2014年7月1日火曜日

華麗なる一人芝居

司法書士の岡川です。

法律行為というのは観念的な部分がありまして、「実際の行動」と書類の上でのできごとが食い違うことも少なくありません。

そのため、書類の上で「一人芝居」をする場面がしばしば出てきます。

1.一人株主総会

よくあるのが、株主が一人の場合の、一人株主総会ですね。
「株式会社」という企業形態は、典型的には、多くの出資者が株式を分割所有し、したがって株主が大勢いることが想定されています。

ただ現実には、株主が一人でも株式会社は作れるので、株主が一人しかいない「一人会社」は大量に存在します。

一人会社でも、株主総会というものは必ず開かないといけないので、そこで、一人芝居が始まるわけです(脳内で)。

株主総会議事録には、「議長を選任し・・・」とか「議長が議場に諮ったところ・・・」とか書くわけですが、選任するのもされるのも、議事を諮るのも諮られるのも自分一人なわけで、全ては脳内で完結します。
「満場一致で」とか書いてあっても、満場一致以外の結論はあり得ませんしね。


2.一人遺産分割協議

相続人が1人しかいなければ遺産分割協議は必要ないのですが、「相続人が複数いるけど、現実には同一人物」という事態は生じることがあります。
その場合は、一人芝居に突入します(やはり脳内で)。

具体的にどういうことかというと、例えばAさんとBさんという夫婦がいて、その間には子のCさん一人がいるとします。
この場合、Aさんが死亡すると、その相続人はBさんとCさんです。

ところが、Aさんの遺産分割協議がされない間に、Bさんも死亡したとします。
Bさんの相続人は、Cさん一人です。

この場合のAさんの遺産に関する遺産分割協議は、「Aさんの相続人であるCさん」と、「Aさんの相続人であるBさんの相続人であるCさん」との間で行います。
現実には、Cさん一人で分割することになるのですね。

なお、脳内協議の結果は「遺産分割協議書」でもいいですが、「遺産分割決定書」とかいう書面にするとスマートです。

(※追記)
・・・という方法が登記実務であったんですが、最近になって、「一人遺産分割協議は不可」という判決が出まして、その影響で法務局の取り扱いも変更され、この方法が使えなくなってしまいました。残念。
「一人遺産分割協議」の問題とその周辺

3.一人代理権授与

代理というのは、他人に任せるから代理なのであって、自分を代理人にするということは、基本的にはあり得ません。
しかし、登記手続について、本人申請か司法書士による代理申請かによって微妙に手続が変わってくることがあります。

そこで、岡川敦也さんが自ら申請人となって登記申請する場合において、司法書士の立場で申請したいときは、「岡川敦也」という個人から「司法書士岡川敦也」に対する委任状を作成することが可能です。

例えば、Aさんに後見人がついている場合の登記申請は、Aさんではなく後見人が申請人になります。
司法書士である岡川敦也がAさんの後見人になっている場合、Aさんの不動産について登記申請(例えば相続登記など)をするときは、もちろん、「A後見人岡川敦也」として登記申請してもよいのですが、「A後見人岡川敦也」から「司法書士岡川敦也」へ代理権を授与すれば(脳内で)、司法書士による代理申請の形で登記が可能です。

具体的な違いとしては、司法書士が代理人となることで、登記識別情報通知を司法書士事務所宛に郵送してもらえるとか、司法書士の電子署名を用いてオンライン申請が可能となるのです。
まあ、この違いは管轄法務局によっても異なるかもしれませんが。

(※追記)
・・・という取扱いがまかり通っていたわけですが、同一人格である自分宛に委任状出さないといけない理屈がわからないのと、法務局ごとに取扱いがちがうので、とある機会に正式に法務局に「法的根拠」を聞いてみたところ、「法的根拠がないので、取扱いを改める」旨の回答がありました(大阪法務局管内では、委任状不要の取扱いとなるでしょう)。


なお、上記で紹介したような事例でも、ケースによって一人芝居が認められないこともあるかもしれないので、実際の事案に直面している方は、「ネットで見た」とか言って無理に手続を進めることなく、とりあえず司法書士に相談しましょう。

では、今日はこの辺で。

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