2014年5月30日金曜日

倒産すると会社はどうなるのか?

司法書士の岡川です。

「ホッカイロ」や「ミセスロイド」などの株式会社白元が経営破綻したようです。

ホッカイロ、アイスノンの白元が経営破綻
防虫剤「ミセスロイド」や保冷枕「アイスノン」などを生産、販売する日用品メーカーの白元(本社・東京都台東区)は29日、東京地裁に民事再生法の適用を申請し、受理されたと発表した。

よくニュースなどで「倒産」とか「経営破綻」とかいうことばを聞きますが、結局のところ倒産するとどうなるのか、「破産」とは違うのか、会社は無くなってしまうのか、というあたりがよくわからない方も少なくないと思われます。


「倒産」とは、経済活動を行う主体(個人や会社など)の資金繰りがうまくいかず、弁済期にある債務が返済できなくなるなど、そのまま経済活動を続けていくことが困難な状況をいいます。

事業者のみならず、多重債務によって消費者が借金が返せなくなった状態も「倒産」に含めることができますが、一般的には、会社が経営破綻した場合を倒産ということが多いですね。


さて、「倒産」は、経済的に破綻した状態をいいますので、必ずしも「企業が解散して消えてなくなる」ということを意味しません。
もちろん、借りたお金も返せない状況にある会社をそのまま放置しておくわけにもいきませんので、何らかの倒産処理手続をとる必要があります。

倒産処理手続には、私的整理と法的整理に分かれます。
私的整理とは、債権者との話し合いによって借金を減額してもらったり、返済を猶予してもらったりすることで、経営再建する方法です。

これに対して、法的整理は、裁判所等の関与のもとで、法律に規定された倒産処理手続を行うことをいいます。
マスコミでは、倒産後の影響を考慮して、法的な倒産処理手続に移行した時点で「倒産」という言葉が使われるようです。

法的整理には、いくつかの種類があります。

まず、「清算型手続」として、破産法に基づく「破産」と会社法に基づく「特別清算」があります。
これらは、「これ以上どうしようもないので解散して消えてなくなる」という方式の手続です。
消えてなくなる前に、今ある会社の財産を全て売り払って、債権者に分配することになります。
「破産」というのも、倒産処理の一種ということです。

それから、「再建型手続」として、民事再生法に基づく「民事再生」と会社更生法に基づく「会社更生」、民事調停法に基づく「特定調停」などがあります。
そのまま放置していれば消えてなくなるしかない会社であっても、債権者に債務の免除や猶予などをしてもらったり、新たにスポンサーをつけることによって、会社を再建させる手続です。
返済額が大幅に減額されると債権者としては大損ですが、そのまま放っておけば、破産してしまって回収できる額が少なくなる可能性があります。
したがって、少しでも返してもらって会社を再建してもらった方がマシ、ということになるわけです。


ということで、今回の白元の経営破綻は、民事再生手続の申立てを行ったもので、破産したわけではありませんので、直ちに白元が無くなるわけではない、ということですね。

(追記)
という記事を書いた後で、和菓子の駿河屋が民事再生を断念して破産手続に移行するとのニュースが。
この場合、解散して会社が消滅することになります。

倒産のニュースが相次いでいますね。

では、今日はこの辺で。


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2014年5月29日木曜日

消費者法を意識しましょう

司法書士の岡川です。

日本における私法上の法律関係については、「私的自治の原則」が存在します。
すなわち、「私法上の法律関係において、各人は自らの自由意思にのみ基づいて自律的に法律関係を形成しうる」というのが原則です。

したがって、ある契約内容で当事者同士が合意が成立したとすれば、その合意は基本的には法的に有効なものとして、当事者を法的に拘束することになります。

しかし、原則には例外があるのは、このブログでも繰り返しているとおりで、私的自治に関しては、特に「消費者」を保護するための色々な例外が存在しています。
つまり、消費者に不利な契約条項は、たとえ同意して署名したとしても無効になったり、無条件で取り消せたりすることがあります。

このうような、消費者保護のための法制度ないし法分野を「消費者法」といいます。
具体的な消費者法としては、消費者契約法、特定商取引法、割賦販売法、景品表示法などなど、ニュースなどでも耳にする法律が存在します。

一般の消費者は、これらの法律で「守られる側」なので、何かトラブルになったときの武器として使えればよいのですが、事業者側も、契約書を作るとき等、消費者法のことを意識しておくことが大切です。
取引関係では、事業者側が優位にあるとしても、法的には、消費者にはかなり強力な武器が用意されているので、トラブルになれば事業者側が不利になることも少なくありません。

具体的にどういう契約をしてはいけないのかについては、またこのブログでも取り上げていこうと思いますが、とにかく、そういうもの(消費者法)があるということだけは、常に念頭に置いておきましょう。

事業者と消費者、ウィンウィンの関係が築けるとよいですね。

では、今日はこの辺で。


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2014年5月28日水曜日

Windows8.1でスリープ状態にならない問題

司法書士の岡川です。

Windows8からwindows8.1にアップグレードした場合、スリープ機能に次のような不具合が発生しているようです。

1.勝手にスリープ状態が解除されている
2.スリープ状態になる設定が機能しない

私がいつも持ち歩いているノートパソコン(NECのLavieZ)も同じで、特に最近、電源が入りっ放しのままになってしまっていることがあり、カバンの中に熱がこもっていたり、いざ使おうとするとバッテリがすっからかんになっていることが頻繁に起こっていました。

毎回シャットダウンしていれば問題ないのですが、スリープの方が何かと便利です。

ネット上には色々な解決方法が示されていますが、環境によっては解決する方としない方がいるようです。


まず、勝手にスリープ状態が解除されているという問題については、どうやら「自動メンテナンス」が問題のようです。
この機能により、夜中(3時~5時ごろ)に、自動メンテナンスのためにスリープが解除されるようです。
解除されても、自動的にまたスリープに戻れば問題ないのですが、自動的にスリープに移行しない問題も同時に発生しているため、そのまま朝まで電源入りっ放しになるわけです。

そこで、夜中の自動メンテナンスでスリープ状態を解除させないために設定変更をします。

[コントロールパネル]→[コンピューターの状態を確認]

を開き、「メンテナンス」をクリックして、「自動メンテナンス」項目の[メンテナンス設定の変更]を開きます。
そこで、「スケジュールされたメンテナンスによるコンピューターのスリープ解除を許可する」のチェックを外せば完了です。


