁として、「紹介を受けた側が見ての依頼者、又は業務上の顧客をいう」「紹介する司法書士から見たら、いまだ依頼者となっていない場合を含む」と明言されたうえで、「今後の解説書などを作成する場合に留意したい」との答弁がありました。</span></p><p><span style="color: red;">そして、この答弁を踏まえたうえで、『「司法書士行為規範」解説』 36頁以下に「本条3項の「依頼者」とは、紹介を受ける側にとっての依頼者<u>又は業務上の顧客</u>である」と明記されています。</span></p><p><span style="color: red;">これにより、この論点は、「不動産業者に顧客を紹介する場合も含む」という、一般的な解釈で間違いないというところで決着したものと考えてよいと思います。</span><br /></p><p> </p>岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-7083501046035834152021-02-01T00:13:00.001+09:002021-03-24T17:27:52.677+09:00自己破産しなくてよい場合にも一律で自己破産を勧めるメリットはあるか?<p> 司法書士の岡川です。</p><p><br /></p><p>今日取り上げるのは、また「幻冬舎ゴールドオンライン」の記事(3回目)です。</p><p>宣伝しているみたいであまり取り上げたくはないのですが、ちょいちょいおかしな記事を挟んできますね…。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>ちなみに最初に述べておくと、この記事の執筆者は、任意売却を専門とする不動産業者の代表取締役です。</p><p>(積極的に読者に予断をもたせていくスタイル)</p><p><br /></p><p><br /></p><p><a href="https://gentosha-go.com/articles/-/30954" rel="nofollow" target="_blank">住宅ローン破綻…弁護士が「自己破産」をすすめる理由がエグい</a></p><p><br /></p><p></p><blockquote><p>「弁護士・司法書士」は自己破産を推奨することが多い</p><p>住宅ローンの返済に行き詰まった人がやってくると、彼らはほぼ自動的に自己破産するようアドバイスします。任意売却により債務を最小限にし、自己破産しなくていいケースでも、解決策として一律に自己破産をすすめるのです。</p></blockquote><p></p><p><br /></p><p><br /></p><p>これはさすがに嘘ですね。</p><p><br /></p><p>借金問題を抱えた相談者が弁護士や司法書士に相談に来られた場合、当然、あらゆる選択肢を検討します。</p><p>自己破産よりも前にまず任意整理が可能かを検討しますし、もちろん任意売却についても検討対象です。</p><p><br /></p><p>任意売却だけで解決するのであれば、そのほうが圧倒的に費用と手間と時間の負担が軽いので、そちらを優先するのは当然ですし、住宅以外に処分したくない財産がある場合や自己破産が欠格事由となる仕事をしている場合(会社役員や証券会社の外務員など)なども、まずは自己破産を回避する方策を模索するのが当然の流れです。</p><p>そして、任意売却では解決できない場合(任意売却しても債務が残り、それが返済しきれない等)、自己破産を提案します。</p><p><br /></p><p>特に、「住宅ローン」というワードが出た時点で、自己破産より前に個人再生を検討するのが通常の法律家のごく一般的な思考です。</p><p>個人再生には、住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を付すことにより、住宅ローンを(場合によっては返済期限を延ばして)返済することで、住宅を失わずに債務総額を減縮するという方法があるからです。</p><p><br /></p><p>このような検討をすっ飛ばして「一律に自己破産をすすめる」ということは絶対にあり得ません。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>もちろん最終的には自己破産を勧めることも少なくありません。</p><p>それは、自己破産をしなければ生活再建が不可能な事案というのも多いからです。</p><p><br /></p><p>任意売却というのは、「家を売ってその売却代金を借金返済に充てる」というものですから、債務総額より売買価格が低い場合、どんなに高く売れたところでその代金は全て債務の弁済(その他の費用)に充てられますし、債務も残ってしまいます。</p><p>この場合、「持ち家を失った上で、残りの債務を返済し続ける」か、「任意売却をしたうえで、さらに自己破産もする」のどちらかです。</p><p><br /></p><p>相談段階では、それぞれの手続のメリットデメリットを提示し、さらにはそれぞれの手続の要件効果、実現可能性等も考慮して最終的に方針を決定するのです。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>弁護士や司法書士が、これらの考慮をせずに「自己破産しなくていいケースでも、一律に自己破産をすすめる」メリットはあるでしょうか。</p><p>記事のタイトルにもなっている「エグい理由」とは何でしょうか?</p><p><br /></p><p></p><blockquote><p>自己破産をすすめる中でも、弁護士が特にやりたがるのが「管財事件」です。自己破産には「管財事件」と「同時廃止事件」がありますが、弁護士にとっては前者のほうがはるかに高い手数料を受け取ることができるためです。</p><p><br /></p><p>「管財事件」にするためには、自己破産する時点で、自宅という大きな財産を持っていなければなりません。自己破産前に任意売却をしたほうが、ほとんどの債務者にとってお得なのですが、そうすると「同時廃止事件」となり、弁護士にとってはうま味がなくなってしまいます。</p></blockquote><p></p><p><br /></p><p><br /></p><p>私が知る限り、必ずしも「はるかに高い手数料」というほど同時廃止事件より管財事件の報酬が圧倒的に高いわけではなく、他方、管財事件のほうが手間がかかるので、一般論として、報酬の差額にそれほど魅力的な「うま味」が弁護士にあるとは思えません。</p><p><br /></p><p>さらに司法書士だと、元々の費用が低額であることから両者の報酬額の差はとても小さい(他方で管財事件のほうが手間がかかることは変わらない)うえに、裁判所の運用上の問題もあって、管財事件にすることは、ほぼ何のメリットもありません。</p><p>むしろ管財事件は司法書士にとって、積極的にはやりたくない事件だったりもします。</p><p><br /></p><p>実務感覚でいうと、同時廃止事件のほうが手間も時間もかからず、債務者の負担も軽いので、同時廃止事件で終わらせられたほうが嬉しいのです。</p><p><br /></p><p>さて、気づいた方もいると思いますが、当該記事では、弁護士は「任意売却をしたら管財事件ではなく同時廃止事件になって儲からないから」任意売却を勧めないと説明しています。</p><p>すなわち、<u>執筆者により想定されているスキームは、「任意売却したら破産をせずに済む」のではなく、任意売却した後に自己破産するというもの</u>です。</p><p><br /></p><p>「自己破産しなくていいケースでも、解決策として一律に自己破産をすすめる」という最初に述べられている結論とはズレがありますね。</p><p><br /></p><p>しかも、このように自己破産することを前提に申立前に任意売却するという流れは、自己破産手続の流れの中のひとつとして弁護士や司法書士にとっても一般的なものであって、弁護士や司法書士が「自己破産をすすめる」ことと普通に両立するものです。</p><p><br /></p><p>そしてそもそも、債務者が不動産を所有しているからといって必ずしも管財事件になるとも限りません。</p><p>というのも、住宅ローンが残っている不動産の中には、被担保債権額が不動産の資産価値を上回る状態(オーバーローン)となっていることがあり、このような不動産については、資産として評価されない運用となっています。</p><p>例えば大阪地裁の基準では、原則としてローン残高が固定資産税評価額の2倍を超えるときは資産価値がないものとして扱われ、その結果、その他の基準を満たせば同時廃止事件で終わらせることができます。</p><p><br /></p><p>「同時廃止事件にするために任意売却をしなければならない」わけではないのです。</p><p>この場合、任意売却をするかしないか、するにしても破産申立ての前か後かというのは、個別事情を勘案して決めることになります。</p><p><br /></p><p>本当に「自己破産しなくていいケース」(任意売却すれば債務を完済できる場合ですね)にも「一切耳を貸してくれない」弁護士がいるとすれば、よっぽど雑な業務をやっている弁護士じゃないでしょうか。</p><p><br /></p><p>特に司法書士の場合は、任意売却でも結局は登記手続に絡むので、「自己破産してくれないとお金にならない」わけでもない。</p><p>手間と時間を考えたら、任意売却で自己破産を回避できるのであれば、むしろそっちのほうが司法書士業務としては圧倒的に費用対効果が良いという可能性もあります。</p><p>何なら管財事件の可能性がある段階で(一切報酬はもらえないが)弁護士に引き継ぐこともあります。</p><p>実際のところ、司法書士にとって「無駄な自己破産」を勧めるインセンティブは全くないのですよね。</p><p><br /></p><p><br /></p><p></p><blockquote><p>加えて、「任意売却にトライして失敗したら、裁判所からの評価が下がる」というプレッシャーも弁護士にはあります。</p><p>裁判所は仕事の成績により弁護士を独自に格付けしており、格付けの高い弁護士には企業の「管財事件」など、大きな報酬が見込める案件を回します。個人の任意売却で失敗し、格付けが下がることは収入に大きな悪影響となるので、「リスクを冒してでも債務者のために」と頑張る弁護士はいないのです。</p></blockquote><p></p><p><br /></p><p><br /></p><p>この点は、司法書士が管財人になることはありません(全国的に探せばあるのかもしれませんが一般的ではない)から裏事情までわかりませんが、管財事件の配転と申立代理人の実績が連動するという話はあまり真実味がなく、にわかには信じがたいところです。</p><p>「任意売却にトライして失敗した」ことをいちいち集計して格付けしてんの?裁判所が??マジで???</p><p><br /></p><p>個人的な感覚としては、そんなことを弁護士が考えて、同時廃止事件になる事件をあえて(面倒な)管財事件になるよう申立てをしているとは考えられないです。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>任意売却は債権者にとっても利益はあるし、実際に自己破産をする必要がない(しない方が良い)ケースであれば、専門業者に頑張っていただければよい。</p><p><br /></p><p>また、個別の事案において、任意売却した後に自己破産するという方法を選択する場面においても、優秀な専門業者が適切かつ円滑に任意売却手続を進めてもらえるのであれば、弁護士や司法書士としてもありがたいものです。</p><p><br /></p><p>ただ、弁護士や司法書士が「自己破産しなくていいケースでも、解決策として一律に自己破産をすすめる」というのは普通ではありません。</p><p>自己破産しなくていい事件を無理やり自己破産に持っていくほど弁護士も司法書士も暇じゃないし、そのような普通ではあり得ない選択をすると、トラブルの可能性や手続が途中で止まるリスクも大きいですから、ひたすら面倒な未来しか見えないわけですよ。</p><p>そんな面倒なことは、金を貰ってもやりたくないですからね。</p><p><br /></p><p>何より、この記事の執筆者が想定しているのは、<u>主に「結局は任意売却後に自己破産するケース」</u>だということです。</p><p>この記事でも、<u style="font-weight: bold;">「弁護士に相談に行かずに任意売却専門業者にいけば、任意売却によって自己破産を回避できる」とは書いてありません</u>(そしてそれは事実です)ので、ご注意ください。</p><p><br /></p><p>では、今日はこの辺で。</p>岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-66170762584972897402021-01-18T13:52:00.000+09:002021-01-18T13:52:26.776+09:00「マルチまがい商法」はマルチ商法だという話<p>司法書士の岡川です<br /><br />前回、「<a href="https://okagawa-office.blogspot.com/2021/01/blog-post_14.html" target="_blank">キングコング西野さんはマルチ商法はしていないという話</a>」を書いたのですが、マルチ商法というのは、「会員に高額な品物を売りつける怪しげな商売」のような意味ではなく、「『他の会員を加入させたらあなたの儲けになる』として新規会員を勧誘して物を売る手法」をいいます。<br />これにより、連鎖的に会員が会員を勧誘して階層組織が出来上がるから「マルチ(multi-level=多層の意味)」商法というのです。<br /><br /><u>人を増やすことで利益を上げるというマルチの仕組みは、実際のところは大多数が利益を上げられずに損をする</u>ものなので、野放しにして損害が広がらないよう法律による規制の対象にもなっています。<br /><br />他方で、どんなに高額な物を売っても、人を組織に勧誘しなければ、階層組織を形成するというマルチの手法ではありませんから、仮にそれが悪質な売り方だったとしても「マルチ以外の悪質商法」ということになります。 <br /><br /><br />「物を売っても人を勧誘しなければマルチじゃない」として、では逆に、「人を連鎖的に勧誘するけど物は売らない」という場合はどうなるか。<br /><br /><br />マルチ商法は、自己の利益のために他の会員を勧誘して組織を拡大すること(その結果、階層組織になること)が本質ですから、その際に金を受け取る名目として、直接物を売るかどうかはそれほど重要ではありません。<br /><br />ところが、法律がある行為を規制するにあたっては、一定の要件を基準にマルチ商法を定義してそれを規制します。<br />そのため、定義の仕方によって、概念的にマルチ商法に含まれる取引形態と、法が規制対象として定義する取引形態の間に間隙ができてしまいます。<br /><br /><br />かつての訪問販売法(特定商取引法の旧称)の規定では、「人を加入させればお金がもらえる」という誘い文句で「物品を再販売する」という形態のみを法律上のマルチ商法(連鎖販売取引)と定義していました。<br /><br />そうすると、「物品」の再販売じゃなければ定義から外れるので、勧誘相手に「サービスを提供」してその対価を得る形であれば法的にはマルチ商法には該当しない。<br />あるいは、物品の「再販売」じゃなければこれも定義から外れるので、勧誘相手に直接物を転売するのではなく、委託販売やら販売のあっせんという形にして、相手には「本部から物を売る」システムであれば、これも法的にはマルチ商法には該当しなくなります。<br /><br />構造としては明白にマルチ的なもの(したがって、マルチ商法と全く同じ危険性を有する取引)であっても、法律上のマルチ商法(連鎖販売取引)の定義には当てはまらない。<br />こういうものは、「マルチまがい商法」と呼ばれていました。<br /><br /><br />しかし、昭和63年法改正により、連鎖販売取引の定義が拡張され、上記のようなサービスの提供であったり、委託販売型や紹介販売型のマルチ的なものも全て連鎖販売取引の定義に加えられました。<br /><br />現行法の連鎖販売取引の定義はかなり広いので、これにより、<u>かつては規制から逃れて「マルチまがい商法」と呼ばれていたものは、現行法では全て「連鎖販売取引(マルチ商法)」の定義に当てはまる</u>ようになっています。