2019年3月22日金曜日

債権法改正について(28)(債権譲渡2)

司法書士の岡川です。

債権譲渡の問題は、譲渡禁止特約(改正法でいうところの譲渡制限の意思表示)の問題以外にもありますので、今回は、残りの改正点を一気に解説。

現時点ではまだ発生していないけど将来発生する債権(将来債権)についても譲渡は可能です(改正466条の6第1項)。
また、将来債権を譲渡した後、債権が発生した場合は、譲受人が当然にその債権を取得することになります(2項)。

これは、判例の明文化ですので、今までどおり。

では、将来債権を譲渡した後に、譲渡制限の意思表示をした場合はどうなるか。
将来債権は、現時点ではまだ発生していない(=譲受人が取得していない)ものなので、やろうと思えば譲渡の後に元の債権者と債務者との間で譲渡禁止特約を付けることだって可能なわけです。

この点は、譲渡制限の意思表示が、債権譲渡の対抗要件具備時より前か後かで決することになります(3項)。
すなわち、譲渡人からの通知や債務者の承諾より前に譲渡制限の意思表示をすれば、譲受人は譲渡制限を知っていたものとみなされます。
前回の解説のとおり、悪意の第三者に対しては譲渡制限を対抗できますので(改正466条3項)、債務者は譲受人からの請求を拒むことができるわけです。


債権譲渡がなされた後にしばしば問題となるのが「異議をとどめない承諾」があった場合です。
現行民法では、「債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない。」という規定があります(現行468条)。

これはどういうことか。

債務者が元の債務者に対して何らかの抗弁(例えば同時履行の抗弁とか、相殺の抗弁といったもの)を出すことが可能だったとします。
普通に元の債務者が請求してきたら、これらの抗弁で対抗する(支払いを拒む)ことができるわけです。

しかし、債権が譲渡されて、譲受人から「債権を譲り受けたよ~」と連絡があったときに、債務者が不用意に「了解した!」と通知したら、「異議をとどめない承諾」となります。
異議をとどめずに債権譲渡を承諾してしまうと、現行法上、譲渡人(元の債権者)に対する同時履行の抗弁権をもって支払いを拒んだり、自働債権で相殺したりすることができなくなります。

もっといえば、「異議をとどめない承諾」では、元の債権者に対して対抗できた「弁済の抗弁」すらも封じられる。
つまり、既に元の債権者に弁済して債権が消滅していたとしても、債権譲渡されて「債権譲渡されたよ~」と連絡があった場合、とりあえず「了解です」と(異議をとどめずに)言ってしまうと、後で「あれ?その債権ってこの前もう弁済したから消滅してるんじゃね?」と気づいても、譲受人に対しては「既に弁済したから履行しない」と対抗することができなくなります(さすがに悪意の第三者には対抗できるというのが判例通説ですが)。


それらの主張をしたければ、債権譲渡の連絡をうけたときに、「元の債権者がまだ債務履行してないから、それが履行されるまでこっちも履行しないけど、債権譲渡については了解した!」とか、「その債権は既に弁済して消滅してるけど、債権譲渡は了解した!」とかいった感じで、きっちり「異議」をとどめたうえで承諾しなければいけません。
(まあ、さすがに後者の異議のとどめ方は普通ありえないですが、一部弁済の場合などは「その債権のうち○万円は弁済しているが、残額について債権譲渡を承諾」といった形がありえます。)


ただ、このルールは債務者に優しくないということで、改正法では「債務者は、対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。」(改正468条)と規定が改められ、「異議をとどめない承諾」という制度自体が廃止となりました。
なお、相殺で対抗する場合については469条で細かく規定されています。

これで、弁済済みの債権が譲渡されたのに気づかず、うっかり「異議をとどめない承諾」をしてしまって二重払いのリスクを負う危険がなくなりました。
めでたしめでたし。


では、今日はこの辺で。