2018年8月10日金曜日

債権法改正について(22)(不可分債権と連帯債権)

司法書士の岡川です。

債権者複数の場合、現行法では分割債権と不可分債権に分類されていますが、さらに「連帯債権」という類型が新設されました。

連帯債権とは、複数の債権者がいる場合に、各債権者がそれぞれ独立して全部を請求できるが、一部の債権者が受領すれば債権者全員について債権が消滅するという性質のものです。
現行法上、「連帯債権」という用語は存在しませんが、今でも概念的にはそういうものもあると考えらます。

例えば、転借人に対する賃貸人と転貸人の権利などは、一方の債権者が弁済を受ければ債権全体が消滅する関係にありますので、こういうのを講学上は連帯債権という(ことができる)らしい。
そして連帯債権には、連帯債務の規定が類推適用されると解されています。

でまあ改正法は、これをハッキリと「連帯債権」として定義したものです。


ところで現行法では、「債権の目的がその性質上又は当事者の意思表示によって不可分である場合」を不可分債権としており、連帯債権という概念を新設するなら、不可分債権とどう振り分けるかが問題となります。

改正法では、「債権の目的がその性質上不可分である場合」のみを不可分債権とし、「当事者の意思表示によって不可分である場合」は不可分債権の概念から除外しています。
他方、「債権の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債権を有するとき」を連帯債権とし、連帯債権を中心として債権者複数の場合のルールを定める形になっています。

第432条 債権の目的がその性質上可分である場合において、法令の規定又は当事者の意思表示によって数人が連帯して債権を有するときは、各債権者は、全ての債権者のために全部又は一部の履行を請求することができ、債務者は、全ての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。

第433条 連帯債権者の一人と債務者との間に更改又は免除があったときは、その連帯債権者がその権利を失わなければ分与されるべき利益に係る部分については、他の連帯債権者は、履行を請求することができない。

第434条 債務者が連帯債権者の一人に対して債権を有する場合において、その債務者が相殺を援用したときは、その相殺は、他の連帯債権者に対しても、その効力を生ずる。

第435条 連帯債権者の一人と債務者との間に混同があったときは、債務者は、弁済をしたものとみなす。

第435条の2 第432条から前条までに規定する場合を除き、連帯債権者の一人の行為又は一人について生じた事由は、他の連帯債権者に対してその効力を生じない。ただし、他の連帯債権者の一人及び債務者が別段の意思を表示したときは、当該他の連帯債権者に対する効力は、その意思に従う。


そして、このうち、432条、434条、435条の2が、不可分債権に準用されます。

第428条 次款(連帯債権)の規定(第433条及び第435条の規定を除く。)は、債権の目的がその性質上不可分である場合において、数人の債権者があるときについて準用する。

432条は、現行法と同様の基本ルールで、434条は、相殺の絶対効を定めています。
435条の2は、相対効の原則を定めた規定ですね。

433条は準用されず、更改・免除については、現行429条がそのまま残り、債権者の1人について更改・免除があっても、他の債権者は全額請求できる(ただし、更改・免除された部分の利益を債務者に返還しないといけない)というルールを定めています。
連帯債権と扱いが違うのは、連帯債権は性質上は可分なので、いったん全額請求して返還するのではなく、最初から更改・免除された部分については請求できないとしたものです。

435条が準用されていないことで、債権者の1人との間の混同は、不可分債権では絶対効を有しないことになります。

結局のところ、現行法との主な違いは、相殺の絶対効が創設されたことくらいでしょうか。

どこがどう改正されたのか、条文構成がガラッと変わっているのでややこしいけど、実はあんまり変わってないという…。


では、今日はこの辺で。