次に、自動的にスリープになる設定が機能しない問題については、「ホームグループに参加」という設定になっていると機能しないようです。
しかし、私の環境ではそもそもホームグループには参加できない設定になっているにもかかわらず、スリープになりません。

困った…。

そもそも、自動的にスリープになる設定としては、

・カバーを閉じたときにスリープになる
・一定の時間が経過するとスリープになる

の2通りがあります。
私のパソコンでは、そのどちらも機能しなくなっています。


まず、電源プランの設定として、「カバーを閉じたときの動作」を見てみると、全て「スリープ状態」になっています。

ところが、

[プラン設定の変更]→[詳細な電源設定の変更]

から[電源オプション]ダイアログを開いてみたところ、「電源ボタンとカバー」項目の「カバーを閉じたときの動作」が「何もしない」になっていました。

同じ設定項目なので、通常は連動するはずなのですが、どうやら「プラン設定の変更」で変更してもここに反映されないようです。
(逆に、[電源オプション]ダイアログから設定を変更すれば、電源プランの設定も連動して変更されます。)

ということで、ここを「スリープ状態」に変更してからカバーを閉じてみると、スリープ状態になりました。


ただ、相変わらず、時間経過によってスリープ状態に移行する機能だけは、どこの設定をいじってもうまくいきません。
うーむ…。

とりあえずは、上記の設定変更で、カバーを閉じればスリープになるようになったので、「カバンの中で電源が入りっ放し」という最悪の状況だけは回避できるようになりましたが…。


windows8.1にアップデートされたときにインストールされた何かが邪魔してるんだろうけど…。

情報求む!


では、今日はこの辺で。

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2014年5月27日火曜日

誤振込みされたお金を引き出すとどうなるか

司法書士の岡川です

刑法の教科書なんかでも出てくる事例なのですが、自分の口座に誤って振り込まれた金を(間違いであるとわかっていながら)引き出すとどうなるでしょうか?



誤振り込みの金引き出す、詐欺容疑で女逮捕へ

女は誤って振り込まれた現金と知りながら、銀行の支店でおよそ2700万円を引き出し、だまし取った疑いが持たれています。

答え:捕まります。


誤振込みされたものであっても、自分の口座に入っている以上、口座名義人は銀行との間では預金債権を取得します。
口座に入っているお金は、払い戻しには応じるというのが銀行との預金契約だからです。

とはいえ、正当な理由のないお金なので、返せと言われたら返さなければならないもの(不当利得)であり、誤振込みをした人からの申し出があれば、振り込んだ金額を、口座名義人が引き出す前に元に戻すことも可能(「組戻し」といいます)です。
つまり、口座名義人から払い戻しを求められたら払い戻さざるを得ないけども、払い戻さないでいてくれた方が(かつ、「誤振込みですよ」と教えてもらったほうが)、銀行としては後の処理も円滑に可能だし、紛争を回避することができるので、ありがたいわけです。

そこで、間違いであることがわかっているのであれば、銀行に「間違ってますよ。組戻ししてあげてください」と告げるべき信義則上の義務が生じるとされます。
ましてや、しれっと引き出すことは許されないということになります。

そうすると、告知義務に反して、誤振込み(組戻しすべきもの)と分かっていながら、何も告げずに金を引き出すことは、銀行を騙す行為(「誤振込みではない」と誤解させる行為)と評価されて「銀行に対する詐欺罪」が成立することになります。
もし、銀行員を騙すのではなく、ATMからキャッシュカードで引き出したら、窃盗罪になります。


そもそも、こういう細かい法律構成を考えなくても、間違って自分の手元に入った財産が自分のものにならないことは、常識的にわかるはずです。
友人が自分の家に財布を置き忘れていったからといって、財布の中身が自分のお金になるわけがありません。


「勝手に振り込んでおきながら、詐欺ってのは酷くないか?」という感想を持った方もいるかもしれませんが、これは、上記の通り「銀行に対する詐欺」なのです。
(間違って)勝手に振り込んだカード会社に対する詐欺ではありません。


ちなみに、誤振込みではなく、「意図的に」勝手に振り込んで、高金利で返還請求してくる「押し貸し」というヤミ金の手法もありますので、どっちにしても、身に覚えのない振込みには手を付けず、きちんと銀行に告げた方が色んな意味で身のためです。

加害者にも被害者にもならないよう気を付けましょう。

では、今日はこの辺で。

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2014年5月26日月曜日

法律行為について

司法書士の岡川です。


民法等の私法関係における基本的な概念として、「法律行為」というものがあります。

法律行為とは、意思表示を主たる要素とする私法上の法律要件のことをいいます。
法律要件とは、一定の法律効果を発生させる事実をいいます。

つまり、意思表示を要素として、一定の法律効果を発生させる事実が法律行為です。


伝統的に、法律行為は大きく分けて3種類に分類されます。

まず、一番わかり易いのが契約(双方行為)ですね。

契約は、売主と買主、賃貸人と賃借人のような、複数の相対立する当事者の意思の合致によって成立する法律行為です。
意思の合致が要件なので、買主が一方的に「これを買いたい」と思って「売ってくれ」と意思表示(申し込み)をしても、売主が「売ってやろう」と意思表示(承諾)をしなければ、成立しません。


それから、当事者が1人でもできる法律行為があり、これを「単独行為」といいます。
単独行為の代表的なものは遺言ですね。

遺言は、一方的に遺言書に書いておけば、(それが適法である限り)それだけで成立する法律行為です。
遺言により財産を取得する者(受贈者)は、放棄するかどうかを決めることはできますが、遺言の成否自体は、遺言者の意思のみにかかっています。

あるいは、一定の要件を満たした場合に、解除や取消しをする場合、これも単独行為になるので、一方的な意思表示によって効果を生じさせることができます。


あまり馴染みがないのが、3つめの類型「合同行為」です。
これは、契約と同じく、複数の意思表示が要素となるのですが、契約と違って、相対立する意思表示(「売る」⇔「買う」のようなもの)ではなく、意思表示が同じ方向を向いているものをいいます。

具体的には、法人の設立行為のようなものです。


これに対し、意思表示を要素としない行為を事実行為といいます。
「事実行為」といった場合、法律効果を生じさせるものを指す場合もあれば、そうでないものを含めていう場合もあるようです。

