2014年8月28日木曜日

刑法における責任主義

司法書士の岡川です。

近代刑法の基本原則のひとつに「責任主義の原則」というものがあります。
これは、「責任なければ刑罰なし」と表現されるように、行為者に責任を問えない行為は罰することができないという原則です。

ここで「責任」とは何か、というのは非常に難しい問題なので、またの機会に譲るとして、とりあえずは「非難できること」を意味すると理解してください。
そして、行為者を(刑法上)非難できるのは、行為者に故意があるか、少なくとも過失があった場合に限られると考えられています。
すなわち、行為者自身(の意思決定)に対して非難できなければ処罰が正当化されないわけです。

どんなに結果が重大であっても、「結果責任」や「連帯責任」は近代刑法においては許されないということになります。

これは、「故意犯処罰の原則」にも共通することです。
故意犯処罰の例外として過失犯がありますが、無過失犯処罰まで許す例外は存在しないのです。

「少なくとも過失」が必要とされるのには、色々な説明の方法があります。
たとえば、刑法の機能を犯罪予防に求めるとすれば、自分の意思決定の及ばないところの行為によって罰されるというルールがあったとしても、それには何ら犯罪予防の効果が無く、不合理であるということができます。


何らかの人の行為が原因となって重大な権利利益の侵害が生じることは日常茶飯事、その中には、行為者(加害者)自身には、故意も過失もない場合というのも少なくありません。

被害者側からすれば、「その人の行為によって結果が引き起こされた」というだけで非難に値するでしょう。
ところが他方で、加害者側からみれば、「確かに自分の行為によって生じた結果だが、自分にはどうしようもなかった」のであれば、それで非難されるのは納得できないでしょう。

民事上は、過失責任を原則としつつ、無過失責任を一部認めてバランスをとっていますが、刑事上は責任主義が貫かれ、無過失責任は認められていません。


我々は、ともすれば「結果の重大性」に目を向けがちですが、社会の秩序はこういう微妙な利益調整によって成り立っているのです。
そして、それによって自分の身も守られている(すなわち「自分にはどうしようもない事故の責任をとって処罰される」ということがない)ということを考えれば、少しは納得もできるかもしれません。


では、今日はこの辺で。

2014年8月27日水曜日

実は適法な「実は違法行為」とされる行為

司法書士の岡川です。

「実はこれって違法なんだぜ」と紹介される行為も、根拠が不明であったり、法律を誤解していたり、法律の一部を見て一般化していたりと、不正確な情報が多いものです。
ま、専門外の人が紹介する雑学って、えてしてそんなもんですよね。

今日はそんなお話。

知らないと犯罪者に!? 意外な違法行為

「意外な違法行為」のランキングが紹介されています。
「知らないと犯罪者に!?」とある以上、「違法行為」というのは、刑罰法規に違反する行為のランキングかと思いきや、実は単なる不法行為とかも紛れていて、結構適当です。

このランキングの中から、結論や解説に疑問があるものをピックアップしてご紹介します。


1位:並んでいる列に割り込みする

イキナリ嘘です。

解説で「軽犯罪法第1条第13号に記されている」とありますが、軽犯罪法1条13号の規定は「威勢を示して」割り込みをすることを禁じています。

単なる割り込みは違法ではありません。
「違法」という評価は、法律に規定された要件をすべて満たした行為に対するものです。

「未成年者が飲むことをわかって酒を売る行為」は違法ですが、単に「酒を売る行為」は違法ではないのと同じです。

どこかの地域の条例なんかでは、単なる割り込みも禁止されているかもしれませんが。


2位:タクシーの中で吐く

よくわかりませんが、これが「嘔吐してタクシーを汚す」ことが「不法行為に該当する」という意味であれば、確かに違法行為といえば違法行為です。
ただ、それをいうならば、電車の中でもバスの中でも学校の中でも会社の中でも他人の家の中でも、「吐いたら違法」ということになります。

解説には「「契約違反」となり賠償請求される」とありますが、どういう契約か不明です(少なくとも一般乗用旅客自動車運送事業標準運送約款には、「タクシーの中で吐いてはならない」という契約条項はありません)し、契約違反というよりは不法行為だと思われます。
謎です。


8位:電柱・電信柱に登る

これもよくわからないですね。
解説によると、「登るには「電気主任技術者」という国家資格が必要」というが、何法の何条に規定されているのでしょうか。
電気事業法にはそれっぽい規定は無さそうだし…。


9位:新年会や歓迎会で無理に飲ませる

微妙ですが、少なくとも解説は間違いです。

確かに 酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律には、「飲酒を強要する等の悪習を排除」と明記されていますが、これは「悪習を排除」するという責務について定めているだけです。
同法は、酒に酔って迷惑行為をする者を罰する法律です。
本質的な問題としては、「無理に飲ませる」というのが、脅迫や暴行を用いた場合であれば、刑法の強要罪に該当する可能性があります。


14位:     決闘に応じない相手を侮辱する

これも、違法になるには色々な前提条件を付けなければなりませんし、解説の「名誉棄損罪で処罰される」というのは疑問です。

例えば、公衆の面前で相手を侮辱したりすれば、侮辱罪が成立する可能性があります。
さらに、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損」すれば名誉棄損罪が成立する可能性がありますが、「決闘に応じなかった」という事実の適示で名誉を棄損するとは考えられませんので、名誉棄損罪というのは成立しにくいだろうと思います。

