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2023年8月3日木曜日

成年後見制度と意思能力の関係

司法書士の岡川です。

お久しぶりです。

なんと、このブログ1年以上投稿していないことに気づきました。
こんな超放置ブログですが、今でも「ブログ見てます」と言ってもらえることがちょいちょいありまして、ありがたい限りです。

さて、今日は久しぶりに書きたいことがあったので徒然なるままに。



突然ですが、成年後見制度ってあるじゃないですか。


もう10年以上前の投稿になりますが、「成年後見制度入門」からの一連の記事を見ていただければ、だいたいのことは理解できると思います。


世間では、だいぶ成年後見制度に対する理解も進んでおり、10年前と比べたら各種手続も随分とスムーズになりました。

しかし、それでもまだまだ根本的に理解されていないところがありまして、今でも金融機関やら保険会社やら通信会社やらで、無茶苦茶なことを言われることがよくあります。
例えば、「本人(被後見人)連れてきてください」「本人からの委任状が必要です」といった話は今でも珍しくありません。

軽くおさらいしますと、成年後見人(に限らず、保佐人や補助人も)は、「法定代理人」です。
裁判所が審判によって選任される、「法律で定められた代理人」ですから、その代理権の範囲においては、本人に代わって(つまり本人がいなくても)契約等の法律行為をすることができます。
本人が自分でできないところを(本人のために)代理するための制度ですから、「本人連れてこい」というのは、法律で定められている権限を無視するものです。
また、委任状というのは、法律上の定めではなく、委任契約等によって権限を与えた代理人(これを「法定代理人」に対して「任意代理人」といいます)が、代理権を与えられたことを示すための書類です。
「代理人に委任したこと(内容)を相手方に示すために、委任者が代理人に渡しておく書状」が委任状なわけです。

成年後見人等の法定代理人は法律で権限が定められているわけで、本人から何か委任されたわけではないですから、「本人からの委任状」なるものは本来的に存在しないのです。

その代わりに、後見人には法務局から「登記事項証明書」というものが発行されますので、これがあれば、その人が後見人等であること(保佐や補助の場合は、さらに権限の範囲)がわかります。


それから、「会社の規定で、書類は本人の自宅にしか送付できません」といわれること(特に保険会社)も、いまだにあります。
それをされると、既に施設入所している場合等、本人が自宅にいなかったら誰も受領できないのですよ。

当然ながら、書類の受領権限も後見人にありますし、後見人の事務所住所もその相手方会社に届け出ているわけですから、後見人宛に送付すれば済む話なのです(そういう扱いの保険会社も少なくないので、それができない理由はない)。

しかしなぜか、頑なに本人の自宅住所宛にしか送らないという会社があります。

ちょっとこれは、本当に何がしたいのかわかりませんし、誰も得しない(保険会社としても重要書類が返送されてくるだけで面倒なだけ)ので、速やかに改善していただきたいものです(保険会社のエライ人見てますかー?)。



前置きが長くなりました。

(そう、ここまでが全部前置き)



上に書いたようなことほどの頻度ではないのですが、特に保佐・補助・任意後見の場合にたまに遭遇する面倒な問題があります。

言ってる当人が発言内容を理解せずに(おそらく会社のマニュアルとか上司の指示に基づいて)言ってくるのですが、それが、


「本人に意思能力はありますか?」


これです。


意思能力というのは、「自己の行為の結果を認識する(あるいは認識したうえで正しく意思決定する)知的能力」のことを言います(→「意思能力の話」)。
意思能力を有しない者が行った契約等の法律行為は無効となります(民法3条の2)。

もっとも、保佐・補助類型や任意後見であれば、多くの場合は意思能力はあります。
保佐や補助類型は、事理弁識能力(厳密にいうと意思能力とは少し異なりますが、判断能力という意味ではある程度重なる概念)が不十分なだけの方ですので、開始時よりよほど認知症が重症化した場合でもなければ、当然に意思能力を欠いているようなことはありません。
また、後見類型であっても本人の能力には幅がありますので、完全に寝たきり状態の方でもなければ、意思能力自体は認められるような方もいます。

任意後見は事理弁識能力的には補助相当くらいの方から開始されるので、色々な場合がありますが、やはり意思能力が認められることも少なくありません。


だから私は、ほとんどの場合こう答えるのです。

「意思能力はあります」



ここまでは別にいいのです。
聞きたければ聞いたらいいし、こっちも答えるだけです。

問題はその後ですが、こういう問答で私が「意思能力はありますよ」と答えると、たいてい「意思能力がある場合は、保佐人(補助人・任意後見人)が代理できません」とか言ってくるのです。


いや待て待て。

 

それだと、後見制度の意味がないじゃないか。

 

その時々の本人の意思能力の有無で、個別に契約が有効になったり無効になったりするとまともに契約ができないし、そうなると本人も相手方も困ります。
そうならないように、予め一律に一定の代理権を付与することで、本人の権利を擁護しつつ、取引の安全も図っているのが成年後見制度です。

後見人がついていない場合、相手方に意思能力が無ければ契約が無効になってしまうので、意思能力を確認することは重要です。
しかし、後見人がついていて後見人が代理すれば、本人に意思能力が無くても契約は無効になりません。

本人の意思能力があってもなくても、代理人には本人のために法律行為をする権限があるからです(そうでなければ意味がない)。

つまり、本人の能力に応じて、私が「この人は意思能力はあります」と答えようが「この人は意思能力はありません」と答えようが、どっちにしても後見人が手続をすることに変わりはないわけです。


さらに言えば、(任意後見や同意権のない補助を除き)行為能力が制限されていますから、意思能力がある本人(特に成年被後見人や被保佐人)が契約したら、逆にその契約が無効になることもあります。
(同意のない)制限行為能力者の行為は、取消すことが可能だからです。
そうすると、本人の意思能力を確認するのは構わないが、意思能力があろうがなかろうが相手方としては、本人と契約するわけにはいかず、後見人等を代理人として契約するのが安全なわけです。


もちろん、本人の事理弁識能力に応じて、本人の意思を確認したうえで後見人が手続を進めること(意思決定支援のプロセス)は重要ですが、それは本人と後見人の間の問題であって、そのプロセスがどうであれ相手方との関係(契約の有効性や代理権の有無)には全く影響がありません。

そして、意思能力の有無を確認してくる会社が、意思決定支援の理念に基づいて確認しているわけでないことは明らかです。
なぜなら、そういうことを言ってくる場合、「では、まず本人の意思は確認されましたか?」ではなく、「では本人から委任状をもらって…」と言ってくるからです。

要するに、「意思能力があれば代理権限がなくなる」とでも思っているということです(前述のとおり、後見人等の代理権は、委任状ではなく登記事項証明書で提示できるのですから)。

こうなると、「いや、だから私が代理権を持ってますし、登記事項証明書で証明できるんですけど…」という話を延々と説明しなくてはならず、非常に面倒なことになります。



まとめます。

後見だろうが保佐だろうが補助だろうが、あるいは任意後見だろうが、本人の意思能力は必ずしも失われているものではありません。
そして、本人の意思能力があるかないかにかかわらず、成年後見人、保佐人、補助人、任意後見人が就任した以上は、それら後見人等には間違いなく権限が付与されております。
そして、その権限は、委任状ではなく、法務局が発行する登記事項証明書にて確認することができます。

逆に、意思能力があるからといって成年被後見人等と直接契約すると、契約を取り消される可能性もあります。


本人の「意思能力」を確認する場合、何のために確認しているのか、改めて考え直してみてください。

では、今日はこの辺で。

2020年7月3日金曜日

毎日放送(MBS)の情報番組ミント!に出演

司法書士の岡川です。

もう日付が変わったので昨日の話になりますが、7月2日(木)に、毎日放送(MBS)でやっている関西ローカルの情報番組に出演させていただきました。





前日、元後見人の弁護士が横領で逮捕されたという報道があり、その絡みで成年後見制度の現状(横領事件などの問題も含む)に関する解説をしてほしいという出演依頼によるものです。

私に直接依頼がきたわけではなく、リーガルサポート大阪支部に来た依頼ですけどね。
(私は現在、大阪支部の副支部長をしていますので)

番組は非常に限られた時間で進行しましたので、少し補足的なことを書いていこうかと。


番組の冒頭にも述べたとおり、今回弁護士が逮捕された事件は、元後見人による横領事件ではありますが、実際は、後見が終了した後の話です。

しかも、おそらく財産の引渡しも終えており、その後に、改めて相続人から遺産分割調停の依頼を受け、さらに調停成立後に銀行預金の解約手続の依頼を受けたようです。
その相続人からの委任による解約手続の際に、横領をしたという事件です。
つまり、本件において元成年後見人という立場はあまり関係がありません。

ただ、当初の報道が、「元成年後見人」が大きく報じられたということもあり、改めて成年後見制度にスポットを当てて解説したというのが今回の特集(?)です。


さて、番組中でも解説しましたが、成年後見人による不正は、専門職によるものが多いというイメージがあるかもしれませんが、実は、大多数は親族後見人によるものです。



番組では、後見制度支援信託の導入が横領の減少の理由であるという紹介がされましたが、支援信託は、基本的には親族後見人に適用されるものです。
後見制度支援信託によって、親族後見人による不正が大幅に減少した結果、不正事件総数(被害総額)も大幅に圧縮されたわけです。

(※補足:少し指摘があったので補足。前提として、個人的には後見制度支援信託制度が必ずしも良い制度だとは考えておりませんし、専門職団体での多くの見解も同様です。この制度は資産の大部分を凍結させるものであって、「財産保全」に全力投球した結果、必ずしも本人の利益に適うものではない。さらには、制度が重厚で専門職の負担も大きく、本人の経済的負担もあります。現在は、後見制度支援預金制度というのもあり、こちらは手続的にはかなり軽量化されていますので、今後はそちらが主流になるでしょう。ただ、客観的事実として、2014年以降の親族後見人による不正減少の「一因」であったことは確かなので、番組で用意された支援信託の説明自体は否定していません。ただ、もちろん本番では、支援信託が不正減少の全てではない、というところまで解説しています。)

