2020年3月18日水曜日

債権法改正について(41)(贈与・請負・消費貸借・使用貸借・寄託)

司法書士の岡川です。

売買や賃貸借以外の契約類型でも色々と改正はあるんですけど、それほど長々と解説するほどのものでもないので、主だった改正点をまとめて一気に解説してしまいます。

まず、贈与については、担保責任の規定が変わります。

売買契約(有償契約)では従来の担保責任が契約不適合責任に置き換わったように、無償契約である贈与についても贈与者の担保責任に関する規定はなくなります。
その代わり、「贈与者は、贈与の目的である物又は権利を、贈与の目的として特定した時の状態で引き渡し、又は移転することを約したものと推定する」という引渡義務(原則として特定した時の状態で引き渡す義務)の規定になります。


請負契約についても改正されます。

現行法の請負契約には、独自の瑕疵担保責任の条項があるのですが、改正によって民法全体を通じて担保責任のルールが契約不適合責任として整理されたので、請負契約も全部これに乗っかって、基本的には契約不適合責任の一般的なルールに従うことになります。

現行法では、建物の構造によって消滅時効の期間が分かれてたり、建物の建築請負は瑕疵があっても解除できない(解除されたら解体しないといけないので経済的損失が大きすぎるからという理由)というルールになってたりするのですが、そういう請負契約独自ルールがほぼ消えました。

スッキリですね。

ただし、「注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合」の場合に責任追及できないというのは、現行法が維持されています。


ところで、売買や贈与などのように、多くの契約は、当事者の意思の合致があれば目的物を引き渡さなくても契約自体は成立します(引き渡さなければ債務不履行の問題となる)。
意思の合致だけで成立する契約を諾成契約といいます。

これに対し、現行法における消費貸借・使用貸借契約・寄託契約については、契約の成立には当事者の意思の合致だけでなく、目的物の給付が必要とされており、目的物を借主に渡した時点で契約成立となります。
当事者の意思だけでなく、実際に物を渡さないと契約自体が成立しない契約を、要物契約といいます。

とはいえ、実際には、目的物の給付をせずに契約を成立させ、物の給付は後日ということもかなり一般的に行われており、これらも適法な契約とされています(契約自由の原則)。
民法上要物契約なんだけど、特約で要物性を排除した契約を、諾成的消費貸借契約とか諾成的使用貸借契約といいます。

これが認められるということは、わざわざこれらの契約だけ民法上の原則ルールを要物契約とする合理性もなく、むしろ逆に、必要に応じて目的物の給付を条件とすればよい。
てことで、改正法では、書面による消費貸借契約は諾成契約となり、使用貸借契約と寄託契約は全て(書面によらない契約であっても)諾成契約となります。
したがって、いずれの契約も、目的物を給付しなくても契約自体は成立することになります。
つまり、改正法で要物契約として残っているのは、書面によらない消費貸借契約のみになりました。


比較的大きな改正点としてはこれくらいですかね。
他にも色々ありますが、ほとんどが実務的に認められてきたことが明文化されたものです。



・・・と、いうわけで、2017年5月に始まって、何と2年10か月もの長い年月をかけて、遂に債権法改正シリーズが完結しました!
おめでとうございます!ありがとうございます!

あー疲れた。

債権法改正について書き始めたときは、まさかこんなに時間がかかるとは思わなかったよね。
どう考えても、更新頻度が遅すぎです。

こんなことしてる間に、相続法改正が改正され、しかも大部分が施行されるという一大イベントがあったのに完全スルーしてしまったという。

まあ、債権法改正シリーズも終わったことだし、相続法改正にもそのうち触れますかね。


では、今日はこの辺で。

2020年3月6日金曜日

債権法改正について(40)(賃貸借)

司法書士の岡川です。

賃貸借契約も色々と重大な改正点があります。

といっても、賃貸借という契約類型は、これまでに大量の判例が確立していて(継続的な契約関係であることから、争いになり易いんでしょう)、今回それらが明文化されたという改正が多い。
そのため、条文の改正の多さの割には、実務上それほど大きな変化はないかもしれません。


まず、現行法では、賃貸借契約の存続期間は20年を超えることができません(20年を超える契約を締結しても20年となる)。
期間経過後に更新することはできますが、更新も20年を超えることができません。
これは、あまり長期間の賃貸借を認めると、所有者の権利制限が過酷になりすぎるという配慮だといわれています。

とはいえ、現代社会では20年を超える長期の事業のために賃貸借契約を締結する需要もあり、一律に20年で切るのは短すぎるという指摘がありました。
そこで、上限が一気に50年まで延びました。

とはいえ、借地借家法等の特別法の適用がある場面では、そもそも民法の上限は排除されていましたので、家を建てるための借地などには影響がありません。
賃貸住宅も、だいたい2年契約とかになっていて、更新しながら借り続けることが多い。
なので、影響は限定的ですね。


次に、「対抗要件を備えた賃貸借契約の目的物である不動産を譲渡した場合、賃貸人の地位は当然に譲受人に移転する」というのは、有名な判例で、実務上あたりまえに受け入れられているルールなのですが、これも明文化されました(改正605条の2)。
賃貸住宅の所有者が、その家を他人に売ったら、改めて新しい所有者(買主)と借主が契約し直さなくても自動的に新しい所有者が賃貸人の地位を引き継ぐ、という話です。

このとき、賃貸人の地位を留保する合意をし、かつ譲渡人と譲受人との間で賃貸借契約をする(要するに、旧所有者が新所有者から賃借する)合意をすれば、賃貸人の地位は移転しないというルールが新設されました。
つまり、旧所有者は新所有者から賃借し、賃借人は(従前のまま)旧所有者から賃借(転借?)するという関係になってもよいというわけです。


それから、対抗要件を備えた賃借人は、賃借権に基づき第三者に対して妨害排除や占有回復を請求できることが明記されました(605条の4)。
今までも、判例が色々と理屈をこねて結論的には何かしら請求可能だったのですけど、それが直截的に賃借権に基づく請求権として明文化されたものです。


細かいとこでは、賃貸物の一部が滅失した場合、現行法では賃料減額請求ができることになっていますが、改正法では、請求しなくても当然に減額されることになりました(改正611条1項)。

他にも、結構あたりまえのことが明文化されていますね。
賃貸人に修繕義務がありますが、賃借人に帰責性がある場合は修繕しなくてよいだとか(改正606条1項但書)、賃貸人が修繕してくれないときは賃借人が修繕できるだとか(607条の2)、目的物が全部滅失したら賃借権が消滅するだとか(616条の2)。


敷金の性質が明記されたり(622条の2)、原状回復義務に通常損耗は含まれないことが明記されたり(改正621条)とかは、まあ重要な改正ではあるのですけど、実際の場面として、特に大幅に何かが変わったわけではない(基本的には判例の明文化)ので、条文確認しといてね、といったところ。


では、今日はこの辺で。