他方で、どんなに相手に「弱虫」だの「チキン」だの「腰抜け」だのと相手を侮辱しようが、それが1対1のときに言った場合には、侮辱罪は成立しません。


ネット上に転がっている法律雑学ネタは、鵜呑みにせずに根拠条文を調べるようにしましょう。

では、今日はこの辺で。


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法的三段論法

司法書士の岡川です。

「三段論法」というものをご存じでしょうか。
これは、 「大前提、小前提、結論」の三段階で結論を導く論理の形式です。

抽象的にいうと、

大前提:MならばPである。
 ↓
小前提:SはMである。
 ↓
結論:SならばPである。

という具合に、三段階で結論を導くのが三段論法です。

ここで「大前提」は、普遍的な原理や一般的に妥当する命題(例:生き物は皆死ぬ)です。
そして次の「小前提」は、個別の事実(例:カピバラは生き物である)です。

大前提と小前提から、一定の具体的な結論(例:よって、カピバラは皆死ぬ)を導くことができるわけです。

ちなみに、「AならばB、BならばC、よってAならばC」でも論理的に間違いではないのですが、この場合、「小前提→大前提→結論」の順になっているので注意が必要です。


ここまでが、一般的な三段論法の話。

法律家が日々おこなっている、法の解釈と適用という作業も論理の問題なので、やはり三段論法というものが重要になってきます。

法の適用の場面における論理形式を、特に「法的三段論法」といわれます。

“法的”三段論法とは、規範に事実を当てはめて結論を導くものです。
論理の形式自体は普通の三段論法と同じですが、法的三段論法では次のようになっています。

まず、大前提には、必ず「法規範」を置きます。
仮に、民法882条の規定(相続は、死亡によって開始する)を置きましょう。
「死亡」という法律要件を満たせば、「相続」という法律効果が生じるという規定です。

次に、小前提は、個別の事実です。
実際に問題となっている事象(例:団藤重光博士は平成24年6月25日に亡くなった)ですね。
あ、ちなみに団藤重光博士というのは、超有名な刑法学者です。

そして、個別の事実を規範にあてはめることで、法的な結論が導かれるわけです。
上記からは、「平成24年6月25日、団藤重光博士の相続が開始した」という結論です。


これで、具体的事実と、そこから生じる法律効果が結び付けられるということになります。
実際に法を適用する場面での思考の順序としては、まずは具体的な事実(小前提)の存在から始まって、そこから抽象的な規範(大前提)に辿っていくことになります。

何かを主張したいとき、三段論法を意識するだけでも、論理的に筋が通って説得的なものになります。
「法的にどうか」ということを言いたければ、必ず「大前提→小前提→結論」が無理なく導くことができなければなりません。
法律論としてに無茶苦茶なことを言っている人は、大前提が抜けてたりするんですよね。

基本的なことではありますが、非常に重要なことですので、覚えておくとよいでしょう。

では、今日はこの辺で。

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2014年8月25日月曜日

厄介なのは相続「争い」だけではない

司法書士の岡川です。

誰が言い出したか知りませんが、相続で揉めることを「争続」とかいうようです。
こんなもん別にうまいこと言う必要もないと思うのですが…。

相続で揉めるのは世の常で、しかも遺産が少ない場合ほど争いは起こるものです。
やはり、タダで貰えるものは貰わないと損ですからね。
何だかんだいって、やっぱりお金は大事です。

相続人同士は血のつながった兄弟だったりするので、争いを避ける方向に向かうこともありますが、そこに配偶者等が絡んでくると、「貰えるものはキッチリ貰う」方向へと意識が向かうことになります。
肉親の相続人同士はなあなあで済ませていても、やがて相続人が死に、その後は血のつながりのない者同士での争いが勃発したりもするわけです。
だから、相続が開始すればできるだけ早い段階でキッチリと決着を付けなければなりません。


相続で争いが起こっても、遺産分割調停をするなり、訴訟をするなり、何らかの方法で(強制的に)解決することが可能です。
調停で折り合いがつかなくても、審判に移行し、最終的に裁判所に決めてもらえばよい。
審判書さえ入手すれば、預金は引き出せるし、不動産の名義についても単独で相続登記をすることだってできます。

相続争いは、ひと手間を惜しまなければ何とかなるものです。


しかし、相続人同士で「争っていない」にもかかわらず手続が滞ることもあります。
実は、相続人同士が争っている場合と同様に(場合によってはそれ以上に)厄介な問題が起こり得ます。

例えば、相続人の一人が外国に住んでいたり、外国籍を取得した場合。
たとえ「日本の土地なんかいらない」と言っていたとしても、諸手続を進めるには、日本と外国で必要書類のやり取りをしなければなりませんし、外国の役所が発行する書類が必要になったりします。

他には、遺産分割協議は終わって、場合によっては遺産分割協議書に押印も終わっているのに、必要書類を送ってこない人がいる場合。
遺産分割協議書に印鑑を押さないで放置する人や、印鑑は押しても印鑑証明書を送ってこない場合です。
こういった場合、既に協議が終わっているにもかかわらず、遺産分割調停を申し立てたり、証書真否確認の訴えを起こすことになるかもしれません。

相続人の一人が既に死亡している場合なども、話をするのが「相続人の相続人」になるので、全く血のつながりのない人同士で話合いをしなければならない場合があります。
これも、調停になる場合があるかもしれません。


