2013年6月25日火曜日

私法と公法

司法書士の岡川です

法の分類の仕方はいろいろです。
「国内法と国際法」とか、「実体法と手続法」といった具合です。


伝統的に、「私法と公法」という分け方もあります。

私法というのは、私人間(※「わたし - にんげん」ではありません。「しじん - かん」です。)の関係を規律する法のことで、公法とは私人と国家の関係を規律する法です。

例えば民法や商法が私法です。
民法は「私法の一般法」といわれており、私人間の法律関係について、特に個別の法律がない限り、広く一般的に適用されるのが民法です。

他方、憲法や行政法なんかが「公法」ですね。


刑法は、一見すると、私人同士の争い(例えば、殺した側と殺された側の関係)なので、私人間の関係を規律した私法?という風にも考えられますが、刑法というのは、国家によって禁止された行為(犯罪)とそれを破った場合の制裁(刑罰)について定めた法律なので、刑法上、加害者と被害者の関係ではなく、加害者と国家の関係(処罰される側と処罰する側の関係)が定められているといえます。
したがって、日本では公法に分類されています。

民事訴訟法は、民法と同じく「民事法」のひとつですが、民法と違って、日本では「公法」に分類されます。
民事訴訟法では、文字通り民事訴訟の手続きが規定されているのですが、民事訴訟(いわゆる裁判)というのは、国の機関である裁判所の手続きなわけで、それを利用する私人と国家の関係を規律しているということができるわけです。



この、私法と公法の区別というのは、伝統的によく使われたものなのですが、やはり微妙な法分野ってのが多々あって、また、定義もはっきりと決まっているわけではなく、ある法律が私法に入るか公法に入るかは、定義とか法体系とかによって(国によっても)変わってきます。

例えば、公法は憲法と行政法のみを指し、その他は私法だという分類の仕方もあります。
実際にフランスなどでは、刑法は私法に分類されています。

日本においても、憲法と行政法だけを(狭義の)公法と定義づける場合もありますので、その意味での「公法」からは、刑法は外れることになります。
この場合は、「私法と公法」に二分した一方の意味ではなく、数ある法分野のひとつとしての「公法」という意味ですから、「公法」から外れた刑法が「私法」に分類されるというわけではありません。
民法は私法、行政法は公法、刑法は刑法という感じですね。


このように、伝統的に広く用いられている私法と公法の分類ですが、なかなか曖昧なものなのです。

そもそも、私法の要素も公法の要素も入った法律もたくさんあります(経済法とか社会法とかいわれる分野は特にそうです)。

「公法分野には私法の法理は適用されない」という伝統的な考え方の下では私法と公法の分類は意味があったのですが、最近では、その考え方は否定されています(行政法分野でも私法の考え方が適用される)。
そうなると、伝統的に私法と公法に分ける二元論(二分論)的な考え方は、あまり意味がない…という指摘も有力です。

つまり、例えば「刑法は公法である」ということをいっても、ここから何の結論も導かれないのです。
刑法の解釈をするうえでは、別に刑法が私法であっても構わないんですね。


まあ、そうはいっても、批判はあるものの、今でも私法と公法という分類は(実益があるかどうかは別として)使われているので、知っていると便利です。
分類方法がはっきりしていないとはいえ、民法を公法に分類したり、憲法を私法に分類したりすることはないでしょうから、ある程度は予想できます。

もし、公法の中に刑法とか民事訴訟法とかが入ってたら「伝統的な二分論の意味での公法だな」と考えればいいし、公法に憲法と行政法だけが入ってたら「そっちかー、そっちの意味の公法かー」と納得しておきましょう。


では、今日はこの辺で。

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