番組中でも解説しましたが、この不正事件の大部分を占める親族後見人による不正も、必ずしも悪意(これは日本語の普通の意味の「悪意」です)をもって財産侵害をしているものではなく、法律や制度の理解不足から「これくらいの金額は、(自分のために)使ってもいいだろう」という甘い観測が、法的にみれば不正に当たるということが多く含まれています。
もちろん、「悪意がないから許される」というものでもないわけでして、そこは不正認定されることは当然ではあるのですが、少し「横領」のイメージからズレがあるかもしれません。

さらに、親族後見人の不正が大多数であるといえども、さらにその外側には、圧倒的多数の「不正を行っていない親族後見人」が存在するわけです。
そして、それよりさらに多くの「不正を行っていない専門職後見人」が存在し、成年後見制度を健全に運用しています。

もちろん、不正というのは1件たりとも許されないので、ごく少数だから良いというものではありませんが、その1件があるから制度そのものがダメな制度というふうな極論に振り切った理解をしてはいただきたくない、と思います。

これは、成年後見制度によって助かった高齢者や障害者の方々を多く見てきている者としての感想です。


後見人の不正防止に関しても、全く機能していないわけではありません。

例えば今回の弁護士の横領の件ですが、成年後見人として自由に預金を引き出す権限を有していたにもかかわらず、成年後見人であった(本人が生きていた)間は、横領をしていなかったわけです。
これは、成年後見人である間は、広範な権限がある一方で、常に裁判所の監督下にある(定期的に報告しなければならないので、横領したら発覚してしまう)ことから、不正ができなかったのかもしれません。

結局、本人が亡くなって後見人としての地位を退いた後、すなわち裁判所の監督から抜けた後で、相続人から預かった財産を横領をしたわけです。


例えば、犯罪機会論的な話でいうと、「監視性」というのは、犯罪抑止の要素であり、定期的な報告で常に管理財産をチェックされている状況というのは、犯罪(横領)の機会(犯罪をしやすい環境)を奪うという意味で、一定の犯罪抑止効が期待できます。

もちろん、人類の歴史上、いかなる刑事政策上の理論に則った施策も、犯罪を「0」にすることに成功していない(そして、今後も犯罪が「0」になることはあり得ない)のと同じく、それだけでは後見人による不正を「0」にすることはできません。

犯罪対策というのは、「ある程度の抑止効果」が認められる施策を積み重ねていき、件数を限りなく「0」に近づけるしかできないわけです。

が、今回の弁護士に関してはむしろ、この抑止効果が機能していた例なのではないかとも考えられます。


それはさておき、最後は、誰が成年後見人になるのか?というお話でしたね。



最後の最後で、「報酬ゼロ」という事例を紹介されました。
番組中でも説明したとおり、我々専門職は、業務(仕事)として、報酬をいただいて後見業務を行っていますが、中には報酬ゼロで受けている案件もあります。

「専門職の皆さんは、なぜ報酬ゼロで受けるのですか?」と問われたとき、「(後見業務は)公益的な側面があるので、制度の利用を必要としている方が相談に来られたときに、『報酬が払えないなら無理です』とは言い切れない」という趣旨の回答をしました。

ここで時間の関係もあって、何か私がすごく使命感の強い素晴らしい人みたいな感じでコーナーが終わってしまったので、私個人的には好感度も爆上がりで何ら問題ないんですが、公正を期すために補足しておくと、このような無報酬案件は、多くの専門職が少なくとも1件や2件程度は受けているものです。
多い人だと、そういうのを3件でも4件でも5件でも受けている。
私が特別に、使命感から引き受けているわけではありません(私よりたくさん、無報酬案件を引き受けている専門職はたくさんいます)。
そこは、正しく認識していただければ、と思います。

無報酬案件の話、番組の打ち合わせでもスタッフの方にしたんですけど、ものすごく驚かれました。
本番でも出演者の皆さん驚いていましたね。
我々にとっては、かなり普通の話だったので、逆に「え、そんなに驚かれる?」というレベルだったのですが、実は、そういうのが現状なのです。


そして、このような使命感に頼った制度は、今まさに限界を迎えているところです。
まあ平たく言えば、「これ以上は、もう受けきれない」という声が噴出しているわけですね。

お金がなくて必要なサービスが受けられない方については、本来的には、公的な制度で支援するのが筋なのですが、現状は、民間事業者の使命感(一種のボランティア)に頼り切った構造になってしまっています。

この辺の問題点も、番組で触れられたら良かったんですけど、今回のテーマからだいぶそれてしまうので触れられませんでした。
また何かの機会にでも。


とまあ、なんせスタジオでガッツリ解説するためのテレビ出演とか初めてだったので、言葉足らずで何か誤解を生んだり、誰かを不快にさせたりしてないかなとか気にしたりもしてるんですけど、まあ、私の周りでは概ね好評だったので良かったです。

また機会があれば、出演したいですね。

次は、例えばシェルティをもふもふしながら、その魅力を30分くらいかけて語ったりしたいです。

では、今日はこの辺で。

2016年9月30日金曜日

財産管理等委任契約の活用とその危険(その3)

司法書士の岡川です。

引き続き財産管理等委任契約の話。

その1は「活用」の話
その2は「危険」の話

そして今回は、「危険を認識したうえでうまく活用する」ためのポイントを解説します。


基本的なことですが、まずは「信頼できる相手と契約をする」ということ。
もっとも、誰が信頼できるかを見極めるのは難しいのですが…。

信頼できる相手を選ぶ「決め手」といえるようなものは、残念ながらないかもしれません。
しかし、なるべくリスクを低減することは可能です。


例えば安易に「個人より法人に預けたほうが安心」と考えるのも問題です。
全国的に展開していた「日本ライフ協会」が預託金を大量に事業資金に流用してそのまま破産した事件でもわかるとおり、「法人だから安心」「幅広く事業をやってるから安心」というようなものでもないのです。

では、司法書士や弁護士のように、法律の専門家に預けたら安心か。
これについては、安心です!と言いきりたいところではあるのですが、専門家といえども人間ですので、色んな人がいます。
司法書士や弁護士が預かったお金を横領した事件もニュース等で聞きます。

もちろん、専門知識があり、指導監督機関(司法書士であれば法務局や司法書士会、弁護士であれば弁護士会)の監督に服しており、場合によっては懲戒を受ける立場にある専門家のほうが、素人に預けるより安全であることは確かだと思います。
(実際に、成年後見人による横領は、大多数が親族後見人によるものです)

しかし、100%安全とは言い切れないことはきちんと認識しておかないといけません。
すべての受任事件について、個別具体的に監督されているわけではない(例えば、弁護士会が会員の懲戒権限を有するからといって、会員が受任する財産管理について全て目を通しているわけではない)からです。
財産管理等委任契約は、本人が自分で相手をチェックすることが想定されていますので、相手が専門家だからといってチェックを怠ることのないようにすべきです。


専門家の中でも、さらに安心なのは、「財産管理業務について第三者による監督を受けている専門家」です。

具体的には、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートという組織があります。
これは、司法書士で構成された団体ですが、リーガルサポートに所属する司法書士は、自身が受任している個別の後見業務や財産管理業務について業務報告をする義務がありますので、そこで不適切な管理がないようにチェックを受けます。
本人や受任者だけでなく、第三者が財産の管理状況に目を通すことで、不正(あるいは、不正には至らないような不適切な業務)が予防されます。

もちろん、これすらも100%安全とは言い切れませんが、「第三者がチェックしている」ということで安全性は飛躍的に高まるといえるでしょう。


さて、信頼できる相手が見つかったとして、契約を締結するわけですが、契約の内容についても当然注意が必要です。

まず、委任する事務の内容、あるいは代理権の内容についてチェックしてください。
必要のない(任せるつもりのない)事項まで入っていると、削除するよう求めないといけません。

それから、委任報酬。
報酬は、法定後見制度と違って完全に契約で定めることになりますので、きちんと納得した額で契約するようにしてください。

毎月1万円でも高いと思う方もいれば、10万円でも安いと思う方もいるでしょう。
事案によっても、妥当な金額というのは変わってくると思います。
定価があるわけでもなく、ケースバイケースではありますが、なんにせよ「自身が納得した金額になっているか」をチェックすることが大切です。

それから、できれば、任意後見契約と同時に契約することをお勧めします。
前回も書きましたが、任意後見契約を締結していなければ、自身が認知症等になっても、そのまま(誰のチェックも受けることなく)財産管理が続いてしまうことを避けるためです。
契約条項として、判断能力が低下した場合は速やかに任意後見監督人の選任申立てをする義務を入れておくとより良いですね。


さらに、受任者がリーガルサポート会員であれば、「リーガルサポートへの報告をする」という条項が入っているかも要チェックです。
「報告するというのが契約の内容に入っていないから報告しない」ということでは意味がありません。
なお、リーガルサポートの内部ルールでは、財産管理等委任契約の中に必ずリーガルサポートへの報告条項を入れることが決められていますので、もし仮に提案された契約書にその内容がなければ、怪しんでみるべきかもしれません。

もちろん、リーガルサポートのチェックを受けるという手法は、リーガルサポート会員に委任した場合にしか使えませんが…。


もし専門家でもない人に財産管理を委任する場合は、同じように第三者のチェックを受けられる仕組みを用意しておくと良いですね。
任意の財産管理というのは当事者間の契約ですから、安全確保の方法というのも契約次第になるわけです。