争いがある場合以上に厄介なのは、「相続人の一人が行方不明」といった場合。

行方不明の人とは争いようがないですね。
さらに、その人が行方不明になる前に常々「財産は全部長男が相続したらよい」と言っていた場合などは、実質的には全く争いはありません。
しかし、必ず相続開始後に遺産分割協議をしなければなりませんし、預金の引出しや相続登記手続にはその人の実印と印鑑証明が必要です。
その場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任申立をしたり、失踪宣告の申立てをするなど、何らかの手続が必要になります。


こういった事情が重畳的に存在すると、非常にややこしいことになります。
場合によっては「手の施しようがない」ということになります。
もちろん、時間とお金をかければ必ず何とかなるものですが、複雑化した手続を処理するには、何十万、場合によっては100万以上の費用がかかることもあります。


生前にできる対策としては、上記のような事情がある場合は、遺言を書いておくこと。
遺言さえあれば、行方不明の人とか海外に行ってしまった人の印鑑は不要です。

また、相続手続の複雑化を予防するため有効なのは、「必要な手続は、面倒でもさっさと終わらせておく」ということです。
相続税の申告は期間制限があるので皆さん急ぐのですが、それ以外の手続はほったらかしの人が少なくありません。
そして「相続登記なんかいつでもいい」と思って放置すると、後々面倒なことになるのです。
(参照→「相続登記は何のためにするのか」)


また、本当に「何もいらない」のであれば、さっさと相続放棄の手続をすることです。
放棄さえしていれば、自分は手続に巻き込まれずに済むし、他の相続人も手続を進めることができます。

面倒がったり、目先の費用をケチって後で損することのないよう、気を付けましょう。

では、今日はこの辺で。


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2014年8月21日木曜日

夫婦間の契約

司法書士の岡川です。

夫婦であっても親子であっても、契約を締結することは可能です。

ただし民法では、「夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる」と規定されています(754条)。
つまり、夫婦間であっても契約は有効に成立するけれど、一方的に取り消す(無効にする)ことが可能なのです。

夫婦のことは夫婦に任せておこうや・・・とかまあ、そんな感じの趣旨の規定なわけですが、契約とは、要するに法的な(法律の規律に服する)約束のことなので、つまり「夫婦の約束は破っていい」ということですね(法的には)。
仮に夫婦間の贈与契約が履行されなかったとして妻が夫を訴えたとしても、夫は取消権を行使するだけで請求を退けることができるわけです。

もちろん、「法律上強制できない」というだけの話なので、倫理的・道義的に許されるかどうかというのはまた別問題です。

それに、この規定も制限的に解釈されており、たとえ夫婦間であったとしても、既に婚姻関係が破綻しているような場合は、取消権を行使することはできません。
まだ正式に離婚していなくても、婚姻関係が破綻している場面では、当事者の契約関係は、夫婦だけに任せてよい問題ではないということです。


ところで、これとはまた別の話で、「夫婦財産契約」という契約があります。

これは、ほとんど使われていない特殊な契約なのですが、法定財産制と異なる夫婦財産制を定める契約をいいます。
この契約を締結することで、婚姻費用の分担とか、日常家事債務の連帯責任とか、財産の帰属に関して、その夫婦だけは法律上の規定と異なったルールにすることができるのです。

ある程度自由に夫婦の財産に関するルールを設定することが可能なのですが、いろいろと制度上の制約もあります。
まず、婚姻届を提出する(正式な結婚をする)前に契約を締結し、かつそれを登記しなければ第三者に対抗(主張)することができません。
しかも、原則として一度締結した契約内容を変更することはできません。

登記が必要なので、契約件数は登記の件数で把握することが可能なのですが、ここ数年は毎年10件くらいしか登記がありません。

まあ、それ以前は、毎年5件くらいだったので、どうやら最近見直されているのかもしれません。
「色々な夫婦のカタチ」といった考え方に基づいているのでしょうか。
外国では夫婦財産契約を締結することが一般的な法制もあるので、国際化の流れも影響している可能性も考えられます。
そうはいっても、まだ年間10件ですが。

もしかしたら、これからもっと使われることになるかもしれませんね。


では、今日はこの辺で。

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2014年8月19日火曜日

法律行為入門その4(効果帰属要件・効力発生要件・対抗要件)

司法書士の岡川です。

前々回と前回で、法律行為の成立要件と有効要件の話をしました。
基本的には、この2つの要件を満たせば「有効に成立した」ということになるのですが、権利を主張する場合、それだけでは足りない場合があります。

例えば、「代理」という場面。
「代理」というのは、簡単にいうと、自分の代わりに第三者に何らかの行為をしてもらうことです。
このとき、代わりに行為をするのが「代理人」です。

代理行為の効果は、特に何の問題もなければ、直接本人に帰属します。
これは例えば、売買契約の場面で、買主を代理して代理人が契約を締結したとしても、買った物の所有権は代理人に帰属するのではなく本人に帰属する、という意味です。

ただ、「代わりに契約を締結した人」が代理権を持っていなかった(正式な代理人ではなかった)としたら、本人に効果は帰属しません。
このように、本人に法律行為の効果が帰属するための要件を効果帰属要件といいます。

効果帰属要件を満たさない法律行為(代理行為)は、「有効に成立している」のに「効果不帰属」という宙ぶらりんの状態になります。


次に、法律行為に条件や期限が付されていた場合。

例えば、売買契約に「代金を支払ったときに所有権が移転する」という条件や、「何年何月何日に所有権を移転する」という期限が付されていれば、たとえ売買契約が「有効に成立した」としても、その条件が成就したり期限が到来した時でなければ、「所有権移転」の効力が発生しません。
これを、「効力発生要件」といいます。