法律行為と事実行為の違いは、例えば、成年後見人の職務範囲などに関わってきます。
成年後見人は、判断能力の低下した被後見人の代わりに法律行為を行うことをその職務としています。
したがって、直接的な介護とか医療行為などの事実行為(これらは法律効果を発生させない行為です)は、後見人の職務の範囲外であるとされます。

これに対し、実際に介護をするヘルパーとの契約などは、後見人の職務となります。


では、今日はこの辺で。

→「法律行為入門」も参照

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2014年5月22日木曜日

成年後見の申立てにかかる時間

司法書士の岡川です。

以前書いた「成年後見の申立てにかかる費用」という記事が結構人気なのですが、もうひとつ、「成年後見制度を考えてるんだけど、どれくらいの時間がかかるの?」という疑問もあるようです。

というわけで、今日はその疑問にお答えしましょう。

ただし、費用以上に、時間というのはケースによってかなり異なってきます。
また、管轄の裁判所によっても運用が異なります。
あくまでも、流れを把握する目安とお考えください。

なお、ここで書くのは大阪家庭裁判所(本庁)の運用を基にしています。


申立てまでの流れは、「成年後見制度を利用するには」で書いたとおりです。

まず、診断書を書いてもらうためのお医者さん探しです。

診断書を書いてくれる医者と書いてくれない医者がいるので、注意が必要です(特に、精神科や心療内科以外の医者は書いてくれないことも多いです)。
成年後見業務を行っている司法書士等であれば、どういう医者に書いてもらうとよいか、どのように書いてもらうか、といった情報も持っているので、かかりつけの医者が書いてくれないような場合は、相談してみるとよいでしょう。

かかりつけの医者が診断書を書いてくれない場合は、診断書を書いてくれる医者探しと、その病院での診察に数日~数週間程度かかるかもしれません。
その後、診断書を書いてもらうのに1週間~2週間程度をみておきましょう。

その間に、申立人等と打ち合わせをしたり、本人の財産調査をやったり、本人や関係者から事情を聴き取ったり、親族の意向を確認したりします。
本人の財産が少なく、親族も関係者も身近ですぐに話ができるようなら、これもすぐに終わりますが、どこにどんな財産があるか明らかでなかったり、打ち合わせの日程次第では、1か月~数か月程度かかるかもしれません。

そうこうしているうちに、診断書が出来上がってくるでしょうから、それを見て、申立て可能かどうか判断します。
基本的には、医者が「後見・保佐・補助」いずれかに該当すると診断していればそのまま手続きを進めますし、逆に「この人はどれにも該当しない」と書かれていれば、他の方法(任意後見契約等)を再検討することになります。
まあ、「医者が何と言おうが申立てする」というのもできなくはないですが、時間と費用と労力の無駄になる可能性も高いので、司法書士等と十分に相談しておきましょう。


資料がそろって事情が把握できれば、必要書類の作成にとりかかります。
その間に、家庭裁判所に申立ての予約をいれます。
すいている時期であれば、2~3週間後くらいにできますが、混んでいるときや申立人の都合次第で、1か月~1か月半後くらいになります。

その間に、申立人と連絡を取りあいながら、司法書士がせっせと書類を作成します。


申立ての日は、申立人と本人と司法書士が家庭裁判所に出向いて、家庭裁判所職員(参与員や調査官)と面談をします。

何もなければ、とりあえずこれで申立手続は終了です。

そこから、裁判官が「後見開始の審判」をします。
これは裁判所が勝手にやってくるので、申立人は家で待っているだけです。

特に複雑でなければ、申立てから1週間~2週間くらいでしょうか。
場合によっては1~2か月くらいかかることもあるようです。

審判があれば、審判書という書面が届きます。
審判の日から1週間くらいで届くはずです。

後見人にこの審判書が届いて2週間が経過すれば、その審判が確定します。

この段階で、ようやく後見人が正式に就任することになります。


というわけで、制度利用を決めたときから後見人の就任までは、なんやかんやで、3~4か月くらいをみておくとよいでしょう。
長いと思われるかもしれませんが、成年後見制度は、今後一生の付き合いになることを考えれば、この3~4か月というのは決して長い期間ではありません。
もし自身が後見人に就任する予定であれば、この間に十分準備をしておく必要があります。

なお、速やかに本人の財産を保全する必要があるなど、緊急に対応すべき事情がある場合は、そのための「審判前の保全処分」という制度もあります。
事情がある場合は、司法書士等に相談しながら進めましょう。

では、今日はこの辺で。

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成年後見シリーズ
第1回「成年後見制度入門
第2回「法定後見の類型
第3回「任意後見契約について
第4回「後見終了後の問題
第5回「後見人には誰がなるか?
第6回「成年後見制度を利用するには?
番外編「成年後見の申立てにかかる費用
番外編2「成年後見の申立てにかかる時間」 ← いまここ

(このほかにも、成年後見についての記事はありますので、右上の検索窓で検索してみてください)

2014年5月20日火曜日

「自動車運転死傷行為処罰法」が今日から施行

司法書士の岡川です。

以前、「悪質運転の厳罰化」という記事を書きましたが、その「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」が今日(平成26年5月20日)から施行されます。

そして、過失運転致死傷罪(従来の自動車運転過失致死傷罪)と危険運転致死傷罪の中間類型の犯罪について、一部が政令で定められることになっていましたが、この政令も同時に施行されます(政令→「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律施行令」PDF注意)。

その中で、「自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気」として、
  • 統合失調症
  • てんかん
  • 再発性の失神
  • 低血糖症
  • そう鬱病
  • 睡眠障害
の6つが規定されました。
いずれも、「~のような症状の○○」といった限定が付されていますが、これらの持病を持っている方は注意が必要です。

新設された中間類型のみならず、従来の犯罪類型についても重罰化されています(詳細は、以前の記事参照)ので、日本各地の悪質ドライバーの皆様におかれましては、この機に心を入れ替えていただきたく。

それにしても、この長ったらしい名前の法律ですが、略称は「自動車運転死傷行為処罰法」ってことでいいんでしょうかね?