<br /><br /><br /><br />すなわち、「マルチまがい商法」というのは、現行法では全てマルチ商法なのです。<br /><br /><br /><br />現行法の定義では、「マルチまがいだけどマルチではない」ものが存在する余地はあまり想定できません。<br />そうすると、<u>現在「マルチまがい」だと批判されるものがあるとすれば、実際のところは、「マルチっぽいどころかマルチそのもの」という場合か、「手法が全くマルチ的でない」のどちらか</u>だということになります。<br /><br />例えば、「ネットワークビジネス」というのも、マルチ「まがい」ではなく、呼び方を変えているだけで結局は連鎖販売取引(マルチ商法)そのものです。<br /></p><p>仮に、「ネットワークビジネス」と称しているにもかかわらず、人を連鎖的に勧誘することが想定されていないものがあるとすれば、それは確かにマルチ商法ではありませんが、同時に、本来の意味のネットワークビジネスでもない「何か」です(マルチと違って安全な取引か、あるいはマルチ以上に危険な何かかもしれない)。<br /><br /><br />ところで、物を売るかどうかは本質的ではないといいましたが、その究極として、勧誘時に物を売らないどころか、サービスも提供しない、委託販売も販売のあっせんもしないという場合はどうでしょう。<br /><br />他人を「あなたも他の人を勧誘すれば金を貰えますよ」といって勧誘して金を受け取る。<br />これを連鎖的に繰り返せば、物品もサービスも介さず、金のやり取りだけでも階層組織ができあがります。<br /><br /><br />これがいわゆる「ねずみ講」です。<br /><br /><br />ねずみ講は、法律用語としては無限連鎖講といいます。<br /><br /><br />文字通り無限に連鎖することができれば、理屈上は皆が儲かるのですが、当然ながら人間の数は有限ですからその想定は絶対に成立しえない。<br />そうすると、<u>無限連鎖講というのは、破綻することが確実なシステム</u>です。<br />つまり、階層組織の上層にいるごく一部の人間以外の全員が絶対に損をします。<br /><br /><br />ここまでくると、連鎖販売取引のように「特定商取引法のルールを守っている限り合法」とかいってる場合ではありません。<br /><br />一般のマルチ商法は、「ルールを守らない勧誘が行われた場合に違法になる」のですが、ねずみ講は、特定商取引法とは別の法律で、それ自体が違法とされています(最高で懲役3年です)。<br /><br />マルチ商法といわれる取引の中にも、実質的には物品の売買やサービスの提供が行われず、単に金銭が移動していくだけのものについては、連鎖販売取引どころか、無限連鎖講に該当することがあります。<br /><br /><br />ねずみ講は絶対に儲かりませんから、手を出さないようにしましょう。<br /></p><p></p><p></p><p></p><p></p>世の中そんなにうまい話はありませんから。<br /><p><br />では、今日はこのへんで。</p>岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-12698564416594949632021-01-14T12:47:00.001+09:002021-01-15T01:29:00.495+09:00キングコング西野さんはマルチ商法はしていないという話<p>司法書士の岡川です。<br /><br />お笑い芸人キングコングの西野亮廣さんという方がおられるんですけどね。<br /><br />今は絵本作家やったり、オンラインサロンやったり、最近では、自身の絵本を映画化した「映画えんとつ町のプペル」という作品が話題を呼んでいたりしますね。<br /><br />私自身は、絵本は買ってないし映画も見てないし、もちろんオンラインサロンにも入っていませんが、何か色々頑張っている人(のうちの1人)という認識ではあるので、ぼんやりと外野から眺めているところです。<br /><br /><br />まあとにかく多方面で活躍されているので詳しくはWikipediaでも読んでもらったらいいと思うんですが、今日はその西野さん(あるいは、その周辺)で起こっている「マルチ商法」疑惑?批判?について、ツイッター等で話題になっていたので触れてみようと思います。<br /><br /><br />西野さんは、オンラインサロンという、有料会員を集めて仲間内で色んな事をやっているようです。<br />サロンメンバーは、基本的に西野さんのビジネス論やら思想やら生き様やら、まあ何かしらに興味なり関心をもって集まっている方々です。<br /><br />傍から見たら、西野さんを崇拝している集団のように見えるらしく、宗教だとか詐欺師だとか批判(揶揄?中傷?)されることもあるようですが、個人的に「なんか皆さん楽しそうに頑張ってるなぁ」くらいにしか思っておりませんので、西野さんの活動全体に対する評価はとりあえず置いときましょう。<br /><br /><br /><br />で、今回の話題なんですけど、そのサロンメンバーに、「えんとつ町のプペルの映画チケットと台本をセットで買い取ったうえで自由な価格設定で販売する権利」を売ってたみたいなんですよね。<br />サロンメンバーは1セット約3,000円で購入し、あとはそれを3,500円で売っても4,000円で売ってもよい。<br />その差額がサロンメンバーの利益(小遣い)になるという仕組みだそうです。<br /><br /><br />まあ、3,000円とか30,000円とかを身内でワイワイ楽しく売り捌いている分には良かったんでしょうけど、その中から<br /><br /><br />「無職が失業保険使ってチケット台本を80セット(約24万)買った」<br /><br /><br />(で、結局売れなかった)<br /><br /><br />とかいう、まあまあインパクトのある話題が表に出てきちゃった(実際には、何か月も前の話なのですが、誰かが見つけて表面化したのが最近のようです)もんだから、おいコラ西野それはマルチ商法やろ…という批判がネット上で噴出。<br />「会員に儲け話をして(再販のための)物を売りつける」…これがマルチ商法の手法だということでプチ炎上中なわけです。<br /><br /><br /><br />でも待ってほしい。<br /><br /><br /><br />西野さんはマルチ商法はしてないから!<br /><br /><br /><br />あー…これまあ別に西野さんを擁護してるとかそういうことではなく、もっといえばこのビジネス(?)が良いとか悪いとかも含意しない、純粋に「これはマルチ商法じゃない」という、それ以上でもそれ以下でもない話ではあるんですが。<br /><br /><br /><br />どういうことかというとですね。<br /><br />「マルチ商法」ってのは別に、怪しげなビジネスやら悪徳商法の総称ではありません。<br />そもそも悪徳かどうかも問わず(悪質な場合が多いですが、マルチ商法自体は一応合法です)、一定の手法の商法を意味する言葉です。<br /><br />あくまでも、「マルチ」の仕組みの商法をマルチ商法というのです。<br /><br /><br />じゃあ「マルチ」って何かというと、「multi-level」のマルチです。<br />日本語にすると「多層」とか「重層」とかいう意味ですね。<br /><br />法的には「連鎖販売取引」や、あるいはもっと露骨に違法な「無限連鎖講」がこれに該当します。<br />無限連鎖講というのは、平たく言えば「ねずみ講」です。<br /><br />これでいうと、「連鎖」が「マルチ」に相当する日本語です。<br /><br /><br />では、何が「多層」やら「連鎖」なのかというと、その組織の会員(加入者や販売者)です。<br /><br />マルチ商法は、AさんがBさんを勧誘し、BさんがCさんを勧誘し、CさんはDさんを勧誘する…というふうに、連鎖的に販売員を増やしていくものを指します。<br />このとき、CさんがDさんを加入させて利益を得れば、その利益の一部を、Cさんを勧誘したBさんも得ることができ、さらにBさんの利益の一部を、Bさんを勧誘したAさんも得ることができる、というふうに、上位の階層の人が下位の階層の人の売上に応じて利益を得る仕組みです。<br /><br /><br />要するに、「誰か他の人を会員に引き込めば、その人の利益の一部があなたのものになる」として物を売りつける(と同時に相手を会員とする)販売手法をマルチ商法といいます。<br /><br />「物」を売るのではなく、「物を売る人」を連鎖販売組織内に引き込むことにより利益を出すということがマルチの本質的特徴です。<br /><br />この構造では、自分よりさらに下層で「物を売る人」を大量に増やさなければ利益が出ない(その下層の人も、さらに自分より下層の販売者を増やさなければならない)ばかりか、そう簡単に自分より下層の会員を増やすことはできませんから、現実的には利益を出すことが極めて困難です。<br />なので悪質商法になり易く、法律で規制されているわけです。<br /><br /><br /><br />特定商取引法で規定された法律用語としての連鎖販売取引は、もう少し厳密に定義されるのですが、いずれにせよポイントは、単に「会員に再販用の物を売る」というだけでマルチ商法になるわけではないということです。<br /><br /><br />単に再販目的で物品を売っただけでマルチ商法になるなら、卸売業者は全員マルチ商法をやってることになってしまいます。<br />しかし、卸売業者から品物を購入した小売業者は、単にその品物をお客に転売してその差益で儲けているわけで、別に客を連鎖販売組織の会員に勧誘するわけじゃないですから、これはマルチの仕組みではないわけです。<br /><br /><br />特定商取引法でも、最終消費者に再販することを目的として、その者(再販する人)に物を売る行為は、連鎖販売取引には該当しません。<br /><br /><br /><br />さて、映画チケットの件ですが、運営側は、再販用として会員にチケットを販売しています。<br />ここで会員がチケットを販売(再販)する先は、最終消費者(映画を見に行きたい人)が想定されているようです。<br /><br />例えば「会員が『誰か』をオンラインサロンの会員に勧誘してチケットを再販し、その『誰か』が『さらに他の誰か』にチケットをさらに転売して利益を出せば、その売上の一部が売った会員に還流してくる」という仕組みであれば、これはマルチ商法ですが、そういうわけではなさそうです。<br /><br /><br />となると、ここに「マルチ」要素が全くなく、ただ「全部売り切るのが難しい量の商品を、会員に売っただけ」という「マルチ商法以外の何か」です。<br />チケットを売りきれば純粋に差益で儲かるし、売れなければ在庫抱えて損をするという単純な話なわけです。<br /><br />まあ強いて言えば、近いのは「代理店商法」あたりかな、と思ったりしますが、典型的な代理店商法(代理店登録料を吸い取られる仕組み)とも異なります。<br />そう考えると、本当に一番近いのは、「タピオカブームに乗っかって、販売ルートも確保せずに転売目的で大量にタピオカを購入した人が在庫抱えてる」というような話なのかなと。<br /></p><p></p><p><br /> </p><p> </p><p>てなわけで繰り返しますが、西野さんは<b><u>「マルチ商法は」</u></b>してない!<br /><br /><br /><br /><br /><br />でまあ、先に述べたとおり、この記事は「マルチ商法じゃない」という、ただそれを言いたかっただけなので、じゃあこのビジネス手法が良いのか悪いのかというところまで論評するものではありません。<br />サロン内でどういう勧誘が行われたのかも知りませんし。<br /><br />もしかしたら、「マルチ商法なんて生ぬるいものではなく、もっと悪質な何かだ!」という話かもしれないし、「新しい収益モデルを作ってスゲー」って話かもしれない。<br /></p><p>そこは今のところ中立です。<br /><br />いずれにせよ、短絡的に「何か怪しい。これはマルチだ!」と批判するのではなく、何がどう問題なのかを冷静に分析する姿勢が大切です。<br />「悪質商法=マルチ商法」というような考えをしていると、逆にマルチっぽさが全くないスキームを紹介されたときに、「マルチじゃない」というだけで、別の悪質商法に引っかかる危険もありますから注意しましょう。<br /><br />あと本件の教訓として、そもそも、自分自身に独自の販売ルートも人脈も特殊な能力もないなら、安易に奇抜なビジネスで儲けようとは思わないことです。<br /><br /><br />では、今日はこの辺で。</p>岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-18726928601921588302021-01-05T03:25:00.003+09:002021-01-05T03:25:35.185+09:00新年の挨拶と、生活に困った方へメッセージ<p> 司法書士の岡川です。</p><p><br /></p><p>あけましておめでとうございます。</p><p><br /></p><p>昨年は、新型コロナウイルス感染症により、ほんとうに何もできない1年でしたが、他方で、世の中の構造や人々の行動様式がガラッと変わった激動の1年でもありました。</p><p>特に、IT化、デジタル化、オンライン化という面では、必要に迫られたせいもあり、一気に加速したように思います。</p><p><br /></p><p>今年もコロナの影響はまだしばらく続きそうですが、皆で協力しあって困難を乗り越えていきましょう。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>さて、新型コロナの影響は深刻で、関東のほうではまた緊急事態宣言が出るような報道もあります。</p><p>今となっては、緊急事態宣言自体にどれほどの効果があるのか疑問がないでもないですが、短期的には経済に悪影響を及ぼすことは否定できません。</p><p>既にギリギリの生活を強いられている方々にとっては、致命傷を与えることになるかもしれません。</p><p><br /></p><p>昨年から続くコロナ禍により経済的に大変な思いをされている方は、決してひとりで悩まないでください。</p><p>ぜひ、お近くの司法書士・弁護士・司法書士会・弁護士会・法テラス等に気軽にご相談ください。</p><p>我々法律家は、日々、様々な生活の困りごとについて相談を受け、支援をしています。</p><p>何かお手伝いできることがあるかもしれません。</p><p><br /></p><p>借金の返済やクレジットカードの支払いが困難になった場合も、間違っても、闇金から金を借りたり、ネット上で「借金じゃない」「ブラックリストに乗っていても大丈夫」「〇〇するだけですぐに現金が受け取れる」と宣伝する怪しげな業者(これらは、実質的には年利換算で何百%という違法な高金利の闇金です)からお金を受け取ったりしないようにしましょう。</p><p>そのようなところから金を借りる前に、まずご相談ください。</p><p><br /></p><p>司法書士や弁護士だとハードルが高いというのであれば、市役所でも相談窓口があります。</p><p><br /></p><p>例えば高槻市ですと、生活に関する様々な困りごとの総合的な相談窓口として、「<a href="http://www.city.takatsuki.osaka.jp/kakuka/kenkouf/fukushiso/gyomuannai/1407974784614.html" target="_blank">くらしごとセンター</a>」があります。</p><p>こういうところにまず相談するのも一つの手です。</p><p><br /></p><p>また、当事務所では、借金が返せなくなった場合の債務整理も扱っています。</p><p><br /></p><p><a href="https://okagawa-office.com/contact.html" target="_blank">岡川総合法務事務所お問い合わせ</a></p><p><br /></p><p>高槻市やその周辺の市で借金問題でお困りの方は、上記の問い合わせフォームからお問い合わせください。