それから、「対抗要件」というのもあります。
これは法律の初学者には解り難い概念ですが、「対抗」とは、要するに「相手に主張する」という意味です。

例えば、ある土地について、AさんとBさんがともに「この土地は自分が買ったものだ」と主張しているとします。
しかも、実際に、悪徳不動産業者がAさんとBさんの両方と売買契約を締結していたという場合(「二重譲渡」といいます)、どっちの主張が通るでしょうか。

これを決めるのが「対抗要件」です。
すなわち、対抗要件を具備した人が、相手に対して自分の権利を主張することができるのです。

そして、土地の所有権の場合、対抗要件は「登記」です。
したがって、「AさんとBさんのどちらが自分名義に登記をしているか」によって、「どちらが権利を主張できるか」が決まってきます。
もし、Aさんのほうが先に売買契約をしていたとしても、Bさんが自分に所有権移転登記をしてしまえば、Bさんが正当な権利者として自分の権利を主張することができます(Bさんが対抗要件を具備しているため)。
Aさんは、「登記をしてなかった(対抗要件を具備しなかった)のが悪い」とされるのです。


登記って大事ですね、というお話。


では、今日はこの辺で。

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法律行為入門シリーズ
法律行為入門
法律行為入門その2(成立要件)
法律行為入門その3(有効要件)
・法律行為入門その4(効果帰属要件・効力発生要件・対抗要件) ← いまここ
(こちらも参考)
法律行為について
「準法律行為」について

2014年8月18日月曜日

法律行為入門その3(有効要件)

司法書士の岡川です。

前回に引き続き、法律行為の入門的なおはなし。

意思表示が存在し、その他の成立要件も具備すれば、法律行為が成立します。
しかし、外形的に成立した法律行為が有効か無効かというのは、また別問題になります。
有効要件が備わっていなければ、その法律行為は、「そもそも無効」か、あるいは「無効にする(取り消す)ことができる」ものとなります。


まず、法律行為には(あたりまえですが)法律行為をする当事者が必要です。
当事者がいなければ、(あたりまえですが)法律行為は成立しませんが、当事者は存在すればよいというものではありません。

法律行為時に、当事者に必要な「能力」が備わっていなければなりません。
必要な能力とは、「権利能力」「意思能力」「行為能力」の3つ。

泥酔してまともに判断能力を有していない状況で契約しても、その契約は無効です(意思無能力)。
また、成年被後見人が自分の判断で土地を売ったとしても、あとから問答無用で取り消す(無効にする)ことが可能です(制限行為能力)。

制限行為能力者の行為は、ただちに「無効」なのではなく「取り消すことができる」にすぎない(つまり、取り消すまでは一応有効な法律行為とされる)という点はテストに出ますので覚えておきましょう。


さて、権利能力・意思能力・行為能力が備わっていることが前提として、次に、法律行為は、「確定性」「実現可能性」「適法性」「社会的妥当性」がなければならないとされています。
これらは…まあ、文字通りの意味ですね。

「なんか売ってください」「では、何かを売ります」というやりとりでは、確定性がないので売買契約は成立しません。
「死んだペットを生き返らせる」というような契約は、実現可能性がないので成立しません。

適法性というのは、当事者の合意によっても変えることができない規定(強行法規)に反するような契約です。
例えば、労働契約で「残業代は払わない」という契約をしたとしても、それは違法無効です(労働基準法違反)。

さらに、たとえ契約自体が適法だったとしても、社会的妥当性がなければやはり無効となります(民法90条違反)。
いわゆる「公序良俗違反」というやつですね。
例えば、殺人依頼とかですね(契約自体は、一種の請負契約といえますが、内容が社会的に認められない)。
これが認められると、例えば、殺人請負契約履行請求訴訟を提起して勝訴すれば、裁判所が「被告は、訴外Aを殺せ」という判決を出すことになってしまいます。
社会的に妥当でない契約は、無効として、国家(裁判所)がお墨付きを与えないようになっているわけです。

最後に、能力を具備した当事者が、確定的で実現可能で適法で社会的に妥当な法律行為をするとしても、意思表示が完全なものでなければなりません。
詐欺・強迫・錯誤・心裡留保・通謀虚偽表示といった場合に問題になります。

この辺は長くなるのでまた今度じっくりと。


このような要件を満たして初めて、「法律行為が有効に成立した」といえるのです。

法律行為が有効に成立したら、それで完璧か、というと安心するのはまだ早い。

次回は、それ以外の要件をまとめてご紹介しましょう。


では、今日はこの辺で。

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法律行為入門シリーズ
法律行為入門
法律行為入門その2(成立要件)
・法律行為入門その3(有効要件)
法律行為入門その4(効果帰属要件・効力発生要件・対抗要件)
(こちらも参考)
法律行為について
「準法律行為」について

2014年8月15日金曜日

法律行為入門その2(成立要件)

司法書士の岡川です。

前回の続きです。

法律行為の基本的な要件として、成立要件と有効要件があります。

法律行為は、そもそも成立していなければお話になりませんし、成立したとしても「無効」ということがあります。
成立したことを前提に、有効か無効かが問題となるわけです。

