2016年1月8日金曜日

色々な非典型担保

司法書士の岡川です。

以前、「担保」についてお話ししましたが、民法に規定のある担保物権は、

・質権
・抵当権
・留置権
・先取特権

です。
これらを、「典型担保」といいます。
そのうち質権や抵当権は契約によって設定するもので、「約定担保物権」といい、留置権や先取特権は特に契約をしなくても成立するもので、「法定担保物権」といいます。

典型担保は、法律に規定された要件を満たせば、法律に規定されたとおりの担保としての効力が生じることになります。
例えば抵当権なら、債務者が債務不履行になったら対象の不動産を競売にかけて債権を回収することができる…といった感じですね。

典型担保は、権利の内容が明確で、様々な手続きも法定されているので確実性があります。
しかし、使える条件が決まっているぶん、その条件に当てはまらないと使えないという側面もあります。

例えば、動産を担保にしたい場合。

抵当権は、基本的には不動産が対象となり、普通の動産(高価な機械とか)に抵当権を設定することができません。
質権ならば動産にも設定できますが、質権は、設定するときに債権者に対象の動産を引き渡す必要があります。

となると、「動産に担保を設定しつつ、自分の手元においておく」ということが典型担保では難しいわけですね。

世の中には色んな取引形態があるので、必ずしも法律に定められた条件にぴったり合う方法が使えるとも限りません。

そこで、権利(物権)の一種として法律に書かれているわけではないけれど、当事者の取り決めによって実質的に担保(債務の弁済を確保するための手段)として機能させる方法がいくつも考えだされました。

先人の知恵で編み出された、それらの方法を「非典型担保」といいます。


例えば、譲渡担保という方法があります。

これは、債務者の所有物を債権者に譲渡して(所有権を移転させて)しまう方法です。
それだけだと、単なる贈与や売買なのですが、同時に、「債務の弁済が終われば譲渡した物の所有権を元に戻す」という合意をしておきます。

そうすると、債務者が弁済を遅滞すれば、債権者は物を売って債権を回収できますし、きちんと債務を完済すれば、合意に基づいて物を取り戻すことができます。

質権と似ていますが、質権と違って「設定するときに占有を移転しないといけない」といった法律上の決まりもないので、「工場の機械を担保に入れつつ、引き続き工場で使う」といった使い方をすることができます。


売買代金を分割払いにする場合などに使われるのが、「所有権留保」という方法です。
これは、「売買契約はするけども、売買代金を完済するまで所有権は売主から買主に移転しない」という合意をしておく方法です。

売買代金の債務者(買主)が代金を支払わなければ、売主は、債務不履行を理由として売買契約を解除することができます。
所有権留保をしておけば、買主が勝手に処分する(第三者に所有権を移転する)ことができませんので、売買契約を解除すればいつでも物を引き上げることができるわけです。


それから、不動産で使われるのが「仮登記担保」。

以前紹介した「仮登記」という制度を担保として応用した方法です。

「債務の弁済が滞れば所有権を債権者に移転する」という内容で、「所有権移転の仮登記」を登記しておく方法です。
仮登記だけでは、登記名義が完全に移転したことにはなりませんが、これも、債務不履行となったときに仮登記から本登記にすることで、債権者が所有権の登記名義を取得することができます。

債務不履行になったら残債務額がいくらであろうと債権者が不動産を丸ごと取得できてしまうので、かなり債権者に有利な担保だったのですが、あまりにも不公平だということで、判例により、清算義務(つまり、残債務額と不動産価格との差額を債務者に返さなければならない)が課されました。
さらには「仮登記担保契約に関する法律」という法律までできて、規制が強化された結果、今では、典型担保である抵当権に対する優位性もほとんどありません。
だったら面倒なことをせずに最初から抵当権でいいわけで、利用数は減少しているようです。


非典型担保は他にも色々ありますが(非典型ですから)、とりあえず有名どころをご紹介しました。

では、今日はこの辺で。

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