あまり一般的な方法ではありませんが、例えば、財産管理の受任者とは別に、専門家に「監督人」に就任してもらうという方法も考えられます。
ちょっと契約が複雑になりますが、(リーガルサポートの会員に委任するような場合を除き)第三者のチェックを受けさせる方法としては、契約によって第三者に「監督を委任」するしかありません。

法定の成年後見監督人や任意後見監督人と違い、法律に何の定めもないので、法的な権限は一切ありませんが、例えば、その監督人との間で任意後見契約を締結することで、いざとなったら任意後見契約を発効させる権限を付与することも可能ですね。



財産管理を他人に任せる場合、上記のようなことも併せて検討してみてください。

では、今日はこの辺で。

2016年9月26日月曜日

財産管理等委任契約の活用とその危険(その2)

司法書士の岡川です。

引き続き財産管理等委任契約の話。
前回は「活用」の話でしたが、今回は「危険」のほうに重点を置いてみます。

法定後見制度では、家庭裁判所が監督権限を有し、場合によっては成年後見監督人が選任されます。
相続財産や不在者財産の管理人についても、家庭裁判所が選任するので、その監督に服することになります。


契約に基づく財産管理であっても、任意後見の場合、任意後見契約を発効させるには、任意後見監督人の選任が必須です。
認知症等で判断能力が不十分な人に対して、契約に基づいて包括的な代理権を付与するには、適正な監督を受けられる仕組みが必要だからです。

他方、財産管理等委任契約が想定しているのは、任意後見の対象外の方、すなわち、判断能力が十分であり、受任者の財産管理状況を自ら監督できる場合ということになります。
このような判断能力が十分な方が任意で第三者に財産を預けることに関し、法律は特に何らの規制も設けていません。


理念的には、契約に基づいて認知症等で判断能力が低下した人の財産管理を行うには、任意後見制度を利用することが想定されており、任意後見監督の仕組みによってその適正性が担保されています。


ただし、任意後見制度において、任意後見契約の受任者(任意後見人候補者)が、任意後見契約を発効させる(任意後見監督人の選任を申し立てる)義務までは規定されていません。

任意後見契約法は、財産管理等委任契約などは想定していませんので、委任者(本人)の判断能力が低下しても、任意後見契約を発効させない限り財産管理は開始しません。
したがって、法が典型的に想定しているケースにおいては、受任者が財産管理権を取得したければ契約を発効させるしかありませんので、必要であれば契約を発効させるであろう、との考えのもとに制度が成り立っています。

逆にいえば、「任意後見契約を発効させない限り財産管理はしていないはず」なので、財産管理上の不正が発生する余地はありえないという制度設計になっています。


ところが、前述の通り、任意後見契約と同時に財産管理等委任契約を別途締結しておけば、あえて任意後見契約を発効させなくても、財産管理等委任契約に基づいて、委任者の判断能力が低下した後も財産管理を続けることが可能になります。
(認知症になったからといって、当然に財産管理等委任契約が失効することはありません)

あるいは、そもそも任意後見契約を締結せずに、財産管理等委任契約だけを単独で締結してしまえば、監督人選任がどうとかいう話にはなりません。


このような場合、第三者どころか本人による十分な監督も期待できないので、非常に危険な状況になります。
これは、任意後見制度の趣旨を潜脱する行為ではありますが、やろうと思えば簡単にできてしまうのです。


任意後見監督人の選任申立権者(=任意後見契約を発効させる権限を有する人)は、任意後見契約法では次のとおり定めされています。

本人
配偶者
四親等内の親族
任意後見受任者

本人が(受任者の意向に反して)自ら進んで任意後見監督人選任申立てをするようなことはあまり考えられません。
本人に親族がいれば、親族が申立てをすれば良いのですが、親族もいなければ、事実上、任意後見契約を発効させるかどうかは受任者にかかっているといってよい。

そして、受任者に「任意後見監督人選任申立てをする義務」はないのです。
さらにいえば、そもそも財産管理等委任契約と同時に任意後見契約を締結すべき義務もない。

怖いですね。
老後の安心を得るための契約が、不安の種になってしまっては本末転倒です。


とはいえ、実際に誰かに財産を管理してもらったり、契約などの手続を代理してもらいたいという方はたくさんいます。

財産管理等を他人に委任する契約をする際に気を付けるべきポイントを書こうと思いましたが長くなったのでこれは次回。

では、今日はこの辺で。

2016年9月16日金曜日

財産管理等委任契約の活用とその危険(その1)

司法書士の岡川です。

相続財産の管理には相続財産管理人という制度があります。
行方不明者の財産の管理には不在者財産管理人という制度があります。
判断能力が不十分な人の財産の管理には成年後見人という制度があります。

では、本人は生きているし、行方不明にもなっていないし、判断能力は問題ない、でも財産を第三者に管理してもらいたい、という場合はどうすればよいでしょうか。

若くて健康的な人にとっては関係ないことではありますが、例えば高齢で一人暮らしであったり施設に入所していたりすると、毎月の諸費用の支払いとか日々の財産管理とか、あるいは役所の手続きとかが大変になってくる方もおられます。

また、詐欺や消費者被害などに遭うのは、必ずしも明確に認知症等で判断能力が低下している方だけとは限りません。
認知症でもなく、判断能力が低下しているわけでもなくても、騙されることはあります。
以前、特殊詐欺の話も書きましたが、どんなに気をつけていても限界があるものです。
最近は、スマホアプリによる詐欺被害に遭う中高年の方も増えているようですし、古典的な特殊詐欺も依然として蔓延しています。

しかし、「判断能力が正常」であるということは、逆にいうと法的な救済手段も限定的だということです。

判断能力が正常なのであれば、自己責任が基本ですから、成年後見人のように、問答無用で契約を取り消したりすることはできません。

なんとか詐欺をや不法行為を立証したり、各種消費者法に定められた取消しの要件を検討して主張することになります。
また、仮に法的には契約取消ができたとしても、実際にお金を取り戻すのは難しいこともあります。


そうすると、騙されないためには(あるいは、騙されてもお金を取られるのを防止するには)、大事な財産は第三者が管理するというのも有効な選択肢のひとつになります。


そういう場合に利用されるのが、財産管理等を委任する契約を締結するという方法です。

よく行われるのは、「任意後見契約」と同時に「財産管理等委任契約」(「任意代理契約」といわれることもあります)を締結し、認知症になるまでは委任契約に基づいて財産管理をしてもらい、認知症になった後は任意後見人として財産管理をしてもらうという方法です。

専門職後見人として後見業務を行っている司法書士も、任意後見契約とセットで財産管理等委任契約を締結するケースは少なくありません。

(具体的な活用方法については、当事務所のホームページの「任意後見制度について」に詳しく書いています。はい宣伝です。)

これは別に法律で定められた制度ではなく、あくまでも委任契約(準委任契約)の一種に過ぎませんので、どのような契約にするのかは専ら当事者間の合意に基づきます。
契約自由の原則ですね。

なので、契約の名前も色々で、似たような契約をNPO法人などが行っていることもあります。
また、契約なので自由に内容を決めることができるので、その人に応じた使い方が可能になります。


ここで気を付けなければいけないのが、財産管理等委任契約は、法律で定められた制度ではないので、その財産管理人を監督する立場の第三者が全く存在しないということです。

高齢者から大量に預託金を預かり、それを事業資金に流用したまま破産した「日本ライフ協会」の事件は記憶に新しいところです。


次回、財産管理等委任契約の危険性について解説します。


では、今日はこの辺で。

財産管理等委任契約の活用とその危険(その2)

2016年8月23日火曜日

弁護士による横領に対する給付金制度

司法書士の岡川です。

日本弁護士連合会が、「依頼者保護給付金制度」を新設するようです。

これは、成年後見業務などで弁護士が依頼者から預かっている金銭等の横領事件が起きた場合に、被害者に対して見舞金を支払う制度です。
成年後見業務に限らず、弁護士が依頼者から預かったお金を着服する事件がいくつも発生していることを受けての対策です。

弁護士による不正が発生した場合、被害者1人につき最大500万円(複数の被害者がある場合総額2000万円を限度)を支給するとのことです。


このブログでも過去に何度か取り上げましたが、成年後見人による不正(基本的には横領)が後を絶ちません。
多くは親族によるものなのですが、中には、専門職といわれる司法書士・弁護士・社会福祉士による不正事件もあります。

そして、専門職の選任される比率が増加するにつれて専門職による不正も増加しています。

成年後見人による不正は、親族だろうが専門職だろうが絶対にあってはならないことではありますが、特に専門職は、その専門的知見とともに社会的信頼を背景に選任されるものです。
専門職による不正事件は、本人に対して財産的損害を与えるだけでなく、本人やその親族の信頼を裏切るものです。
そして、成年後見制度や当該専門職能に対する社会的信頼をも棄損することにもなり、きわめて悪質です。

専門職後見に対する刑事処分は、通常の横領事件などに比べても厳しい判決が下されることが多いように感じていますが、それは当然のことです。


専門職の業界としても、不正に対して手をこまねいているわけにはいきません。

司法書士会では、成年後見制度が創設されると同時に「公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート」(リーガルサポート)という専門の団体を設立し、ここが司法書士後見人の養成、指導、監督を引き受けています(家庭裁判所に後見人候補者を推薦するのもリーガルサポートが行っています)。

そして、実はリーガルサポートにも今回日弁連が新たに創設したような見舞金と同様の交付金制度が存在しています。
金額も含め、内容が似通っているので、日弁連も、おそらくリーガルサポートの交付金制度を参考にして作ったんだろうと思いますが、たまたま似たのかもしれません。


日弁連の新制度について、弁護士から徴収する会費が財源となります。
これに対しては、弁護士からも批判が出ているようです。
「なぜ一部の悪い弁護士のために自分たちの会費が使われるのか」という批判です。