法律行為は、定義として「意思表示を主たる要素とする」ものですから、「法律行為が成立した」というためには、意思表示が存在しなければなりません。
よってこれが基本的な成立要件です。
「この土地くださいな」という「申込み」の意思表示と「うんいいよ」という「承諾」の意思表示が合致したところに売買契約(法律行為)が成立するわけです。

「この土地は俺様がいただいた!」と勝手に宣言したとしても、売主の「売る」という意思表示が存在しなければ売買契約は成立しません。
これは、有効とか無効の問題ではなく、「そもそも契約が成立していない」という状況です。

例えば、「身に覚えのない契約に基づく代金を請求された」ような場合、本当に身に覚えがなければ「そんな契約無効だ!」というのではなく、正しくは「そんな契約は成立していない(不成立だ)!」と反論することになります。


法律行為の種類によっては、意思表示の存在以外にも成立要件がある場合があります。

例えば、遺言の場合は、「この土地はお前にやる」と口頭で言うだけでなく、法定の形式に則った遺言書を作成しなければいけません。
任意後見契約も、公正証書による契約が必要です。
これらのように、「意思表示」以外に一定の方式が要求されている法律行為を、「要式行為」といいます。

あるいは、消費貸借契約や使用貸借契約などは、目的物の引渡しが要件になっているので、契約書を作成しただけでは契約は成立しません(こういう契約は「要物契約」といいます)。
この場合、目的物の引渡しも成立要件になるわけです。


なお、訴訟の場面では、契約(法律行為)に基づいて何かを請求する場合、契約(法律行為)の成立要件を満たしていることは、原則として請求する側が主張立証することになります。
「貸した金を返せ」と請求するのであれば、原告側が金銭消費貸借契約の成立を主張立証しなければなりません。
これに対して、「契約は一応成立したが、それは無効だ」というのは、原則として相手(請求された側)が主張立証することになります。

この、「成立したが無効だ」というのは、有効要件を満たしていない場合ということになります。

有効要件については、次回。

では、今日はこの辺で。


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(こちらも参考)
法律行為について
「準法律行為」について

2014年8月14日木曜日

法律行為入門


司法書士の岡川です。

夏休みなので(?)、基本に立ち戻って民法の入門的な話でもしましょう。
法学部1年生の皆さんには、前期の復習ですね。
法律系資格の試験勉強をしてるような人にとっては、疎かににしがちな基本的な「考え方」の解説です。


以前「法律行為」という概念を紹介しましたが、例えば「契約」というのが典型的な法律行為です。

契約上のトラブルに代表されるように、私法上の紛争の多くがこの法律行為をめぐって発生します。
もちろん、不法行為や相続争いのような、法律行為と関係のない紛争も多々ありますが。

法律行為とは、「意思表示を主たる要素とする私法上の法律要件」と定義することができます。

私法関係でも公法関係でも、法律関係(社会生活関係のうち、法の規律を受けるもの)は、「要件→効果」という枠組みで捉える事ができます。
例えば、刑法でも、犯罪成立要件を満たす場合に刑罰という効果が規定されています。

法律行為もこの「要件」にあたるもので、「法律要件」と対になるのが「法律効果」です。
私法上の法律効果とは、権利の変動(発生・変更・消滅)をいいます。

例えば、売買契約は法律行為の一種なので、「AがBに甲土地を売却する」という契約が有効に成立すれば、「甲土地の所有権がAからBに移転する」という法律効果が発生する、といった具合です。


そして、この法律行為で問題になる場面を分析的にみてみると、

1.そもそも法律行為が成立したのか(成立要件)
2.成立した法律行為は有効か(有効要件)
3.有効に成立した法律行為の効果が本人に帰属したか(効果帰属要件)
4.有効に成立した法律行為の効力は実際に発生したのか(効力発生要件)
5.法律効果の発生を主張することができるか(対抗要件)

といった段階に分けて考えることができます。

何か契約上のトラブルが生じたときに、「どのレベルで問題が生じているのか?」を正確に把握することが大切になります。

それぞれの要件については、長くなるので次回に回します。

では、今日はこの辺で。

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法律行為入門シリーズ
・法律行為入門 ← いまここ
法律行為入門その2(成立要件)
法律行為入門その3(有効要件)
法律行為入門その4(効果帰属要件・効力発生要件・対抗要件)
(こちらも参考)
法律行為について
「準法律行為」について

2014年8月11日月曜日

相続放棄を忘れずに

司法書士の岡川です。

繰り返しになりますが、人が死ぬと相続が開始します。
相続は絶対に開始します。

大事なことなので2度言いました。
相続は絶対に開始するのです(大事なことなのでダメ押しで3度言いました)。


さて、相続というのは、亡くなった方(被相続人)の財産や権利義務、法律関係、法的地位等々、一身専属的なもの(例えば、親権とか組合員の地位とか司法書士資格とか)を除いて、全てを包括的に承継する制度です。
これを「包括承継」といいます。
売買や贈与のように、「私の持っているこの土地をあなたに売る」といったものではありません。

したがって相続人は、「預貯金はもらうけど、実家のボロ家はいらない」とかいうように、財産を選択的に取得することはできません。

気を付けなければならないのは、相続によって包括的に承継する財産には、価値がプラスの積極財産と、価値がマイナスの消極財産の両方が含まれています。
消極財産とは、要するに借金などの債務ですね。
また、形式的にはプラスの財産(例えば不動産)であっても、実質的には、その維持管理に費用が掛かって誰も欲しがらないような財産というのもあります。

