2019年10月1日火曜日

債権法改正について(35)(契約の成立)

司法書士の岡川です。

契約は、申込みの意思表示と承諾の意思表示が合致すると成立します。
また、契約は、法律に特別な例外規定が定められていない限り、締結するもしないも自由であり、どのような内容、どのような方式でするかも自由です(契約自由の原則)。

これらの大原則は、現行法の解釈上、全く異論がないところではありますが、改正法では、わざわざ明記されることになりました(改正521条、522条)。

まあそれはいいとして。

契約の成立について、「どのタイミングで成立するのか」というルールについて、時代に合っていないものがあります。
なんせ、メールも電話も存在しない明治時代にできた民法ですから、申込みと承諾までに結構なタイムラグが生じたり、意思表示が相手方に到達しない間に何かが起きる危険も大きいという前提で作られています。


例えば、意思表示というのは基本的に到達主義(97条)であり、相手に到達した段階で効力が生じるのが原則です。

しかし、申込みと承諾という双方の意思表示が必要となる契約では、申込の意思表示が到達し、しかも、相手方が承諾していたとしても、その承諾の意思表示が申込者側に到達するまではさらに時間がかかる。
双方の意思が合致してるのに、承諾の意思表示が到達するのを待たないと契約が成立しないのでは、迅速な取引に支障をきたすことになります。
少なくとも明治時代は。

そこで、到達主義を定めた97条1項の例外として、隔地者間の契約については、承諾の意思表示が発された時点で契約が成立する、というのが現行法のルールです(現行526条、発信主義)。


他にも、承諾の意思表示が予め定められた期間を過ぎてから到達した場合、申込者は延着の通知をしなければならず、延着の通知を怠れば期間内に到達したものとみなされました(現行522条)。
さらに細かい場面設定として、「申込の通知をした後に撤回の通知を出したが、この撤回の通知が、通常であれば相手方が承諾の通知を発する前に到達するはずが到達せず、相手方が承諾の通知を発した後に撤回の通知が到達した」という場合についても、延着の通知を発さないといけないというルールがありました(現行527条)。


とはいうものの、通信技術が発達した現代では、電話でもFAXでもメールでも、申込みだろうが撤回だろうが承諾だろうが、どんな通知でも即時に相手方に到達し、到達確認も即時にできるわけです。
そういうわけで、現在でも、「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」が適用される場合では、上記の発信主義が適用除外となっています。

例外の例外場面が特例法に定められているわけです。

更に進めて、わざわざ契約の成立についてのみ到達主義の例外を設ける必要性に乏しく、また、通知が期間内に到達しなかった場合のリスクも発信者側に負わせるのが合理的です。

というわけで、上記の発信主義ルールは全部削除されました。


契約の成立に関する大きな改正点はこんなところですね。


懸賞広告についても微妙に改正があるのですけど、まあ、条文読んでのとおりなので条文確認しましょう。


では、今日はこの辺で。