2016年9月26日月曜日

財産管理等委任契約の活用とその危険(その2)

司法書士の岡川です。

引き続き財産管理等委任契約の話。
前回は「活用」の話でしたが、今回は「危険」のほうに重点を置いてみます。

法定後見制度では、家庭裁判所が監督権限を有し、場合によっては成年後見監督人が選任されます。
相続財産や不在者財産の管理人についても、家庭裁判所が選任するので、その監督に服することになります。


契約に基づく財産管理であっても、任意後見の場合、任意後見契約を発効させるには、任意後見監督人の選任が必須です。
認知症等で判断能力が不十分な人に対して、契約に基づいて包括的な代理権を付与するには、適正な監督を受けられる仕組みが必要だからです。

他方、財産管理等委任契約が想定しているのは、任意後見の対象外の方、すなわち、判断能力が十分であり、受任者の財産管理状況を自ら監督できる場合ということになります。
このような判断能力が十分な方が任意で第三者に財産を預けることに関し、法律は特に何らの規制も設けていません。


理念的には、契約に基づいて認知症等で判断能力が低下した人の財産管理を行うには、任意後見制度を利用することが想定されており、任意後見監督の仕組みによってその適正性が担保されています。


ただし、任意後見制度において、任意後見契約の受任者(任意後見人候補者)が、任意後見契約を発効させる(任意後見監督人の選任を申し立てる)義務までは規定されていません。

任意後見契約法は、財産管理等委任契約などは想定していませんので、委任者(本人)の判断能力が低下しても、任意後見契約を発効させない限り財産管理は開始しません。
したがって、法が典型的に想定しているケースにおいては、受任者が財産管理権を取得したければ契約を発効させるしかありませんので、必要であれば契約を発効させるであろう、との考えのもとに制度が成り立っています。

逆にいえば、「任意後見契約を発効させない限り財産管理はしていないはず」なので、財産管理上の不正が発生する余地はありえないという制度設計になっています。


ところが、前述の通り、任意後見契約と同時に財産管理等委任契約を別途締結しておけば、あえて任意後見契約を発効させなくても、財産管理等委任契約に基づいて、委任者の判断能力が低下した後も財産管理を続けることが可能になります。
(認知症になったからといって、当然に財産管理等委任契約が失効することはありません)

あるいは、そもそも任意後見契約を締結せずに、財産管理等委任契約だけを単独で締結してしまえば、監督人選任がどうとかいう話にはなりません。


このような場合、第三者どころか本人による十分な監督も期待できないので、非常に危険な状況になります。
これは、任意後見制度の趣旨を潜脱する行為ではありますが、やろうと思えば簡単にできてしまうのです。


任意後見監督人の選任申立権者(=任意後見契約を発効させる権限を有する人)は、任意後見契約法では次のとおり定めされています。

本人
配偶者
四親等内の親族
任意後見受任者

本人が(受任者の意向に反して)自ら進んで任意後見監督人選任申立てをするようなことはあまり考えられません。
本人に親族がいれば、親族が申立てをすれば良いのですが、親族もいなければ、事実上、任意後見契約を発効させるかどうかは受任者にかかっているといってよい。

そして、受任者に「任意後見監督人選任申立てをする義務」はないのです。
さらにいえば、そもそも財産管理等委任契約と同時に任意後見契約を締結すべき義務もない。

怖いですね。
老後の安心を得るための契約が、不安の種になってしまっては本末転倒です。


とはいえ、実際に誰かに財産を管理してもらったり、契約などの手続を代理してもらいたいという方はたくさんいます。

財産管理等を他人に委任する契約をする際に気を付けるべきポイントを書こうと思いましたが長くなったのでこれは次回。

では、今日はこの辺で。

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