2015年11月6日金曜日

相続と遺贈

司法書士の岡川です。

「死んだ人の財産を承継する制度を何というか」というと、一般的には「相続」なのですが、相続とは、死んだ人と一定の親族関係にある人(相続人)がその財産を包括的に承継する制度です。

これに対し、死ぬ前に遺言を書いていれば、その相続人以外の人に遺産を承継させることもできます(参照→「遺言のススメ」)。
これも、「死んだ人の財産を承継する」ことになりますね。

ただし、この場合、親族関係を理由として財産関係が移転するわけではありませんので、これは実は相続ではありません。
たとえ遺言であっても、自分の法定相続人以外の人を「相続させる」ことはできないわけです。

では、これを何というかというと、「遺贈」(いぞう)といいます。
遺贈をうけた人(財産を取得する人)を、「受遺者」といいます。


相続と遺贈は、似て非なるものなので、色々と違いがあります。

相続は、相続人が被相続人の地位を包括的に(一切合切)承継するわけですが、遺贈は、当然ですが遺言で書かれた範囲しか承継しません。
例えば、「誰誰にどこそこの土地を遺贈する」というふうに、特定の財産のみを遺贈することも可能です。
これを特定遺贈といいます。
逆に「誰誰に私の遺産を全て遺贈する」とか「私の遺産の3分の1を遺贈する」というふうに、何らかの財産を特定することなく、包括的な(全部、あるいは割合的な)遺贈することも可能です。
これを包括遺贈といいます。

包括遺贈の場合の受遺者(包括受遺者)は、「相続人と同一の権利義務を有する」と定められていますので、包括遺贈には相続の規定が適用される場面も少なくありません。


また、特に不動産登記の場面では、手続面で大きな違いがあります。

例えば、相続登記というのは、相続人が単独で登記申請することができます。
「単独」といっても、相続人複数で共有名義にするような場合は、もちろん共同相続人らが協力して申請しますが、ここでいう「単独で」というのは、「所有権を取得する人(たち)だけで」という意味です。

しかし、遺贈の場合の登記申請、単独申請ではありません。
売買で所有権移転(いわゆる名義の書き換え)をする場合に売主と買主が共同申請するのと同じく、遺贈の場合も共同申請となります。

誰と誰の共同申請かというと、一方が受遺者なのはいいとして、もう一方は、遺贈者の相続人です(遺贈者自身は既に死んでいるので)。
相続人に協力してもらわないといけないので大変ですね。
もっとも、遺言執行者がいる場合は、遺言執行者と受遺者の共同申請になりますので、「相続人と受遺者が揉めて登記手続が進まない」という事態にならないよう、遺言執行者を指定しておくのも効果的です。


それから、細かい話ですが、相続と遺贈では登記申請にかかる登録免許税の額も違います。
相続の場合は、課税標準額の1000分の4ですが、遺贈の場合は(売買や贈与と同じく)1000分の20になります。


他にも相続と遺贈とでは色々と違いがあります。
遺言を作成するとき、あるいは、遺言書が見つかったときは、気を付けてください。

では、今日はこの辺で。

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