では、今日はこの辺で。

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2014年5月19日月曜日

葬儀関係費(交通事故の損害各論)

司法書士の岡川です。

交通事故の損害項目の各論第3弾です。

交通事故被害者が死亡した場合も、遺族が損害賠償を請求することが可能です(前回の記事参照)。

このとき、被害者の葬儀費用を損害として請求することは可能か、という議論があります。
何故これが議論になるかというと、人は交通事故に遭わなくてもいつか必ず死ぬので、遅かれ早かれ葬儀費用は必要になるからです。

そう考えると、葬儀費用は「交通事故による損害」とはいえないような気もしますが、判例・実務は、これを損害として認める扱いになっています。
なお、損害額として認められるのは上限150万円程度で、実際に支出した額がそれ以下だと、実際の支出額というふうにほぼ定額化されています。
さらに、墓石代や仏壇購入費なども損害として認められることがあります。


なぜこれらの費用が「交通事故による損害」になるのか、理屈の上では理解しがたいところです。
例えば、一種の慰謝料的な意味が含まれている、というふうに一応説明されることもありますが、それなら端的に慰謝料に含めればよいので、あまり説得的ではありません。

結局のところ、この辺はもう理屈じゃない部分なのでしょうね。


では、今日はこの辺で。

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交通事故の損害シリーズ
1.交通事故による損害
2.交通事故による損害の分類
3.交通事故の損害項目
4.治療関係費(交通事故の損害各論)
5.入通院の費用(交通事故の損害各論)
6.葬儀関係費(交通事故の損害各論) ← いまここ
7.休業損害(交通事故の損害各論)
8.交通事故の慰謝料(交通事故の損害各論)
9.逸失利益(交通事故の損害各論) 

2014年5月16日金曜日

交通事故の損害賠償は誰が誰に請求するのか

司法書士の岡川です。

交通事故において、被害者に損害賠償請求権が発生し、それを加害者に請求できることは、今までに何度かご紹介してきました(→参照「交通事故による損害」)。
もっとも単純な事例においては、怪我をした人が怪我をさせた人に請求することになりますので、直観的にもわかり易いですね。

ただし、交通事故でも色々なパターンがあります。

尼崎の飲酒運転死亡事故 親族への賠償請求を棄却 地裁
2007年に尼崎市で3人が死亡した飲酒運転事故で、遺族3人が、ワゴン車を運転していた元建築業の男性(56)=危険運転致死罪で懲役23年の判決が確定、服役中=の親族に対し、約3600万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が15日、神戸地裁尼崎支部であり、大西忠重裁判長は原告の請求を棄却した。

この事件は、死亡した人の遺族が、死亡させた人の親族を訴えたものです。
結果的に請求は棄却されましたが、このように事故の直接の当事者(ぶつけた人とぶつかった人)以外が、事件の当事者になることがあります。


1.請求するのは誰か

人身事故によって死傷した人が請求権を有することは当然です。

物損事故の場合、必ずしも「車を運転していた人」が被害者とは限りません。
例えば、車を知人に貸していた時にぶつけられた場合、運転していた知人の治療費などはその知人が請求できますが、車の修理代などの物損の損害賠償請求権者は、基本的には自動車の所有者です。

では、例えば、被害者が死亡した場合、どうなるでしょうか。
交通事故で死亡すると、「生命」という、人にとって最大の利益を侵害されたわけですから、大きな損害を被っていることはいうまでもありません(具体的な損害費目とその算定については、後日ご紹介します)。
しかし、どう頑張っても、本人は請求しようがありません。
そこで、交通事故で亡くなった方の相続人が、損害賠償請求権を相続して加害者に請求することになります。
上記事件でも、遺族が原告となって訴訟提起していますね。

また、特に死亡案件では、相続人以外にも一定範囲の親族等には、独自の損害(慰謝料や逸失利益等)が認められることもあります。
親族が亡くなった場合に被る精神的苦痛などです。
その場合は、その人自身が被害者として、加害者に請求することができる場合もあります。

死亡した場合に限らず、交通事故で死傷した被害者が、未成年者や成年被後見人だった場合は、損害賠償を実際に請求するのは、それらの法定代理人である親権者や成年後見人になります。

また、少し複雑になりますが、被害者が加入している保険会社が相手方に請求することもあります(→参照「自転車事故で保険会社に損害賠償?」)。


2.請求されるのは誰か

民法の原則からいえば、基本的には、実際に車を運転して他人に損害を与えた人を訴えることが可能です。
もっとも、運転していたのが未成年者だったりすれば、その親権者を法定代理人として訴えることになります。

ただし、自賠法ではもっと責任の範囲が拡大されていまして、自賠法上の責任を負うのは、「自己のために自動車を運行の用に供する者」(運行供用者)です。
つまり、「運行供用者」に対して請求すればよいのです(運行供用者責任)。

この運行供用者というのは、車の運転者よりかなり広い概念です。
運転者の他に、例えば、仕事中に会社の車でぶつかってきた場合はその会社、他人に借りた車でぶつかってきた場合は車の持ち主などが、運行供用者になることがあります。

もっとも、盗んだバイクで走り出した15歳の加害者が事故を起こした場合、盗まれたバイクの持ち主は、バイクをきちんと管理をしていたのであれば、運行供用者にはなりません。


民法上も、直接の加害者以外に責任を負う者がいます。

事業の執行について他人に損害を与えた(要するに仕事中に事故を起こした)場合、使用者(事業主)が責任を負います(民法715条)。
この場合は、上記の通り運行供用者でもあります。

特殊な事例としては、10歳くらいの子供が車で事故を起こせば、その親権者が監督者義務者として責任を負います(民法714条)。
10歳の子が自動車を運転することはないにしても、自転車の場合はあり得ます。

また、危険な運転(飲酒運転)を止めるべき人が止めなかったために事故が起きたとしたら、止めなかった人も不法行為責任を負うことがあります。
前掲の裁判で、訴えられた側の親族というのは、これですね。


こんな感じで、誰が誰をどういう根拠で訴えるか、というのは、事案によって様々なのです。

では、今日はこの辺で。

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2014年5月15日木曜日

水道汚染罪

司法書士の岡川です。

水道に使われる水を汚すことが悪いことだというのは、少し考えればわかることだと思いますが、当然犯罪です。

「泳ごう」と水道用貯水槽にボート浮かべた少年
兵庫県宝塚市の水道水用の貯水槽で昨年5月、レジャー用ボートが見つかった問題で、宝塚署は14日、同市の無職少年(17)を建造物侵入と水道汚染の疑いで逮捕した。