リーガルサポートの交付金制度はリーガルサポート設立当初から存在(当初は保険だったのですが)しており、またリーガルサポートは、強制加入団体である司法書士会とは一応独立した任意入会の団体なので、「嫌なら入会しない」という選択肢があります。

しかし弁護士会は強制加入団体。
反発の声があったとしても仕方はないかもしれません。
まあ、最終的には承認されるのでしょうけどね。


また他方で、こういう制度は、「不正があること」を前提にした制度です。
そのため「不正をなくすことが先ではないか」「不正が起こることを認めるのか」という批判もあります。

不正を「許す」わけにはいきません。
しかし、横領に限らず「犯罪」というのは、減らすことはできても絶対に「根絶」することは不可能な現象です。

残念ながらそこは前提として認めなければならないと思います。
たとえどんな対策をとっていたとしても、なお不正があることを「想定外」で済ませるわけにはいきませんから。


「犯罪を根絶する」というのは、理想論や理念としては理解できるにしても、現実的な発想ではありません。
人類を絶滅させるか、あるいは、SF世界のように完全な管理社会にでもならない限り、犯罪は必ず存在するものです。


もちろん「専門職後見人による不正」だけであれば、対象が限定されているので、限りなくゼロに近付けることはできます。
そのためのあらゆる対策を考えて実施する必要があります。

専門職後見人の三士会(司法書士会・弁護士会・社会福祉士会)のうち、司法書士会を除く他の2団体の内部事情は良くわかりませんが、リーガルサポートでは、色々な不正対策が行われています。
司法書士が後見人等候補者名簿に登載するには、常に研修単位を取得し続けなければいけません。
また、後見人等に就任後はかなり厳しく(それこそ会員から不満が出るくらいの)業務報告を求められ、指導・監督が徹底して行われています(本当に会員から不満が出るくらいの…)。

仮に不正をすれば、刑事処分だけでなく懲戒処分も受け、二度と司法書士として復帰することはできないリスクを負っています。


それでも、対策さえしておけば「未来永劫絶対に不正は起こらない」というようなことは保証できないものです。
実際に、あの手この手で不正をする人間が出てきているわけです。

そうである以上は、不正を防ぎきれなかった場合の「次善の策」として、事後的な被害救済策も用意しておくことは重要であると考えられます。
もっとも、実際の被害額と比べて500万円では足りない事例も多々あるわけで、やはりあくまでも「次善の策」に過ぎないのですが…。


今後、この給付金が使われないことを願いたいところです。

では、今日はこの辺で。

2016年6月1日水曜日

市民後見人はどうやって選任されるのか

司法書士の岡川です。

成年後見制度利用促進法が成立したこともあり、「市民後見人」が少し注目されています。

市民後見人は、親族後見人、専門職後見人に次ぐ、第三の選択肢として期待されているのですが、そもそも市民後見人とは何でしょうか。


親族が後見人等に就任した場合、親族後見人と呼ばれます。
そして、司法書士・弁護士・社会福祉士の三士業が後見人等に就任した場合、専門職後見人と呼ばれます。

じゃあ、それ以外が後見人等に就任した場合が全部市民後見人か、というとそういうわけではありません。


そもそも市民後見人というのは、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートが2005年に出した「成年後見制度改善に向けての提言」の中で提唱された概念です。

法律上の用語ではありませんので、厳密な定義があるわけではありませんが、一般的には、

「弁護士や司法書士などの資格はもたないものの社会貢献への意欲や倫理観が高い一般市民の中から、成年後見に関する一定の知識・態度を身に付けた良質の第三者後見人等」

のように定義されます。

ポイントとしては、

①専門資格はもたない一般市民であること
②社会貢献のためであるであること
②成年後見に関する一定の知識や態度を身に付けていること

といった条件を満たした場合をいうということです。

弁護士や司法書士「などの資格」はどこまでをいうかも厳密に決まっているわけではありませんが、最高裁判所の統計では、司法書士・弁護士・社会福祉士の三士業のほか、税理士・行政書士・精神保健福祉士を市民後見人から除いています。

つまり、親族以外の税理士が後見人等に就任しても、それは市民後見人からは除外されます。

次に社会貢献のためであるということ。
社会貢献のために、一般市民が、自分と交友関係にない方の後見人等に就任するのが市民後見人なのです。
専門資格がなく、親族でもないとしても、友情や義理のために知人の後見人等に就任する場合は市民後見人からは除かれます。

それから、一定の知識や態度を身に付けているという点。
具体的には、都道府県や市区町村が行う養成事業で定められた課程を修了していることが必要です。

その辺の暇な「一般市民」を連れてきて、後見人等に選任しても、それは市民後見人ではありません。

「その他の個人」というのが若干ですが統計に表れておりますので、一般の市民が後見人等に就任しても、上記のような条件を満たしていなければ、それは市民後見人ではありません(基本的には事実上の家族や知人だと思います)。


形式的には、市民後見人として養成され、市民後見人として登録されてる人が市民後見人だということもできますね。


さて、では市民後見人が選任されるまでの手続きはどうなっているのかが気になるところですね。
申立てするときに、市民後見人に頼んで候補者になってもらうのかというと、そうではありません。


市民後見人の養成、個別の事件への候補者推薦、就任後のサポートは、行政・裁判所・専門職(司法書士・弁護士・社会福祉士)が連携して行われています。

自治体ごとに制度設計がなされていますので、全国のすべての状況までは把握していませんが、一般的には、市民後見人の養成事業で研修課程を修了した人が、「○○市成年後見センター」のような市民後見人に関する事業の実施機関に登録されます(大阪では「市民後見人バンク」といいます)。

そして、裁判所に成年後見開始が申し立てられた事件のうち、適当な候補者がいない場合で、市民後見人を選任することが適当と考えられるものがあれば、裁判所から実施機関に推薦依頼がされます。
そこで、行政担当者、専門職(司法書士・弁護士・社会福祉士)、学識経験者らが事件を検討し、登録された候補者の中から適当な人物を推薦することになります。

裁判所は、推薦された市民後見人候補者が当該事案の後見人として適当であると判断すれば、後見人に選任します。

つまり、適当な候補者がいない事案(これは、候補者なしで申し立てられる場合もあれば、不適切な候補者を立てて申し立てられる場合もあります)について、裁判所は専門職団体(弁護士であれば弁護士会、司法書士であればリーガルサポート)に推薦依頼をする他、市民後見人の推薦依頼もできるということです。


市民後見人は、成年後見制度利用促進法の成立で初めて出てきたものではなく、既に稼働している制度なのですが、促進法の成立によってその利用が加速するかもしれませんね。

では、今日はこの辺で。

2016年3月2日水曜日

成年後見人の監督義務(名古屋の認知症患者の列車衝突事故に関する最高裁判決を踏まえて)

司法書士の岡川です。

名古屋の認知症患者が徘徊して列車と衝突して死亡し、遺族がJRから損害賠償を請求された事件について、最高裁判決が出ました(名古屋高裁の判決については、こちらを参照→「認知症患者の家族の損害賠償責任」)。

結論としては、JR側の請求を全て棄却し、家族の監督義務者としての損害賠償責任が否定されました。
このような事案で、介護家族の損害賠償責任を肯定してしまうと、認知症患者は家や施設内に厳重に閉じ込めておかなければならなくなります。
最高裁の判断は、極めて妥当な結論だといえます。

全ての問題が解決したわけでなく、新たな問題(今後、こういう事例で誰が被害者を救済するのか等)も生まれていますが、認知症患者を介護する家族にとって画期的な判決だといえるでしょう。


ところで、今回の判決は、成年後見制度にとっても非常に重要な内容が書かれています。

すなわち、判決理由中で「保護者や成年後見人であることだけでは直ちに法定の監督義務者に該当するということはできない」と判示されているのです。
実は、この部分は、非常に重要な意味を持っています。


介護家族の責任の問題は、ニュース等で散々報道されているので、ここでは少しそこから外れて、成年後見制度との関係で今回の判決を見ていくことにします。


民法714条では、「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」と規定されています。

「監督する法定の義務を負う者」とは具体的に誰なのかが問題となりますが、従来、親権者や未成年後見人とならび、精神保健福祉法上の「保護者」(ただし、保護者制度は平成25年改正により現在では廃止されています)や「成年後見人」が挙げられていました。

多くの民法(不法行為法)の基本書を始めとする各種書籍や論文において、成年後見人が法定の監督義務者にあたるというのは、あえてその理由を論じるまでもない当然の前提として紹介されています。
すなわち、法定の監督義務者とは、典型的には「本人が未成年であれば親権者、成人であれば成年後見人」であって、その他にどういう人が監督義務者にあたるか、というような議論がされてきたわけです。


これには、歴史的な背景があります。

かつての禁治産制度(成年後見制度の前身)では、禁治産者に付けられた成年後見人には、「禁治産者の資力に応じて、その療養看護に努めなければならない」とする療養看護義務が課されていました。
さらに加えて、精神保健福祉法により、成年後見人は、当然に第一順位の「保護者」になりました。
保護者には、かつては、「精神障害者に治療を受けさせるとともに、精神障害者が自身を傷つけ又は他人に害を及ぼさないように監督」する自傷他害防止監督義務が課されていました。
精神保健福祉法制定当初(まだ精神衛生法であったころ)は、保護者には精神障害者の保護拘束の権限も存在し、本人の保護というより社会防衛の側面が強い法律であったことがわかります。

このような法制度であったことから、成年後見人が民法714条にいう法定の監督義務者であるのは当然であり、かつ、成年後見人こそ民法714条の想定する典型例だと考えられていたわけです。

