2016年4月7日木曜日

「供託」入門

司法書士の岡川です

あまり知られていないと思いますが、司法書士のお仕事には、供託手続の代理というものがあります。
供託というのは、前回の記事でもご紹介した法務局における手続きのひとつなのですが、一般の方にはあまり馴染みがないかもしれません。

ちょうど、LINE株式会社が供託金逃れをして資金決済法違反で捜査されているといったニュースが出ておりますので、この供託について取り上げてみたいと思います。

供託というのは、色々な目的のために、金銭等の財産を供託所等に提出して管理を委ねる制度です。
供託に関する基本的な事項は、「供託法」という明治32年に制定された法律(今では珍しくなった漢字カタカナ交じりの法律)に定められています。

供託所というのは、国家機関になるのですが、供託所という名の役所があるわけではありません。
供託法により、法務局(地方法務局や支局等も含む)が金銭供託の供託所と規定されています。
これは、「登記所」という名の役所がなくて、法務局(地方法務局や支局等も含む)が登記所とされているのと同じですね。

(なお、法律によっては金銭や有価証券以外の物品を供託することができる場合があるのですが、その場合は、倉庫業者や銀行が供託事務を取り扱うことになります。現物を法務局に持ち込まれても困りますからね)


基本的には、「一定の目的のために法務局に金銭を提出する制度」くらいに考えていただければよいと思います。

では、何のために法務局に金を提出するのか。
これには「こんな時に供託が使えるよ」といった規定が色々な法律に規定されているのですが、分類してみると次のような感じになります。

1.弁済供託

何らかの理由で、債権者に弁済ができない場合があります。
例えば、債権者との間でトラブルがあって受け取りを拒否されたり、そもそも債権者が誰か不明確な場合等です。
家賃の増額や減額で家主ともめているような場合に使われます。
供託をすれば、実際に債権者にお金が渡っていなくても、法律上は弁済をしたものとして扱われます(つまり、債務不履行責任を問われない)。

2.執行供託

民事執行手続等において、供託が利用されることがあります。
例えば、債権者が、債務者の有する給与債権を差押えた場合、債務者の勤める会社(この立場を「第三債務者」といいます)は、差し押さえられた給与を債務者に支払うことが禁止されます。
この場合、法律に則って直接債権者に支払うこともできるのですが、その代わりに供託することもできます。
会社が、債権者と債務者のもめ事に関与したくないと思った場合、「お金は法務局に預けるから後はそっちでやっといて」ということができます。
他にも、差押えが競合したような場合にも供託が使われますね。

3.保証供託(担保供託)

相手に損害を与えるかもしれないような行為、活動を行う場合に、あらかじめ担保として供託金を納めておくのが保証供託です。
例えば、宅建業や割賦販売業、旅行業などを営む場合、数百万~数千万円保証金を供託しなければいけません。
また、裁判手続の中で保証金を供託しなければならない場合もあります。
民事保全手続などで必要になりますね(仮差押えしたけどそもそも権利がなかったような場合、相手に損害が出るため)。
LINEのニュースで出ていたのも、これですね。

4.没取供託

選挙に出馬するときに納める供託金が典型例です。
立候補する際に供託し、一定の得票があれば戻ってきますが、そうでなければ没収されます。
泡沫候補の乱立を防ぐための制度ですね。

5.保管供託

財産の散逸を防ぐために金銭を供託するものです。
一般市民にはほとんど関係ありませんが、銀行の業績が悪化したような場合、監督官庁の命令によって一定の金額を供託することがあります。


供託は、義務の場合(供託しなければならない)もあれば、権利の場合(供託することができる)もあります。
しかし、法務局は銀行ではありませんので、何の理由もなくお金を持って行って預かってもらうようなことはできません。
供託をするには、供託をする法律上の理由(供託原因)が必要なのです。


そう頻繁に利用する制度でもないと思いますが、ぜひ覚えておいてくださいね。

では、今日はこの辺で。

0 件のコメント:

コメントを投稿