相続では、財産を選択的に取得できませんので、「土地はもらうけど、ローンはいらない」という都合のいい承継は認められません。
逆に、「親の借金は全て引き受けた。だが現金はいらん!」ということも無理です(そんな人いないと思いますが)。

そうすると、親が莫大な借金を残して死んだ場合などは、放っておけば、それをそのまま相続人が引き継ぐことになります。
場合によっては、相続人にとって自分と関係のないところで過大な負担を強いられることになってしまいます。

そこで、親の借金や資産価値のないボロ家等の負担を引き継ぎたくない場合の救済として、「相続放棄」という制度があります。
相続放棄とは、特定の財産ではなくて、相続人としての地位全体を放棄する制度です。
すなわち、「遺産のうち、これ(例えば借金)はいらない」といったことは認められませんが、「プラスもマイナスも全部いらない」ということは認められます。

相続放棄すると「そもそも相続人ではない」ことになるので、相続財産の全てについて承継することがなくなります。


この相続放棄ですが、「私は相続放棄するからそっちで勝手にやってくれ」というような方もおられますが、そう簡単に口で言っただけで放棄できるものではありません。
必ず家庭裁判所に「相続放棄の申述」をしなければなりません。
しかも、自分が相続することを知ったときから3か月以内にする必要があります。
この期間内(熟慮期間といいます)に裁判所で手続をしなければ、法的には、相続することを承認したことになります。

相続を承認すれば、いくら個人的に「私は相続しない」と言い張ったところで、相続分に応じて承継します。
もちろん、借金もです。


「私はもう縁を切っている」とか「実家とはもう関係ない」と言って、手続の協力や債務の弁済を拒む方もいますが、本当に「縁を切った」のであれば、被相続人が亡くなったことを知った時点で、きちんと相続放棄の手続をしなければなりません。

その手間を怠り、相続放棄の申述をせずに放置すれば、縁を切ろうが付き合いがなくなろうが相続人であることは確定します。
親の借金も支払う義務がありますし、それについて文句を言う筋合いがなくなります(なぜなら、放棄しなかった=承認したのだから)。


というわけで、相続というのは、承継の手続も大切ですが、「承継しない」ための相続放棄手続も非常に大切です。
気をつけましょう。


では、今日はこの辺で。
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2014年8月8日金曜日

内容証明の差出人の書き方

司法書士の岡川です。

ちょっとピンポイントで実務的なお話を。
「内容証明とは何か?」とか、「内容証明郵便の書き方」といった基本的なことは、探せばどこかにだいたい載っているので、ここでは、少し細かい点についてご紹介します(参照→「内容証明の使い方」)。


内容証明郵便は、必ず「差出人の住所氏名」と、「受取人の住所氏名」を書かなければなりません。

これは、差出人が誰で受取人が誰かがきちんとわかるように書かれていればどこに書いてもいいのですが、逆にいえば、それがわからないような書き方では、窓口で「お客さん、これはちょっと…」と言われます。
一般的には、冒頭で書くか、文末に書くかのどちらかでしょう。

私の場合、冒頭左詰めで受取人、その次の段に(改行して)右詰で私の事務所と氏名を書きます。


受取人の表示としては、冒頭左詰めに書いて、氏名のあとに「殿」とか「様」を付けておけば、受取人であることがわかります。
他方、差出人の表示ですが、基本的には、受取人より下に右詰で書いておけば差出人だと判断してもらえます。


問題は、差出人が複数である場合や、代理人が差出人になる場合です。

まず、司法書士や弁護士が代理人として作成する場合、

大阪府高槻市城北町一丁目14番26号
シティパル城北105号
岡川総合法務事務所
甲野太郎代理人司法書士 岡川敦也

というふうにしておけば問題ありません。

ここに本人の住所を入れたい場合、

大阪府何市何町何丁目何番何号
甲野太郎
大阪府高槻市城北町一丁目14番26号
シティパル城北105号
岡川総合法務事務所
上記代理人司法書士 岡川敦也

のようにしてしまうと、「本人と代理人の連名」と扱われ、差出人か特定されていないと判断されます。
なので、本人と代理人の住所を併記する場合は、

大阪府何市何町何丁目何番何号
甲野太郎

差出人
大阪府高槻市城北町一丁目14番26号
シティパル城北105号 岡川総合法務事務所
上記代理人司法書士 岡川敦也

というふうに、「差出人」と明記する必要があります。


次に、差出人や代理人が複数人いて、連名で出す場合ですが、まず冒頭右詰で、

大阪府高槻市城北町一丁目14番26号
シティパル城北105号 岡川総合法務事務所
司法書士 岡川敦也

大阪府何市何町何丁目何番何号
乙山法務事務所
司法書士 乙山二郎

というように併記します。
しかし、これだけでは差出人が1人に特定されていないので、受付けてもらえません。
連名で出す場合も、誰か1人の住所氏名を「差出人」にしておかないといけないのです。

そこで、内容証明は同じものを3部(送る用、郵便局用、自分の控え)作りますが、そのうち郵便局用と自分の控えの2部の最後の余白に、

付記 差出人
大阪府高槻市城北町一丁目14番26号
シティパル城北105号
岡川総合法務事務所
司法書士 岡川敦也

と付記します。(相手に送付する分には、特に何も書かなくてよい)
こうしておけば、相手方に届けられる書面は連名での書面となり、かつ、郵便局での手続きもパスするわけです。