</p><p><br /></p><p>では、今日はこの辺で。</p>岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-91341349323558210802020-12-21T02:31:00.003+09:002021-02-01T00:14:24.292+09:00遺産分割協議書における「その他の財産」の扱い<p>司法書士の岡川です。 </p><p><br /></p><p><a href="https://okagawa-office.blogspot.com/2020/12/blog-post_11.html" target="_blank">前回の記事</a>と同様、「幻冬舎ゴールドオンライン」の記事からご紹介。</p><p><br /></p><p>今回は、記事の内容自体が法的に間違っているわけではないのですが、内容が一面的で鵜呑みにすると危険なものです。</p><p><br /></p><p><a href="https://gentosha-go.com/articles/-/29694" rel="nofollow" target="_blank">なんで書いたかな…遺産分割協議書の「余計すぎた一言」で大損</a></p><blockquote><p></p></blockquote><p><br /></p><p></p><blockquote>遺産分割協議書を作成する際、わざわざ「これ以外の財産に関しては、Xが相続することとする」などという余計な一文を書く人がいますが、その必要はありません。その後財産が見つかったときに、その一文があるせいで、相続税をたくさん払うはめになることがあるからです。</blockquote><p></p><p><br /></p><p><br /></p><p>適当なことを書かないでいただきたい…。</p><p><br /></p><p>この一文は、「余計な一言」で片づけられる条項ではありませんし、一概に「その必要はありません」と断言できるようなものでもありません。</p><p>多くの場合、必要があるから書かれているのです。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>確かに、記事で書かれているとおり、相続税の観点からすれば、この一文があることで節税ができなくなる場面というのは存在します(実際の事例としてどれほどの頻度で発生するのかは疑問ですが)。</p><p>そして、税金のことは相続人にとって大きな関心事ですし、税理士としての専門性が発揮されるのも税金の話です。</p><p><br /></p><p>しかし、そもそも遺産分割の最終目的は遺産共有状態を解消して遺産を相続人に承継させることです。</p><p>税金のことだけ考えておけば良いのではありません。</p><p>むしろ、相続税がかかるのは全体の数パーセントだけですから、大部分の相続においては、税金以外の問題のほうが大きいのです。</p><p>節税の点で問題となりうる一場面のみをもって、上記のような一文につき一般論として「余計な一言」「その必要はありません」と切り捨てているのは、税金のことしか考えていない解説だといえます。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>さて、遺産分割協議書における、「その他の財産は○○が取得する」という一文がなぜ書かれているかというと、相続手続きをしている際や、将来的に、「当事者が把握していなかった財産が見つかった場合」に遺産分割協議のやりなおしを回避できるというメリットがあるからです。</p><p><br /></p><p>原則論でいえば、想定外の財産が出てきたときには改めて分配方法を協議するのが筋ですし、相続税がかかるような相続であれば、改めて税金がかからないように分割するのが良いこともあり得ます。</p><p>しかし、多くの場合は、わざわざ改めて協議をする実益がないのが実情です。</p><p><br /></p><p>というのも、一般的にありうる「その他の財産」としては、例えば、預貯金の相続手続をしているときに出てきた「被相続人が昔使っていて放置していた口座に数円の預金」とか、相続の何年も後に見つかった「固定資産税が課されていないような被相続人の名義の土地(例えば道路部分)や建物」とか、遺品を整理していたら引き出しから出てきた記念硬貨とかプリペイドカードとか、そんなんです。</p><p><br /></p><p>基本的に、相続税どころか相続人間の相続割合の大勢に影響を与えないような財産(したがって、しばしば相続財産の調査から漏れてしまうことがある)です。</p><p><br /></p><p>「数円だけの預金通帳」なんかは、場合によっては相続手続をせずに放置すればよいかもしれません(可能であれば)。</p><p>しかし、例えば不動産に関していえば、それ単体では価値のない物件(広い土地の一角の小さな土地とか)であっても、本体の不動産を売却する際には絶対に自己名義にしなければならないようなこともあり得ます。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>そして、こういう「他の相続人も別に欲しくもない」ような財産のために遺産分割協議をやり直すことが困難な場合も多いのです。</p><p>長い時間をかけてようやく遺産分割協議が成立した場合もあるでしょうし、何年も後に見つかったら、他の相続人に数次相続が発生している可能性もあります。</p><p>ここからの遺産分割協議のやり直しは、多大な時間と費用がかかることも少なくありません。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>そういうリスクを回避するための方策が、「その他の財産は○○が取得する」という条項です。</p><p>この一文を入れておけば、遺産分割協議書の記載から漏れてしまった財産について、いちいち「遺産分割協議のやり直しリスク」を回避できます。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>すなわち、遺産分割協議の段階で具体的に判明していない「その他の財産」に関して遺産分割協議書の中でどう取り扱うかというのは、上記のような「些細な財産が出てきた場合の遺産分割協議やり直しのリスク」と「高額の財産が出てきた場合に相続税の節税ができない(あるいは、相続人間の不平等が生じる)リスク」のどちらをとるか、という問題なのです。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>資産家の相続で、かつ、不明な財産が多い場合など、後者のリスクを回避すべき場面もあり得ます。</p><p>その場合は「その他の財産については、別途協議する」というような条項にすることも考えられます。</p><p><br /></p><p>しかし、現実的には、多くの場合は前者のリスクが問題となります(実際に、この条項で助かる場合は結構多いのです)。</p><p><br /></p><p>というわけで、</p><p><br /></p><p><br /></p><p>「余計な一文を書く人がいますが、その必要はありません。」</p><p><br /></p><p><br /></p><p>この解説を鵜呑みにすると危険なことがおわかりいただけたでしょうか。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>では、今日はこの辺で。</p>岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-79689791905729600242020-12-11T01:13:00.005+09:002021-02-01T00:14:44.623+09:00生前の相続放棄?<p> 司法書士の岡川です。</p><p>こんな記事を見つけました。</p><p><a href="https://gentosha-go.com/articles/-/30634" rel="nofollow" target="_blank">「嘘だったの…」ドケチ親父死去。後妻の要求で知った衝撃金額</a></p><blockquote><p></p></blockquote><p><br /></p><p>やたらと長い(上に内容が間違っている)ので全部は読まなくても良いと思いますが、要旨は、税理士が経験した「死亡した男の実子と後妻との間の相続トラブル」というよくある話です。</p><p><br /></p><p>ある人(被相続人)が配偶者と離婚や死別した後に再婚すれば、当然、その再婚相手は被相続人の法定相続人となります。</p><p>そして、被相続人に(前の配偶者との間で)子がいれば、その子らも法定相続人です。</p><p>このとき、被相続人が死亡したら、「被相続人の子」と「被相続人の再婚相手」が共同相続人として遺産分割協議をしなければなりません。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>しかも、比較的若いときに再婚した場合のように、必ずしも再婚相手と夫婦関係(あるいは事実婚状態)がそれなりの期間続いているとは限りません。</p><p><br /></p><p>再婚相手の相続分は婚姻期間とは無関係ですから、被相続人が死ぬ直前に出会った相手と再婚した場合など、数か月程度の婚姻関係であっても、遺産の半分がその再婚相手のものになります。</p><p><br /></p><p>相続関係をきちんと理解したうえで、確たる意思を持って行動しなければ、これは本当にトラブルのもとです。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>という前提知識をふまえて、上記の記事では、まさにそういう状況になります。</p><p>(「レスラーさん」というのが被相続人)</p><p><br /></p><p><br /></p><p></p><blockquote><p>私はすぐにレスラーさんに電話をかけた。「おお、先生。久しぶりだね」レスラーさんは元気にそう答えた。挨拶もそこそこに、私は早速再婚の件について聞いた。 </p><p><br /></p><p>「早耳だなあ、先生。相続のことが気になって電話してきたんだろう? その点は大丈夫だよ」「大丈夫というと?」「新しいカミさんには相続を放棄してもらったんだよ。たまたま相続を専門でやっている弁護士さんがいたので、その書類も作った。だから問題ない」レスラーさんはそう言った。</p><p><br /></p><p>(中略)</p><p><br /></p><p>子どもたちともめてしまう可能性を未然に防ぐため、再婚相手に相続を放棄してもらったというわけだ。</p></blockquote><p></p><p><br /></p><p><br /></p><p>んん?</p><p><br /></p><p>日本の法律では、生前に相続を放棄する方法は存在しません。</p><p>したがって、いくら「相続を専門でやっている弁護士」といえども、「生前に相続を放棄してもらう書類」など作成しようがない。</p><p>そんなもの作成しても法的な効力はありません(せいぜい紳士協定程度の意味しか持ちません)。</p><p><br /></p><p>本当に後妻に相続させないようにするには、遺言書を作成するしかありません(それでも遺留分の問題がありますが)。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>この時点で、「レスラーさん」が嘘をついているか、何か完全に勘違いをしていることが分かります。</p><p>しかし、この税理士はそこに全く疑問を持つことなくスルーしたようです。</p><p><br /></p><p>続く文中で、書類の不備を確認しようとしたらしいことが書かれていますが、不備とかそういう問題ではありません。</p><p>そもそも生前に相続放棄をしたということ自体があり得ないのです。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>さて、「レスラーさん」が死亡し、案の定、相続問題で「レスラーさん」の子らと後妻が揉めたようです。</p><p><br /></p><p>だが、その揉め方がおかしい。</p><p><br /></p><p><br /></p><p><br /></p><p></p><blockquote><p>「わかった。すぐに調べてみる」私はそう言って電話を切り、弁護士に電話をかけた。相続放棄がどうなっているか確認しなければならなかった。</p><p><br /></p><p>「ああ、レスラーさんの件ね。相続放棄の契約があるんですが、あれはダメ。通らないんですよ」「通らない。つまり無効ということですか?」「ええ。事前に契約を交わしているのですが、相続財産の額に嘘があったんです。実際の相続財産の額が本人の申告とかけ離れているんです」</p><p><br /></p><p>弁護士によると、再婚相手と相続放棄の契約をしたときにレスラーさんは全財産が1000万円ほどだと言ったようだ。しかし、預貯金、土地、建物を合算してみると、実際には約5000万円の財産があった。</p><p><br /></p><p>(中略)</p><p><br /></p><p>「全財産が2000万円くらいだったなら夫人も文句なかったんでしょうけど、申告の額の5倍ですからね。これはダメでしょう」弁護士が言う。「そうですね」私はそう返し、電話を切った。</p></blockquote><p></p><p><br /></p><p>いやいやいや。</p><p><br /></p><p>生前に相続放棄契約をしても効力はありませんから、この場合、相続財産の額に嘘があったかどうかは関係ありません。</p><p>仮に、本当に1000万円しかなかったとしても、その相続放棄契約なるものは当然に無効です。</p><p><br /></p><p>だから弁護士がそのような話をするわけがありません。</p><p><br /></p><p><br /></p><p><br /></p><p>というわけで、この記事は、論点が無茶苦茶ということが分かります。</p><p>弁護士が生前に相続放棄契約を作成することはないし、契約前に後妻に伝えた財産額に虚偽があったことが問題なわけじゃないからです。</p><p><br /></p><p>これでは何の教訓にもなりません。</p><p><br /></p><p>「いずれにしても、契約ごとの間違いや?は、契約そのものを白紙にする可能性を持つ。そのせいでトラブルが起きたり、大きくなったりするのだ。」とありますが、本件の問題点はそこではありません。</p><p>生前に相続放棄をしたという話を信じたことが間違いなのです。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>記事中にも書かれていますが、この件でトラブルを避ける唯一の方法は、遺言書を作成することしかありません。</p><p>もっとも、仮に遺言書を作成したところで、後妻の遺留分を侵害することはできませんから、遺留分相当額(この場合遺産の1/4)は後妻のものとなります。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>なお、生前に、配偶者の遺留分も排除する方法として、生前に遺留分を放棄するという方法はあります。</p><p>ただし生前の遺留分放棄は、家庭裁判所に申立てをして家庭裁判所が許可しなければ効力が生じません。</p><p>申立てをするだけで良いというものではなく、遺留分に相当する財産を生前に受け取っているなど、予め遺留分放棄をする合理的な理由がなければ、家庭裁判所も許可しません。</p><p><br /></p><p>結局、何らかの財産が後妻にいくことは避けられないということです。</p><p><br /></p><p><br /></p><p><br /></p><p>このように、結婚は自由ですが、結婚により相続関係は確実に複雑化します。</p><p>生前に一筆書いておけば済む話でもありません。</p><p><br /></p><p>親子関係が良好で「遺産は子に残したい」と考える人もいるでしょうし、あるいは逆に、親子関係が悪くて「遺産は子に残したくない」と考える人もいると思います。</p><p><br /></p><p>どっちにしても、きちんと専門家に相談して対策をしましょう。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>では、今日はこの辺で。