これがいわば従来の通説でありました。
また、判例や下級審裁判例においても、私の知る限り、直接的に成年後見人の責任が問われたものはありませんが、精神保健福祉法上の「保護者」が法定が監督義務者であるのは当然の前提とされてきました。


ところが、精神障害者をめぐる法制度に平成11年に大きな転換があります。
すなわち、禁治産制度が廃止され、精神障害者の自己決定の尊重やノーマライゼーション(残存能力の活用)といったことが理念に置かれた現行の成年後見制度が開始されます。

成年後見制度では、かつての成年後見人に課されていた禁治産者の「療養看護に勤める義務」という規定は削除され、その代わりに「成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない」とする身上配慮義務が課されます。
さらに、精神保健福祉法からも上記の自傷他害防止監督義務は削除され、成年後見人が当然に保護者となっても、同法上の自傷他害防止義務を負うことはなくなりました。


このように、平成11年の前後で成年後見人の法律上の地位やそれに伴う義務の内容は大きく変わっています。
同年の改正以後の成年後見人は、成年被後見人を保護する支援者であって、第三者との関係において成年被後見人の行動を監督するような立場ではなくなっています。
また、精神保健福祉法の保護者の制度は平成25年まで残りますが、これも、文字通り「本人を保護」するために治療を受けさせる義務を負ったり、医療保護入院の同意権を有しているにとどまり、社会防衛的な意味は有していません。


ところが、「法定の監督義務者の典型例は成年後見人である」という考え方が、あまりにも当然であり、通説の地位を得ていたものですから、平成11年の改正後においても、これが「通説」として通用してきました。
成年後見法分野においては、従来の「通説」はもはや通用しないという考えが広まっていたものの、民法学者(不法行為法分野)においては、根強く残っていたようです。
もちろん法改正の経緯と成年後見制度の現状を意識する学者も中にはいて、責任を限定するような見解もありましたが、そもそも「法定の監督義務者の典型例は成年後見人である」という大前提を否定する見解は少数にとどまっていたように思います(統計をとったわけではありませんが、ざっと調べた限りの印象です)。

裁判所の意識としても、平成11年以後、精神障害者の不法行為に関する裁判例がいくつか出ていますが、やはり正面から保護者や成年後見人の責任を否定することはなく、むしろ「当然の前提」とされているものが見られます。

現に、今回の原審である名古屋高裁では、成年後見人が法定の監督義務者であることを明確に前提とした法律構成となっており、仮に被告(亡くなった方の長男)が成年後見人であったならば、そのことを理由に責任が肯定されていた可能性が高いものと思われます。


ところが、今回の最高裁では、このような従来の見解が否定され、成年後見人というだけでは民法714条にいう法定の監督義務者ではないと判示されています。
理由はまさに、平成11年以後の成年後見人の法律上の地位に基づきます。

小法廷の5人の裁判官のうち、裁判長を含む4人が成年後見人は法定の監督義務者でないとしています。
そのうち、特に木内道祥裁判官の補足意見が法改正の沿革と成年後見制度の実情について詳しく述べています。

ただ、大谷剛彦裁判官の意見だけはこれと異なって、従来通り成年後見人の監督義務を肯定しています(ただし、その義務は緩和されている)。
しかし、その理由として「従前との連続性を踏まえて解釈」すべきとする論旨は理解しがたいものです。
法制度が連続性を絶っているのだから、解釈論としても連続性をもたせなければならない理由はありません。


今回の最高裁判決は、法改正の趣旨に沿ったもので、法改正前の意識を引きずっていた従来の「通説」を明確に否定する、成年後見制度にとっても、非常に大きな意義をもつ判決だといえます。

実際には家族の責任が争点になったものではありますが、それにとどまらない重要な判決になりました。

では、今日はこの辺で。

2014年12月18日木曜日

後見人による不動産の売却

司法書士の岡川です。

後見人等(成年後見人、保佐人、補助人)は、その代理権の範囲内で本人(成年被後見人、被保佐人、被補助人)の財産を管理し、処分することができます。
後見人等は、法律で権限を認められた代理人(法定代理人)ですから、権限を濫用したり権限外のことを行わなければ、財産の管理処分は、法定代理人の判断にゆだねられています。
代理人にある程度の裁量がなければ、代理人の意味がありませんからね。
ただし、後見人等は、本人の意思の尊重義務を負っていますから、あくまでも本人の(利益の)ために行動します。


ですから、大きな財産の処分、例えば不動産を売ったり、株式を売却するような場合も、(法律の建前上)原則として本人や裁判所の了解を得る必要はありません(「代理権の範囲内にあれば」の話ですので、保佐人や補助人の場合、その処分を行う代理権があることが前提です)。
もちろん、その処分が不適切だった場合は、善管注意義務違反に問われる可能性がありますので、実務的には、大きな財産の処分をする前には、裁判所と相談したり、本人の意思を確認したりはしますけどね。


ところが、原則として後見人等に任せられているといっても、後見人等の判断のみには委ねられていないものがあります。
それが、「居住用不動産の処分」です。

後見人等が居住用不動産を処分する場合には、必ず家庭裁判所の許可が必要です。
そのため、居住用不動産を売却した場合の移転登記(名義の書き換え)には、裁判所の許可証(審判書)を提出しなければなりません。
(なお、専門的なことをいうと、登記原因証明情報にも、居住用不動産であることと、許可を得たことを記載します)


「居住用不動産」とは、本人が現に住んでいる家であったり、今は施設に入所しているけど以前住んでいた家などを指します。
「処分」というのは、売ったり、誰かに貸したり、抵当権を設定(担保に入れる)したりすることです。

居住用不動産の処分だけは、広範な代理権が認められている成年後見人であったとしても、その単独の判断に任せると本人の不利益になる可能性があるので、裁判所が慎重に検討したうえで結論を出すことになっています。
そして、本当に本人の意思に沿う処分なのかを、裁判所がチェックすることになります。

例えば、「本人の介護費用を捻出するために既に住んでいない家を売る」といった正当な理由があれば許可されるでしょう。


後見人は、常に、「本人の判断能力が正常であったならば、どういうことを望むか」を考えて行動しなければなりません。
なかなか難しいことなのです。

では、今日はこの辺で。


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2014年8月5日火曜日

成年後見人の責任

司法書士の岡川です

成年後見制度に絡んで、こんな事件がありました。



交通事故で障害の弟の口座から横領、横浜地検が姉を起
起訴状によると、女性は2009年9月から12年1月までの間、親族の40代の男性に管理を委託していた50代の弟の預金口座から、71回にわたり、現金計1988万円を引き下ろして横領した、とされる。
地検によると、弟は交通事故で障害を負い、川崎市内の障害者施設に入所。横浜家裁川崎支部が、親族の40代の男性を成年後見人として選任していた。

要するに、50代の男性が成年被後見人、40代の男性が成年後見人、被告人は成年被後見人の姉で、成年後見人が管理する弟の口座から2000万円を横領した、という事件ですね。

直接的には、成年後見人による横領事件ではなく、第三者(姉)による横領ということになります。
改めて確認するまでもなく、第一義的には姉に責任がある(刑事上・民事上)のですが、3か月にわたって71回も引き出されて2000万円もの財産を失ったというのは、成年後見人であった40代男性の財産管理が極めて杜撰だったといえます。

被告人の女性が成年後見人の家に忍び込んで金庫の鍵を開けて通帳を盗み出したというような事情でもあれば同情の余地もありますが(それでも、2000万円もの大金は貸金庫に入れておくべきでしたね)、成年後見人が保管している預金が、簡単に第三者に引き出されるなどという事態はあってはなりません。
これでは、何のための成年後見人かわかりません。

おそらく、この後見人は解任されるでしょうし、場合によっては損害賠償請求される可能性もあります。

成年後見人は、成年被後見人の財産を守る義務を負っています。
制度上、誰がなってもかまわないのですが、その責任を自覚することなく安易に就任することは、本人のためにも後見人のためにもなりません。

なお、これは正式に成年後見人に就任した場合に限った話ではありません。
もし「後見人は責任重大だから、後見を申し立てずに預かっておこう」と思った人がいれば、それは間違いです。
他人の財産を保管する以上、求められている注意義務の程度は同じです。
やはり、杜撰な管理をしていると損害賠償請求の対象となる可能性があります。


たとえ親族のものであっても、他人の財産を預かるというのは、大変なことだということを忘れないようにしたいものです。

では、今日はこの辺で。


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2014年8月4日月曜日

お医者さんのための成年後見診断書作成入門

司法書士の岡川です。

成年後見の申立てには、医師の診断書が必要です。
精神科医や心療内科医は、日常的に成年後見制度に接することもあるので、ほぼ問題なく対応していただけるのですが、申立てに必要な診断書は、別に専門医でなくとも、内科医でも外科医でも皮膚科医でも耳鼻科医でも作成することができます。
噂では歯科医でもいいらしいのですが、見たことはありません。
一般的には、「かかりつけの医者に書いてもらう」ことになるので、専門に関わらず診断書作成を依頼される可能性があります。

診断書の作成自体は、医師の専権事項なので、医師の専門的知見に基づいて書いていただけば良いのですが、同時に成年後見制度について基本的な点は理解しておいていただかないと、診断書の内容と法的な判断が乖離してしまう(場合によっては書き直し)ということもあるので、注意が必要です。

今日は、司法書士から見た、精神科が専門でないお医者さんのための診断書作成のポイントを解説します。


まず絶対に外してはいけないのが、成年後見は「判断能力が低下した場合」の制度だという点。
たとえ身体的な要因で日常的な介護が必要であったとしても、頭がしっかりしていれば、後見が開始することはありません。

特に、医師が診断書の作成を依頼されている場面というのは、基本的にはその患者について法定後見の申立の準備をしているときです。
法定後見の場合、その時点で既に判断能力が低下していることが確認できなければなりません。

