司法書士の岡川です。
野球賭博の問題が連日報道されています。
読売巨人軍の現役選手が野球賭博をやっていたとかいないとか。
みなさんご存じのように、日本では、賭博は犯罪とされています。
刑法185条には、「賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。」と規定されています。
「賭博」は、「偶然の勝敗に関し、財物をもって博戯または賭事をすること」というふうに定義されます。
「偶然の勝敗」といっても、完全に結果がランダムに決まるものである必要はなく、当事者において不確実であれば足ります。
例えば、賭け麻雀のように、当事者の実力が勝敗に影響を与えるものであっても、不確実な要素があるところに財物を賭ければ賭博になります。
賭博が成立するには、当事者双方にとって偶然でなければならないので、一方当事者にとっては勝敗が分かっているようなもの(詐欺賭博)は、他方にとっては(賭博をしていたつもりであっても)その実体は詐欺被害にすぎないので、賭博罪は成立しないと考えられています。
騙していたほうに成立するのも、賭博罪ではなく詐欺罪です。
刑法上の区別はありませんが、「博戯」(ばくぎ)と「賭事」(とじ)は、区別することができます。
博戯というのは、賭麻雀や賭ゴルフのように、自分の行為によって勝敗を決めるものです。
これに対して賭事というのは、それ以外のもので勝敗を決めるものです。
なので、野球賭博というのは賭事ですね。
もうひとつ、「富くじ」というものもありまして、予め販売した番号札の中から偶然性のある方法で当選を決めて、利益を分配するものです。
宝くじとか競馬のようなものが「富くじ」にあたります。
富くじ販売も同じく犯罪とされています。
ところで、賭博や富くじが、何故違法(犯罪)とされているのでしょうか。
判例・通説では、「勤労の美風」の維持、つまり、勤労によって生計を維持するという健全な経済的生活の風習を堕落させないことと、あわせて、副次的な犯罪の誘発を抑止することが処罰根拠であるとされています。
もっとも、この説明はあまり説得的なものではありません。
堕落した生活で困るのはその人自身であり、「堕落しないよう制裁を加える」というのはどうなのか。
殺人罪や窃盗罪のように、他人の権利や利益を侵害する行為を処罰することで抑止するのが基本的な刑法の目的であるとすれば、「勤労の美風」などというものを維持するのが果たして刑法の役割なのか、という点には疑問が呈されているところです。
野球賭博をやっていた巨人の選手も、負けて損するのは自分自身なので誰にも迷惑をかけていない。
仮に勝って得したとしても、負けた人はやはり自業自得だから、勝った人のせいじゃないわけです。
窃盗とか強盗といった「副次的な犯罪の誘発を抑止する」というのも、それらを誘発するものはいくらでもありますから、賭博(だけ)を一律に禁止する理由としては弱い。
それに、他方で競馬や競輪、宝くじ等、公営のギャンブルが存在するわけで、これらは、明らかに「勤労の美風」の維持に反する者でありながら、法律で堂々と認められています。
法律で定めるだけで違法性が無くなるようなものであれば、いかなる処罰根拠も全く説得的でありません。
賭博を公の管理下において様々な弊害(犯罪の誘発とか暴力団の資金源になるとか)を防ぐという点に根拠を求める見解もありますが、いずれも、後付けになっている印象があります(現実に賭博罪が存在する以上、何らかの理由づけが必要なのです)。
個人的には、単純賭博などは「被害者なき犯罪」として合法化(非犯罪化)し、営利的な賭博場開張や富くじ販売に制限を加えておく(例えば許可制にして、過剰に射幸心を煽ったり、暴力団の資金源になることを防止する等)、という形が望ましいと考えていますが、社会がそれを許さないでしょうね。
なお、賭博も「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるとき」であれば、合法です。
「一時の娯楽に供する物」とは、漠然としていますが……そう、ミカンとかですね!
賭麻雀をしたければ、ミカンを賭けましょう。
もっとも、ミカンなら大丈夫とはいえ、調子に乗って箱単位で賭けたりしたらどうなるか。
その場で消費しきれない物になるので、たぶんアウトですね。
試したことないのでわかりません。
では、今日はこの辺で。
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