</p>岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-77302582317488432372020-12-03T20:20:00.004+09:002020-12-03T20:20:56.911+09:00最近の様子でも語ってみる<p>司法書士の岡川です。<br /><br />めっちゃ久しぶりの更新ですね。<br /><br />新型コロナウイルスの流行は、第3波といわれていますが、第1波や第2波と違って、今回の第3波では、実際に身近なところでも具体的な影響が出てきています。<br />皆さんいかがお過ごしでしょうか。<br /><br /><br />今日は本当にただの雑記です。<br /><br /><br />さて、かくいう私がいかがお過ごしだったかという話ですが、このブログも何と3か月近いブランクが空きました。<br />もともと更新頻度が月1レベルに落ちていたこともあるのですが、特に最近はじっくりネタを考える時間が取れなかったからです。<br /></p><p></p><p></p><p></p><p></p>このブログ、ネタを思いついたらある程度は頭の中の知識で書くんですけど、一応裏取りしたり、細かい情報を調べたりしてから投稿しています。<br /><p>最近は、そういうことをやる時間がなかったのです。<br /></p><p></p><p><br />実は、途中まで書いたネタってのも色々あったんですけど、長くなりすぎて途中で放置しているうちに旬が過ぎたりとか、逆に深みにはまりすぎて全部消したりとかを繰り返しているうちに、結局何も投稿してないというね。<br /><br /><br />スランプに陥ってる作家か!?<br /><br /><br />とはいえ、今年はコロナの影響で、ものすごく時間が有効活用されているという点はあるのですよ。<br />何といっても、会務がほぼ全面的にリモート(WEB会議)になっているのが大きい。<br />事務所から司法書士会館の往復の移動だけでも1時間半以上かかるのですが、今はこの移動時間が無い。<br /><br />会議で週に何回もこの往復をしていたことを考えると、仕事に回せる時間が大幅にアップしています。<br />災い転じて何とやら、今年は一気にIT化、オンライン化が進み、業務の効率化が図られたんじゃないでしょうか。<br /><br /><br />それなのに、時間が空けばその分何かしらで時間が埋まって結局暇にはならない…というのは何なんですかね、これ。<br />宇宙の摂理ですかね。</p><p><br /></p><p></p><p>ちなみに、そうはいっても色々情報を仕入れたりとかいうのは日常的にやってるんです(アウトプットできないことが多いですが)。<br />例えば、最近は電子署名の話とかがホットな話題だから、その辺の知識を入れときたいなーとか思い、『暗号技術入門』(SBクリエイティブ)とかいう本を読んだりしています。</p><p>これ、ガチで暗号技術に関する本なので技術的な説明部分は全くついていけません。</p><p>でも入門書なので一応読めますし、それなりに面白いです。実際に役に立つことは無さそうですが。 <br /></p><p> <br /><br />そんなわけで、そろそろ「このブログは3か月更新されていません」的なメッセージが出たりするんじゃないかとか思ったりしたので、こういう雑談を挟んでおこうかと思い立ったわけです。<br /><br /><br /><br />このブログのコンセプトは、「知って得する情報や別にそうでもない情報」をお届けするというものですが、今日は完全に後者に振り切った、「岡川の最近の様子」という、マジで誰も得しない情報をお送りしました。<br /><br /><br />では、今日はこの辺で。</p>岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-65583046160859013562020-09-13T00:01:00.004+09:002020-09-13T00:01:35.645+09:00 「事務管理」について(後編)<p>司法書士の岡川です。</p><p><br /></p><p><a href="https://okagawa-office.blogspot.com/2020/08/blog-post.html" target="_blank">前回</a>の続きで、今日も事務管理の話。</p><p><br /></p><p>民法上の「事務管理」が成立するとどうなるか、というところから再開です。</p><p><br /></p><p>事務管理が成立する場合、まず、違法性が阻却されます。</p><p><br /></p><p>これは民法に明文では書かれていませんが、例えば、他人の家の窓を修理するのに勝手に敷地に入ったり枠を外したりする行為は、形式的に見れば不法行為を構成するわけですが、民法が事務管理を正当なものとして規定している以上、この場合に不法行為は成立しないと解されています。</p><p><br /></p><p>その他、管理者に権利と義務が発生します。</p><p>権利は、費用の償還請求権です。</p><p>契約で定めた場合と違って報酬を請求することはできませんが、予め「かかった費用は本人が負担する」と約束しなくても、当然に本人に請求できます。</p><p><br /></p><p>他方で、義務として、「管理継続義務(管理を開始したときは、本人等が管理をすることができるようになるまで管理を継続しないといけないという義務)」「善管注意義務」「管理開始通知義務(遅滞なく本人に通知しないといけないという義務)」「計算義務(管理状況の報告や受け取った物の引渡し等の義務)」など、委任契約と同じような義務が発生します。</p><p><br /></p><p>完全に好意で始めたとしても、始めたなら最後まできっちりやらなければならないのです。</p><p>「別に頼まれてないし」とか「報酬もらってないし」とかいう言い訳は通用しません。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>ここまでが通常の「事務管理」の効果なのですが、事務管理には、さらに特殊なケースを想定した「緊急事務管理」というものがあります。</p><p><br /></p><p>緊急事務管理とは、「本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたとき」をいいます。</p><p><br /></p><p>例えば、行き倒れの人を救助するために、衣服を切るとか、車にひかれそうになった子供を突き飛ばして助けるとか、そういうことです。</p><p>ますます「事務」の語感からは外れていますが、これらも事務管理になります。</p><p><br /></p><p>このような緊急事務管理では、「悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。」とされています。</p><p><br /></p><p>「隣の人が海外旅行中に台風が直撃してその人の家の窓ガラスが割れていたので、修理した」という教科書事例に遭遇することは、あまりないでしょうが、「特に義務のないけど他人のために何かをやる」ということは珍しくはないでしょう。</p><p>その場合に費用を払ってもらいたいということもありえます。</p><p><br /></p><p>もしかしたら、その根拠は「事務管理」かもしれません。</p><p><br /></p><p>では、今日はこの辺で。</p>岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-35560318969728710592020-08-31T23:59:00.001+09:002020-08-31T23:59:38.666+09:00「事務管理」について(前編)<p> 司法書士の岡川です。</p><p><br /></p><p>今日は、文字通りの意味のようでそうでもない法律用語、「事務管理」を取り上げたいと思います。</p><p><br /></p><p>「字面のイメージと実際の意味がかけ離れている法律用語ランキング」を作ればおそらくトップ3に入るであろう「事務管理」ですが、法律用語としての「事務管理」は、単に「事務を管理すること」のような意味ではありません。</p><p><br /></p><p>民法には、次のような規定があります。</p><p><br /></p><blockquote><p>民法697条 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。</p></blockquote><p><br /></p><p>つまり、法律用語としての「事務管理」とは、「法律上の義務なくして、他人のために、その事務を処理する行為」をいいます。</p><p><br /></p><p>単なる「事務の管理」よりも色々と条件が付いていますが、このような限定的な意味でしか「事務管理」という言葉は使われません。</p><p><br /></p><p>イメージがわかないかもしれませんが、例えば、「隣の人が留守中に電話料金の集金が来てたので、代わりに立替払いした」とか「隣の人が海外旅行中に台風が直撃してその人の家の窓ガラスが割れていたので、修理した」とか、そういう行為をいいます。</p><p><br /></p><p>典型例として挙げられているこれらの事例が適切かはさておき(私も大学生時代に事務管理の概念を知ったのですが、「隣の家の窓ガラスを修理って…そんなヤツおらんやろ」と思ったものです)、とにかく、委任契約とか請負契約のように、<u>何かを頼まれてやるのではなく、事情があって「頼まれてないのにする」という場合</u>、事務管理が問題となります。</p><p><br /></p><p>本来、自分のことは自分でするというのが原則であり、勝手に他人が口を出したり手を出したりすることは想定されていない(義務はない)し、それどころか場合によっては違法になることもあります。</p><p><br /></p><p>しかし、事情によっては、義務はないけど他人が代わりに手を出すことが必要な場合があります。</p><p>その場合に、好意でやってあげたことで不法行為が成立し、損害賠償を請求されたりしたらたまったものではありません。</p><p><br /></p><p>そんな世知辛い世の中にならないよう、相互扶助の精神が活かされる制度が民法の中に置かれたわけです。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>では、もう少し詳しく事務管理の要件と効果についてみていきます。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>まず、当然の要件なのですが、「法律上の義務がないこと」。</p><p>法律上の義務があるということは、例えば委任契約があったり、後見人であったり、その義務が発生する何らかの法律関係があるはずです。</p><p>よって、その場合は、その法律関係に基づいて事務処理を行うべきであって、事務管理の問題にはなりません。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>次に「他人の事務の管理」です。</p><p><br /></p><p>「事務」というと、デスクワーク的な何かをイメージしがちですが、実際はかなり広い概念でして、「人の生活上の利益に影響を及ぼす一切の仕事」というように定義されます。</p><p>お金を払う、屋根を修理する、ご飯をあげる等々、法律行為だろうが事実行為だろうが事務管理における「事務」になりえます。</p><p><br /></p><p>そして、もちろん「他人の」事務の管理ですので、自分の家の修理をすることは事務管理ではありません。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>また、「他人のため」とあるとおり、他人のためにする意思をもってしなければなりません。</p><p>他人のためにすることが、同時に自分のためにもなるというのは別に構わまいのですが、専ら自分のためにする場合は、事務管理が成立しません。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>加えて、「他人の意思ないし利益に反することが明らかでないこと」というのも要件です。</p><p>事務管理を始めると、管理を継続する義務がありますが、「事務管理の継続が本人の意思に反し、又は本人に不利であることが明らかであるとき」はこの義務を免れます。</p><p>そういう場合にまで、事務管理を成立させる意味がないことになります。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>さて、これらの要件を満たせば、法律上の「事務管理」が成立します。</p><p>事務管理が成立するとどうなるかというと…</p><p><br /></p><p><br /></p><p>ちょっと長くなったので続きは次回ということにします。</p><p><br /></p><p><br /></p><p>では、今日はこの辺で。</p>岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-26062305377333253412020-07-31T01:23:00.003+09:002020-07-31T01:23:41.137+09:00給与ファクタリングは何がどう違法か司法書士の岡川です。<br />
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給与ファクタリング(給料ファクタリング)業者が大阪府警に初摘発されたというニュースがありました。<br />
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<a href="https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62041440Z20C20A7AC8Z00/" target="_blank">「給料ファクタリング」初摘発 業者の男女4人逮捕</a>(日本経済新聞)<br />
<br />
<blockquote class="tr_bq">
「給料を支給日前に受け取れる」などとうたい無登録で金を貸し付けたとして、大阪府警生活経済課は29日、コンサルタント会社「SONマネジメント」(東京都)の社員、岩田俊一容疑者(29)=山形市=ら男女4人を貸金業法違反(無登録営業)の疑いで逮捕した。府警によると「給料ファクタリング」と呼ばれる新たな手口で、摘発は全国初。</blockquote>
<br />
給与ファクタリングというのは、「給料を買い取る」という形で「給料日前にお金が受け取れる」<u>(というふうに表向きは宣伝されている)</u>サービスです。<br />
少し前から流行りだしたサービスですが、最近特にコロナの影響もあって、生活に困窮した人を中心に利用者が増えています。<br />
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しかし、このサービスは以前から違法性が指摘されており、今回、ついに大阪府警は犯罪だと認定し、業者の人間を逮捕しました。<br />
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<br />
では、何がどう違法なのか。<br />
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そもそも「ファクタリング」(factoring)というのは、一般的には売掛金等の<a href="https://okagawa-office.blogspot.com/2014/04/blog-post_21.html" target="_blank">債権</a>をファクタリング業者に売って資金調達する手法をいい、それ自体が違法な手法ではありません。<br />
<br />
売る側にとっては、売掛金(売買代金の支払い日が翌月とかで、すぐに請求できない)等の債権を売却(債権譲渡)することで、資金繰りに困ったときに、持っている債権をすぐに現金化できるというメリットがあります。<br />
<br />
当然ながら、業者は債権額より割り引いた金額で買いとる(例えば100万円の売掛債権を90万円で買い取る)ので、買い取った債権を行使して全額回収できれば、その差額が利益となります。<br />
<br />
<br />
