2014年8月25日月曜日

厄介なのは相続「争い」だけではない

司法書士の岡川です。

誰が言い出したか知りませんが、相続で揉めることを「争続」とかいうようです。
こんなもん別にうまいこと言う必要もないと思うのですが…。

相続で揉めるのは世の常で、しかも遺産が少ない場合ほど争いは起こるものです。
やはり、タダで貰えるものは貰わないと損ですからね。
何だかんだいって、やっぱりお金は大事です。

相続人同士は血のつながった兄弟だったりするので、争いを避ける方向に向かうこともありますが、そこに配偶者等が絡んでくると、「貰えるものはキッチリ貰う」方向へと意識が向かうことになります。
肉親の相続人同士はなあなあで済ませていても、やがて相続人が死に、その後は血のつながりのない者同士での争いが勃発したりもするわけです。
だから、相続が開始すればできるだけ早い段階でキッチリと決着を付けなければなりません。


相続で争いが起こっても、遺産分割調停をするなり、訴訟をするなり、何らかの方法で(強制的に)解決することが可能です。
調停で折り合いがつかなくても、審判に移行し、最終的に裁判所に決めてもらえばよい。
審判書さえ入手すれば、預金は引き出せるし、不動産の名義についても単独で相続登記をすることだってできます。

相続争いは、ひと手間を惜しまなければ何とかなるものです。


しかし、相続人同士で「争っていない」にもかかわらず手続が滞ることもあります。
実は、相続人同士が争っている場合と同様に(場合によってはそれ以上に)厄介な問題が起こり得ます。

例えば、相続人の一人が外国に住んでいたり、外国籍を取得した場合。
たとえ「日本の土地なんかいらない」と言っていたとしても、諸手続を進めるには、日本と外国で必要書類のやり取りをしなければなりませんし、外国の役所が発行する書類が必要になったりします。

他には、遺産分割協議は終わって、場合によっては遺産分割協議書に押印も終わっているのに、必要書類を送ってこない人がいる場合。
遺産分割協議書に印鑑を押さないで放置する人や、印鑑は押しても印鑑証明書を送ってこない場合です。
こういった場合、既に協議が終わっているにもかかわらず、遺産分割調停を申し立てたり、証書真否確認の訴えを起こすことになるかもしれません。

相続人の一人が既に死亡している場合なども、話をするのが「相続人の相続人」になるので、全く血のつながりのない人同士で話合いをしなければならない場合があります。
これも、調停になる場合があるかもしれません。


争いがある場合以上に厄介なのは、「相続人の一人が行方不明」といった場合。

行方不明の人とは争いようがないですね。
さらに、その人が行方不明になる前に常々「財産は全部長男が相続したらよい」と言っていた場合などは、実質的には全く争いはありません。
しかし、必ず相続開始後に遺産分割協議をしなければなりませんし、預金の引出しや相続登記手続にはその人の実印と印鑑証明が必要です。
その場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任申立をしたり、失踪宣告の申立てをするなど、何らかの手続が必要になります。


こういった事情が重畳的に存在すると、非常にややこしいことになります。
場合によっては「手の施しようがない」ということになります。
もちろん、時間とお金をかければ必ず何とかなるものですが、複雑化した手続を処理するには、何十万、場合によっては100万以上の費用がかかることもあります。


生前にできる対策としては、上記のような事情がある場合は、遺言を書いておくこと。
遺言さえあれば、行方不明の人とか海外に行ってしまった人の印鑑は不要です。

また、相続手続の複雑化を予防するため有効なのは、「必要な手続は、面倒でもさっさと終わらせておく」ということです。
相続税の申告は期間制限があるので皆さん急ぐのですが、それ以外の手続はほったらかしの人が少なくありません。
そして「相続登記なんかいつでもいい」と思って放置すると、後々面倒なことになるのです。
(参照→「相続登記は何のためにするのか」)


また、本当に「何もいらない」のであれば、さっさと相続放棄の手続をすることです。
放棄さえしていれば、自分は手続に巻き込まれずに済むし、他の相続人も手続を進めることができます。

面倒がったり、目先の費用をケチって後で損することのないよう、気を付けましょう。

では、今日はこの辺で。


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