もちろん、これが面倒なら、わざわざ付記にせず、最初から冒頭の差出人名の誰かの前に「差出人」と書いておいても構いません。


内容証明郵便は、出し方にいろいろと制約があるので、「あんまり変わったことをしない」のが一番ですね。

では、今日はこの辺で。


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2014年8月5日火曜日

成年後見人の責任

司法書士の岡川です

成年後見制度に絡んで、こんな事件がありました。



交通事故で障害の弟の口座から横領、横浜地検が姉を起
起訴状によると、女性は2009年9月から12年1月までの間、親族の40代の男性に管理を委託していた50代の弟の預金口座から、71回にわたり、現金計1988万円を引き下ろして横領した、とされる。
地検によると、弟は交通事故で障害を負い、川崎市内の障害者施設に入所。横浜家裁川崎支部が、親族の40代の男性を成年後見人として選任していた。

要するに、50代の男性が成年被後見人、40代の男性が成年後見人、被告人は成年被後見人の姉で、成年後見人が管理する弟の口座から2000万円を横領した、という事件ですね。

直接的には、成年後見人による横領事件ではなく、第三者(姉)による横領ということになります。
改めて確認するまでもなく、第一義的には姉に責任がある(刑事上・民事上)のですが、3か月にわたって71回も引き出されて2000万円もの財産を失ったというのは、成年後見人であった40代男性の財産管理が極めて杜撰だったといえます。

被告人の女性が成年後見人の家に忍び込んで金庫の鍵を開けて通帳を盗み出したというような事情でもあれば同情の余地もありますが(それでも、2000万円もの大金は貸金庫に入れておくべきでしたね)、成年後見人が保管している預金が、簡単に第三者に引き出されるなどという事態はあってはなりません。
これでは、何のための成年後見人かわかりません。

おそらく、この後見人は解任されるでしょうし、場合によっては損害賠償請求される可能性もあります。

成年後見人は、成年被後見人の財産を守る義務を負っています。
制度上、誰がなってもかまわないのですが、その責任を自覚することなく安易に就任することは、本人のためにも後見人のためにもなりません。

なお、これは正式に成年後見人に就任した場合に限った話ではありません。
もし「後見人は責任重大だから、後見を申し立てずに預かっておこう」と思った人がいれば、それは間違いです。
他人の財産を保管する以上、求められている注意義務の程度は同じです。
やはり、杜撰な管理をしていると損害賠償請求の対象となる可能性があります。


たとえ親族のものであっても、他人の財産を預かるというのは、大変なことだということを忘れないようにしたいものです。

では、今日はこの辺で。


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2014年8月4日月曜日

お医者さんのための成年後見診断書作成入門

司法書士の岡川です。

成年後見の申立てには、医師の診断書が必要です。
精神科医や心療内科医は、日常的に成年後見制度に接することもあるので、ほぼ問題なく対応していただけるのですが、申立てに必要な診断書は、別に専門医でなくとも、内科医でも外科医でも皮膚科医でも耳鼻科医でも作成することができます。
噂では歯科医でもいいらしいのですが、見たことはありません。
一般的には、「かかりつけの医者に書いてもらう」ことになるので、専門に関わらず診断書作成を依頼される可能性があります。

診断書の作成自体は、医師の専権事項なので、医師の専門的知見に基づいて書いていただけば良いのですが、同時に成年後見制度について基本的な点は理解しておいていただかないと、診断書の内容と法的な判断が乖離してしまう(場合によっては書き直し)ということもあるので、注意が必要です。

今日は、司法書士から見た、精神科が専門でないお医者さんのための診断書作成のポイントを解説します。


まず絶対に外してはいけないのが、成年後見は「判断能力が低下した場合」の制度だという点。
たとえ身体的な要因で日常的な介護が必要であったとしても、頭がしっかりしていれば、後見が開始することはありません。

特に、医師が診断書の作成を依頼されている場面というのは、基本的にはその患者について法定後見の申立の準備をしているときです。
法定後見の場合、その時点で既に判断能力が低下していることが確認できなければなりません。

判断能力が十分な場合において財産管理や諸手続に支援が必要なのであれば、任意後見契約や財産管理契約によって対応することになります。

したがって、例えば「半身不随で日常的な支援が必要」といった理由で「後見相当」にチェックを入れた診断書が出されても、それは理由と結論が一致していないことになります。
改めて「判断能力の点ではどうなのか」を書いてもらう必要がありますし、もし「判断能力に問題なし」と書かれていれば、「後見相当」という診断書であっても、司法書士としては「申立ては不可」と判断することになるでしょう。


それから、これも誤解しがちですが、法定後見には「後見」「保佐」「補助」の3類型がありますが、一番重い「後見」であっても、必ずしも「完全に寝たきり」とか「コミュニケーションが一切とれない」ような場合とは限らないということです。
会話がきちんと成立し、日常的な買い物くらいは自分でしていても、財産管理について不安や損害を被る危険がある場合、後見相当となることはよくあります。
法律上、「日用品の購入その他日常生活に関する行為」については、後見人の同意が不要とされています。
つまり、その程度の判断能力がある人も後見相当となることが想定されているわけですね。


また、判定根拠の記載が重要になります。
どういう理由でその類型に該当すると判断したのかを、できるだけ具体的に書いていただき、「判断能力の低下している」ことが確認しやすい記載になっていることが望ましいです。
判断能力低下の原因や、現在の症状、具体的に困難が生じていること等ですね。