水道汚染罪は6月以上7年以下の懲役ですので、これは、過失運転致死傷罪(昔でいうところの自動車運転過失致死傷罪、さらに昔でいうところの業務上過失致死傷罪)よりちょっと重いくらいの罪です。
まあまあの重罪ですね。
建造物侵入と合わせれば、最高で懲役10年です。

多くの人が口にする可能性のある水を汚染すると、多大な健康被害をもたらす危険がありますので、厳しく禁じられているわけです。

条文上「使用することができないようにした」ことが求められていますが、これは、水質が基準値を下回るところまで汚染する必要はなくて、生理的・心理的に使用できなくなるような場合も含みます。
例えば、大きな貯水槽に誰かが放尿したところで、水質のレベルとしては全く問題ないでしょうが、この場合も「使用することができない」に該当すると解されています。

一般的に、人が泳いだ水を飲料水にするのも躊躇われるでしょうから、同罪が成立するものと考えられます。


水道汚染罪は、マイナーな犯罪類型ではありますが、常識的に考えてダメなものは、だいたい法律でもダメなものです。

では、今日はこの辺で。


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2014年5月13日火曜日

色々な裁判所

司法書士の岡川です。

司法書士の主な活躍の場は、法務局と裁判所です。
ということで、今更ですが、今日は日本の裁判所の種類をご紹介。

日本の裁判所には、最高裁判所と下級裁判所があります。
日本国憲法では、司法権は最高裁判所と下級裁判所に属すると規定しています(憲法76条)。

最高裁判所は、全国で一ヶ所だけ、東京都にあります。

「下級裁判所」とは何かということは憲法には書いておらず、「法律の定めるところにより設置する」とあります。
つまり、「下級裁判所」については、憲法ではなく法律で定められているのです。

意外ですか?そうでもないですか?


で、その法律というのは「裁判所法」と「下級裁判所の設立及び管轄区域に関する法律」です。

裁判所法では、下級裁判所として、高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所、簡易裁判所について定めています。

高等裁判所は、全国に8か所(東京、大阪、名古屋、広島、福岡、仙台、札幌、高松)におかれています。
主に地方裁判所の第一審判決や、家庭裁判所の判決、刑事事件の判決に対する控訴審(第二審)を担当する裁判所です。
地裁の判決に不満があれば、高裁に行くのです。

その他にも、特殊な事件では第一審の裁判所になることもあります(特許庁の審決取消訴訟とか)。

高裁よりさらに下には、地方裁判所があります。
地方裁判所は、46都府県に1か所ずつ、北海道に4か所(札幌、函館、旭川、釧路)の、合計50か所設置されています。
大阪では大阪地方裁判所ですね。

多くの事件の第一審を担当する裁判所で、それなりの大きな事件(何百万、何千万)で誰かを訴える場合は、基本的には地方裁判所に訴えることになります。
それから、刑事訴訟も基本的には地方裁判所から始まりますね。


ちょっと特殊なのが、家庭裁判所。
これは、争いとなっている金額の多寡に関わらず、家事事件を一手に引き受ける裁判所です。
遺産分割調停などの調停事件や、成年後見開始の審判事件、離婚訴訟事件など、家族関係のことやら身分関係のことなどが持ち込まれます。
また、少年法に基づく少年審判についても担当します。

家庭裁判所は、地方裁判所と同じ数だけ、全国に50か所設置されていますが、地方裁判所と家庭裁判所は、同じ場所にあるわけではありません(大阪では、地方裁判所は淀屋橋とか北浜のあたりですが、家庭裁判所は谷町四丁目にあります)。


最後に、簡易裁判所というものがあります。
全国になんと438か所もあります。
大阪では、大阪高等裁判所、大阪地方裁判所、大阪簡易裁判所が同じ庁舎内に入っていますが、それだけではなく、大阪府下に合計12か所あります。
高槻市に一番近いところでは、茨木市にある茨木簡易裁判所ですね。

簡易裁判所は、主に少額な民事事件や軽微な刑事事件を担当しています。
少額といっても、「140万円以下」なので、なかなかの大金です。
暮らしの中で出くわすトラブルの多くが、簡易裁判所の管轄になります。

刑事事件については、罰金刑が科されるような事件なので、軽微といえば軽微なのですが、暴行や交通事故(過失運転致死傷罪)であっても、簡易裁判所管轄になります。


なお、司法書士は、これらの裁判所に提出する書類作成を仕事としているので、本人訴訟・手続支援として、どの裁判所にもお邪魔する機会はあるのですが(さすがに最高裁はレアでしょうが)、中でも簡易裁判所にお世話になることが多いです。
司法書士(のうち、法務大臣の認定を受けた者)は、簡易裁判所における民事事件で代理人になれるからです。
平たくいえば、「法廷に立つ」ことが認められているということです。


「訴訟代理人は弁護士に限る」とする民事訴訟法の例外ですね。

あと、最近では、やはり成年後見関係で、家庭裁判所に顔を出すことも多いですね。



裁判所では、訴訟(いわゆる「裁判」と聞いてイメージするアレ)だけではなく、色んな手続が行われています。
裁判所見学は自由にできますし、法廷傍聴も出入り自由ですので、平日暇なときは、お近くの裁判所でも遊びにいってはいかが?

(注:本当に庁舎内で「遊ぶ」と追い出されるでしょうけど)

では、今日はこの辺で。


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2014年5月12日月曜日

「命令」いろいろ

司法書士の岡川です。

実は「『裁判』の意味」と「色々な法形式」という、別のことを扱った記事の両方に出てきた用語があるのですが、お気づきでしょうか。

「命令」という語です。
法律用語としての「命令」は、色んな意味をもっています。

既にご紹介したところでは、まず、「裁判」の形式のひとつで、(裁判所ではなく)裁判官がする判断である点で、「判決」や「決定」と異なります。
裁判のうち、「○○命令」という名前が付いていても、定義上は「命令」ではないものもたくさんあることも紹介しました(例えば、「差押命令」とか「損害賠償命令」とかは命令ではありません)。

それから、法形式のひとつで、行政機関により制定される法規範をいいます。
一般的には、国の行政機関が制定する政令や府省令、外局の規則などを指しますが、知事や市町村長が制定する規則も含め、およそ行政機関が制定する法を「命令」という場合もあります。


