司法書士の岡川です。
「物」に対する支配権である「物権」の中でも少し特殊なものに「占有権」(せんゆうけん)というものがあります。
「占有」というのは、物を実際に所持しているという事実状態をいい、この事実状態そのものに法的保護を与えたものが占有権です。
したがって、占有権は、他人の物(他人に所有権がある物)に対しても成立する権利です。
例えば、あなたが自分のパソコンを自分の部屋に置いていれば、そのパソコンの所有権も占有権もあなたにあると考えられます。
もし、そのパソコンが借り物だとすれば、あなたはパソコンの所有権は有していませんが、占有権は有していることになります。
当然ながら、あなたにパソコンを貸した友人がそのパソコンの所有権を失うこともありません。
ここまでは分かりやすいですね。
実は、ここからが少しややこしいのですが、友人があなたにパソコンを貸した場合、あなたにがパソコンを占有していることは間違いないですが、実はその友人も占有を失いません。
占有は「所持」という事実状態を保護するものですが、純粋な事実状態、つまり、手に持っているとか、自分の部屋の中に保管しているとか、物理的に支配している状態だけではなく、ある程度観念的な要素が含まれています。
他人に貸した物は、直接的にはその他人が所持していますが、同時に、その他人を介して所有者も間接的に占有していると考えられます。
これを「間接占有」とか「代理占有」といいます。
あなたがパソコンを実際に直接占有している一方で、パソコンの所有者である友人は、あなたを介して占有する。
パソコンに対しては二重に占有が認められることになります。
占有権は、所有権ほどではありませんが、それ自体が権利として一定の保護を受けます。
例えば占有を違法に奪われたりすれば、占有権に基づいて一定の請求(占有回収の訴え等)をすることができます。
これを「占有訴権」といいます。
大事なポイントですが、占有権は「占有から生じる権利」なので、たとえ所有者であっても、他人が占有している(他人に占有権がある)物を勝手に奪ってはいけません。
それをすると、その人の占有権を侵害する、違法な自力救済になる可能性があります。
自己の所有物を占有者から取り返したければ、きちんと法的な手続に則って、所有権に基づいた返還請求をしなければならないのです。
面倒ですが、法治国家なので仕方ありません。
「占有」「占有権」という概念は、色んなところで出てきます。
例えば、取得時効は占有が要件となっていますね。
「所持という事実状態を保護するものだ」といいつつ、「実は、所持といっても観念的なものだ」という、何ともややこしい概念ですが、重要なので覚えておきましょう。
では、今日はこの辺で。
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