このファクタリングの仕組みで、売買の対象となる債権が売掛金ではなく給与債権になった<u>(かのような体裁がとられている)</u>のが、給与ファクタリングです。<br />
<br />
つまり、<u>(業者の表向きの説明でいうと)</u>サラリーマンの給与債権(権利はあるけど給料日じゃないと支払ってもらえない)を、給料日前に業者が買い取る。<br />
給料日前に現金がほしいサラリーマンにとって、即日現金が手に入るメリットがあるし、他方、業者は、給料額より安く買い取るので、実際に給料日になって回収できたら買取額と給料額との差額が利益になる。<br />
<br />
…という<u>(ことになっている)</u>サービスですが、実際はそんな単純な話じゃないわけですね。<br />
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まず、労働者の給料(賃金)というのは、「通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と法律で決められています(労働基準法24条)。<br />
<br />
<a href="https://okagawa-office.blogspot.com/2013/06/blog-post_26.html" target="_blank">私的自治の原則</a>からすれば、自分の債権は自分で自由に処分できるのが基本ですが、給料は例外です。<br />
給料というのは、労働者にとって生活の基盤ですから、確実に労働者が受け取れるよう、労働者以外の者に支払われることが特に法律で禁じられているのです。<br />
<br />
<br />
…と、いうことは、給与ファクタリング業者は、買い取った給与債権を行使して労働者の勤め先の会社から回収することはできないということです。<br />
何故なら、勤め先の会社としては、どこぞの業者が「給与債権はうちが買い取った」と言ってきたとしても、その給料は、直接従業員に支払わなければ法律違反になるからです。<br />
<br />
なので、このままだと買い取った側は大損ですから、給与ファクタリングは、実際には「給与債権を売った客に給与債権を買い戻させる」という仕組みになっています。<br />
<br />
例えば、業者は、給料日前に10万円の給与債権を5万円で客から買い取ります。<br />
そして、給料日になれば、客がその10万円の給与債権を業者から10万円で買い戻すという契約になっています。<br />
<br />
これなら、実際に勤め先の会社から給料を受け取るのは従業員である客だから労働基準法上の問題は生じません。<br />
業者は、5万円で買い取った給与債権を10万円で(元の客に)売りつけることができるので、5万円の儲けです。<br />
<br />
<br />
しかし、「買取り」と「買戻し」という“建前”にはなっていますが、買い取っても行使できない給与債権が移転したかと思えば元に戻っている。<br />
<br />
ということは<b>結局のところ「給料」とか、この仕組みの中では実質的には全く関係ない</b>んですよね。<br />
<br />
関係ない「給料」のことは脇に置いて、実際のお金の流れを見れば、「後日10万円を支払う約束で5万円を交付してもらい、実際に支払期日(給料日)が来れば10万円を支払う」という契約に過ぎません。<br />
<br />
<br />
つまり、<b>「金を貸して返してるだけ」</b>ですね。<br />
<br />
実質的には「利息付きの金銭消費貸借契約」そのものです。<br />
<br />
<br />
ところが、業者は「借金ではない」ということを、やたらと強調します。<br />
<br />
借金じゃないから「信用情報に載らない」「載っていても利用できる」と、借金じゃないことが良いことであるかのように宣伝しています。<br />
<br />
<br />
しかし、本当の狙いは、借金ではないという建前により、出資法や利息制限法の上限金利を上回る手数料(という名の実質的には利息)を設定しているところにあります。<br />
<br />
実際に、給与ファクタリング業者は、給料を半額で買い取ったりするのです。<br />
給料を半額で買い取るということは、客は、受け取った額の倍額で買い戻さないといけないことを意味します。<br />
<br />
簡単にいうと、5万円借りたら1か月後に5万円の利息がついて合計10万円を返すことになる。<br />
これ、1か月で100%の利息が付いてるわけですから、年利換算したら1200%になりますね。<br />
<br />
ひとむかし前の漫画なんかで「トイチ」というギョーカイ用語が出てきますが、これは「10日で1割」という違法な利息を意味します。<br />
トイチは、暴利の代名詞みたいに言われますけど(いや、実際暴利なんですが)、年利換算したら365%です。<br />
それをはるかに上回ります。<br />
<br />
<br />
利息制限法の上限は20%ですから、これが貸金だということになれば、当然こんな1200%(合法的な上限の60倍!)とかいう高利は違法です。<br />
だから、「借金ではない」と言い張るわけです。<br />
<br />
<br />
しかし、金融庁は、給与ファクタリング業は貸金業だという見解を示しました。<br />
<br />
<a href="https://www.fsa.go.jp/ordinary/chuui/kinyu_chuui2.html" target="_blank">給与の買取りをうたった違法なヤミ金融にご注意ください!</a><br />
<br />
また、裁判所においても、給与ファクタリングが実質的には貸金業法や出資法にいう「貸付け」にあたると認定した裁判例が既に複数出ています。<br />
<br />
<br />
給与ファクタリングが「貸付け」であり、その業務は貸金業だということになるとどうなるか。<br />
<br />
貸金業を営むには、貸金業登録をしないといけません。<br />
給与ファクタリング業者は、貸金業登録をしていないことが一般的ですから、これらは全部<b>無登録の貸金業、要するに「ヤミ金」</b>だということになります。<br />
<br />
当然、上記のような金利での貸付けも、利息制限法どころか出資法や貸金業法に違反した暴利行為だということになります。<br />
<b>あまりの暴利は、公序良俗に反して無効になり、不法原因給付として、その元本すら返還する義務を負わない</b>というのが判例です。<br />
<br />
つまり、法的には、給与ファクタリング業者は、普通のヤミ金と全く一緒の扱いということです。<br />
<br />
<br />
これは民事の話ですが、刑事の話でも、貸金業法違反(無登録営業)は犯罪ですから、今回の逮捕に至ったということですね。<br />
出資法違反も犯罪ですから、こちらもでも再逮捕されるかもしれません。<br />
<br />
<br />
というわけで、お金に困っても、給与ファクタリングを利用しないようにしましょう。<br />
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どんなにしっかりしたホームページがあっても、きれいごとが書かれていても、それは「ヤミ金」です。<br />
<br />
<br />
仮に、貸金業登録をしていて、かつ、10万円の給料を9万9500円くらいで買い取ってくれる(9万9500円借りて1か月後に10万円返す)という良心的な業者があれば話は少し変わりますが、そうでなければヤミ金に手を出すのと一緒です。<br />
<br />
<br />
本当に生活に困ったら、市役所とかで相談するとか、色々方法があります。<br />
債務整理して生活再建をするなら、お近くの司法書士や弁護士にご相談ください。<br />
<br />
たとえば高槻市役所には、生活に困った人の相談に応じる「<a href="http://www.city.takatsuki.osaka.jp/kakuka/kenkouf/fukushiso/gyomuannai/1407974784614.html" target="_blank">くらしごとセンター</a>」があります。<br />
<br />
そういえば、高槻市役所の近くには、岡川総合法務事務所っていう債務整理の相談にも応じてくれる司法書士の事務所もありましたね。<br />
<br />
<a href="https://okagawa-office.com/contact.html" target="_blank">岡川総合法務事務所のお問い合わせはこちら</a><br />
<br />
では、今日はこの辺で。岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-1073944080741554442020-07-07T01:02:00.000+09:002020-07-07T01:02:04.910+09:00「つるの屋」について司法書士の岡川です。<br />
<br />
つるの屋のご主人が亡くなられたという情報に触れた。<br />
石破茂議員がブログで言及した情報が、ちょっと遅れて私のもとにも回ってきました。<br />
<br />
<a href="https://blogos.com/article/469107/" target="_blank">「つるの屋」の思い出など</a><br />
<br />
他の情報を探してみると、どうやら、もう1か月ほど前に急逝されたようです(享年60)。<br />
<br />
<br />
ご主人といっても、二代目のほうですので、昔からの常連さんからすると、どっちかというと「お兄さん」という認識でいた客も多いかもしれません。<br />
<br />
<br />
「つるの屋」というのは、慶應義塾大学塾生(慶應では「学生」のことを「塾生」という)で知らない者はいないといっても過言ではないくらい馴染みのある、塾生(や教授ら)御用達の大衆居酒屋です。<br />
慶應関係者が在学中のことを語る際にしばしば言及されてきたため、ウェブメディアの記事等にたまに登場しますね。<br />
<br />
<br />
絵に描いたような「古き良き学生街の居酒屋」といった感じの店で、けっこう広めの店内の壁には、歴代の様々なゼミの卒業生が贈った大量のペナント(「○○ゼミ何期生」のような刺繍がされている三色旗の飾り)がびっしりと飾られており、入るだけで慶應の歴史を感じられます(逆に、慶應に縁のない人が入ると、ものすごくアウェー感を感じられたかもしれません。)。<br />
<br />
私は、酒飲みではないのですが、それでもゼミやサークルの後や友人との飲み会で何度も足を運んだものです。<br />
行けば必ずといっていいほど、どこかのゼミが飲み会をしていましたし、誰かしら慶應の現役生か教授か卒業生に出くわしました。<br />
<br />
<br />
入り口付近で席が空くのを待ってたりしたら、出てきた見ず知らずの60代くらいの陽気なオヤジたちのグループに「君らはどこのゼミ?」とか声をかけられたりもします。<br />
とはいえ、私の所属ゼミはかなり若いゼミ(私が1期生なので)だったので、「佐藤ゼミです」と言っても「あー知らんな~。ま、がんばってな!」とか言われるわけです。<br />
何を頑張るのかよくわかりませんが、こういうときはとりあえず「はい、がんばります先輩!」とでも答えておけばよいのです。<br />
<br />
<br />
twitterなんかを見てると、やはり名物料理の「豚黄金」(正式名称は「豚ロースの黄金揚げ」らしい)に言及するものが多く見られます。<br />
アレ旨かったけど、結局なんだったんだろう(豚の竜田揚げ?っぽいのに何か餡がかかってて大量のネギが乗ってるのです)。<br />
<br />
個人的には、キャベツ(正式には「キャベツのバター炒め」らしい)が好きでした。<br />
キャベツをバターで炒めてブラックペッパーで味付けしただけ(?)っぽい料理なんですけど、やみつきになる系の一品です。<br />
<br />
<br />
<br />
私は、卒業して大阪に戻りましたので、卒業後は2~3回しか行っていません。<br />
<br />
最後に行ったのは、昨年の12月。<br />
ゼミのOB会が三田で開催されたので、その二次会で何年ぶりかに、つるの屋にお邪魔しました。<br />
ゼミの指導教授と一緒だったので、ご主人から「君らは何期生?」と聞かれ、「1期生です」と答えたら、「あー、あの頃の先生を知っている世代か!」と。<br />
<br />
その日は、行ったら既にテーブルの上に鍋のセットが用意された席に案内され、一応「ここ予約席じゃないですか?」と聞いたのですが、「いいのいいの。食べれるでしょ」と言われ、注文もしてない鍋を皆で頂きました。<br />
別に、シェフのオススメが自動的に出てくるスタイルの店というわけではありません。<br />
でも、そんな細かいことは誰も気にしない、そんな感じの店でした。<br />
<br />
<br />
<br />
創業以来50余年やってこられた店ですが、店が入っていたビルが非常に古く、建物の建て替えのために出ていくことになっていました。<br />
私が行った昨年12月で店舗が閉鎖される予定だったわけで、最後のタイミングで三田でOB会が開催され、二次会の時間帯に席が空いていて入ることができたのは、ラッキーでした。<br />
<br />
<br />
5月頃にリニューアルオープンの予定だったようで、心待ちにしていた慶應関係者もたくさんいたと思われますが、結局、ご主人が急逝されたために完全閉店ということになったようです(石破議員情報ですが)。<br />
何かの機会に新店舗も行ってみたかったのですが、残念ですね。<br />
<br />
<br />
つるの屋のご主人、渡辺孝さんのご冥福をお祈りします。<br />
<br />
<br />
<br />
では、今日はこの辺で。<br />
<br />岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-53371889506733375582020-07-03T01:56:00.000+09:002020-07-03T11:49:16.092+09:00毎日放送(MBS)の情報番組ミント!に出演司法書士の岡川です。<br />
<br />
もう日付が変わったので昨日の話になりますが、7月2日(木)に、毎日放送(MBS)でやっている関西ローカルの情報番組に出演させていただきました。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiVA9VQYBc-H7xm-RCtT1g2hlMtXT6aHgNoEQ_cW1gfKt1Diky9E_1dPhWOaguiP48IrpeHn_GWsxSQwXiZgH80xfeIHruWVcpIn9dZ6JWA3gzMqMk2ICtS_whzNTjL4RqpRn-enzTGcmI/s1600/DSC_0677.JPG" imageanchor="1" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><img border="0" data-original-height="900" data-original-width="1600" height="180" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEiVA9VQYBc-H7xm-RCtT1g2hlMtXT6aHgNoEQ_cW1gfKt1Diky9E_1dPhWOaguiP48IrpeHn_GWsxSQwXiZgH80xfeIHruWVcpIn9dZ6JWA3gzMqMk2ICtS_whzNTjL4RqpRn-enzTGcmI/s320/DSC_0677.JPG" width="320" /></a></div>
