2015年4月20日月曜日

「執行証書」の話

司法書士の岡川です。

債務名義の話をしたので「執行証書」についても、もう少し詳しく書いておきましょう。

公証人法等の法令に基づいて公証人が作成する文書を「公正証書」といいます。

(「公正証書」は多義的なので、こちらの記事も参照→「公正証書とは?」)

これに対して、私人が(当事者が署名や押印して)作成する文書を私署証書といいます。

法的な文書、例えば契約書を作成するとき、多くは私署証書で作成されます。
法令により、公正証書を作成しなければならないと規定されている契約類型もあります(例えば、任意後見契約は公正証書でしなければならない)が、契約の形式は、基本的には自由(契約自由の原則)なので、普通は私署証書で十分です。

ただ、特別な公務員である公証人が、当事者から事情を聴取したうえで作成する公正証書は、一般的に私署証書より信憑性(証拠価値)が高いと考えられるので、確実な証拠を残しておきたい場合などに公正証書が作成されます。


公正証書は、証拠価値の高い文書ではありますが、真正に成立したものであれば、私署証書だろうと公正証書だろうと法的な効力としては変わりません。

ただし、公正証書には特殊な使い方があり、ただの証拠以上の効力を持たせることができます。

すなわち、公正証書に、「債務者が債務の履行を遅滞したときは、直ちに強制執行に服する」といった文言を入れておけば、この公正証書自体が債務名義となるのです。
このような文言(「執行認諾文言」)の入った公正証書を、「執行証書」といいます。

つまり、執行証書に基づいて強制執行をすることができるということです。


債務名義の多くは、争いが起こった後で、訴訟とか調停とかを経て、裁判所が作成するもの(判決や和解調書、調停調書など)です。
しかし、執行証書は、紛争が生じる前に(生じた後でも構いませんが)裁判所を通すことなく債務名義を取得することができるのです。

これが公正証書の最大のメリットといっても良いかもしれません。


ただし、執行証書として債務名義となるのは、金銭請求等に限ります。
例えば、建物の明渡しなどは、公正証書に基づいて強制執行をすることはできません。

契約の段階で、確実に強制執行の手段を確保しておきたい債権者は、執行証書の作成(公正証書の最後に執行認諾文言を挿入する)を検討してみて下さい。
逆に、債務者側としては、公正証書の原案にそういった文言が入っていたら、それを除くように交渉することも検討しましょう。

では、今日はこの辺で。

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