これらは、法規範や裁判の形式で、一般的にイメージされる「命令」とは少し違うかもしれません。


実は、命令っぽい「命令」もありまして、行政法における概念として、行政処分のうち国民に作為または不作為義務を課すものを「命令的行為」といいます。
よくニュースなどで出てくる「業務改善命令」なんかは、この意味での命令ですね。

公務員法上は、上司から部下への命令というのもありますが、これも命令っぽい命令ですね。


法律の話をしているときに「命令」というと、法形式や裁判形式のこと(つまり、命令っぽくない命令)を指すことが多いので、気をつけましょう。

では、今日はこの辺で。

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2014年5月9日金曜日

上位法と下位法

司法書士の岡川です。

前回は、様々な法形式を紹介しました。
これに関連して、重要な原理をあわせて紹介しておきましょう。

異なる形式の法令の中には、上位の法規範(上位法)と下位の法規範(下位法)があり、法秩序は、それらの法規範が憲法を頂点とした階層構造をしています。
すなわち、「憲法」が頂点にあり、その下に「法律」があり、さらにその下に「命令」がある、という具合です。
憲法と法律では憲法が上位法で法律が下位法、法律と命令では法律が上位法で命令が下位法になります。

そして、下位法は、上位法を根拠としてのみ効力を有するとされています(法段階説)。
つまり、異なる形式の法令相互に矛盾がある場合、上位法が下位法に優先することになります。

これを、「形式的効力の原理」といい、「上位法は下位法を破る」というふうに表現されます。

何らかの法律が日本国憲法に違反すると、その法律が無効となるのは、上位法である日本国憲法が下位法である法律に優先するからです。


では、それぞれの法形式の上下関係はどうなっているのか、個別にみていきましょう。

国内法の中で、「憲法」が最上位であることは、異論ありません。
そしてその次に「法律」がきます。

「法律」の下には「命令」がありますが、命令にも色々あります。

命令の中の優先順位では、政令が上位で、府省令がその一段下にあります。
また、外局の規則や庁令に対しては、上位機関の府省令が優先するとされます。


法律と最高裁判所規則では、一般的には法律が上位だと考えられています。

議院規則と法律との関係は、特に国会法との間の優劣が問題となります。
議院規則が優先するという説も有力ですが、一般的には法律が優先すると考えられています。

最高裁判所規則と議院規則では、そもそも所管事項が異なるので(それぞれが、司法機関・立法機関の内部を規律する法なので)、どっちが上位か下位かという問題にはならないと思われます。
その意味では、「同等」ということになるのでしょうか(政令と同等?)。

条例は、国の行政機関が定める命令(政令や府省令など)より下位になります。
地方公共団体の規則は、さらにその下位です。


まとめると、

憲法>法律>政令>省令>庁令>条例>地方公共団体の規則

という具合になります(裁判所・議院規則は別系統ということで省略)。

上位法と下位法の優先順位は、特別法と一般法の優先順位と同じく、基本的なルールですので、覚えておきましょう。


では、今日はこの辺で。

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2014年5月8日木曜日

色々な法形式

司法書士の岡川です。

国家権力を背景に、強制力を伴う規範を総称して「法」とか「法規範」といいます。
代表的な法は「法律」ですが、法律以外にも法が存在します。

日本における現行の法形式をご紹介しましょう。
まずは、国の機関が定める法形式から。

1.憲法

「憲法」というのは、国家の最高法規で、他のあらゆる形式の法令に優先します。

この「憲法」という形式の法は、日本においては日本国憲法しかありません。
日本国憲法は、法律と違って制定や改正に特別の手続が必要で、国民投票で改正されます。


2.法律

国会で制定される法です。
日本国憲法において、国会が唯一の立法機関であると定められていますが、この「法律」を制定することができるのが国会だけであることを意味します。

民法も刑法も会社法も司法書士法も、全てこの意味での「法律」です。
基本的に「○○法」とか「○○に関する法律」という名前が付けられます。


3.命令

行政機関が制定する法を総称して「命令」といいます。
「命令」という語は多義的なので、その辺はまた後日書くとして、ここでの命令は「○○しろ」といった命令ではなくて、法形式としての命令です。
命令は行政機関の立法であることから、法律の委任がなければ罰則を付すことができない等の制限があります(→罪刑法定主義の派生原則その1「法律主義」)。

国法の形式としての命令には、次のようなものがあります。

(1)政令

内閣が制定する命令です(制定するのは、内閣総理大臣でも内閣府でもありません)。
具体的には、閣議で決定されます。

「○○法施行令」とか「○○に関する政令」のような名前が付けられます。

(2)省令

各省大臣が制定する命令です。
法務大臣が制定するものが「法務省令」で、総務大臣が制定するものが「総務省令」と呼ばれます。

なお、内閣府の所管の大臣として内閣総理大臣が制定する法は「内閣府令」といいます。
「省」ではないのですが、効力としては同格なので、両者を合わせて「府省令」ということもあります。

また、かなり特殊な例ですが、東日本大震災の後に「復興庁」という行政機関が設置されており、内閣総理大臣が復興庁の命令として「復興庁令」を制定することもできます。
これも、省令と同格です。

省令は、「○○法施行規則」とか「○○に関する省令」のような名前が付けられます。

(3)その他

特殊な行政機関(会計検査院や人事院)や、各省の外局(金融庁とか公正取引委員会)が制定する命令も存在します。
人事院規則とか、金融庁令とか、公正取引委員会規則といったものです。
庁令は、正確にいうと長官が制定します。


4.議院規則

国会ではなく、衆議院や参議院が、内部の規律のために制定する法として、独自に議院規則を制定することができます。


5.最高裁判所規則

最高裁判所が、裁判手続の細目を定めたり、裁判所内部の規律のために制定する法として最高裁判所規則があります。
刑事訴訟規則とか民事執行規則とかですね。


ここまでが、国の機関が定める法形式。
このほか、地方公共団体で制定される法もあります。

6.条例

地方公共団体の議会で制定される法です。
大阪府の条例であったり、高槻市の条例であったり、都道府県市区町村議会が制定するものです。


7.(地方公共団体の)規則

内閣や省庁が命令を制定できるように、地方公共団体の行政機関である知事や市長なども法を制定できます。
地方公共団体の長が制定する法を「規則」といいます。

「規則」という語も多義的ですが、地方公共団体の規則は、知事や市長が制定する法形式なのです。



かつては、天皇が制定する「勅令」や、太政官が制定する「太政官布告」なども存在しましたが、今では廃止されています。

実は今でも効力を有するものはいくつかありますが、効力としては、現行の法形式に改められています。
例えば有名どころでは、刑法典より古い刑法である「爆発物取締罰則」というのは、制定時の法形式としては太政官布告(明治17年太政官布告第32号)です。
最近でもオウム真理教の事件などで適用されている現行の法ですが、効力としては「法律」なので、改正も国会で行うことができます。