判断能力が十分な場合において財産管理や諸手続に支援が必要なのであれば、任意後見契約や財産管理契約によって対応することになります。

したがって、例えば「半身不随で日常的な支援が必要」といった理由で「後見相当」にチェックを入れた診断書が出されても、それは理由と結論が一致していないことになります。
改めて「判断能力の点ではどうなのか」を書いてもらう必要がありますし、もし「判断能力に問題なし」と書かれていれば、「後見相当」という診断書であっても、司法書士としては「申立ては不可」と判断することになるでしょう。


それから、これも誤解しがちですが、法定後見には「後見」「保佐」「補助」の3類型がありますが、一番重い「後見」であっても、必ずしも「完全に寝たきり」とか「コミュニケーションが一切とれない」ような場合とは限らないということです。
会話がきちんと成立し、日常的な買い物くらいは自分でしていても、財産管理について不安や損害を被る危険がある場合、後見相当となることはよくあります。
法律上、「日用品の購入その他日常生活に関する行為」については、後見人の同意が不要とされています。
つまり、その程度の判断能力がある人も後見相当となることが想定されているわけですね。


また、判定根拠の記載が重要になります。
どういう理由でその類型に該当すると判断したのかを、できるだけ具体的に書いていただき、「判断能力の低下している」ことが確認しやすい記載になっていることが望ましいです。
判断能力低下の原因や、現在の症状、具体的に困難が生じていること等ですね。

特にHDS-Rの値が20を超えている場合などは、所見が丁寧に書かれていると申立書も作りやすいですし、裁判官や調査官も納得しやすい(はず)。
鑑定が入ることもなく、費用も時間も節約でき、スムーズに手続が進む可能性が高くなります。


このようなポイントを押さえて丁寧な診断書を書いてもらえると、司法書士的には、「お、次からはこの医者を紹介しよう」となるわけです。
患者さんとそのご家族の負担軽減ため、ご協力よろしくお願いします。

では、今日はこの辺で。


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2014年5月26日月曜日

法律行為について

司法書士の岡川です。


民法等の私法関係における基本的な概念として、「法律行為」というものがあります。

法律行為とは、意思表示を主たる要素とする私法上の法律要件のことをいいます。
法律要件とは、一定の法律効果を発生させる事実をいいます。

つまり、意思表示を要素として、一定の法律効果を発生させる事実が法律行為です。


伝統的に、法律行為は大きく分けて3種類に分類されます。

まず、一番わかり易いのが契約(双方行為)ですね。

契約は、売主と買主、賃貸人と賃借人のような、複数の相対立する当事者の意思の合致によって成立する法律行為です。
意思の合致が要件なので、買主が一方的に「これを買いたい」と思って「売ってくれ」と意思表示(申し込み)をしても、売主が「売ってやろう」と意思表示(承諾)をしなければ、成立しません。


それから、当事者が1人でもできる法律行為があり、これを「単独行為」といいます。
単独行為の代表的なものは遺言ですね。

遺言は、一方的に遺言書に書いておけば、(それが適法である限り)それだけで成立する法律行為です。
遺言により財産を取得する者(受贈者)は、放棄するかどうかを決めることはできますが、遺言の成否自体は、遺言者の意思のみにかかっています。

あるいは、一定の要件を満たした場合に、解除や取消しをする場合、これも単独行為になるので、一方的な意思表示によって効果を生じさせることができます。


あまり馴染みがないのが、3つめの類型「合同行為」です。
これは、契約と同じく、複数の意思表示が要素となるのですが、契約と違って、相対立する意思表示(「売る」⇔「買う」のようなもの)ではなく、意思表示が同じ方向を向いているものをいいます。

具体的には、法人の設立行為のようなものです。


これに対し、意思表示を要素としない行為を事実行為といいます。
「事実行為」といった場合、法律効果を生じさせるものを指す場合もあれば、そうでないものを含めていう場合もあるようです。

法律行為と事実行為の違いは、例えば、成年後見人の職務範囲などに関わってきます。
成年後見人は、判断能力の低下した被後見人の代わりに法律行為を行うことをその職務としています。
したがって、直接的な介護とか医療行為などの事実行為(これらは法律効果を発生させない行為です)は、後見人の職務の範囲外であるとされます。

これに対し、実際に介護をするヘルパーとの契約などは、後見人の職務となります。


では、今日はこの辺で。

→「法律行為入門」も参照

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2014年5月22日木曜日

成年後見の申立てにかかる時間

司法書士の岡川です。

以前書いた「成年後見の申立てにかかる費用」という記事が結構人気なのですが、もうひとつ、「成年後見制度を考えてるんだけど、どれくらいの時間がかかるの?」という疑問もあるようです。

というわけで、今日はその疑問にお答えしましょう。

ただし、費用以上に、時間というのはケースによってかなり異なってきます。
また、管轄の裁判所によっても運用が異なります。
あくまでも、流れを把握する目安とお考えください。

なお、ここで書くのは大阪家庭裁判所(本庁)の運用を基にしています。


申立てまでの流れは、「成年後見制度を利用するには」で書いたとおりです。

まず、診断書を書いてもらうためのお医者さん探しです。

診断書を書いてくれる医者と書いてくれない医者がいるので、注意が必要です(特に、精神科や心療内科以外の医者は書いてくれないことも多いです)。
成年後見業務を行っている司法書士等であれば、どういう医者に書いてもらうとよいか、どのように書いてもらうか、といった情報も持っているので、かかりつけの医者が書いてくれないような場合は、相談してみるとよいでしょう。

かかりつけの医者が診断書を書いてくれない場合は、診断書を書いてくれる医者探しと、その病院での診察に数日~数週間程度かかるかもしれません。
その後、診断書を書いてもらうのに1週間~2週間程度をみておきましょう。

その間に、申立人等と打ち合わせをしたり、本人の財産調査をやったり、本人や関係者から事情を聴き取ったり、親族の意向を確認したりします。
本人の財産が少なく、親族も関係者も身近ですぐに話ができるようなら、これもすぐに終わりますが、どこにどんな財産があるか明らかでなかったり、打ち合わせの日程次第では、1か月~数か月程度かかるかもしれません。

そうこうしているうちに、診断書が出来上がってくるでしょうから、それを見て、申立て可能かどうか判断します。
基本的には、医者が「後見・保佐・補助」いずれかに該当すると診断していればそのまま手続きを進めますし、逆に「この人はどれにも該当しない」と書かれていれば、他の方法(任意後見契約等)を再検討することになります。
まあ、「医者が何と言おうが申立てする」というのもできなくはないですが、時間と費用と労力の無駄になる可能性も高いので、司法書士等と十分に相談しておきましょう。


資料がそろって事情が把握できれば、必要書類の作成にとりかかります。
その間に、家庭裁判所に申立ての予約をいれます。
すいている時期であれば、2~3週間後くらいにできますが、混んでいるときや申立人の都合次第で、1か月~1か月半後くらいになります。

その間に、申立人と連絡を取りあいながら、司法書士がせっせと書類を作成します。


申立ての日は、申立人と本人と司法書士が家庭裁判所に出向いて、家庭裁判所職員(参与員や調査官)と面談をします。

何もなければ、とりあえずこれで申立手続は終了です。

そこから、裁判官が「後見開始の審判」をします。
これは裁判所が勝手にやってくるので、申立人は家で待っているだけです。

特に複雑でなければ、申立てから1週間~2週間くらいでしょうか。
場合によっては1~2か月くらいかかることもあるようです。

審判があれば、審判書という書面が届きます。
審判の日から1週間くらいで届くはずです。

後見人にこの審判書が届いて2週間が経過すれば、その審判が確定します。

この段階で、ようやく後見人が正式に就任することになります。


というわけで、制度利用を決めたときから後見人の就任までは、なんやかんやで、3~4か月くらいをみておくとよいでしょう。
長いと思われるかもしれませんが、成年後見制度は、今後一生の付き合いになることを考えれば、この3~4か月というのは決して長い期間ではありません。
もし自身が後見人に就任する予定であれば、この間に十分準備をしておく必要があります。

なお、速やかに本人の財産を保全する必要があるなど、緊急に対応すべき事情がある場合は、そのための「審判前の保全処分」という制度もあります。
事情がある場合は、司法書士等に相談しながら進めましょう。

では、今日はこの辺で。

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成年後見シリーズ
第1回「成年後見制度入門
第2回「法定後見の類型
第3回「任意後見契約について
第4回「後見終了後の問題
第5回「後見人には誰がなるか?
第6回「成年後見制度を利用するには?
番外編「成年後見の申立てにかかる費用
番外編2「成年後見の申立てにかかる時間」 ← いまここ

(このほかにも、成年後見についての記事はありますので、右上の検索窓で検索してみてください)

2014年4月14日月曜日

司法書士は法定後見だけ?