<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhsOpAJijQF_DzPFJ-2ztLKlU7kB9BcE-nfDQNmd8O8fhWV9lGMdIpliCt-EVbTS-ppunv1bgUeOTo_Sx0SfmZ5TSvrDa91AV_7owRbvbe8xBk9y0hIgzkFci5NkmEkWn1p6QQf2kOjoh4/s1600/DSC_0682.JPG" imageanchor="1" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><img border="0" data-original-height="900" data-original-width="1600" height="180" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhsOpAJijQF_DzPFJ-2ztLKlU7kB9BcE-nfDQNmd8O8fhWV9lGMdIpliCt-EVbTS-ppunv1bgUeOTo_Sx0SfmZ5TSvrDa91AV_7owRbvbe8xBk9y0hIgzkFci5NkmEkWn1p6QQf2kOjoh4/s320/DSC_0682.JPG" width="320" /></a></div>
<br />
<br />
前日、元後見人の弁護士が横領で逮捕されたという報道があり、その絡みで成年後見制度の現状(横領事件などの問題も含む)に関する解説をしてほしいという出演依頼によるものです。<br />
<br />
私に直接依頼がきたわけではなく、リーガルサポート大阪支部に来た依頼ですけどね。<br />
(私は現在、大阪支部の副支部長をしていますので)<br />
<br />
番組は非常に限られた時間で進行しましたので、少し補足的なことを書いていこうかと。<br />
<br />
<br />
番組の冒頭にも述べたとおり、今回弁護士が逮捕された事件は、元後見人による横領事件ではありますが、実際は、後見が終了した後の話です。<br />
<br />
しかも、おそらく財産の引渡しも終えており、その後に、改めて相続人から遺産分割調停の依頼を受け、さらに調停成立後に銀行預金の解約手続の依頼を受けたようです。<br />
その相続人からの委任による解約手続の際に、横領をしたという事件です。<br />
つまり、本件において元成年後見人という立場はあまり関係がありません。<br />
<br />
ただ、当初の報道が、「元成年後見人」が大きく報じられたということもあり、改めて成年後見制度にスポットを当てて解説したというのが今回の特集(?)です。<br />
<br />
<br />
さて、番組中でも解説しましたが、成年後見人による不正は、専門職によるものが多いというイメージがあるかもしれませんが、実は、大多数は親族後見人によるものです。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhYr4-PKJwKqacIKrb_THFRN7npWbaB3d9jSUY2P8ydB93N0nlBd-N345hr7bvosXV1ILCW50snsEXfFCNXog5dKUJkK7hLZNwNRlgbNiDpEHAkPHs05acdr_V01LNhG4GYPqfFhlAPqRY/s1600/DSC_0666.JPG" imageanchor="1" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><img border="0" data-original-height="900" data-original-width="1600" height="180" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEhYr4-PKJwKqacIKrb_THFRN7npWbaB3d9jSUY2P8ydB93N0nlBd-N345hr7bvosXV1ILCW50snsEXfFCNXog5dKUJkK7hLZNwNRlgbNiDpEHAkPHs05acdr_V01LNhG4GYPqfFhlAPqRY/s320/DSC_0666.JPG" width="320" /></a></div>
<br />
<br />
番組では、後見制度支援信託の導入が横領の減少の理由であるという紹介がされましたが、支援信託は、基本的には親族後見人に適用されるものです。<br />
後見制度支援信託によって、親族後見人による不正が大幅に減少した結果、不正事件総数(被害総額)も大幅に圧縮されたわけです。<br />
<br />
(※補足:少し指摘があったので補足。前提として、個人的には後見制度支援信託制度が必ずしも良い制度だとは考えておりませんし、専門職団体での多くの見解も同様です。この制度は資産の大部分を凍結させるものであって、「財産保全」に全力投球した結果、必ずしも本人の利益に適うものではない。さらには、制度が重厚で専門職の負担も大きく、本人の経済的負担もあります。現在は、後見制度支援預金制度というのもあり、こちらは手続的にはかなり軽量化されていますので、今後はそちらが主流になるでしょう。ただ、客観的事実として、2014年以降の親族後見人による不正減少の「一因」であったことは確かなので、番組で用意された支援信託の説明自体は否定していません。ただ、もちろん本番では、支援信託が不正減少の全てではない、というところまで解説しています。) <br />
<br />
番組中でも解説しましたが、この不正事件の大部分を占める親族後見人による不正も、必ずしも悪意(これは日本語の普通の意味の「悪意」です)をもって財産侵害をしているものではなく、法律や制度の理解不足から「これくらいの金額は、(自分のために)使ってもいいだろう」という甘い観測が、法的にみれば不正に当たるということが多く含まれています。<br />
もちろん、「悪意がないから許される」というものでもないわけでして、そこは不正認定されることは当然ではあるのですが、少し「横領」のイメージからズレがあるかもしれません。<br />
<br />
さらに、親族後見人の不正が大多数であるといえども、さらにその外側には、圧倒的多数の「不正を行っていない親族後見人」が存在するわけです。<br />
そして、それよりさらに多くの「不正を行っていない専門職後見人」が存在し、成年後見制度を健全に運用しています。<br />
<br />
もちろん、不正というのは1件たりとも許されないので、ごく少数だから良いというものではありませんが、その1件があるから制度そのものがダメな制度というふうな極論に振り切った理解をしてはいただきたくない、と思います。<br />
<br />
これは、成年後見制度によって助かった高齢者や障害者の方々を多く見てきている者としての感想です。<br />
<br />
<br />
後見人の不正防止に関しても、全く機能していないわけではありません。<br />
<br />
例えば今回の弁護士の横領の件ですが、成年後見人として自由に預金を引き出す権限を有していたにもかかわらず、成年後見人であった(本人が生きていた)間は、横領をしていなかったわけです。<br />
これは、成年後見人である間は、広範な権限がある一方で、常に裁判所の監督下にある(定期的に報告しなければならないので、横領したら発覚してしまう)ことから、不正ができなかったのかもしれません。<br />
<br />
結局、本人が亡くなって後見人としての地位を退いた後、すなわち裁判所の監督から抜けた後で、相続人から預かった財産を横領をしたわけです。<br />
<br />
<br />
例えば、犯罪機会論的な話でいうと、「監視性」というのは、犯罪抑止の要素であり、定期的な報告で常に管理財産をチェックされている状況というのは、犯罪(横領)の機会(犯罪をしやすい環境)を奪うという意味で、一定の犯罪抑止効が期待できます。<br />
<br />
もちろん、人類の歴史上、いかなる刑事政策上の理論に則った施策も、犯罪を「0」にすることに成功していない(そして、今後も犯罪が「0」になることはあり得ない)のと同じく、それだけでは後見人による不正を「0」にすることはできません。<br />
<br />
犯罪対策というのは、「ある程度の抑止効果」が認められる施策を積み重ねていき、件数を限りなく「0」に近づけるしかできないわけです。<br />
<br />
が、今回の弁護士に関してはむしろ、この抑止効果が機能していた例なのではないかとも考えられます。<br />
<br />
<br />
それはさておき、最後は、誰が成年後見人になるのか?というお話でしたね。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjm7PlXxEEeJP2tel0DTXUNpKOZaD6i-X_n5SvcZN-qvzgBhLLI_1HxBcR_8Nyky5LyNawINydVwxyHimc8IAWU3ZhW24zs1wOqERay51MLRoPsvA1WixNNiX3YbyVuziKj1awalQzKKh4/s1600/DSC_0701.JPG" imageanchor="1" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><img border="0" data-original-height="900" data-original-width="1600" height="180" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEjm7PlXxEEeJP2tel0DTXUNpKOZaD6i-X_n5SvcZN-qvzgBhLLI_1HxBcR_8Nyky5LyNawINydVwxyHimc8IAWU3ZhW24zs1wOqERay51MLRoPsvA1WixNNiX3YbyVuziKj1awalQzKKh4/s320/DSC_0701.JPG" width="320" /></a></div>
<br />
<br />
最後の最後で、「報酬ゼロ」という事例を紹介されました。<br />
番組中でも説明したとおり、我々専門職は、業務(仕事)として、報酬をいただいて後見業務を行っていますが、中には報酬ゼロで受けている案件もあります。<br />
<br />
「専門職の皆さんは、なぜ報酬ゼロで受けるのですか?」と問われたとき、「(後見業務は)公益的な側面があるので、制度の利用を必要としている方が相談に来られたときに、『報酬が払えないなら無理です』とは言い切れない」という趣旨の回答をしました。<br />
<br />
ここで時間の関係もあって、何か私がすごく使命感の強い素晴らしい人みたいな感じでコーナーが終わってしまったので、私個人的には好感度も爆上がりで何ら問題ないんですが、公正を期すために補足しておくと、このような無報酬案件は、多くの専門職が少なくとも1件や2件程度は受けているものです。<br />
多い人だと、そういうのを3件でも4件でも5件でも受けている。<br />
私が特別に、使命感から引き受けているわけではありません(私よりたくさん、無報酬案件を引き受けている専門職はたくさんいます)。<br />
そこは、正しく認識していただければ、と思います。<br />
<br />
無報酬案件の話、番組の打ち合わせでもスタッフの方にしたんですけど、ものすごく驚かれました。<br />
本番でも出演者の皆さん驚いていましたね。<br />
我々にとっては、かなり普通の話だったので、逆に「え、そんなに驚かれる?」というレベルだったのですが、実は、そういうのが現状なのです。<br />
<br />
<br />
そして、このような使命感に頼った制度は、今まさに限界を迎えているところです。<br />
まあ平たく言えば、「これ以上は、もう受けきれない」という声が噴出しているわけですね。<br />
<br />
お金がなくて必要なサービスが受けられない方については、本来的には、公的な制度で支援するのが筋なのですが、現状は、民間事業者の使命感(一種のボランティア)に頼り切った構造になってしまっています。<br />
<br />
この辺の問題点も、番組で触れられたら良かったんですけど、今回のテーマからだいぶそれてしまうので触れられませんでした。<br />
また何かの機会にでも。<br />
<br />
<br />
とまあ、なんせスタジオでガッツリ解説するためのテレビ出演とか初めてだったので、言葉足らずで何か誤解を生んだり、誰かを不快にさせたりしてないかなとか気にしたりもしてるんですけど、まあ、私の周りでは概ね好評だったので良かったです。<br />
<br />
また機会があれば、出演したいですね。<br />
<br />
次は、例えばシェルティをもふもふしながら、その魅力を30分くらいかけて語ったりしたいです。<br />
<br />
では、今日はこの辺で。岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-25131597516186466142020-06-01T11:01:00.000+09:002020-06-02T10:39:09.971+09:00大阪府休業要請外支援金について司法書士の岡川です。<br />
<br />
新型コロナウイルス感染症の拡大の影響により、生活様式や業務形態に多大な変化が起きています。<br />
<br />
感染拡大の第一波はひとまず落ち着いた(終息したとはいえないが)ようにもみえるところ、公的な金銭的支援も本格的に開始しています。<br />
<br />
特に、事業者向けの支援制度は、かなり多種多様なものがあります。<br />
国からの支援については、<a href="https://www.meti.go.jp/covid-19/" target="_blank">経済産業省のホームぺージ</a>にまとまっているので、そちらをご参考ください。<br />
<br />
さて、事業者向けの支援は、各自治体独自のものもあります。<br />
<br />
その中で、大阪府は、<a href="http://www.pref.osaka.lg.jp/shokosomu/kyuugyouyouseigai/index.html" target="_blank">大阪府休業要請外支援金</a>という制度を作っています。<br />
これは、休業要請支援金(府・市町村共同支援金)の<u>対象とならなかった(要するに休業要請の対象外の)事業者</u>に対する支援です。<br />
<br />
休業要請支援金に比べると額は少なくなりますが、大阪府内に事業所を有する中小企業や個人事業主が対象となっており、<u>休業要請の対象にならなかった事業者</u>についても負担となっている家賃等の固定費を支援する目的のものです。<br />
<br />
詳しい要件等は大阪府のホームページで確認していただきたいのですが、個人事業主については、<b><u>専門家による申請書類の事前確認</u></b>の制度があります。<br />
<br />
これは、申請書を提出する前に専門家(行政書士等)に確認を受けることで、(大量の事務処理に追われる役所の負担を軽減して)申請手続を円滑に進めるために設けられたものです。<br />
事前確認は必須ではありませんが、事前確認が行われなかった申請は、支給までに時間がかかるようです。<br />
(なお、基本的には書類が揃っているかのチェックであって、申請書類の作成支援や、書類の内容をみて審査をするわけではありません。)<br />
<br />
<br />
この事前確認は、休業要請外支援金の申請しようとする個人事業主が<u><b>無料で</b>専門家に依頼することができます</u>。 <br />
<br />
<u>当事務所においても、行政書士事務所として無料で事前確認を行っています。</u><br />
<a href="https://okagawa-office.com/youseigaishien.html" target="_blank">→大阪府休業要請外支援金について</a><br />
<br />
当事務所は高槻市(高槻市役所の近く)にありますので、特に高槻市にお住まい(あるいは事業所を構えている)の個人事業主の皆さんで、事前確認をご希望の方は、事務所ホームページの問い合わせページからお問合せください(もちろん、市外の個人事業主の方でも構いません)。<br />
<br />
<a href="https://okagawa-office.com/contact.html" target="_blank">→お問い合わせはこちら</a><br />
<br />
なお、電話をいただくより、問い合わせフォームからメールでご連絡いただいたほうが、スムーズに予約がとれます。<br />
<br />
では、今日はこの辺で。岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-82970183334814229172020-05-11T00:51:00.001+09:002020-05-11T00:51:56.746+09:00三権分立と国民との関係司法書士の岡川です。<br />