ちなみに、司法書士が日本の法制史上初めて登場した明治5年の「司法職務定制」という法は、「太政官達」という太政官が制定する法形式です。


なお、「法令」という語は、基本的には「法律と命令」の略なのですが、それ以外の法形式(憲法とか条例とかも)を含めて指す場合もあります。


ここまで細かい知識は、日常生活で問題になることはあまりないでしょうが、「法律以外にも色々ある」ことくらいは覚えておくとよいかもしれません。

では、今日はこの辺で。

→それぞれの優劣については「上位法と下位法

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2014年5月7日水曜日

「審判」いろいろ

司法書士の岡川です。

「審判」といえば、一般的にはスポーツなどで判定を行う人のことを指すと思いますが、法律用語としての審判は、もちろんそれとは異なります。
そして、法律用語としての審判には色んな意味があります。

まず、行政機関が裁判手続に準じる手続(準司法手続)に基づいて法令を適用して決定を行う手続です。
これは、「行政審判」といわれます。

特許庁で行われる特許無効審判などの審判や、海難審判所で行われる海難審判などがこれに該当します。
公正取引委員会も独禁法に基づく審判手続を行っているのですが、この制度はもうすぐ廃止されます(改正独禁法が成立しており、これが施行されたら廃止です)。

なお、行政審判における行政機関の判断は、形式的には裁判所が行う「裁判」ではないため、個別の法律の規定に従って「審決」や「裁決」などとよばれます。
これらも実質的意義においては「裁判」に含めることもできるのですが、「行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。」という憲法76条の制約により、行政審判の結果に不服がある場合は、司法機関である裁判所へ出訴する道が残されています。


それから、家事事件手続法に基づく家事審判の手続において、家庭裁判所がする判断も「審判」といいます。
こちらの「審判」は、「裁判」といえるものとそうでもないものが含まれています。

家庭裁判所が行う審判としては、少年法に基づく少年審判も「審判」といいます。
ただし、少年法での「審判」は家事審判とは異なり、家庭裁判所で行われる少年事件の審理手続のことを「審判」といい、少年審判における裁判所の判断自体は、「決定」という裁判形式でなされます。


通常の訴訟手続においても「審判」という語が使われることがあります。
この場合の「審判」とは、「審理と裁判」のことです。
つまり、手続全体を「審判」といいます。

(追記)
そうそう、忘れていました。
労働審判というのもありました。
労働問題に関して、労働審判法に基づいて行われる審判で、訴訟よりも簡易な審理(労働審判手続)を経て「労働審判」がされます。
ここでの「審判」は、家事審判と同じく裁判所の判断の意味です。(追記以上)


このように「審判」という語は、手続のことを指したり、行政機関や司法機関の判断のことを指したり、その全体を指したり・・・と、分野によって色んな意味で使われるのです。

ややこしいですね。


では、今日はこの辺で。

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2014年5月3日土曜日

高槻ジャズストリート2014

司法書士の岡川です。

私の地元、大阪府高槻市では、今日と明日は「高槻ジャズストリート」の日です。
今年で16回目になる、そこそこ大規模な音楽イベントで、駅前を中心に 劇場やら路上やら学校やら百貨店の上やら店の中やら、あちこちで音楽の演奏が行われています。

「ジャズストリート」っていうけど、音楽ジャンルは別にジャズに限らないみたいですね。
昼間から夜まで色んな音楽が聞こえてくる賑やかな日です。
ボランティアで運営されていて、もちろんタダで楽しめます(店内でやってるのとかは、お金必要なのかな)。


私は全く関与してませんけど、地元のイベントなのでご紹介しました。
お暇があれば是非~。

では、今日はこの辺で。

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2014年5月2日金曜日

ADRとは何か?

司法書士の岡川です。

前回、「裁判」について書きましたので、今日は「裁判以外」について書きます。

民事上の紛争が起こったとき、それを解決する手段としては、「当事者同士で交渉する」か「第三者に介入してもらう」の2通りあります。

「当事者同士で交渉する」(司法書士や弁護士を代理人として行う場合もありますが)方法は、任意交渉とか和解交渉とか示談交渉とかいいますね。
それで解決すれば時間も労力も節約できてよいのですが、交渉が決裂したり、そもそも相手が交渉の場に出てこなかったりすれば、第三者を通じた解決をしなければいけません。

第三者が介入する手続として代表的なのが「民事訴訟」です。
日本の(というか、近代法の)民事紛争解決手続として、中心に据えられているのが訴訟手続です。
これは、俗にいう「民事裁判」というやつですね。

民事訴訟は、途中で和解して終わることも多いですけど、手続の典型的な終わり方として想定されているのは、「判決」という裁判です。
「金払え」とか「請求を棄却する」とか、そういう裁判所の判断が裁判(判決)です。

そして、裁判で終わる訴訟手続以外で紛争を解決する手続を総称してADR(Alternative Dispute Resolution)といいます。
直訳すれば「代替的紛争解決」となりますが、意味としては「裁判の代替」なので「裁判外紛争解決手続」といもいいます。

平成19年に「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」(ADR促進法)という法律が施行されて、ここでは「裁判外紛争解決手続」が正式な用語として採用されていることから、最近は「裁判外紛争解決手続」ということが一般的になっています。

さて、そのADRには様々なものがあります。
それらをADRの提供主体に基づいて分類すると3種類に分けられます。

司法型ADR

これは、司法機関である裁判所が提供するADR手続です。
裁判所も訴訟以外の手続として「調停」という手続きを用意しているのです。
民事調停と家事調停がありますが、どちらも裁判ではなく、合意形成を目的とした手続です。

行政型ADR

これは、行政機関が提供するADRです。
労働紛争に関して労働委員会が行うものや、消費者問題に関して消費生活センターが行うもの等、多種多様なものがあります。
東日本大震災の原発事故による被害賠償に関して、原子力損害賠償紛争解決センターが行うもの(原発ADR)もこれですね。
色んなものがありすぎて紹介しきれません。