司法書士の岡川です。

以前、行政書士の先生から、こういう質問を受けました。

「司法書士さんって、法定後見に力を入れていて、任意後見はあまり積極的でないと聞きましたが、そうなんですか?」

どこでそういう誤解が生じたのかは分かりませんが、「司法書士は法定後見に積極的で任意後見に消極的」ということはありません。

司法書士会やリーガルサポート(司法書士による、成年後見制度の専門家団体)も、どちらかを推奨していることもありません。

成年後見制度は、法定後見制度と任意後見制度から成り立っており、一般論として、どちらが優れているとか、どちらが望ましいとかいうものではありません。
それぞれに特徴があるため、法定後見が適切な方もいれば任意後見が適切な方もいます。

任意後見契約は「契約」なので、判断能力の低下が著しい場合(意思能力に疑義が生じるような場合)は、利用できませんし、逆に判断能力が低下していない段階では、法定後見制度は利用できません。

判断能力の低下の度合いや、経済状況、家族関係などなど、高齢の方や精神上の障害を持った方のおかれた状況は様々ですので、どの制度を選ぶかはケースバイケースといえます。
ご本人の事情から判断して、その方に合った制度を利用するので、任意後見に適した方であれば、もちろん任意後見を選択することになります。実際に、私も司法書士として任意後見契約を受任しています。


「司法書士=法定後見」というイメージになるのは、いくつかの理由があるかもしれません。

まず、そもそも法定後見と任意後見では、法定後見の方が圧倒的に件数が多いことが挙げられます。
ざっと100倍くらいの差があります。
絶対数にかなりの差があるので、司法書士が受任するのも法定後見の方が多いわけです。


それから、法定後見に関しては、司法書士は、弁護士・社会福祉士と並んで、家庭裁判所に成年後見人等の候補者名簿が置かれているという事情があります(この3士業による後見人を専門職後見人といいます)。
そのため、司法書士が法定後見を受任する機会も多くなります。

もうひとつ大きな理由が、司法書士は、家庭裁判所に対する後見開始申立書類の作成をすることができるということです(裁判書類作成業務)。
逆にいえば、司法書士以外はこれができないという事情があります。

裁判書類作成業務は、司法書士の独占業務なので、司法書士の資格を持たない人が業務として行うことは犯罪です(弁護士は除く)。
そのため、法定後見を業務として取り組むには、司法書士か弁護士の関与が不可欠なのです(参照→「成年後見制度を利用するには?」)。

つまり、司法書士は、法定後見でも任意後見でも、特に何の制約も受けずに依頼者に提案することができるのに対し、司法書士以外の士業者が法定後見に取り組むには、「申立て」というハードルがあるわけです。
「司法書士以外の士業者」が任意後見に重点を置くことになれば、相対的に司法書士は法定後見を重視しているように見えるのかもしれません。


こんな感じで、司法書士は実際に多くの法定後見に取り組んでいますが、任意後見も別に消極的であるわけではありませんので、任意後見のご相談も、司法書士までどうぞ(宣伝)。

では、今日はこの辺で。


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成年後見シリーズ
第1回「成年後見制度入門
第2回「法定後見の類型
第3回「任意後見契約について
第4回「後見終了後の問題
第5回「後見人には誰がなるか?
第6回「成年後見制度を利用するには?
番外編「成年後見の申立てにかかる費用
番外編2「成年後見の申立てにかかる時間
(このほかにも、成年後見についての記事はありますので、右上の検索窓で検索してみてください)

2014年3月20日木曜日

自己防衛としての成年後見制度(認知症の男性が自宅を競売にかけられた事件)

司法書士の岡川です。

一昨日昨日の続きです。

共有物分割請求をされても協議の中で請求者の譲歩を引き出すことは可能ですし、仮に訴訟になっても、適切に対処すれば、ある程度は自分の意向を判決に反映させることができます。

しかし、今回の事件で訴えられた男性は、裁判所に出頭もせず、反論もしなかったため、不動産会社の訴えが全面的に認められました。
すなわち、「競売にかけて、売却代金を分配する」という分割方法が裁判で確定したわけです。

通常であれば、男性はずっと住んでいるわけですし、裁判所で価格賠償の方法を提案するなど、分割方法を争えば、いきなり家を競売にかけられて住居を失うことにはならなかったでしょう(価格賠償ができないのであれば、競売になった可能性はありますが)。

かかりつけの医者は、男性の判断能力は「財産を管理できない最低レベル」だったといいますから、おそらく「後見相当」の判断能力だったのでしょう。
もし、予め男性に後見開始の審判がなされ、成年後見人がついていれば、成年後見人が裁判になる前にきちんと協議をすることができました。

いきなり訴訟になったとしても、成年被後見人に対する訴状の送達は不適法であり、後見人宛に訴状が送達されるため、後見人が法定代理人として裁判に対応することが可能です。
仮に裁判所が後見開始を見落として判決を出したとしても、後で覆すことができます。

後見開始の審判がされていれば、訴えを提起された時点で訴訟行為を行うことができなかったことは明らかなので、何とかなる可能性も高いのです。
しかし、そうでない限り、判断を覆そうと思えば、「当時は意思能力が無かった」と立証しなければならないという、非常に面倒なことになってしまいます。


成年後見制度は、判断能力が低下した方の財産を守る制度です。
それは、相手が悪質商法の場合に限りません。
「知らないうちに、裁判で負けて財産を失う」ということもあり得ます。

上記の通り、成年後見制度は、「何かが起こる前に利用を始める」ことが最も効果的ですので、検討はお早めに。


では、今日はこの辺で。


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2014年2月13日木曜日

行為能力の話

司法書士の岡川です。

前回、成年被後見人の話をしたので、ついでに行為能力の話(今更ですが)。

私法の三大原則のひとつに「権利能力平等の原則」というものがあります。
「権利義務の主体となる資格」のことを権利能力といい、自然人は皆、権利義務の主体になる(権利を取得したり義務を負ったりする)ことができるという原則です。

しかし、必ずしも全ての人が単独であらゆる私法上の行為をすることができるわけではありません。

例えば、未成年者が法律行為をするには、原則として親権者の同意が必要です(民法5条)。
これはすなわち、未成年者は単独では(親権者の同意なしには)確定的に有効な法律行為をすることができない、ということを意味します。

このように、民法上、単独で有効に法律行為をなす資格がない者というのがいくつか規定されています。
この「単独で有効に法律行為をなしうる地位又は資格」のことを「行為能力」といい、行為能力が制限されている人を「制限行為能力者」といいます。
未成年者は、民法5条において行為能力を制限されている制限行為能力者です。

同じように、成年被後見人や被保佐人も制限行為能力者です。
成年被後見人は、成年後見人の同意を得たとしても、原則としてあらゆる法律行為をすることができず、成年後見人が本人に代理してあらゆる法律行為を行うことになります(前回書いたように、成年被後見人が印鑑登録をすることができないのは、このためです)。
被保佐人は、原則として法律行為をすることができるのですが、一定の重要な財産上の行為については、保佐人の同意がなければ(あるいは、保佐人が代理しなければ)することができません。

両者は、行為能力が制限される範囲が異なりますが、いずれも、一定の範囲の行為は単独で行うことができません(詳しくは、「法定後見の類型」参照)。

また、被補助人も、一定の行為について補助人に同意権を付与することができます。
家庭裁判所の審判によって同意権が付与された行為は、補助人の同意がなければ被補助人が単独で確定的に行うことができません。
つまり、補助人に同意権が付与された被補助人は、制限行為能力者であるといえます。


ちなみに、任意後見では、本人の行為能力は制限されませんので、これが法定後見との大きな違いです(任意後見については「任意後見契約について」参照)。

「同意があってもすることができない」「同意がなければすることができない」ということは、具体的には、それに反してした行為は「後から取り消すことができる」ということを意味します。
例えば、もし親権者の同意を得ずに高額な買い物をしたりすれば、後から無条件でその売買契約を取り消すことができるのです。
「騙された」とか「強迫された」とか立証しなくても、「未成年者である」という一点でだけで問答無用の取消権があるのです。
これはなかなか強力な権利です。


なぜこんな制度があるのかというと、対象者を保護するためです。
社会のことをまだよくわかっていない未成年者や、判断能力が低下した人達に無制限に行為能力を認めていれば、思わぬ損害を被ってしまう危険があります。

そこで、最初から法律で「無制限に法律行為をすることはできない=一定の範囲で取り消すことができる」と決めておけば、その制限された範囲では、後から全てを無かったことにできます。
そうすることで、自らの行為によって重大な損害を被ることを防ぐことができます。

そういう趣旨の制度なので、日常の買い物なんかは、制限行為能力者であっても制限されることはありません(民法9条但書参照)。
重大な損害を被る危険が小さいので、これはむしろ本人の自由を尊重すべきと考えられるからです。


成年後見制度は、単に財産を預けるだけの制度ではなく、「取消権という予防線を張っておいて、判断能力が低下した人の残存能力の活用をしてもらう」ための制度なのです。

では、今日はこの辺で。


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2014年2月10日月曜日

成年後見と印鑑登録

司法書士の岡川です。

社会人になったとき「実印」を作った方も多くいることと思います。
「実印」とは、市町村で印鑑登録をした印章のことで、どんな安物のハンコであっても、その印章を登録すればそれが自分の実印となります。

印鑑登録すると、登録した市町村で印鑑証明(印鑑登録証明書)を発行してもらうことができます。
重要な書類に押された印影と印鑑証明とを照合することによって、実印で押印したことが分かり、実印(という普通は本人が持っているはずのもの)で押印されたものは、本人が押印したものであろうと強く推認されることになります。
印鑑証明の添付を要求されている一定の手続き(不動産登記手続など)を除き、法的には実印も認印も効力は同じなのですが、重要書類では、紛争防止と高い証拠力の確保のために、実印を押すことになります。

さて、この印鑑登録ですが、国会が定める「法律」ではなく、市町村の条例で規定されています。
したがって、誰がどういう手続きで印鑑登録をすることができるのか、というのは、市町村によってバラバラです。
例えば、印鑑登録をすることができる年齢も市町村によって異なり、14歳からできる市もあれば15歳からの市もあるようです。
その年齢に達しない者は、印鑑登録をすることができません。

もうひとつ、一般的に印鑑登録をすることができないのが「成年被後見人」です。
成年被後見人とは、後見開始の審判を受けた者(その法定代理人として成年後見人が就任)のことです(詳しくは、「成年後見制度入門」)。

