2015年2月6日金曜日

重婚になる場合

司法書士の岡川です。

婚姻取消原因として、「重婚」というものがあります。

重婚とは、配偶者のある人(要するに結婚している人)が、さらに重ねて別に人と婚姻することをいいます。
日本では、民法上、重婚はできないことになっていますし、それだけでなく、刑法でも「重婚罪」というものがありまして、犯罪とされています。
法制度としての一夫一婦制を守る(秩序を維持する)ために、それに違反する婚姻関係を犯罪としているのです。


しかし、そもそも民法の規定によって重婚はできない、つまり既婚者が婚姻届を役所に持っていっても受理されることはないのに、なぜ取消原因になったり犯罪になったりするのか。

「役所の手違いで受理されてしまう」ということもないことはないですが、もっと現実的にあり得るのは、離婚が無効になった場合です。

例えば、こんな場合。

AさんとBさんが婚姻していましたが、音楽性の違いによって仲違いしました。
そこでAさんは夫婦の署名押印がなされた離婚届を役所に提出。
役所はこれを受理し、AさんとBさんは戸籍上離婚したことになりました。
独身となったAさんは、Cさんと婚姻します。

ところが、実はBさんはAさんと離婚する気はなく、離婚届もAさんが勝手に作成して提出したものでした。


この場合、裁判やら何やらで争えば、AさんとBさんの離婚が無効となることがあります。
婚姻意思のない婚姻届が無効であるのと同じく、離婚意思のない離婚届もやはり無効なのです。

もし、ABの離婚が無効だという判決が出た場合、そもそも最初から離婚していなかった、すなわち婚姻関係は継続していることになります。
一方で、AさんとCさんの婚姻届はきちんと婚姻意思のもとに提出されているので、こちらも婚姻関係は有効に成立していることになります。

これで重婚関係成立です。

で、この場合、重婚になるのはAとCの婚姻であり、こちらが婚姻取消の対象になります。
AやCだけでなく、Bも重婚の取消権者になるので、BからACの婚姻を取り消すよう請求することができます。

それから刑法上の重婚罪が成立するのはAです(離婚が虚偽であることを知っていたらCもです)。


もうひとつ、重婚が成立する可能性として、「死んだと思ってたら生きていた」という場合。

以前、失踪宣告という制度をご紹介しましたが、「死んだ」ということが確認できなくても死んだものとみなされる場合があります。
戸籍上も死んだものとして扱われるので、その配偶者(だった人)は、再婚することができます。

ところが、失踪とは「どっかに行ってしまって連絡が取れない」というだけなので、失踪宣告を受けた人が必ずしも実際に死んでいるとは限らず、実は10年くらい家族に内緒で一人旅に行ってただけかもしれません。
その場合、生きて帰ってきたら「俺は生きてるぞ」と家庭裁判所に申し立てれば、失踪宣告を取り消すことができます。

このとき、残された配偶者が、失踪した人が生きていることを知らずに再婚した場合、再婚相手との婚姻関係は維持され、かつ失踪者との婚姻関係が復活することもありません。
失踪宣告の取消しは、「失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。」と規定されているからです(「善意で」とは、「知らずに」という意味です)。

ということは、逆にいえば、死んでいないことを知りながらした行為の効力には影響を及ぼすということです。
つまり、実は失踪者が生きていることを知りつつ失踪宣告を申し立て、かつ再婚した、となれば、失踪者との婚姻関係が復活して、重婚関係が成立します。

この場合、故意で重婚関係を成立させているので、重婚罪に問われる可能性もありますね。


役所のミスを除けば、重婚罪が成立するのは、無理やり婚姻関係を解消(したことに)して、再婚した場合です。
この場合、それ以外にも色んな犯罪を積み重ねている可能性が高いです。


当人同士で離婚協議が進まないなら、離婚調停という方法もあります。

離婚する場合は、きちんと法に則ってしましょう。


では、今日はこの辺で。

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