民間型ADR

これは、民間団体が提供するADRです。
司法書士会とか弁護士会、あるいは公益法人や業界団体等が実施しています。
例えば、交通事故の損害賠償について、公益財団法人交通事故紛争処理センターが行うADRがよく使われています。
民間型ADRにも色んなものがありすぎて紹介しきれません。


一般的にADRというと、裁判所の外で行われる民間型ADRや行政型ADRを指します。
前述のADR促進法も、民間型ADR(同法では「民間紛争解決手続」といいます)の実施機関の認証などが規定された法律です。
認証を受けたADRには、色々と特典があります(例えば、申立てによって時効停止の効果が認められるなど)。


ADRの手法としては、大きく分けて「あっせん」「調停」「仲裁」の3通りがあります。
「あっせん」とは、ADR機関が間に入って、当事者の和解成立に向けて交通整理をするやり方です。
「調停」は、ADR機関が双方の言い分を聞いて和解案を提示するやり方です。
「仲裁」は、当事者双方がADR機関に最終判断を委ねる合意をして、ADR機関が仲裁判断を示すやり方です。


「あっせん」と「調停」は厳密に分けられるものではないですが、「仲裁」だけは少し違って、判決と同じく、第三者の判断に従うことになります(裁判の判決との違いは、予め「仲裁判断に従う」という合意があるという点です)。
しかも、この「仲裁」には、仲裁法という法律がありまして、適法な仲裁判断には、確定判決と同じ効力があるのです。
「裁判所が出した判決じゃないけど判決と同じように強制執行もできる」というものです。

まあ、ADRは円満解決を目指す手続という側面がありますから、仲裁ではなく、和解のあっせんや調停によって解決するのが一般的ですね。

というわけで、民事紛争の解決には、裁判以外にもADRという方法もあることをご紹介しました。


余談ですが、原発ADR機関に提出する申立書等の書類作成は、司法書士業務とされています。

原発ADR発足時から司法書士会と法務省と弁護士会で議論が重ねられていたらしいのですが、法務省が「裁判書類作成業務に含まれる」との見解を示したためです。

原発ADR機関は裁判所に準じる機関だという解釈で、その結果、裁判所(に準じる機関)に提出する書類の作成だから司法書士業務だ・・・ということのようです。
これにより、司法書士によるADR支援に法テラスが使えることになりました。
めでたしめでたし。


では、今日はこの辺で。


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2014年5月1日木曜日

「裁判」の意味

司法書士の岡川です。

突然ですが皆さん、「裁判」って何か知ってますか?

「裁判くらい小学生でも知ってるわ!」と思った方、本当に「裁判」の意味を正確に答えることができるでしょうか。
あまりにも普通に使われる「裁判」という言葉ですが、意外と正確な意味は知らないかもしれません。

「ほらあの裁判所で弁護士とか裁判官がやってるアレが裁判でしょ」とか思った方も多いのではありませんか?
しかし、厳密にいうとアレは裁判ではありません。

実は、裁判というのは、「裁判所や裁判官が具体的事件についてする公権的な判断」のことをいいます。
すなわち、例えば、弁護士とか裁判官がわーわーやった後で、最終的に「懲役10年に処する」とか「被告人は無罪」とか「被告は原告に対し金100万円を支払え」とかいう「判決」が裁判なのです。

多くの方が思い浮かべた「裁判所で弁護士とか裁判官がやってるアレ」は、裁判手続であって裁判そのものではありません。

日本の裁判には、主に3種類の形式があります。
それが、「判決」と「決定」と「命令」です。

「判決」とは、原則として法廷での口頭弁論を経たうえで裁判所がする裁判のことをいいます。
刑事訴訟では有罪・無罪を決めたり、民事訴訟では最終的な結論を決める等、重要な判断で用いられる裁判形式なので、裁判をするまでに最も厳密な手続きが必要となっています。

「決定」とは、判決と同じく裁判所がする裁判ですが、口頭弁論を経なくてもなしうるものをいいます。
訴訟手続における判決よりも簡易迅速な手続きで、訴訟手続での付随的な判断であったり、保全手続における判断で用いられる裁判です。

「命令」とは、「裁判所」ではなく、裁判長等の裁判官がする裁判です。
決定よりもさらに簡易な裁判です。


これらの区分は、法律上の規定(「判決でしなければならない裁判」とか「決定ですることができる裁判」などが決まっています)や、その実体(主体は裁判所か裁判官か、口頭弁論が必要か任意か)によって決まるものです。
したがって、「その種の裁判がどう呼ばれているか」等とは関係ありません。

例えば、民事訴訟における「担保提供命令」は、裁判所がする裁判であり、裁判形式としては命令ではなく「決定」です。
民事執行における「差押命令」や「転付命令」も「決定」ですし、民事保全における「仮差押命令」や「仮処分命令」といった「保全命令」も、「決定」です。
刑事訴訟における「損害賠償命令」も、「決定」です。
また、民事裁判のニュースなどで「損害賠償命令」とかいわれていても、それは全て「判決」です。


これらのほかに、家事事件手続法上は「審判」という形式の判断が存在します。
これはちょっと特殊で、「審判は裁判なのか」というのは少し争いがあります。
まあ、基本的には裁判の一種と考えてよいのですが、性質上「裁判」とはいえないようなものも含まれています。

(なお、「審判」という語も多義的なので、これはこれでまた後日→「審判」いろいろ


以上が形式的な意味での「裁判」なのですが、裁判をもっと実質的に捉えて、判断主体を司法機関に限らず、具体的な紛争について第三者がする公権的な判断を裁判と呼ぶこともあります。
この意味での「裁判」は、基本的には講学上の概念ではありますが、実定法上も、日本国憲法の76条2項は、「行政機関は、終審として裁判を行ふことができない」と規定していますし、55条は「両議院は、各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。」と規定しています。
ここでの「裁判」は実質的意義での裁判といえますね。


ちなみに、一般に「民事裁判」とか「刑事裁判」とか呼ばれている「法廷でやってるアレ」は、主に「訴訟」という裁判手続です。
なので、あの手続の正式な名称は「民事訴訟」や「刑事訴訟」です。

アレを「裁判」といわずに「訴訟」というようになったら、「お、こいつ分かってるな」と思われるかもしれません。
思われないかもしれません。


では、今日はこの辺で。

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