司法書士の岡川です。
4630万円を誤振込された人が返還に応じず、数日のうちにギャンブル(オンラインカジノ)で全部費消してしまって逮捕されたという事件が世間を賑わしています。
罪名が電子計算機使用詐欺罪という聞きなれないもので、これもまあ大切な(有名な)論点ではあるのですが、そこはひとまず置いといて、容疑者は、「少しずつでも返していきたい」と述べているそうです。
誤振込がされて数日の間に何のためらいもなく全額ギャンブルに突っ込むという、なかなかのぶっ飛び具合からして、本当に返す気あんのか?という疑問がそこかしこから聞こえてきますが、そこはとりあえず返す気はあると信じてみましょう。
で、「少しずつでも」とか言っていますが、現実的にいくら返せるのか。
今回のように、何らの法律上の原因(正当に貰う理由)がないのに利益を得た場合を「不当利得」といいます。
不当利得は、正当な権利者に返還する義務を負います(民法703条)。
特に、不当利得であることを知っていた場合は、ただ返すだけでなく、利息を付して返還しなければなりません(民法704条)。
利息というのは、これも民法404条2項で基本的に年3%(ただしこれは変動します)と定められていますから、年3%ずつ債務は増えていくわけですね。
しかも債務の弁済は、まず利息に充当されますから、利息を上回る金額を返さなければ元金は減りません。
例えば、「少しずつ」が月5万円くらいとか考えていたら、もう全くお話になりません。
4630万円に対する年3%の利息は、換算すると月11万円以上ありますから、月10万円の返済でも足りません。
仮に月10万円を弁済し続けた場合、一生かけても(たとえ5億年くらい返し続けても)、元金4630万円は1円たりとも減りません。
つまり実質的に、1円も返していないことになります。
というか足りてない利息分だけ、むしろ債務は増えます。
月12万円くらい返し続ければ、ようやく当初の利息を上回るので、110年くらいで完済できそうです。
110年の返済はちょっと生きるのに疲れそうなので、住宅ローンみたいにせいぜい35年くらいで完済しようと思えば、月18万円くらい返す必要があります。
もはや「少しずつ」のレベルじゃないですね。
ちなみにこのときの返済総額は元金利息含めて7400万円くらいです。
まぁ、頑張って働いて返しましょう。
では、今日はこの辺で。