<br />
ここ数日で、やたらと三権分立の話題を目にします。<br />
<br />
きっかけは検察庁法改正に絡んだもので、この改正が三権分立に反するとか反しないとかいう話からのようです。<br />
<br />
<br />
そこから派生したのか、何やら「首相官邸のホームページに掲載されている三権分立の図が間違っている(意図的に改竄されている)」といった指摘が出てきているようです。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEidjE3289n3Povhn1Mr16hfEZuCR9n8AshonjdrtPx8xpJ7XCXll0hyphenhyphenkYh-Bu2b_owkExLytCVGA4Odet9F7y6_QCrbi9WK7JQuZDxkJDAxHE32Z6vv-a03uorI6e8-v9L4O9bbgL_ioyM/s1600/sanken.png" imageanchor="1" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><img border="0" data-original-height="619" data-original-width="777" height="254" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEidjE3289n3Povhn1Mr16hfEZuCR9n8AshonjdrtPx8xpJ7XCXll0hyphenhyphenkYh-Bu2b_owkExLytCVGA4Odet9F7y6_QCrbi9WK7JQuZDxkJDAxHE32Z6vv-a03uorI6e8-v9L4O9bbgL_ioyM/s320/sanken.png" width="320" /></a></div>
(首相官邸HP「<a href="https://www.kantei.go.jp/jp/seido/seido_2.html" target="_blank">内閣制度の概要</a>」より)<br />
<br />
どこがおかしいかというと、「内閣」と「国民」との間の矢印が逆だと。<br />
一般的には(教科書などでは)、国民から内閣に対して「世論」という矢印が出ている以下のような図が使われているからですね。<br />
<br />
<div class="separator" style="clear: both; text-align: center;">
<a href="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg29SiridlO0Pg5LQQ0AweAxTXy2POt4i5BE6eMzYZe0eoCwewC_PgxIeCjCeRjvTgOudHkJaytO-oTywspGCr3sjX4yixoNRsrUbp9lVuHLX8z3SnN3HSOOM2vNwm98Eliaei3dBlU7DQ/s1600/kokkai_sankenbunritsu01.png" imageanchor="1" style="margin-left: 1em; margin-right: 1em;"><img border="0" data-original-height="1196" data-original-width="1600" height="239" src="https://blogger.googleusercontent.com/img/b/R29vZ2xl/AVvXsEg29SiridlO0Pg5LQQ0AweAxTXy2POt4i5BE6eMzYZe0eoCwewC_PgxIeCjCeRjvTgOudHkJaytO-oTywspGCr3sjX4yixoNRsrUbp9lVuHLX8z3SnN3HSOOM2vNwm98Eliaei3dBlU7DQ/s320/kokkai_sankenbunritsu01.png" width="320" /></a></div>
<br />
(衆議院HP「<a href="http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/kokkai/kokkai_sankenbunritsu.htm" target="_blank">三権分立</a>」より)<br />
<br />
首相官邸HPの図を見て、「三権分立を理解していない」とか「行政による国民の監視(独裁・主権者国民の上に君臨)を意味している」とか「安倍政権の独裁の意識が云々…」といった批判の声が出ているようです。<br />
<br />
<br />
しかし実は、「教科書に載っているのと違う」といっても、必ずしも首相官邸HPの図が三権分立の説明として間違いであるとはいえません。<br />
また、首相官邸HPの図も、国民の上に行政が君臨することを意味しているとも読み取ることはできません。<br />
<br />
<br />
順を追って解説しましょう。<br />
<br />
そもそも、三権分立とは、国家権力を「立法」「行政」「司法」の3種類(三権)に分類し、それぞれの権力を担う国家機関を分けることで権力の集中を防ぎ、国民の自由と権利を保護するという考え方です。<br />
<br />
三権分立というシステムは、ただ単に機関を分けるだけでは機能しませんので、三権が相互に抑制と均衡(チェックアンドバランス)を保つ仕組が必要となります。<br />
<br />
そこで、日本国憲法において、上記のいずれの図にも三権の間に双方向に矢印が引かれているとおりの制度が用意されています。<br />
<br />
この<u>抑制と均衡(チェックアンドバランス)の仕組こそが、「三権分立」の本質的部分</u>です。<br />
<br />
<br />
この点において、首相官邸HPの図も、<u>少なくとも「三権分立」に関して全く間違ったことは書かれていません。</u><br />
正しく、「三権」が「分立」されて、その間の抑制と均衡の仕組が説明されていますからね。<br />
<br />
<br />
三権分立の問題でなければ、何の問題なのか。<br />
つまり、この三権と国民との関係、図でいうと、三権と真ん中の「国民」との間の矢印は何なのかです。<br />
ここに首相官邸HPの図と一般的に用いられている図とで違いがあるわけですが、「三権」の「分立」の話ではありません。<br />
<br />
<br />
ここは、三権と主権者国民との関係ですから、民主主義(民主制)に関する仕組、言い換えれば、<u>国家権力の民主的統制(コントロール)に関する仕組を説明している部分</u>です。<br />
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<br />
例えば、立法機関(国会)に対しては国会議員の選挙という形で、司法(裁判所)に対しては、極めて限定的ではありますが、国民審査という形で、それぞれ民主的統制を及ぼしています。<br />
<br />
これに対応する形の、行政機関(内閣)と国民との間の、民主主義に関する仕組とは何か。<br />
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<br />
例えばアメリカでは、行政のトップである大統領は選挙で選ばれるので、ここには「選挙」という語が入ることになるでしょう。<br />
<br />
しかし、そのような、行政機関に対して国民が直接的に民主的統制を及ぼす仕組は、日本国憲法においては用意されていません。<br />
<br />
社会の教科書では、三権分立と同時に「議院内閣制」という言葉も習ったと思います。<br />
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日本の議院内閣制は、アメリカの大統領制とは異なり、立法機関である国会が、国会議員の中から、行政のトップである内閣総理大臣を選びます。<br />
また、国会(衆議院)で内閣不信任決議をされると、内閣は総辞職をしなければなりません。<br />
そして、「内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。」(日本国憲法66条3項)のです。<br />
<br />
つまり、<u>日本国憲法が想定する議院内閣制の下では、行政に対する民主的統制は、国会を通じた間接的なコントロール</u>ということになります。<br />
<br />
<br />
ということは実は、図でいうと、国民と行政との間には「矢印が無い」というのが一番正確だということもできます。<br />
<br />
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一般的に使われている図では、ここに「世論」という矢印が描かれており、首相官邸の図ではその「世論」が消されていることも一つの批判になっていますが、図内の「世論」以外の矢印は全て、「三権分立」や「民主主義」に実効性をもたすために日本国憲法が用意した諸制度です。<br />
<br />
これに対し、「世論」自体は、行政を統制するシステムではありません。<br />
<br />
確かに世論自体は重要な要素ではありますが、それをここに図示するのであれば、「世論を行政に反映させる具体的な仕組み」でなければならない(そして、その仕組は日本国憲法では存在しない)わけです。<br />
<br />
ここに「世論」という矢印を描いてしまうのは、国民と国会との間の矢印(「選挙」とある部分)に「民意」とか書くようなもので、完全に異質なものです。<br />
そのため、この「世論」というのは、ものによっては、括弧書きにされていたり、矢印が点線とか薄い色とかに変えられていることもあるようです。<br />
<br />
<br />
ところで、首相官邸HPの図では、内閣から国民に対して「行政」という矢印が引かれています。<br />
ここで「矢印の向きが違う」と批判されているわけですが、<u>「行政」という国家権力の作用をこの図に書き込むのであれば、それはこの向きで正しい</u>わけです。<br />
仮に、ここに「統制」とか「コントロール」とか書かれてたら流石にヤバいわけですが、そうではありません。<br />
だからこの向きに関しては、これはこれでよいのです。<br />
<br />
もっとも、上記の説明のとおり、ここに「行政」と書くのも異質といえば異質です。<br />
何故ならここだけ三権分立とか民主主義の話とは違う内容の矢印になっているからです。<br />
<br />
何でこんなこと書いたのか…。<br />
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ただよく見てください。<br />
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この図、<u>そもそも「三権分立」とか「民主主義」の説明ではなく、「現行憲法下の内閣制度」の説明のページに記載されている図</u>なんですよね。<br />
つまり、このページは、「内閣→行政→国民」というこの部分(行政という国家作用を担っているのが内閣ですよ、という話)が中心的話題なわけです。<br />
<br />
だから、この矢印は他の矢印と区別して、なんなら、むしろもっと目立つように強調した矢印で「行政」って書いておいても良かったくらいなのです。<br />
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中途半端に他の矢印と合わせて(それでいて矢印の方向だけ逆にした)もんだから、わけのわからない印象を与えたわけですね。<br />
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ちなみに、Internet Archiveで調べればすぐわかることなのですが、この図は少なくとも20年前から首相官邸で使われていた図です。<br />
「いつの間にか改竄されていた」とか「安倍政権の意図が反映された」とかいうものではありません。<br />
そういう批判は完全に的外れです。<br />
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まあ、そういうわけで、結論としては、首相官邸の図を見て、「安倍政権は三権分立を理解していない(破壊するつもりだ)」という批判をすることは、色んな意味で誤っているといえます。<br />
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実際に安倍政権が三権分立を理解・尊重しているかどうかは知りません。<br />
その点に批判的意見があるのは構わないと思います。<br />
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ただ、<u>少なくともそれは首相官邸HPの図とは全く関係のないこと</u>です。<br />
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では、今日はこの辺で。岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-63970052430035356412020-04-17T01:57:00.000+09:002020-04-17T01:57:25.991+09:00「期日」の意味司法書士の岡川です。<br />
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新型コロナウイルスの感染拡大が止まりません。<br />
<br />
東京や大阪等を対象として発令された緊急事態宣言が、全国に拡大されるようです。<br />
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緊急事態宣言の影響というか感染拡大の影響は司法の世界でも例外ではなく、緊急事態宣言の期間中、裁判所では原則として全ての期日が取り消されました。<br />
保全事件のような、緊急性の高いものは引き続き行われる予定ですけどね。<br />
<br />
<br />
ところで、我々のような裁判に携わる法律実務家(弁護士や司法書士)は、気軽に「期日」という言葉を使うんですが、法律家が「期日」と言ったとき、一般的な日本語とは少し意味が異なることが多い。<br />
なので、一般の方を相手に期日とか言っても伝わらない可能性があるんですよね。<br />
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<br />
というわけで、改めて法律用語の「期日」とは何か。<br />
<br />
ひとつめの意味は、まあ普通の日本語の意味とほぼ同じで、単純に「ある特定の日」のことです。<br />
法律用語としてもう少し意味を限定すると、何らかの行為をすべき日であったり何らかの事実が生じる日です。<br />
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例えば、法律の施行期日といったら、法律が施行される日ですね。<br />
<br />
<br />
これに対し、訴訟法上の期日、つまり裁判に関する話題の中で出てくる「期日」というのは、当事者が(主に裁判所に)集まって訴訟行為をする時間をいいます。<br />
冒頭に書いた「期日が取り消された」という場合の期日は、この意味ですね。<br />
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具体的には、民事訴訟では口頭弁論記述や弁論準備期日等があり、刑事訴訟では公判期日等があります。<br />
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この期日は、特定の一日全部ではなく、実務上は「何年何月何日何時」まで特定されます。<br />
そして、その時刻(実際には多少ずれるんですけど)に、裁判長による宣言(黙示的なものも含む)によって開始してから終了するまでの時間が期日です。<br />
<br />
期日に手続が行われることを、俗に「期日が開かれる」とかとか言ったりします。<br />
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<br />
