2015年8月7日金曜日

二重譲渡の話

司法書士の岡川です。

他人物売買」で書いた通り、日本では、自分の所有物だけでなく、他人の物を売ることができます。

それと似たような話ですが、ある1つの物を、複数人(2人でも3人でも)に売ることだってできます。
例えば、私が、自分の所有するパソコンを、知人Aに売ったあとで、さらに知人Bに売ることができるわけです。

これを「二重譲渡」といいます。

そしてこの二重譲渡は有効な契約になります。

二重譲渡がなぜ可能かというと、民法には「二重譲渡は無効」とは書いていないからですね。
それどころか、二重譲渡が可能であることを前提とした規定すら存在します。


ということは、他人物売買と二重譲渡を組み合わせれば、私は、高槻市役所の庁舎を勝手に橋下大阪市長に売り、さらに松井大阪府知事に売ることも可能なのです。

売買代金は、二回とも売主である私が総取りです。
素晴らしいですね。


さて、調子に乗って高槻市役所を売ると、高槻市役所で働いている友人に怒られそうなので、パソコンの事例に戻しましょう。

二重譲渡が可能となれば、知人Aも知人Bも「買主」です。
一物一権主義を思い出していただきたいのですが、一つの物には一つの所有権しか成立しないのが原則。

となれば、知人Aか知人Bのどちらに所有権が移転するのかが定まらなければいけません。

ここで出てくるのが、以前お話しした「対抗要件」です。

対抗要件とは、自分の権利を誰かに対抗(正当に主張すること)できるようになるための要件です。
契約が有効に成立しても、それだけで権利を正当に主張できるとは限らず、二重譲渡の場合がまさにその典型例です。

そこで、「先に対抗要件を具備したほうが第三者に自分の権利を主張できる」という話になります。


動産(動産とは「不動産以外の物」なのでパソコンは動産です)の権利移転の対抗要件は「引渡し」です。
なので、「先にパソコンの引渡しを受けたほうが勝ち」(完全に所有権を主張できる)です。

不動産の場合、対抗要件は登記ですので、「先に登記をした方が勝ち」ということになります。
土地とか建物は大きな買い物ですから、迅速・確実に登記をしなければならないのは、登記をせずに放っておいたら、二重譲渡されて第三者に対抗できなくなる可能性があるからです。


ちなみに、私はまず間違いなく高槻市役所から建物の登記名義の移転を受けることができません。
そうすると、橋下市長も松井府知事も、私から所有権移転登記をすることができません。

となると、橋下市長も松井府知事も対抗要件を具備していませんので、お互いがお互いに権利を主張できない(引き分けというか、宙ぶらりんの状態)という形になります。

ここでのポイントは、登記というのは「第三者に対する対抗要件」だということです。
私との関係では、有効に成立した契約に基づいて正当に権利を主張することができます。

よって、私は莫大な損害賠償義務を負うことになります。



とまあ、こんな具合に「二重譲渡はよくあることだよ」という感じで書いてきましたが、二重譲渡すれば、一般的には、売主には横領罪が成立することになります。
知人Aに売ったものを、勝手に知人Bに売って引き渡したら、本来であれば知人Aに引き渡さなければならない(知人Aのために預かっていた)物を勝手に処分したことになるからです。


最初に「二重譲渡は有効」とはいいましたが、「合法的にできる」とはいっておりませんね。
犯罪になる可能性がありますので、やめておくのが無難です。


では、今日はこの辺で。

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