2015年4月21日火曜日

仮処分

司法書士の岡川です。

相手(債務者)が任意の履行をしない場合に債権者が自己の権利の実現を図るには、一般的には、訴えを提起し、勝訴判決を得て、最終的に強制執行手続による必要があります。

ところが、訴訟というのは、訴えを提起してから結論が出るまで時間がかかるものです。
なんせ、紛争が起こっているところで裁判所が公権的に白黒つけるのですから、慎重に審理を重ねる必要があるからです。
判決によって権利を失ったり、義務を認定されたりする側からすれば、慎重な審理を受けるのは当然のことです。

とはいえ、何か月も(場合によっては何年も)訴訟で争わなければ全く手が出せないとなれば、その間に手遅れになることもあります。

例えば、金銭請求であれば、差し押さえるべき財産(例えば預金口座等)の存在を把握していても、争っているうちに債務者がその財産を処分してしまうかもしれません。
あるいは、不法占有者に対して建物の明渡しを請求しているのに、いつの間にか別の第三者に占有が移転されると、またその第三者に対して請求をし直さなければなりません。

これでは、やったもん勝ちを許してしまいますし、債権者権利者にとっては具合が悪い。

そこで、判決を求めるために訴える民事訴訟手続の前段階として、「民事保全」という手続があります。
文字通り民事上の権利関係を「保全」(保護して安全にすること)するための手続です。

民事保全には、大きく分けて「仮差押」と「仮処分」に分かれます。

仮差押は、金銭債権を保全するため、債務者の財産を仮に差し押さえる方法です。
あくまで「仮」なので、差し押さえた財産を売り払ったりすることはできませんが、債務者も勝手に処分することができなくなります。
仮処分について詳しくは以前書いたことがありますので、そちらを参照(→「仮差押」)。

同じように「仮処分」も、「仮」に一定の措置を行う保全処分です。
例えば「占有移転禁止の仮処分」であれば、係争物の占有を(結論が出るまで)第三者に移転できなくするものですし、処分禁止の仮処分であれば、権利関係が確定するまで処分(売却等)を禁止するものです。

権利関係に争いがある場合に現状を変更されると(あるいは現状を維持されると)損害が生じるようなときに適当な措置をとっておくものなので、抵当権実行禁止の仮処分や株主総会開催禁止の仮処分、出版差止めの仮処分など、仮処分には多種多様なものがあります。

仮処分は、あくまでも暫定的な措置なので、後で最終結論がひっくり返ることもあります。
その場合、仮処分を受けた側が損害を被るかもしれません。

したがって、仮処分を申し立てる場合は、一定の担保(保証金)を提供しなければならないのが一般的です。
もし最終結論が覆った場合は、そこから相手の損害を賠償することになります。


暫定的に必要な措置をとれる便利な制度である反面、利用にはお金がかかるのが仮処分です。
仮処分のご利用は計画的に。

では、今日はこの辺で。

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