成年被後見人は、原則としてあらゆる法律行為を単独で行うことができず、代わりに法定代理人であり成年後見人が行います。
印鑑登録が必要な手続きについても成年後見人の印鑑証明が使われるので、本人(被後見人)の実印が使われることはありえず、印鑑登録をしておく必要がありません。
また、印鑑登録がされていると、印鑑証明を発行することができるため、これが悪用される危険があります。
そのため、新たに印鑑登録ができないようになっているのです。


では、既に印鑑登録がしている人に後見開始の審判がなされ、成年被後見人となったら、登録された印鑑はどうなるのでしょうか。
実は、このことが、少し前に同業者と話しているときに話題になりました。

改めて調べてみると、例えば、私の地元の高槻市や昔住んでいた堺市などの印鑑条例では、「登録資格を失ったとき」に登録が消除されると規定されているため、成年被後見人になったら登録は抹消されます。
高槻市のお隣の茨木市では、「死亡したとき、又は成年被後見人若しくは失踪宣告を受けたとき。」という(明らかに日本語がおかしい)規定が存在しますので、ここでも登録も抹消されるようです。
大阪市では、条例で直接的に規定されていませんが、事務取扱要領において、成年被後見人になったとわかれば消除する取り扱いになっているようです。

なるほど。

さらに、登録が消除されるためには、印鑑登録されている住所地の市役所に後見開始の審判があったこと(成年被後見人になったこと)が分からなければなりません。
審判があったからといって当然には住所地の市役所に通知されませんが、どうやら後見開始の審判があれば自動的に消除される扱いになっているようです。

これは、だいたい次のような流れになるようです。

まず、後見開始の審判が確定すると、法務局に後見登記がされます。
次に、後見登記がされると、法務局はが本籍地の市町村に通知します(後見登記等に関する省令13条)。
その後、どういう根拠かわかりませんが(おそらく市長村長規則レベルの根拠で)、本籍地の市町村から住所地の市町村に通知されるようです。
これで、住所地の市町村に後見開始が伝わり、印鑑登録が消除されることになります。

この辺の事務の取り扱い等は市町村によって異なり、実際に、後見人がついているにもかかわらず、印鑑証明書が発行されたという例もあるようです。

後見人に就任した時は、印鑑登録のことにも気をつけましょう。

では、今日はこの辺で。


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2014年2月3日月曜日

本人や親族以外の後見開始申立

司法書士の岡川です。

昨日は、成年後見制度を利用するには、審判の申立てをしなければならないこと、それから、申立人になれる人は、基本的には本人と四親等内の親族であることを書きました。

では、本人が「自分に後見開始の審判をしてほしい」という意思を裁判所に表明することができるだけの判断能力がなく、かつ、身寄りもない場合はどうするか、というのが今日のテーマです。
この場合、「誰も申立てしないから」ということで放置するわけにもいきません。
しかし、家庭裁判所としては、申立てがない以上は、放置する以外にありません。


そういう場合、民法では、本人と親族の他に、検察官が申立人になることができることになっています。

検察官というと、一般的には「犯罪者を起訴する人」というイメージが強いと思います。
実際に、検察官は、主に刑事手続において捜査から刑の執行まで携わっています。
もちろん、それも検察官の職務として重要な(中心的な)ものなのですが、検察官の仕事はそれだけれはありません。

例えば、身分関係が問題になる人事訴訟(例えば、婚姻無効訴訟など)において、被告とすべき相手が既に死亡していた場合などは、検察官を被告として訴えることになります。
別に、個人的に検察官に恨みはなくても、被告がいないと手続きが進められないので、公益を代表する者として検察官が被告になるわけです。


そして、後見等の開始や不在者財産管理人の選任など、一定の事件類型に関しては、民法において、検察官が申立人になれる旨が規定されています。

もっとも、実際には検察官が後見開始の申立てを行うことはほとんどありません。
全国合わせて、年に数件程度です(後見開始の申立て全体としては3万件以上ある中の数件です)。


では、親族がいなくても後見が開始するのは、年に数人だけなのか、というとそうでもありません。

民法に規定はありませんが、実は、「老人福祉法」「知的障害者福祉法」「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」において、それぞれ高齢者、知的障害者、精神障害者について、「市町村長」が後見等の開始の申立てを行うことができると規定されています。
これを「市町村長申立」といいます(例えば、市長が申し立てる場合は、「市長申立」ですね)。

この規定があるので、身寄りのない高齢者などに後見が必要となれば、検察官申立でなく、市町村長申立が利用されます。
検察官申立は、上記三法の適用がないが、判断能力の低下した方を保護する必要がある場合に利用されることになります。

昨日例に挙げた、「近所のおじいちゃんの財産管理が心配」といった相談が司法書士のもとに寄せられたら、申立書類を作成するのではなく、市町村長申立てが可能かどうか検討する(そして、関係機関に繋ぐ)ということになります。

市町村長申立については、市町村によって運用が異なるので、直接市町村の担当課に問い合わせるか、地域包括支援センターや社会福祉協議会などに相談してみてください。
もちろん、最初の窓口として、地元の司法書士やリーガル・サポートに相談するのも手ですね(宣伝)。

では、今日はこの辺で。


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2014年2月2日日曜日

後見開始の申立人になれるのは誰か

司法書士の岡川です。

成年後見は、家庭裁判所による後見等開始の審判によって開始します。
つまり、成年後見制度を利用しようと思えば、家庭裁判所に審判をしてもらわなければいけません。

しかし、支援を必要としている人を裁判所が積極的に探し出して、勝手に審判をしてくれることはありません。
必ず誰かが、後見開始の審判を求める「申立て」をしなければなりません。
訴訟とか離婚調停とか破産手続とか、他の多くの制度と同様に、裁判所というのは申立てがあって初めて動いてくれるのです。
成年後見制度も例外ではありません。

ちなみに、それらの申立手続きをサポートするのが司法書士の仕事です。
独占業務ですので、司法書士以外の人(行政書士などの他士業者も含む)が行うことは犯罪です。

この申立てですが、当然ですが誰でもできるというわけではありません。
近所の世話好きの人が「あそこに住んでるおじいちゃん、財産管理が不安だから後見申立てしてあげよう」とか思っても、裁判所は受け付けてくれません。
もちろん、そんな依頼を受けても、司法書士は申立書の作成をすることはできません(他の方法をアドバイスすることになるでしょう)。

基本的に、後見開始の申立てをすることができるのは、本人と四親等内の親族です。
意外かもしれませんが、本人が「私に後見人をつけて下さい」と申立てをすることも可能です。
実際に、全体の1割弱が本人による申立てとなっています。
もちろん、難しい手続きをすべて本人が行うことは困難ですので、そこは全て司法書士(あるいは弁護士)がサポートすることになりますが、本人であっても、後見開始の意思があって、それを裁判所に表示できるのであれば、申立人になることができるのです。
特に、保佐類型や補助類型の場合、本人にそのような意思表示が可能である事例は少なくありません。

それから、最も一般的なのは、親族ですね。
これも、遠い親せきとかでは不可能で、四親等内という制限があります。
直系なら、玄孫や高祖父母まで、傍系なら従兄弟や甥姪の子、祖父母の兄弟までです。
また、特殊な例としては、既に保佐人や補助人がついているときに被保佐人や被補助人に他の類型(後見など)の審判をしようという場合、保佐人や補助人が申立人になることもできます。

では、本人が重度の精神疾患で意思表示ができそうになく、親戚もいないような場合はどうなるのでしょうか。

この話は次回書きます。

なお、申し立てにかかる費用については、過去に書きましたので参考に。
→「成年後見の申立てにかかる費用

では、今日はこの辺で。

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2013年12月2日月曜日

「後見人」とは

司法書士の岡川です。

「後見人」という言葉は、さすがに「日常生活」ではあまり使わないかもしれませんが、一般的な日本語としてもよく知られています。
幼少の人や未熟な人を背後で支える実力者といった意味で使われますね。

歴史上の話題や、政治家なんかの話であればそれでいいのですが、法的な制度としての「後見人」というのは、少し意味が異なります。
法的な意味での「後見人」は、必ずしも、 一族の長でもなければ、地元の名士でもないし、大物政治家でもありません。

現在の日本の法律で「後見人」とされるのは、民法に規定された成年後見人と未成年後見人、「任意後見契約に関する法律」に規定された任意後見人を指します。
これらは、判断能力が低下した人や未成年者につく支援者(代理人)であって、判断能力がしっかりした大人に対して、法的な意味での後見人がつくことはありません。


「成年後見制度についてよくわかっていないけど、何らかの支援の利用を考えている」という方は、「判断能力の低下」というのをひとつのポイントとして考えるとよいと思います。

すなわち、支援対象者(自分や自分の家族)が、現時点で判断能力の低下がある場合、法定後見制度の利用を検討するとよいでしょう。
また、今はまだ判断能力もしっかりしているけど、将来、判断能力が低下した場合に備えておきたいという場合は、現時点での任意後見契約の利用を検討することになります。

他方で、「息子は既に成人しているんだけど、頼りないから、誰かにその補佐役をしてほしい」というような場合、これは、法的な意味での後見の対象にはなりません。
もちろん、個人的に何らかの契約をして、財産管理や契約手続等の包括的なサポートを受けるということは可能ですが、それは個別の契約の話になります。


それから、当然ながら、法定後見も任意後見も、本人が生存中の支援をする制度です。
死後のことを頼みたいという場合は、依頼する内容によって、色んな制度を使い分ける必要があります。
死後事務委任契約を締結したり、遺言執行者を指定したり、あるいは、やや特殊な場面ですが、幼い子供を残して亡くなる可能性があるときは遺言によって未成年後見人を指定することも可能です(民法839条)。

遺言による未成年後見人の指定というのは、法的な意味から外れた「後見人」のイメージに近いかもしれませんね。


では、今日はこの辺で。

(成年後見制度については、「成年後見制度入門」以下のシリーズ記事参照)