後者の意味で「期日」と言った場合、当然そこには「その時間に当事者が集まって訴訟行為をする」という意味が含まれています。<br />
ということは、「次の期日は何月何日何時です」と言った場合、「その時間に裁判手続が行われます(≒法廷に行きます)」という意味になるわけですね。<br />
<br />
<br />
で、冒頭にあるように「期日が取り消された」ということは、言い換えれば「予定されていた全ての裁判手続が行われなくなった(≒法廷が開かれなくなった)」というのとほぼ同義です。<br />
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まあ、厳密にいえば裁判手続は期日外でも行われるので、期日取消=手続全部ストップというわけではないのですが。<br />
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緊急事態宣言の対象が全国になれば、全国的に期日が一律に取り消されることになるでしょうから、つまり、全国で多くの裁判がストップすることになるわけです。<br />
<br />
なかなか大変な状況になりましたが、緊急事態宣言が長引くと、司法機能がマヒしたままになってしまいます。<br />
どうなることやら…。<br />
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では、今日はこの辺で。岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-79814258954688893082020-03-18T18:52:00.002+09:002020-03-18T18:55:16.882+09:00債権法改正について(41)(贈与・請負・消費貸借・使用貸借・寄託)司法書士の岡川です。<br />
<br />
売買や賃貸借以外の契約類型でも色々と改正はあるんですけど、それほど長々と解説するほどのものでもないので、主だった改正点をまとめて一気に解説してしまいます。<br />
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まず、贈与については、担保責任の規定が変わります。<br />
<br />
売買契約(有償契約)では従来の担保責任が契約不適合責任に置き換わったように、無償契約である贈与についても贈与者の担保責任に関する規定はなくなります。<br />
その代わり、「贈与者は、贈与の目的である物又は権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定する」という引渡義務(原則として特定した時の状態で引き渡す義務)の規定になります。<br />
<br />
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請負契約についても改正されます。<br />
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現行法の請負契約には、独自の瑕疵担保責任の条項があるのですが、改正によって民法全体を通じて担保責任のルールが契約不適合責任として整理されたので、請負契約も全部これに乗っかって、基本的には契約不適合責任の一般的なルールに従うことになります。<br />
<br />
現行法では、建物の構造によって消滅時効の期間が分かれてたり、建物の建築請負は瑕疵があっても解除できない(解除されたら解体しないといけないので経済的損失が大きすぎるからという理由)というルールになってたりするのですが、そういう請負契約独自ルールがほぼ消えました。<br />
<br />
スッキリですね。<br />
<br />
ただし、「注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合」の場合に責任追及できないというのは、現行法が維持されています。<br />
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<br />
ところで、売買や贈与などのように、多くの契約は、当事者の意思の合致があれば目的物を引き渡さなくても契約自体は成立します(引き渡さなければ債務不履行の問題となる)。<br />
意思の合致だけで成立する契約を諾成契約といいます。<br />
<br />
これに対し、現行法における消費貸借・使用貸借契約・寄託契約については、契約の成立には当事者の意思の合致だけでなく、目的物の給付が必要とされており、目的物を借主に渡した時点で契約成立となります。<br />
当事者の意思だけでなく、実際に物を渡さないと契約自体が成立しない契約を、要物契約といいます。<br />
<br />
とはいえ、実際には、目的物の給付をせずに契約を成立させ、物の給付は後日ということもかなり一般的に行われており、これらも適法な契約とされています(<a href="https://okagawa-office.blogspot.com/2013/06/blog-post_26.html" target="_blank">契約自由の原則</a>)。<br />
民法上要物契約なんだけど、特約で要物性を排除した契約を、諾成的消費貸借契約とか諾成的使用貸借契約といいます。<br />
<br />
これが認められるということは、わざわざこれらの契約だけ民法上の原則ルールを要物契約とする合理性もなく、むしろ逆に、必要に応じて目的物の給付を条件とすればよい。<br />
てことで、改正法では、書面による消費貸借契約は諾成契約となり、使用貸借契約と寄託契約は全て(書面によらない契約であっても)諾成契約となります。<br />
したがって、いずれの契約も、目的物を給付しなくても契約自体は成立することになります。<br />
つまり、改正法で要物契約として残っているのは、書面によらない消費貸借契約のみになりました。<br />
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<br />
比較的大きな改正点としてはこれくらいですかね。<br />
他にも色々ありますが、ほとんどが実務的に認められてきたことが明文化されたものです。<br />
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・・・と、いうわけで、2017年5月に始まって、何と2年10か月もの長い年月をかけて、遂に債権法改正シリーズが完結しました!<br />
おめでとうございます!ありがとうございます!<br />
<br />
あー疲れた。<br />
<br />
債権法改正について書き始めたときは、まさかこんなに時間がかかるとは思わなかったよね。<br />
どう考えても、更新頻度が遅すぎです。<br />
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こんなことしてる間に、<b><span style="font-size: large;">相続法改正が改正され、しかも大部分が施行されるという一大イベントがあったのに完全スルー</span></b>してしまったという。<br />
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まあ、債権法改正シリーズも終わったことだし、相続法改正にもそのうち触れますかね。<br />
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では、今日はこの辺で。<br />
<br />岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-12179779011068523182020-03-06T10:43:00.001+09:002020-03-06T10:43:40.328+09:00債権法改正について(40)(賃貸借)司法書士の岡川です。<br /><br />賃貸借契約も色々と重大な改正点があります。<br /><br />といっても、賃貸借という契約類型は、これまでに大量の判例が確立していて(継続的な契約関係であることから、争いになり易いんでしょう)、今回それらが明文化されたという改正が多い。<br />そのため、条文の改正の多さの割には、実務上それほど大きな変化はないかもしれません。<br /><br /><br />まず、現行法では、賃貸借契約の存続期間は20年を超えることができません(20年を超える契約を締結しても20年となる)。<br />期間経過後に更新することはできますが、更新も20年を超えることができません。<br />これは、あまり長期間の賃貸借を認めると、所有者の権利制限が過酷になりすぎるという配慮だといわれています。<br /><br />とはいえ、現代社会では20年を超える長期の事業のために賃貸借契約を締結する需要もあり、一律に20年で切るのは短すぎるという指摘がありました。<br />そこで、上限が一気に50年まで延びました。<br /><br />とはいえ、借地借家法等の特別法の適用がある場面では、そもそも民法の上限は排除されていましたので、家を建てるための借地などには影響がありません。<br />
賃貸住宅も、だいたい2年契約とかになっていて、更新しながら借り続けることが多い。<br />
なので、影響は限定的ですね。<br /><br /><br />次に、「対抗要件を備えた賃貸借契約の目的物である不動産を譲渡した場合、賃貸人の地位は当然に譲受人に移転する」というのは、有名な判例で、実務上あたりまえに受け入れられているルールなのですが、これも明文化されました(改正605条の2)。<br />
賃貸住宅の所有者が、その家を他人に売ったら、改めて新しい所有者(買主)と借主が契約し直さなくても自動的に新しい所有者が賃貸人の地位を引き継ぐ、という話です。<br />
<br />
このとき、賃貸人の地位を留保する合意をし、かつ譲渡人と譲受人との間で賃貸借契約をする(要するに、旧所有者が新所有者から賃借する)合意をすれば、賃貸人の地位は移転しないというルールが新設されました。<br />つまり、旧所有者は新所有者から賃借し、賃借人は(従前のまま)旧所有者から賃借(転借?)するという関係になってもよいというわけです。<br /><br /><br />それから、対抗要件を備えた賃借人は、賃借権に基づき第三者に対して妨害排除や占有回復を請求できることが明記されました(605条の4)。<br />今までも、判例が色々と理屈をこねて結論的には何かしら請求可能だったのですけど、それが直截的に賃借権に基づく請求権として明文化されたものです。<br /><br /><br />細かいとこでは、賃貸物の一部が滅失した場合、現行法では賃料減額請求ができることになっていますが、改正法では、請求しなくても当然に減額されることになりました(改正611条1項)。<br /><br />他にも、結構あたりまえのことが明文化されていますね。<br />賃貸人に修繕義務がありますが、賃借人に帰責性がある場合は修繕しなくてよいだとか(改正606条1項但書)、賃貸人が修繕してくれないときは賃借人が修繕できるだとか(607条の2)、目的物が全部滅失したら賃借権が消滅するだとか(616条の2)。<br /><br /><br />敷金の性質が明記されたり(622条の2)、原状回復義務に通常損耗は含まれないことが明記されたり(改正621条)とかは、まあ重要な改正ではあるのですけど、実際の場面として、特に大幅に何かが変わったわけではない(基本的には判例の明文化)ので、条文確認しといてね、といったところ。<br /><br /><br />では、今日はこの辺で。岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0tag:blogger.com,1999:blog-226890783088712485.post-58660840270950696782020-02-28T23:04:00.001+09:002020-02-28T23:04:05.553+09:00債権法改正について(39)(契約不適合責任2)司法書士の岡川です。<br />
<br />
現行民法の担保責任の規定が丸ごと置き換わって創設された「契約不適合責任」の規定。<br />
<br />
まず、そもそも「契約不適合」の定義は、改正562条1項に規定されており、「引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」をいいます。<br />
<br />
現行法の「瑕疵担保責任」における「瑕疵」というのも、結局は目的物が契約の内容に適合しない場合ですから、現行法で瑕疵担保責任が問題となる場面がそのままカバーされるわけです。<br />
ただし、現行法の「隠れた瑕疵」の「隠れた」という要件が外された(契約の内容に適合するかどうかが問題であって、隠れているかどうかは重要でない)ので、瑕疵担保責任より適用範囲が広くなります。<br />
<br />
さらに、目的物に契約不適合がある場合の規定は、「売主が買主に移転した権利が契約の内容に適合しないものである場合」にも準用されます。<br />
<br />
<br />
では、契約不適合の場合に買主は何が請求できるか。<br />
<br />
・「目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる」(改正562条1項)。<br />
・「その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる」(改正563条)。<br />
・(通常の債務不履行の規定による)「損害賠償の請求」や「解除権の行使を妨げない」(改正564条)<br />
<br />
前回ちらっと説明したとおり、契約不適合責任は、債務不履行責任の一種であるため、買主は完全な履行を請求できるということで、追完請求権が明文化されました。<br />
また、代金減額請求ができる場面は、現行法より拡大されています。<br />
<br />
そして、これまた債務不履行責任の一種であるため、契約不適合責任が問題となる場面はすなわち債務不履行の場面です。<br />
したがって、通常の債務不履行の規定(415条、541条、542条)に基づいて損害賠償請求や解除をすることができるというふうに整理されました。<br />
現行法では、債務不履行の規定とは別に、担保責任のルールの中に損害賠償請求や解除の規定があったので、債務不履行に基づく損害賠償請求や解除との関係が問題になりましたが、改正法では、そんなことで悩む必要はありません。<br />
<br />
なお、現行567条1項の「売買の目的である不動産について存した先取特権又は抵当権の行使により買主がその所有権を失ったときは、買主は、契約の解除をすることができる。」という規定は、抵当権の行使で所有権を失うような場合は、そもそも典型的に債務不履行に該当する場面ということで、削除されています。<br />
<br />
<br />
契約不適合責任に基づく請求や解除には、期間制限があるものがあります。<br />
現行法でも、瑕疵担保責任等、一部の担保責任に基づく損害賠償請求や解除には、事実を知ったときから1年以内にしなければならないという期間制限があります(566条3項)。<br />
<br />
これに対し改正法では、「売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合」にのみ規定があります(改正566条)。<br />
しかも、1年以内に権利を行使するのではなく、1年以内に「通知」さえすれば良いことになりました。<br />
<br />
そして、(その他の契約不適合の場合も含めて)最終的な権利行使の期限は、消滅時効の規定に従うことになります。<br />
つまり、通常の権利同様、5年または10年(改正166条)で消滅時効により権利行使ができなくなりますが、それまでは特に制限なく行使可能ということです。<br />
<br />
<br />
とまあ、こんな具合に、契約不適合責任は、だいたい全部一緒の処理をする(しかも、普通の債務不履行の規定に従う)ことになったので、慣れると非常にスッキリしたわかりやすいルールなのではないでしょうか。<br />
<br />
では、今日はこの辺で。岡川敦也http://www.blogger.com/profile/13986627774161235162noreply@blogger.com0