特にHDS-Rの値が20を超えている場合などは、所見が丁寧に書かれていると申立書も作りやすいですし、裁判官や調査官も納得しやすい(はず)。
鑑定が入ることもなく、費用も時間も節約でき、スムーズに手続が進む可能性が高くなります。


このようなポイントを押さえて丁寧な診断書を書いてもらえると、司法書士的には、「お、次からはこの医者を紹介しよう」となるわけです。
患者さんとそのご家族の負担軽減ため、ご協力よろしくお願いします。

では、今日はこの辺で。


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2014年8月2日土曜日

高槻まつり2014

司法書士の岡川です。

今日と明日は、私の地元高槻では、高槻まつりが開催されています。

メイン会場は、JR高槻駅から高槻市役所にかけての「けやき通り」です。
高槻市役所の前の通りが通行止めになって露店が並びます。

私は今日一日、南のほうへ出張相談(無料)に行って、しかもこれが予想以上に時間がかかってしまい、事務所に戻ったのが夜の8時半頃。

まあ、祭に行く予定はなかったから別にいいんですけど、私の事務所は、高槻市役所のすぐ近くにあるので、事務所に戻ったときは、そこらじゅうに人が溢れかえっていました。



夏ですなぁ。


ずっと雨が降っていたので、中止の可能性もありましたが、開催できてよかったですね。

では、今日はこの辺で。


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2014年8月1日金曜日

相続人が死亡した場合の遺産の行方

司法書士の岡川です。

人が死亡したら、相続が開始します。

「相続は、死亡によって開始する」

かの有名な川柳・・・もとい民法882条の条文ですね。

では、遺産分割などの相続手続をしようと思ったら、既に相続人が死亡していた・・・という場合、元々の相続関係はどうなるのでしょうか。


1.相続人が被相続人より先に死んでいた場合

相続権は、生きている人に帰属する権利です。
だから、既に死んでいる人には、相続権はありません。

例えば、Aに妻Bと子Cがいたとします。
この場合、Aが死んだときは、BとCが相続人になります(Aのことを「被相続人」といいます)。

Aより先にBが死んでいた場合、Bは相続人になり得ません(既に死んでるから)ので、Aの相続人はCだけです。

Aより先にCが死んでいた場合、Cが相続人ではないのは当然(なぜなら既に死んでいるから)ですが、もしCに子D(Aからみれば孫)がいれば、DはAの相続人になります。
これを「代襲相続」といいます。
Cに代わってDが相続人の地位に納まるわけですね。

さらに、Aより先にCもDも死んでいた場合、CもDも相続人ではない(しつこいようですが既に死んでるから)ですが、もし仮にDに子E(Aからみれば曾孫)がいれば、EはAの相続人になります。
これを「再々代襲」といいます。

ついでにいうと、Aより先にCもDもEも死んでいた場合で、Eに子F(Aからみれば玄孫)がいればFが相続人(再々々代襲)です。
これは理論上どこまでいっても、代襲が生じます。

子とか孫とか曾孫といった直系卑属がいない場合は、直系尊属(父母や祖父母)が次順位の相続人になります。
直系尊属が相続人になる場合は、代襲という制度は存在しません(例えば、祖父母の子=叔父叔母が代襲相続人になることはない)。

直系卑属も直系尊属もいない場合、兄弟姉妹が相続人です。
兄弟姉妹が被相続人より先に死んでいた場合、その子、すなわち甥姪が代襲相続します。

例えば、Gに子も両親もおらず、弟のHがいた場合、HがGより先に死んでいた場合は、Hに子I(Aからみれば甥姪)が代襲相続します。

しかし、Gより先にHもIも死んでいたばあい、たとえIに子Jがいたとしても、そこに「再代襲」ということはありません。
兄弟姉妹の相続に関しては、「代襲」までなのです。


2.被相続人の後に相続人が死んだ場合

例えばAに子Bがいて、孫Cがいた場合、A→Bの順番に死ねば、A→B→Cという順番に相続することになります。
A→Bの相続手続をして、その後にBが死ねばB→Cの相続手続をする、というのが基本になります。

では、Aが死んでA→Bの相続手続(遺産分割や相続登記等)をする前にBが死んでしまった場合どうなるか。

相続は死んだ瞬間に開始しますので、その後、相続人が死んだとしても、既に相続は開始しています。
「相続人の相続人」がいれば「相続人としての地位」がさらに相続されることになります。
つまり、「B相続人C」がBに代わってA→Bの相続手続を行うことになるのです(同時にB→Cの部分もやるのが一般的です)。
こういう場合を「数次相続」といいます。

Bが先に死んでいた場合にA→Cというふうに、「1個飛ばし」で相続されるのが代襲相続ですので、A→B→Cと相続される場合は代襲相続ではありません。

「甥姪の子」は、上記のとおり「再代襲」をすることはできませんので、被相続人より先に甥姪が死んでいた場合は、その子が遺産を承継することはありません。
しかし、被相続人より後に甥姪が死んだ場合は、その子は「相続人(甥姪)の相続人」という立場で、最終的に遺産を承継できます。
これは、数次相続であって再代襲ではないからです。


このように、遺産分割の場面になって「相続人が既に死んでいる」と分かったとき、相続人が被相続人より先に死んだのか後に死んだのかは非常に重要です。
それによって、相続人が誰なのかが変わってくるからです。

必ずしも、「共同相続人はもう死んでるから遺産は全部自分のもの」となるとは限らないので、注意しましょう。

では、今日はこの辺で。


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