嫡出子と非嫡出子(婚外子)の相続分に差を設ける現行民法の規定が違憲だとする最高裁決定が出た件について、色々な意見が出ています。
そもそも、「法律婚を守る」という(それ自体はひとつの方向性としてあり得る)目的の制度ですから、現行民法の規定を是とする人がいることは理解できます。
特に、当事者の立場としてみれば、嫡出子側からすれば、この違憲決定(そして、今後の民法改正)によって自らの相続分が減らされるわけですから、納得できないのは当然でしょう。
差別だ、平等だ、人権だ、自由だ、といっても、それらは結局のところどういう立場に立つかによっても、時代や社会の変化によっても変わってくる相対的なものなのです。
個別の事案では、この民法の規定により救われている人が確実に存在するのも事実でしょう。
「絶対的な正義」というのもありえないのと同じく、「この規定が絶対的に間違っている」ようなこともありません。
ただし、民法の上には、日本国憲法(その中の特に14条)があり、法の下の平等が認められた日本社会において、「嫡出子でないから」という理由だけで嫡出子と一律に差を設けることは、その憲法の理念に照らしてなお説得力をもつほどの合理性は無い、ということだと思います。
さて、そういうわけなので、反対意見が出ること自体は決しておかしくないと思いますし、今回の決定を批判する人が直ちに差別主義者だとかも思いません。
しかし、前提として誤った認識で批判している意見も出回っており、それは違うだろう、と思うわけです。
前置きが長くなりましたが、今日はこういう記事を取り上げてみます。
「婚外子差別は違憲」にネトウヨが猛反発 日本人と浮気した外国人たちに遺産を狙われる?(J-CAST)
結婚していない男女の間に生まれた子(婚外子)の財産相続が、結婚している親の子(婚内子)の半分というのは違憲だと2013年9月4日に最高裁が判断を下したところネットでは、「婚姻制度と日本社会が破壊されるっ!」といった呼びかけが起こり、その理由が書かれた記事が「拡散希望」としてツイッターなどで広がった。
元ネタは、こちらの記事でしょうか。
【緊急凸依頼・文例アリ】婚外子と嫡出子の遺産相続が平等になると、婚姻制度と日本社会が破壊されるっ!
もし、ご主人が亡くなられて悲嘆にくれているときに突然
「ご主人の子供です。平等だから財産半分よこせ」と言われたらどうしますか?
裏切られていただけでもショックなのに。
この批判はおかしいですね。
もし、あなたが妻だとして、あなたと「ご主人」の間に子がいなかったとしましょう。
そして、他に非嫡出子(婚外子)がいる、という事案ですね。
この場合、確かに、その子が「財産半分よこせ」といってくる可能性があります。
しかし、妻と子がいる場合に、「ご主人」が無くなられたときの法定相続人が妻と子(嫡出子かどうかを問わない)であることに争いはありません。
つまり、そもそも現行民法でも非嫡出子(婚外子)が相続人であることは変わりませんので、仮に、民法900条4号ただし書き(今回違憲決定がでた規定)が合憲だったとしても、その子は「財産半分よこせ」という権利があります。
あなたが妻で、あなたに子がいなければ、非嫡出子が財産半分の相続権を有する。
今回問題になった規定が違憲だろうが合憲だろうが、これは変わりません。
したがって、そういう事例を想定しての、上記の批判は完全に的外れです。
では、あなた妻で、あなたとの間に1人の子(嫡出子)がいる、という場面ではどうでしょう。
この場合は、逆に民法900条4号ただし書きが違憲だろうが合憲だろうが、非嫡出子(婚外子)は、「財産半分よこせ」とはいえません。
なぜなら、この場合、あなた(妻)が2分の1の法定相続分を有しており、残りの2分の1に対いて、あなたの子(嫡出子)も相続分を有しているからです(→「『非嫡出子(婚外子)差別』のおさらい」)。
したがって、そういう事例を想定するならば、今まで「財産を6分の1よこせ」と言っていたのが「財産を4分の1よこせ」と言ってくるようになったにすぎません。
今回の違憲決定は、「非嫡出子にも相続権を認めた」というわけではないのです(もともと相続権はあるのですから)。
したがって、
もしかしたら残された財産は僅かな庭付きの家だけだったら?というのもズレていますね。
家族の思い出の詰まった家を処分して遺産として渡さなくてはいけなくなるかもしれません。
もしそういう場合なら、もともと非嫡出子(婚外子)も相続権を有していたので、今回の違憲決定が出ようが出まいが家は処分しなければいけなかったということです。
では、次の点はどうでしょうか。
第一日本は「一夫一婦制」の国です。
法にそむき、妻子に申し訳ないと思うどころか自分たちの権利を主張…
こんな世の中になってよいのでしょうか?
「人権」と言うなら、正式な妻であり、嫡子である自分たちに隠れて
人の家庭を踏みにじっていたいた人たちこそ人権を犯した加害者ではないでしょうか?
いわんとすることは何となく分かるのですが、以前(→「『非嫡出子(婚外子)差別』のおさらい」)も書いたとおり、非嫡出子が生まれるのは、別に不倫とは限りません。
例えば、現在の妻と結婚する前に生まれた子だって、非嫡出子になり得るわけです。
その場合、決して誰の家庭も壊していません。
そして、仮に、その非嫡出子(婚外子)が不貞行為によって生まれた子だとしても、その「加害者」は不倫相手であって、生まれてきた子ではない。
その責任を子に負わせてはならない、というのが最高裁決定の趣旨ですから、批判するにしても、その点は踏まえておくべきでしょう。
逐一指摘していくとキリがないですが、批判記事は、「そもそも最初から非嫡出子(婚外子)にも相続権はあった」という点が抜け落ちているので、その批判の当不当(賛否)を論じる前提を欠くといえるでしょう。
最高裁決定に違和感を覚え、反対意見を表明したいと考えている方も多いでしょう。
しかし、あまり当該記事を鵜呑みにしてTwitterで拡散しちゃうと、恥をかくかもしれません。
本当に何かを批判したいなら、その前提事実はしっかりと押さえておくべきです。
そうでなければ、その批判には何の説得力もありませんし、せっかく声を挙げても無駄になります。
インターネット上でいろんな意見が出るのはいいと思うのですけど、事実誤認に基づいて、威勢のいいことだけを述べても何ら建設的な議論にはなりませんので気をつけましょう。
では、今日はこの辺で
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